2017年1月22日日曜日

トランプ大統領登場(3):対中国対ロシア’姿勢

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ダイヤモンドオンライン  】 2017年1月23日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/115034

トランプの反中は「本物」、
異常なプーチン愛は「戦略」だ

 ドナルド・トランプが1月20日、米国大統領に就任した。
 全世界が、「彼はどんな政策を行うのだろう?」と注目している。
 特に、他国に影響を及ぼす「外交政策」は重要だ。
 今回は、トランプ新大統領がどんな外交をし、世界のパワーバランスがどう変わるのかを考えてみよう。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

■米中37年間の慣習をぶち壊した!
トランプは「本物の反中」

 大統領選に勝利してからのトランプの言動を見て、はっきりわかる重大事がある。
 トランプは、「反中」である。
 彼が反中であることは、選挙戦中から知られていた。
 しかし当時、トランプの中国批判は、為替操作など「経済面」に限定されていた。
 トランプは、「ビジネスで中国と関係が深い」と言われ、「反中はフリだけ」という意見も多かった。


●新政権人事を丁寧に見て行くと、トランプの反中は「フリではなく本物」、そして「プーチン愛」も異様に強いことが良くわかる。
 その裏には、どんな事情があるのだろうか? Photo:REX FEATURES/AFLO
 ところが、大統領選で勝利した後の言動は、彼が「本物の反中」であることを示している。

 トランプは昨年12月2日、台湾の蔡英文総統と電話会談し、大問題になった。
 なぜか?
 いうまでもなく、中国は台湾を主権国家と認めていない。
 「台湾は中国の一部である」としている。
 そして、米国にも「一つの中国」原則を守るよう要求し、歴代大統領は、律儀にそれを守りつづけてきた。
 米国大統領と台湾総統が電話で話すのは、1979年以降、一度もなかった。
 つまりトランプは、米国と中国の間の37年間の慣習、合意事項を、あっさりぶち壊したのだ。

 中国政府は衝撃を受け、厳重抗議した。
 これに対するトランプの反応はどうだったのか?
 彼は12月4日、ツイッターに、こう投稿した(太線筆者、以下同じ)。

 「中国は彼らの通貨を切り下げること(つまり米企業の競争を困難にすること)、
 中国向けの米製品に重税を課すこと(米国は中国製品に課税していないのに)、
 南シナ海のど真ん中に巨大軍事施設を建設することなどに関して、
われわれに了承を求めたか?そうは思わない!」

 歴代の米大統領は、異常なほど中国に気をつかってきた。
 共産党の一党独裁国家・中国が、あたかも「道徳的権威」であるかのごとく。
 しかし、トランプは、「おまえたちにあれこれ言われる筋合いはない!」と、きっぱり態度で示したのだ。
 そして、重要なポイントは、トランプが「南シナ海の巨大軍事施設建設」に言及したこと。
 彼の「反中」は「経済面だけではない」ことがはっきりした瞬間だった。

■トランプがつくったのは
「中国と対決するための政権」

 人事を見ても、トランプは、「対中強硬派」に重要なポストを与えている。
 たとえば、新設される「国家通商会議」のトップは、超の付く反中の人物だ。

★.<<トランプ氏、新設の「国家通商会議」トップに対中強硬派を指名   
AFP=時事 12/22(木) 20:38配信

【AFP=時事】ドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領は21日、中国批判の急先鋒(せんぽう)として知られるピーター・ナバロ(Peter Navarro)氏を、貿易・産業政策を担う新たな組織「国家通商会議(White House National Trade Council)」のトップに指名すると発表した。>>

 カリフォルニア大学教授のピーター・ナヴァロには、「米中もし戦わば」という著書があり、現在日本でもベストセラーになっている。
 またトランプは、通商代表部(USTR)のトップに、これも反中のロバート・ライトハイザーを指名した。
 この人事に、中国は慌て、共産党系メディアはトランプに「警告」した。

★.<<中国共産党系メディア、トランプ氏に警告-次期USTR代表人事で   
Bloomberg 1/5(木) 18:39配信

 中国共産党系の新聞、環球時報は5日の論説で、トランプ次期米大統領が貿易戦争を起こそうとしたり米中関係の緊張を一段と高めようとした場合、トランプ氏は「大棒」に遭遇するだろうと警告した。
 中国語の大棒は太いこん棒、力や脅しを意味する。
トランプ氏が米通商代表部(USTR)の次期代表に対中強硬派のロバート・ライトハイザー氏を起用すると発表したことを受け、同紙は「中国商務省の門の周りには花が飾られているが、扉の内側には大棒も隠されていて、その両方が米国民を待っている」との文章を掲載した。>>

 また、新国防相に指名されたジェームス・マティスは「狂犬」と呼ばれる人物。
 15年1月27日、米議会で中国について、こう語っている。

  「中国が南シナ海やそのほかで、いじめのような強硬路線を拡大していくなら、現在のわれわれの取り組みと並行して、中国に対抗するための政策を構築して行く必要がある」

 このようにトランプは、「中国と対決するための政権をつくった」といえる。

■「異常なプーチン愛」を示す
トランプの目的とは?

 一方、外国から見ると、まったく理解できないのが、トランプの異常なまでの「プーチン愛」だ。
 彼は選挙戦中から一貫して、「プーチンとの和解、協力」を主張してきた。
 ヒラリー陣営は、これを利用した。
 彼女は、「トランプは、プーチンの傀儡だ」と主張した。
 オバマ政権や、ヒラリーを支持するメディアは、
1.プーチンは悪魔のような男 
2.トランプは、悪魔(プーチン)の傀儡 
3.だからヒラリーに投票するべき
――という論法で選挙戦を戦ってきた。
 それでも、トランプの言動は、変わることがなかった。

 最近では、「ロシアがサイバー攻撃で米大統領選に介入した」ことが、大問題になっている。
 トランプは、「介入」を認めた上で、驚くべき発言をした。
 それでも「反ロシア派」は「バカ」だというのだ。

★.<<【米政権交代】トランプ氏、反ロシア派は「馬鹿」 選挙介入認める
   BBC News 1/9(月) 13:54配信

  米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏を有利にしようとロシア政府が民主党本部をハッキングするなど、選挙に介入しようとしたという米政府の報告書公表を受けて、トランプ氏は7日、それまでの主張を翻して介入があったことは認めたものの、ロシアとの良好な関係維持に反対するのは「馬鹿」で「愚か者」だと連続ツイートした。>>

なぜトランプは、「親プーチン」「親ロシア」なのか?
 彼の論理は、「対ISでロシアと協力できるから」である。

 トランプは、オバマのシリア政策を軽蔑している。
 オバマには、シリアに「アサド」「IS」という2つの敵がいた。
 オバマは、「ISをせん滅する!」と言ったが、それができない事情があった。
 しばしばテロを起こすISは、一方で米国と同じく「反アサド」なのだ。
 つまり、オバマとISは、「反アサド」で利害が一致していた。
 そのため、米国と有志連合の空爆は「手抜き」で、ISは弱まることがなかった。
 トランプは、オバマの優柔不断を「馬鹿げている」と考えている。
 では、トランプの「アサド、IS観」はどのようなものなのか?
 彼は、「アサドは悪だが、ISはもっと悪い」と語っている。
 なぜなら、
 「アサドが政権にとどまっていても、米国に実質被害はない。
 しかしISはテロを起こすので、米国の実質的脅威である」と。
 極めて合理的である。
 この「アサド政権を容認し、ISをせん滅する」というのは、プーチンと同じ立場である。
 だからトランプは、プーチンと和解したいというのだ。

■「プーチンの親友」が米国の国務長官に!

 トランプの「親ロシア」ぶりは、人事にもあらわれている。
 マイケル・フリン大統領安全保障担当補佐官は、退役中将。
 12年~14年、オバマ政権下で国防情報局長官を務めたが、「ロシア寄り」の姿勢が問題視され、辞任に追い込まれた人物である。
 そして、トランプ「親ロシアの象徴」は、国務長官に指名されたレックス・ティラーソンだろう。
 ティラーソンは、石油大手エクソン・モービルの前CEOである。
 その近年の言動を振り返ってみよう。

 2006年 エクソン・モービルCEOに就任。
 2012年 ロシアの国営石油会社ロスネフチと、北極海・黒海における共同開発で合意した。
 2013年 ロシアから「友好勲章」を授与された。
 2014年 欧米による「対ロシア制裁」に反対した。

 「プーチンの親友」ともいわれる人物が、米国の国務長官を務めるのだ。
 これは「驚愕の事態」といえる。
 ちなみにトランプは、ウォール・ストリート・ジャーナル1月13日付のインタビューで、「対ロシア制裁解除の可能性」と「『一つの中国』の原則を見直す可能性」について言及した。
 これらすべての事実からわかることは、トランプ政権は、「反中国、親ロシア」であるということだ。
 トランプ外交の基軸は、「ロシアと和解し、中国を叩く」になるだろう。

■以前から予想された
「米中対立」「米ロ和解」

 実をいうと、新政権が「反中親ロ政権」になることは、以前から予想されていた。
 いつ予想できたかというと、「AIIB事件」が起こった15年3月からである。
 「AIIB事件」とは、英国、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国などの親米諸国群が、米国の制止を完全に無視して、中国主導「AIIB」への参加を決めたことを指す。

 「親米諸国、同盟諸国群が、米国ではなく中国の言うことを聞く!」

 この衝撃は大きかった。
 米国支配層は、中国が既に「覇権一歩手前」まできていることを自覚した。
 この事件で、親中反ロだったオバマすら変わった。
 筆者は、15年4月28日付の記事『リベンジ~AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲』で、「米国は中国に逆襲する」「ロシアと和解する」と書いた。

 予想通り、米国政府は中国の「南シナ海埋め立て問題」を大騒ぎするようになっていった。
 そして、オバマは15年9月、訪米した習近平を露骨に冷遇し、世界に「米中関係悪化」が知れわたった。
 一方、オバマは、ロシアとの和解に乗り出した。
 ケリー国務長官は15年5月、「クリミア併合」後はじめて訪ロし、「制裁解除の可能性」について言及している。
 米ロ関係が改善されたことで、ウクライナ問題は沈静化した。
 同年7月、米国とロシアは協力し、歴史的「イラン核合意」を成立させた。
 さらに16年2月、米ロの努力で、シリア内戦の停戦が実現している(しかし、後に崩壊したが)。
 このようにオバマは、短期間でロシアと和解し、ウクライナ問題、イラン核問題を解決。
 シリア問題もロシアとの協力で、解決にむかっていた。
 しかし、大統領選が近づくにつれ、オバマは再び「反ロシア」になっていった。
 既述のように、これは「ヒラリーを勝たせるため」だろう。

 このように、「AIIB事件」以降、米国にとって最大の敵は中国と認識されるようになった。
 もしヒラリーが勝っても、米国が反中路線を歩むことは避けられなかっただろう。
 ただ、ヒラリーは、「中国との黒い関係」があるため、トランプほど反中にはなれなかったかもしれない(「黒い関係」の詳細は、『ヒラリーと中国の「黒い関係」に日本は警戒が必要だ』を参照)。
 そして、中国の脅威に立ち向かうために、米国がロシアと和解するのも、また必然的な流れである。

 米国はかつて、ナチスドイツ、日本に勝つために、「資本主義打倒!」「米英打倒!」を国是とするソ連と組んだ。
 そして、第二次大戦で勝利すると、今度は敵だった日本、ドイツ(西ドイツ)と同盟関係になり、ソ連と対峙した。
 それでもソ連に対して劣勢だった1970年代初頭、米国はなんと中国と和解している。

 「最大の敵に勝つために、その他の敵と和解する」

 これが常に米国の戦略の根底にある。
 だから、米国が「中国に勝つために、ロシアと和解する」のは必然なのだ。

■米中冷戦」時代における
日本のポジション

 トランプは、「米中冷戦」「米中覇権争奪戦」を始める。
 すると、日本はどうなるのだろうか?
 日米関係は、「米ソ冷戦時代」のごとく、良好になっていくことが予想される。
 米国にとって、「GDP世界3位の軍事同盟国」の存在は大きい。
 しかし、米ソ冷戦時と違い、今の米国は弱体化が著しい。
 トランプが以前から主張しているように、日本の負担増が求められるだろう。

日本は、米国の要求に従って、軍備を増強するべきだ。
 「外圧」を使って、「軍事的自立」に近づいていくのだ。
 そして、トランプ時代の4年、あるいは8年は、日本にとって正念場になりそうだ。
 中国は、もはや高度成長時代には戻らない。
 「中国は、共産党の一党独裁だから世界一の経済成長を達成できる」
という、中国国民を酔わせてきた「正統性」「神話」は、すでに崩壊しつつある。
 それで、習近平は、新たな「正統性」を探さなければならない。
 もっとも「ありがち」なパターンは「外国の強敵」を設定し、
 「共産党だけが、敵から国民を守れる」
とプロパガンダし、「正統性」を確保することだ。

 そして、韓国同様、中国国民を一体化させるもっと簡単な方法は、「反日」なのだ。
 日本は、米国、インド、欧州、ロシア、オーストラリア、フィリピン、ベトナムなどとの関係をますます強化し、中国が尖閣侵略に動けない状態をつくりあげていく必要がある。



新潮社フォーサイト2017年01月20日 16:15 春名幹男
http://blogos.com/article/206543/

「外交指南役」はキッシンジャー氏:
トランプ氏の「親ロシア」への転換を実現へ -

 安倍晋三首相がトランプタワーにドナルド・トランプ次期大統領(70)を訪ねた昨年11月17日。
 まさにその日その場所で、外交の大御所、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(93)がトランプ氏と会談していたことはあまり知られていない。
 実は、キッシンジャー氏はトランプ政権の外交指南役として、旧知の次期大統領に外交の基本戦略を説いていたのだった。
 それだけではない。
 キッシンジャー氏は別に、マイケル・フリン次期大統領補佐官(国家安全保障問題担当=58=)と、合計数時間にわたって外交論議を重ねてきた。
 さらに、自分のスタッフだったK・T・マクファーランド氏(65)を副補佐官(同)としてホワイトハウスに送り込んだ。
 またトランプ氏に対して、レックス・ティラーソン前エクソンモービル会長(64)を国務長官に、と推薦していた。
 まさに、キッシンジャー氏が次期政権の外交の後ろ盾となっていたのだ。

■ニクソン訪中時の真意

 トランプ氏が外交の素人だけに、キッシンジャー氏は90代の高齢ながら、持論を実現させる好機だとにらんだようだ。
 その持論とは、アメリカ外交の軸を親ロへと転換すること。
 つまり、トランプ氏自身の親ロ路線を実現する処方箋をキッシンジャー氏が授けるということのようだ。

 親中派とされたキッシンジャー氏が? 
と怪訝に思われるかもしれない。
 しかし、45年前の1972年2月、キッシンジャー氏がニクソン大統領と訪中して米国の親中路線を演出し、毛沢東主席や周恩来首相の前で見せた笑顔は、実は仮面だった。
 あの訪中の1週間前、2月14日にホワイトハウスでキッシンジャー氏はニクソン氏にこう説いた。

 ある歴史的期間、中国人はロシア人よりも恐ろしい、と私は思う。
 20年以内に、あなたの後継大統領があなたほど賢明であれば、ロシア(ソ連)寄りとなって中国と対立することになる。
 向こう15年間はわれわれは中国寄りとなりロシア(ソ連)と対立する。
 われわれはこの力の均衡のゲームを全く感情を交えず演じなければならない。
 今は中国人にロシア人をしつけさせる必要がある。
 
 公開された国務省文書にはこんなキッシンジャー氏の真意が記されていた。
 キッシンジャー氏はその後も中国を弁護し続けてきたかのように見えた。
 しかし、冷戦終結後のクリントン、ブッシュ(子)、オバマの3大統領の24年間で、米国は中ロ両大国を同時に敵に回す事態に陥った。
 中ロは手を組み米国の地位を揺るがすに至った。
 特に中国は南シナ海を「聖域化」し、内海のように扱うほど乱暴になったのである。

 他方、核大国ロシアの経済は低迷し、その国内総生産(GDP)は韓国より下の12位に転落、中国の「ジュニアパートナー」のような存在になった。
 今こそ、45年前に誓った転換を実現すべき時だ、とキッシンジャー氏は考えたのではないか。

■トランプ氏をかばうキッシンジャー氏

 トランプ氏が次期国務長官に親ロ派のティラーソン氏を指名し、批判されたが、キッシンジャー氏はCBSテレビで「トランプ氏は何か非凡なことを成し遂げる」と期待感を示した。
 さらに、トランプ氏が台湾の蔡英文総統と電話会談したときも、トランプ氏は中国は1つとの原則を維持することには「楽観的だ」と不安感の一掃に努めた。

 しかし、中国と手を結ぶロシアを切り離すため、米国はロシアに何を与えるのだろうか。
 ドイツ紙「ビルト」は昨年末に、ウクライナ問題が米ロ接近のカギになると報じている。
 それによると、「ロシアは特殊部隊が展開していると伝えられるウクライナ東部の安全を保障し、その代わりに西側はクリミア問題に干渉しない」という解決方式が検討されている、というのだ。
 キッシンジャー氏のコンサルタント事務所「キッシンジャー・アソシエイツ」の常務理事、トーマス・グレアム元国家安全保障会議(NSC)ロシア担当上級部長はこうした妥協策を「クリミア・コンセンサス」と呼んでいる。
 キッシンジャー氏自身、ウクライナは「架け橋」だとして、東西両陣営が互いにウクライナへの干渉を避けるよう提案してきた。
 トランプ政権がロシア側に対して、どんな具体的提案をするにしても、ロシアのクリミア併合に伴う対ロ制裁の解除が必要になるだろう。
 また、中国がトランプ政権の新外交戦略を強く警戒するのは必至だ。

■「インテリジェンス」で意気投合

 しかし、キッシンジャー氏なら、中国の習近平国家主席ともロシアのプーチン大統領とも腹を割った会談ができる。
 プーチン氏がキッシンジャー氏と最初に会った際、「私はインテリジェンスで働いてきた」とプーチン氏が言うと、キッシンジャー氏は自分が欧州戦線で情報兵として参戦したことを挙げ、「立派な人間はみんなインテリジェンスから始める」と答えて、意気投合したという。
 このコンビの助力でトランプ政権は外交で事態を打開できるだろうか。



JP Press 2017.1.24(火)  姫田 小夏
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48977

トランプ政権の重鎮が作っていた「中国憎し」映画
貿易戦争勃発か 
中国に“反撃”の刃を向ける米国


●映画『Death By China』のオープニングシーン(映像の一部を抜粋、出所:Youtube「Death By China - Trailer」)

 「メイド・イン・チャイナ」と刻まれたナイフが米国本土に刺さり、そこから赤い血が流れ出る――。
 1時間18分のドキュメンタリー映画はそんなオープニングから始まった。
 米国の経済学者、ピーター・ナバロ氏(カリフォルニア大学教授)が監督した『Death By China』である。

 2012年に公開されたこの映画は、米中貿易によって米国経済がどれほど甚大な被害を受けているかを訴えるものだった。

■あらゆる側面から中国を批判

 その映像は終始、煽情的だ。

 カメラが追うのは、ブラックフライデー(11月の第4金曜日。この時期に米国ではクリスマス商戦が始まる)に買い物を楽しむ市民たちだ。
 家電量販店「ベストバイ」から出てきた買い物客のカートに乗せられている商品のほとんどはメイド・イン・チャイナである。

 また、家具を製造する零細工場の経営者は「小さな企業が米国を作っている。私たちを殺さないで」と訴え、配給の列に加わる少年は涙をこぼしながら「お腹がすいている」と訴える。
 こうした市井の人々のみならず、米国の大手企業、中小企業の経営者や経済学者、専門家など多くの人物が登場し、ありとあらゆる側面から中国を批判する。

 例えば、次のような具合だ。

 中国は為替を操作し、貿易ルールにも従わず、子どもを働かせ、環境問題を無視する。
 地球温暖化をもたらしたのは中国から舞い上がった微粒子だ。
 中国製の玩具からは鉛が検出され、犬や猫が中国製ペットフードで亡くなり、子どもたちは中国製粉ミルクで命を落とす。
 「メイド・イン・チャイナ」は人々の命を危険にさらしている。

 中国は外資企業に市場を開放しようとしない。
 中国では国内企業が保護されるが、開発力のない中国企業は製品のコピーに徹している。
 製造業が中国にもたらした富は軍事費に転換される。

 国内企業への輸出補助金の交付はWTO協定違反だが、中国はそれを無視する。
 米国は中国の不正な貿易に抗えない──。

 この映画は
 「中国は米国から工場と労働者を奪い取った」
 「米国の製造業は雇用創出のために米中貿易を見直すべきだ」
と繰り返し主張する。
 最後に流れるのは次のようなメッセージだ。

>>>>>
5万7000の米国の工場が消えた
2500万人以上がまともな仕事を見つけられない
買い物時にはラベルをチェックしよう
そこにメイド・イン・チャイナと書かれていたら、
「仕事」「安全」、そして「中国の急速な軍事化」のことを考えてほしい
<<<<<

■「挑発」に身構える中国

 この映画の監督、ナバロ氏は対中強硬派として知られる。

トランプ氏は新政権の通商チームを対中強硬路線の人物で固めた。
 米通商代表部(USTR)の代表には、1980年代の日米貿易摩擦時に日本に対して鉄鋼製品の輸出自粛を迫ったロバート・ライトヘザー氏を起用。
 そして、通商政策の司令塔となる「国家通商会議」のトップにはナバロ氏を指名した。

 中国のネットメディアでは、通商チームを対中強硬派で固めたのは「中国への挑発」だとし、米中貿易戦争を憂慮する声が高まっている。
 トランプ氏が「一つの中国」の原則を脅かしていることなどと合わせ、中国は“米国が一方的に喧嘩を売ってきている”と身構える。
 「人民日報」海外版(12月28日)は、「中国は米中の“新たな変局”に現実的に対応する」としている。

 一方で、「米国に勝算はない」という強気の声も聞かれる。
 なぜなら喧嘩を売った米国が中国市場を失うことになりかねないからだ。
 中国政府はいざとなったらボーイングやフォード、GMなどを中国市場から締め出すことも辞さないはずだ。
 また、中国の製造拠点を失うことは米国にとってさらに大きな痛手である。

 そもそも中国と米国は互いを責められない。
 映画によると、中国が米国の工場と労働者を奪うようになったきっかけは、中国のWTO加盟である。
 だが、中国のWTO加盟は、元々は米国のお膳立てによるものだった。

 中国を「世界の工場」にしたのは、まぎれもなく外資企業だ。
 中国の大気汚染も、中国に言わせれば「外資企業の工場移転がもたらしたもの」ということになる。

■さらに強くクサビを打ち込むトランプ新政権

 だが、米中の経済が依存関係を強めるにつれて、中国の野望があぶり出されてきた。
 今や中国は経済力を武器に軍備拡張と領海の拡大に突き進んでいる。

 少なくともナバロ氏の頭の中では、中国との「経済の相互依存の関係」は過去のものとなりつつある。
 そのナバロ氏の影響を強く受けるトランプ新政権は、自国の製造業の復活を目指して、米中の貿易関係にさらに強くクサビを打ち込むだろう。

『Death By China』は米中関係の新局面を十分に予感させる映画だ。



日本経済新聞 2017/1/24 23:48
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM24H7J_U7A120C1FF2000/

南シナ海巡り対中強硬鮮明 米国務長官、上院指名へ 

 【ワシントン=鳳山太成】トランプ米新政権が南シナ海問題で中国への強硬姿勢を鮮明にしている。
  次期国務長官として米上院で承認される見通しの米石油メジャー最大手エクソンモービルの前最高経営責任者(CEO)ティラーソン氏はトランプ氏と同様、中国に厳しい姿勢で知られる。
 スパイサー米大統領報道官も23日、「南シナ海は公海」と強調。中国政府はこうした発言に反発を強めている。

 スパイサー米大統領報道官は23日の記者会見で「南シナ海は公海であり、米国は国益を守り抜く」と強調し、「中国の南シナ海進出を阻止すべきだ」とのティラーソン氏の主張にトランプ氏も同意していると説明した。
 国際法を無視して南シナ海で管轄権を主張し、軍事拠点づくりを急ぐ中国を両者は問題視する。

 オバマ前政権も中国が造成した人工島の12カイリ以内の海域に米軍の軍艦を送って「南シナ海は公海」と訴えてきた。
 抑止効果は薄く、中国は滑走路の建設など軍事拠点づくりを着々と進めたため、共和党などから弱腰と批判された。
 トランプ政権がより積極的な行動を取る可能性がある。

 ティラーソン氏は中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島が軍事力で奪われようとした場合は日米安全保障条約の適用範囲で、対日防衛の義務があると明言している。
 トランプ氏は中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」の原則に縛られずに貿易赤字の削減に向けた交渉に入ると主張する。
 「南シナ海」から「尖閣」「一つの中国」まで中国が譲れないカードを米国の大統領と国務長官がそろって持ち出せば、米中関係の摩擦が激しくなるのは避けられない。

 一方、対ロシアでトランプ政権は当面は関係の再構築を模索することになりそうだ。
 対ロ融和に関してトランプ氏とティラーソン氏に温度差があるからだ。

 ティラーソン氏はプーチン大統領と親しいなどロシアとの関係が深いが、米上院外交委員会の公聴会では「対ロ制裁は効果がある」と述べるなどロシアに厳しい発言を繰り返した。
 警戒する共和党タカ派から承認を得る狙いもあるとはいえ、トランプ氏ほどロシア寄りの姿勢を示していない。

 ティラーソン氏が対ロ融和に踏み切れない背景と言える動きもある。
 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、オバマ前政権が対ロ制裁を決めた昨年12月29日、トランプ氏の側近で、現在は国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めるフリン氏がロシアの駐米大使と電話したことの違法性を巡って米情報機関が調査した。

 米上院外交委員会は23日、ティラーソン氏を僅差で承認した。
 来週にも開かれる上院本会議でも承認される見通しでトランプ外交の顔となる国務長官に正式に就任する。



サーチナニュース 2017-01-30 07:12
http://news.searchina.net/id/1628135?page=1

警戒せよ! 
トランプ大統領にとって中国は「劇薬」を飲ませたい国=中国報道

 トランプ氏が米国大統領に就任した。
  トランプ大統領の保護主義の色彩が強い政策は日本だけでなく、中国にも大きな影響を与えるだろう。
 中国メディアの中国経済導報は25日、日本経済やドイツ経済はレーガン元大統領に「劇薬」を飲ませられたと伝え、トランプ大統領も中国に対して日独と同じような「劇薬」を飲ませようとしていると主張する一方、「中国はその薬を絶対に飲まない」と論じた。

 記事は、1985年の「プラザ合意」こそ、レーガン大統領が当時の日本やドイツに飲ませた「劇薬」であるとし、
 特に対日貿易赤字を解決するための措置だったと指摘。
 バブルに対する強い警戒心のあったドイツには深刻な問題は発生しなかったが、日本にはバブルが生じ、そしてバブルは崩壊、日本は「失われた20年」を迎えるに至ったと指摘した。

 続けて、米ドルが上昇すれば、相対的に他国の通貨は下落することを意味し、人民元の下落は中国の輸出競争力の強化につながると指摘。
 そうなった場合、トランプ大統領は1980年代の方法を参考にし、多国間合意によってドル安に誘導するかもしれないと説明した。

 一方で記事は、トランプ大統領にとって現在の中国は1985年当時の日本と同じくらい「劇薬」を飲ませたい国であるはずだと主張。
 中国は日本のように進んで「劇薬」を飲むことはしないと説明する一方、中国にとっては対米輸出に10%の関税がかけられただけでも大きな影響がでるはずだと指摘し、米中の貿易に生じている摩擦やリスクをしっかりコントロールすることが非常に重要であると論じた。

 政府が自国の利益を考えるのは当然であり、またもしそうしないなら政府の存在意義もなくなる。
 トランプ大統領の政策は保護主義であると同時に過激な点もあり、米中の摩擦は今後激化することが予想される。





【2017年 大きな予感:世界はどう変わるか】



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