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ロイター 2017年 06月 10日 10:06 JST James Saft
http://jp.reuters.com/article/column-outsized-economy-growth-macro-mic-idJPKBN1900QU?sp=true
コラム:桁外れの成長達成、
鍵はマクロよりミクロか
●6月6日、スタグネーション(景気停滞)懸念はさておき、3Dプリンターや人工知能(AI)といったテクノロジーがボトムアップ式に普及していけば、グローバルな生産性向上や成長加速のために必要な追い風となるだろう。北京のハイテク国際見本市で8日撮影(2017年 ロイター/Jason Lee)
[6日 ロイター] -
スタグネーション(景気停滞)懸念はさておき、3Dプリンターや人工知能(AI)といったテクノロジーがボトムアップ式に普及していけば、グローバルな生産性向上や成長加速のために必要な追い風となるだろう。
過去20年間、先進諸国の経済成長は、標準以下にとどまるか、借金と資産バブルによって人工的に、そして多くの場合、危険を伴いつつ支えられたものだった。
こうした弱さの背後にある重要な要因の1つは、生産性成長率が着実に低下傾向にあることで、ある著名エコノミストは、現代は「長期停滞(secular stagnation)」の時代に突入していると論じるに至っている。
米国の労働1時間あたりの生産は、過去5年間、平均して年0.6%しか成長していない。
これに対して、2000年代初頭は3%以上の伸びだった。
その原因をめぐる議論は白熱している。
「テクノロジーの改良において実現しやすいものはすべて達成してしまったから」
という説もあれば、
「人口の高齢化のために低投資・低成長という状況から抜け出せないでいる」
という説もある。
だが、投資運用会社PIMCOは、コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが提供する裏付けデータをベースに、
「すでに発見されたテクノロジーに適応していくことで、じきに生産性が劇的に増大することになる」
と主張している。
「生産性向上にけん引されて、世界のGDP成長率が『かつての標準』である4%強を回復する状況も、ここ数年のうちに視野に入ってくるだろう。
そのためには、既存のテクノロジーが拡散(普及)すればいいだけだ」
とPIMCOのヨアヒム・フェルズ氏とマシュー・トレーシー氏は書いている。
彼らは、こうした展望は自分たちが基準とする見方ではないが、その可能性はわずかだが高まっていると警告している。
しかし、超低金利・低成長率に慣れ切った投資家にとって、そのような変化がどれほどの驚きと刺激を与えるか、的確に表現するのは難しい。
超低金利(あるいはマイナス金利)と量的緩和にもかかわらず、成長率は低いという現在の経済状況に見られる難問・特性の多くは、構造的な生産性改善により解消されるか、少なくとも緩和されるだろう。
また、皮肉ではなく、ここで論じているのは、ここ数年失敗を重ねている、あるいはわずかな成果しか上げていないトップダウン式のソリューションではない。
新たなテクノロジーが適応し、これまでにない形で互いに連携することによってアウトプットを増大させるという、ボトムアップ式の物語なのだ。
もちろん、こうした物語といえども、必ずしもハッピーエンドになるとは限らない。
ロボット工学からコンピューター制御のプリンターによる3D製造に至るまで、こうしたテクノロジーの多くは雇用を破壊し、所得格差を増大させる可能性がある。
だが、もしそのような状況が生じるとしても、テクノロジーの適応は加速させる必要があるだろう。
■<医学分野でも生産性向上>
マッキンゼーは2015年の研究のなかで、過去半世紀にわたって生産性の成長率は年平均1.8%だったが、この2倍以上に加速する可能性があると述べている。
マッキンゼー・グローバル研究所のリポートは、
「5部門(農業、食品加工、自動車、小売、医療)に関するケーススタディーからは、(G20からEUを除いた)G19およびナイジェリアにおける2025年までの年間生産性成長率は最高で4%に達するとみられ、(少子高齢化という)人口動態のトレンドを相殺して余りある」
と述べている。
この予測の大前提は、既存のテクノロジーが適切に普及することであり、潜在成長率の4分の3は、単に、すでにかなり実践されている「ベストプラクティス」がさらに広い範囲で用いられることによるものだ。
その一部は、たとえば韓国や日本のような場所における、既存の小売在庫管理手法の利用に比べて特に複雑というわけでもない。
なかには、アマゾンがAIとロボット工学を利用して倉庫・出荷管理の効率を向上させるなど、もっと未来的なテクノロジーもある。
米国における医療の例も見てみよう。
この分野では、面倒なIT技術のせいで医師や看護師がコンピューターの画面に向かう時間が長くなり、患者からもっと有意義な情報を集めることが犠牲になっている。
一方、新たなテクノロジーのコストが低下していることから、歯科医院が3Dプリンターを備えることも現実的になっている。
こうした動きは、テクノロジーが新興市場により深く浸透していくなど、地理的(水平的)な意味を持つ場合もあれば、アマゾンのような大企業に潰されることを防ごうと小規模な企業が巻き返しを図るなど、垂直的な意味を持つ場合もある。
テクノロジーの普及は雇用を破壊し、知財・金融両面で投資家に利益をもたらす傾向があるため、格差を拡大し、社会的・政治的緊張を高める。
製造業はこれまで長年にわたり、人件費の安さから得られる利益を求めて世界各地に広がっていったが、
消費市場に近い場所へと引き寄せられていくようになるだろう。
製造の労働集約性は低下していき、製品価値に占める独自ソフトウエア/プロセスの比率が高まるからである。
こうなると、反グローバリズムを掲げることの多いポピュリスト的な政治家がこのところ台頭しているように、テクノロジーの適応が政治的に阻害される可能性が出てくる。
もっともPIMCOのフェルズ、トレーシー両氏は、ハイテク主導の生産性向上は必ずしもゼロサム・ゲームにはならないため、競争と雇用を活性化させる可能性があると主張している。
成長の加速が確実に意味することの1つは、市場がより正常なイールドカーブへと修正されるにつれて、債券価格が打撃を受けるということだ。
とはいえ、債券投資家にとってさえ、より深刻な問題があるというのが現在の状況なのである。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
』
『
IOTtoday 2017.06.12 BY 朝岡 崇史
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50209
風雲児アンダーアーマーが描く野心的な未来予想図
IoT時代、<企業のビジネスモデル>が変わる
●アンダーアーマーのケビン・プランクCEO(2014年3月撮影)。 Photo by University of Delaware Alumni Relations, under CC BY-ND 2.0.
今年(2017年)1月に米ラスベガスで開催されたCES(家電見本市)。
ショーの主役交代を強烈に印象付けたキープレーヤーがGPU(画像チップ)メーカーのエヌビディア(NVIDIA)とスポーツ用品製造業のアンダーアーマー(UNDER ARMOUR)の2社であることは広く衆目の一致するところであろう。
かつて液晶テレビやスマートフォンが花形だった家電の見本市の大舞台において、エヌビディアは独自開発した人工知能(以下AI)を武器に自動運転サービス市場へ、アンダーアーマーは「IoTを活用したウェルネスとフィットネスサービス業」へ参入することを、それぞれの基調講演の場で高らかに宣言したのである。
両社に共通する点は、本来は「家電」というコンシューマを相手とする業界とは距離のある存在でありながら、ともにAIやIoT技術を活用することで企業の「なりわい」を大胆に転換することを経営トップの強い意思で推進しようとしているところにある。
エヌビディアについては今年3月に寄稿した「自動運転とAIの到来が描く『製造業に不都合な未来』」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49411)で詳しく書いたので、今回はアンダーアーマーの「なりわい」変革について追いかけてみることにしたい。
■「売り切り型ビジネス」から「新たなタイプのサービス業」へ
米国メリーランド州ボルチモアに本社を置くアンダーアーマー社。
わずか創業20年でスポーツ用品企業としてナイキ、アディダスに次いで世界のトップ3に成長した。
その名の通り、ユニフォームの下に着る、身体に密着したタイプのアンダーシャツ(ユニフォームの下に着る鎧=アンダーアーマーがブランド名の由来)を流行らせたことで、スポーツ用品業界でもひときわ異彩を放つ存在だ。
MLBのクレイトン・カーショー、テニスのアンディ・マリー、水泳のマイケル・フェルプス、アメフトのトム・ブラディなど数多くのトップアスリートと専属契約を結ぶなどマーケティング活動もアグレッシブである(2020年にはMLB全チームの公式ウエア企業になることでも知られている)。
ちなみにアンダーアーマーのブランドビジョンは「I WILL WHAT I WANT」(自分が望む存在になる:和訳は筆者)であり、お客さま自身の成長実感というエクスペリエンス(ブランド体験)がブランド提供価値のエッセンスになっているところがポイントである。
CESの基調講演でケビン・プランクCEO(かつてはアメフトの花形プレイヤーだった)が熱く語ったキーメッセージは「Data is The New Oil」(データこそが事業成長の新しいエネルギーだ)。
アンダーアーマーは自社製品にセンサーチップを内蔵し、お客さまの生体データ(心拍数や血圧など)とAIを連携させることで、お客さまの運動量や体調の把握・管理・活動支援までをワンストップで行うことで「ウェルネスとフィットネスを提供する企業」という新たな「なりわい」を構築しようというのである。
■アンダーアーマーのIoT新サービスの理想像「Connected Life」
ケビン・プランクCEOが基調講演のプレゼンテーションで披露した「ウェルネスとフィットネスを提供する企業」の「ありたき姿」(理想像)についてはYouTube上で閲覧することができる。
お客さまはUA HealthBox機器(睡眠中と日中の生体データを測定するリストバンド、トレーニング中の生体データを測定するハートレート、トレーニングの進捗を確認する体重計/体組成計の3点)と呼ばれるギアを使って生体データを24時間・365日、アンダーアーマーに提供する。
アンダーアーマーは収集したデータを外部データ(ビッグデータ)と統合してAI で解析し、スマートフォンの専用アプリを通じて「お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案」という形の情報サービスに加工してお客さまにフィードバックする。
何はさておき、このサービスで秀逸なのは、「お客さまの気持ちの変化」(どんなに良い気分で一日を過ごせるか)がKGI(Key Goal Indicator)として中核に位置付けられており、そのためのKPI(Key Performance Indicator)として「睡眠」「栄養」「フィットネス」「日常活動」があるというひも付けがなされていることである(図1参照)。
図1:UA Healthboxのアプリ画面。
お客さまの気持ちの変化に寄り添うことがブランドの差別化の最大のドライバーになる時代、
「いかに良い気持ちで毎日を送るか」
にフォーカスしたアンダーアーマーのこのサービスは、エクスペリエンス・デザインの観点でも見習うところがある。
競合でもあり、この分野では先行していた「Nike+」(ナイキプラス)が目指す、“フィジカルのパフォーマンス向上”といった機能的なベネフィットを提供するサービスとは、一線を画したものであることを強調しておきたいと思う。
なお、UA HealthBoxと呼ばれるギアは、米国内ではアマゾンならわずか約220ドルで手に入れることができる。アンダーアーマーがハードウエアの販売で、儲ける気がないことは明白と言えるだろう。
お客さまの全員会員化が前提の、サブスクリプション型(会員課金型)ビジネスへの展開がアンダーアーマーの野望である。
■なぜアンダーアーマーは自らゲームチェンジャーになったのか
それではなぜ、スポーツ用品企業として進境著しいアンダーアーマーが、リスクを冒してまで、IoT技術を活用したウェルネスとフィットネスのサービスに打って出るのであろうか。
理由はおそらく3つある。
★.1つ目の理由はお客さまとの関係性の問題である。
スポーツ用品企業としてのアンダーアーマーのビジネスの実態が、実はBtoCというよりもBtoB企業に近い体質であるということは、あまり知られていない事実だ。
世界的に、スポーツ用品企業のビジネスモデルは大手のスポーツ用品流通企業に対する製造卸業であり、直営店のようなレアケースを除けば、直接のお客さまはエンドユーザーではない。
米国内では、スポーツオーソリティやディックス(DICK’S)のような大型店舗を構えるスポーツギア専門店や、ウォルマートなどのGMS(総合スーパー)、アマゾンのような通販サイトが、彼らの最重要顧客に相当する。
お客さま情報はスポーツ用品流通企業が囲い込み、アンダーアーマーにはフィードバックされるケースは少ないので、中長期視点でマーケティング戦略を考える場合、どうしても3C分析のCustomerの領域で死角ができる。
そう、お客さまと直接つながり、お客さまの行動データをビジネスに活用することは、アンダーアーマーならずとも多くのスポーツ用品企業にとって喫緊の課題であったのである。
★.第2の理由は、企業の成長性に対する課題意識である。
世界3位(年間売上高4500億円)のスポーツ用品企業になったとはいえ、米国と日本を主要市場とするアンダーアーマーは、文字通りグローバル展開を行っている1位のナイキ(年間売上高3.8兆円)や2位のアディダス(同2兆円)と比較すると、大きく水を開けられている。
そればかりか、売上高はここ2〜3年、1000億円/年ペースで伸びているが、営業利益・純利益は全く伸びていない。
製造業である以上、スポーツ用品というすでに成熟化したマーケットでより多くの量を売ろうとすれば、在庫や値引き販売のリスクは常に伴うのが宿命だ。
企業としての明確な成長戦略を描くためにも、本業のスポーツ用品業が健全なうちに、次なる事業の柱を構築すべきタイミングに来ているということではないだろうか。
★.第3の理由は、お客さまと企業がデータを媒介にして24時間365日つながるIoTのビジネスは先手先手と常に他社に先駆けないと勝ち残ることが難しいという特有のゲームルールによるものだ。
■.IoT時代の勝者の条件は「学習能力の速さ」と「オープンな企業連繋」
最初はシンプルに小さな間口でサービスを導入し、
お客さまのフィードバックを得ながらアジャイル(迅速な)改善を繰り返して、
成功の糸口が掴めたら規模を拡大する「リーン・スタートアップ」と呼ばれる導入戦略が、IoT時代の勝利の方程式である。
別の表現で言えば、IoT時代の競争優位は、従来のような「ヒト・モノ・カネ」といった内部リソースの配分ではなく、まさに「学習速度の速さ」なのである。
一番乗りの企業が、試行錯誤を繰り返しながらサービスの受益者であるお客さまをいち早く囲い込み、ロイヤルティの高い顧客基盤を作り上げる。
そしてゲームルールを自由に設定する(サービスのスキームや料金体系など)ことができるだけではなく、フォロワー企業に安易に模倣されないように、特許や商標で防御網を張り巡らすことも可能になる。
加えて、アンダーアーマーの戦略で先見性を感じるのは、「IoTを活用したウェルネスとフィットネスのサービス業」へとなりわいを転換するにあたり、オープンな企業連繋により、企業内部で調達できない専門的なナレッジやスキルをいち早く調達していることだ。
図2で見るように、基幹システムはSAP、AIはIBMのワトソン、スマホアプリはサムスン、UA HealthBox機器はHTCという具合に、アンダーアーマー自身が指揮者の役割を演じる「オーケストラ型の連携」を実現しようとしていることに注目したい。
図2:アンダーアーマーの「オーケストラ型の連携」。
2015年のCESのパネルディスカションで、シスコシステムのCEO(当時)のジョン・チェンバースは
「IoTによって全ての企業はハイテク企業になる。
フォーチュン500企業の中で生き残れる企業は40%に過ぎない。
そしてDisruption(破壊的イノベーション)は今、そこに起きている現実であり、
ベンチャー企業ではなく、大企業こそがDisruptor(破壊者)にならないと生き残れない」
と看破した。
【参考】「巨大企業をなぎ倒していくIoTの凄まじい衝撃」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47868)
エヌビディアがデジタライゼーションを象徴するベンチャー企業の代表者なら、アンダーアーマーこそがDisruptor(破壊者)に変貌しようとしている、リアルライフに軸足を置いた大企業の先駆けであるといえよう。
生き残る40%の企業のリストにその名を残すために、われわれ日本の大企業に残された時間は実はあまり多くはない。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2017.6.12
http://diamond.jp/articles/-/131396
「AIは脅威」は間違い、
人事部で広がるデータ活用
人工知能と聞くと無機質で威圧的な印象だが、実際には人間の“作業”を負担してくれる優秀な存在だ
人がAIに仕事を奪われる時代が来ると言われている。
しかし企業の人事部門にとって、AIはかけがえのないパートナーとなる可能性がある。
ダイヤモンド・オンライン「経営×人事」企画の本特集では、人事パーソンがAIを活用し、企業経営を劇的に変えて行くためのヒントを探る。
(ダイヤモンド・オンライン編集部 松野友美)
■AIは人間の仕事を奪うのか?
独り歩きする「人工知能」の怖い印象
「AI人事部」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
高度な知性を持つコンピュータが企業で働く人間の仕事を監督し、データを拠り所にして隙のない判断を下す。
採用、評価、給与、人事異動などは機械が瞬時に決め、それに従う従業員たち。
正確で公平な判断だが、それは膨大なデータから見出した人間には理解できない法則に乗っ取っている…。
まるでSFのような話だが、そんなことが部分的には現実になろうとしている。
企業の人事事務員が、将来、AI(人工知能)にとって代わられる可能性があるという研究結果が存在する。
2015年12月に野村総研と英オックスフォード大学の共同研究によって発表されたものだ。その中では、人事事務員をはじめ、2030~40年頃には国内の601の職業のうち約49%が、人工知能やロボットに代替される可能性があるという見通しが語られている。
こうした話を聞くと、今の職業から追われるのではないかと不安を覚える人事パーソンも少なくないだろう。
しかし、世間で言われていることを鵜呑みにして、AIを人間に代わる働きをする「脅威」としてばかり捉えることは間違いだ。
実はAIは、これからの人事パーソンにとって、かけがえのないパートナーとなる可能性がある。
本連載で追っていくのは、人事部門がAIを活用し、企業経営を劇的に変えて行く未来の姿である。
AI活用が進む欧米では「人工知能=とても優秀な計算機のようなもの」として捉えられており、人知を超えるものでは当然なく、あくまでツールだときちんと認識されている。
AIに商機を見出すスタートアップベンチャーも続々と生まれている。
小売店の店舗で、来客予測と売り上げを上げるために接客スタッフの立ち位置をAIで指南するシステムを開発したPercolata (パコラタ)や、営業マンの営業成績を入社時に予測するCangrade(キャングレード)などだ。
■人事に“作業”はいらない
「採用」から始めるAI活用
日本でもそうしたAIの有用性が意識され始めている。
とりわけ人事は、企業がグローバル競争を戦う中で社員にクリエイティブかつ生産的な働きを促す上で、さらなる戦略性が求められる領域だ。
これまでの人事部は、少人数で労務管理から給与計算、採用、育成・人材開発まで幅広い業務に1年中追い立てられる多忙な部署、というイメージが強かった。
どこの会社のどの部署にも言えることだが、
「仕事が多くて回らない」状況では、無駄の改善によって生産性が向上するだけでは、新しい価値を創造することにはつながらない。
“作業”的な業務を効率化し、より経営目線の働き方へと移行する必要性がある。
そのため、人事部でもHRテクノロジー(人事で使われる最新技術)を使う動きが加速している。
クラウド、ビッグデータ解析、
RPA(システムが異なっても膨大なデータ入力作業を自動化できる仕組み)、
スマートデバイスと並び、
AIはHRテクノロジーの中の1つの技術ではあるものの、その存在感は日に日に強まっている。
では、人事の領域では、実際にどんなAI活用が試みられているのか。具体的に見ていこう。
人事におけるAI活用の代表的な場となっているのは「採用」だ。
適性検査の結果が数値化できることや、面接の評価基準が一定であるため、分析しやすいデータが得られるからだ。
日本では新卒一括採用が一般的であり、インターネットの浸透により学生たちは簡単な操作で複数の企業に入社希望のエントリー(応募)をすることができるが、エントリーを受けた企業は、大量の入社希望者の中から採用者を選別しなくてはならず、非常に手間がかかる。
限られた人材で採用以外の業務もこなす人事部では、作業の効率化のために書類審査におけるAIを使った絞り込みシステムが重宝されている。
仕組みを簡単に説明すると、予めその企業の優秀な社員(ハイパフォーマンス人材)の集団を統計手法を用いて分析し、優秀者の思考や行動の傾向をAIが導き出し、「傾向の塊のようなもの」をつくる。
それを応募者のエントリーシートから読み取れる傾向と照らし合わせる(パターンマッチングする)ことで、「将来有望な新入社員」だと考えられる人を探し出し、ピンポイントで面接するという方法だ。
エントリーシートが紙ではなく電子化されていれば、それをAIに読み込ませて勝手に計算させ、結果がパソコン画面に表示されるイメージだ。
このような取り組みを実際に始めている企業もある。
日立製作所の技術系の新卒採用では、以前の採用ではあまり採れていなかった積極性や活動性が高い傾向にある学生をAIで抽出し、積極的に採用した。
同社では今年4月に“AI採用”の1年生として新卒採用全体の3分の2を占める約200名が入社した。
また、インターネット広告大手のセプテーニHDも新卒採用にAI(機会学習)を活用している。
選考で応募学生のパーソナリティを問うテストを実施すると共に、学生を良く知る周囲の人による評判情報を回収し、データをAI(機会学習)で分析する。
すでに同社で活躍している社員のデータと照合し、どんな仕事でどんな上司と働くと成長するのかを予測して、合否の参考にしている。
欧米では、こうしたAIを使った採用選考は日本よりも一般化している。
中には面接の様子をビデオ撮影して、受験者の表情、言葉遣いから家庭環境や思考を分析することもある。
受験者の観察ではなく面接官の質問の質や態度の向上にAIを活用することさえある。
ただし、課題も出てきている。
「テンプレートに合う人を採るということなので適切と言えば適切。
しかし、結果的に差別につながるという問題もある」(KDDI総研リサーチフェロー・小林雅一氏)。
米国ではアファーマティブアクションと呼ばれる差別撤退措置が厳格に働くが、AIは人種や年齢、性別などに意図的ではないにせよ偏りを出してしまうため、それを是正するための配慮も必要になるという。
日本企業の人事も、AI活用を進めるにあたって、今から心得ておくべきことだろう。
■人に関するデータを社内で連携できれば
採用以外でもAIは活用できる
まだ研究段階の企業が多いが、採用以外の人事領域でもAI活用は動き出している。
育成、配置転換、研修などがその対象だ。
日本企業は企業内の組織連携が柔軟ではないところが多く、人に関するデータは人事、労務、事業部など各所に散らばっており、効率的に分析できていなかった。
それらを繋ぎ合わせて社員全員のデータを揃えた(クレンジングした)うえでAIに読み込ませ、一元管理・分析すれば、人間には思いつかない関連性を見出すことができる。
人に関するデータの分析は「ピープルアナリティクス」と呼ばれ、企業で働く個人の能力や経験にまつわるデータを収集し、人材開発や“適材適所”の配属を最適化するタレントマネジメントに役立つ。
労務・総務に関わる給与や健康管理も、同一人物に関する人事データと突き合わせれば、機械の手を借りて適切に扱うことができるだろう。
こうした仕事はデータサイエンティストが専門とするが、多数の従業員を抱え人に関するデータが豊富にある大企業だけでなく、中小企業もAIを活用することができる。
実際、少人数のデータでも分析が進んだ事例がある。
慶應義塾大学ビジネス・スクールの岩本隆・特任教授は、カシオ計算機と協力した実験で、ハイパフォーマー人材30名のデータから、優秀者の多くが持ち合わせている特性を参考値として使えるレベルで見出すことに成功したという。
こうして人事にAIを取り入れれば、やがて「人事の仕事は『戦略的な育成』しか残らなくなるかもしれない」と岩本氏は語る。
人事の専門媒体『日本の人事部』の長谷波慶彦編集長も、AIの活用により、人事の仕事はむしろ機械ではフォローできないところに特化してゆくと予測する。
「エスノグラフィ(行動観察)という手法を用いるなどして、社員とじっくり向き合いコミュニケーションをとるという、泥臭いところが人事部の仕事になるのではないか」。
そうなれば、営業やマーケティングなど各部署(ライン)のマネジャーが労務管理を行うことができるようになり、人事部は経営者に組織強化や人事管理のノウハウ(現在の人事の仕事)を教え、社員のマネジメントを補佐する立場に変わる。
これからの人事部は戦略的な人材育成を構想するなど、専門性を磨くことに存在意義を見出すことになるだろう。
まだ人事部にAIを活用することで「企業業績が向上した」など具体的な成果が報告されているケースはないが、AIによって人事パーソンの事務作業の負担を減らすことで、経営に資する戦略的な提案を行う時間が生まれれば、業績によい影響が出ることも想像に難くない。
それを実現するために、AIやHRテクノロジーについて人事部の現場担当者はもちろん、経営者も興味を持ち、動き始めている。
「AI人事部」特集では、第2回で「K(勘)K(経験)D(度胸)」に頼らない採用や退職者予測技術の開発背景について、第3回「AIを導入した人事部」では新卒採用の最前線やAI活用のための組織づくりの苦労と経営者の期待について扱う予定だ。
』
『
IOT today 2017.06.13 BY Kayo Majima (Seidansha)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50237
執筆から配信までわずか2分 脅威のスピードを誇るAI記者
「AWS Summit Tokyo 2017」特別講演レポート
人工知能(AI)の技術が日進月歩を続けている現代、“AIに仕事を奪われる職業はコレ!”といった報道も少なくない。
新聞記者やライターもAIに取って代わられる職業としてあがることも多い。
そんななか、先日開催された「AWS Summit Tokyo 2017」(Amazon主催)にて、日本経済新聞社・デジタル事業BtoBユニットの藤原祥司氏による講演「“AI記者”の生みの親〜『テクノロジーメディア』への挑戦」が実施された。
AIに取って代わられる可能性もある新聞社が生み出したAI記者とは、一体どんな記者なのだろうか……。
藤原氏の講演に足を運んだ。
■第3次AIブームのなか、生み出された“AI記者”
日本経済新聞社は、2017年1月25日に人工知能(以下、AI)が文章を生成するサービス「決算サマリー」を公開。
これは、上場企業が発表したデータをもとに、AIが文章を作成し「業績速報」として配信するサービスだ。
記事公開まで、人の手は一切加えられないという。
まずはじめに、『ゴルフ・ドゥの17年3月期、純利益12.5%増8100万円』という記事をスライドに映し出した。
その内容はというと、前年比などの推移はもちろん、同社の売上高が前年を上回った理由を「直営店およびフランチャイズ加盟店への業績に貢献している」ことなど、しっかり要点を捉えた記事となっている。
この記事こそが、AI記者によって作られた記事だという。
「日経のデジタル事業の中でもっとも力を入れているのが、このAIサービス」
と語る藤原氏。
第3次AIブームと呼ばれている今、同社が開発したAI記者への反響も大きかったという。
はたして、AI記者はどのようなプロセスで業績速報を配信しているのだろうか?
●AI、IoT、ビッグデータに関する記事数の変化をまとめたグラフ。
2017年はAIの記事数がダントツに多く、注目度も高い
「まず『東京証券取引所適時開示情報サービス』が開示した『決算短信』というデータを取得します。
決算短信とは、売上や利益などの数字と、決算状況に至った背景が書かれたPDFとXBRL形式のデータのこと。
この決算短信を日経のサーバーに取り込んで、Amazon Web Serviceで構築したシステムに読み込みます」
読み込まれたPDFから項目ごとにテキストを抽出し、文章の各構造を解析。
原因と結果の文書ペアを見つけ出して、ネガティブ文とポジティブ文を分析。
そこから、業績要因とそれ以外の文を分類する。
分類された文章は、日経が定めた基準をもとに、さらに業績要因を選択してから、文章を読みやすく要約して整えた後、記事が公開される。
こうして、分析と解析を重ねて生成された記事は『日経電子版』と『日経テレコン』上に配信。
なんと、配信までにかかる時間は2分ほど!
とてつもない速筆記者だ。
「AIが書いた記事には、内容が非常にコンパクトという特徴があります。
そのため、人間が書いた記事と見比べると違いがわかります。
見分けるポイントは『なぜこの業績結果につながったか』という文章の書き方です」
藤原氏が例にあげたのは、雪印メグミルクの決算に関する記事。
人間記者の文章には「自宅で酒をたしなむ『家飲み』が広がり、おつまみ用のチーズ商品が好調だった」などの補足情報がある一方で、AIの記事には「チーズは市場が伸長する中で好調に推移した」というように、原因と結果を端的にまとめている。
●向かって右がAI記者の記事。少々淡白な印象があるが、その内容になんら問題はない
■決算ピーク時にも2分で1本の記事を作成
同プロジェクトは、2015年3月にデジタル部局の若手エンジニアたちが社内チャットでの雑談がきっかけとなった。
そして同年冬には、東京大学の松尾研究室との共同研究開発を開始したという。
「2016年の夏頃にはプロトタイプが完成し、徳島大学発のベンチャー企業・言語理解研究所(ILU)の技術協力を得て開発に着手。
同年12月にはベータ版が完成し、2017年の1月にはベータ版サービスを公開しました」
1月25日のサービス開始から5月26日まで、公開されたAI記者による記事は、6787本とのこと。
一方で日経の記者は、1人につき上場企業50〜70社を担当し、決算発表時期には定型原稿を作成する。
しかし、1人の記者がどんなにがんばったとしても1日に5社の業績速報を書くのが限界だとか。
そのため、年に4回訪れる決算ピーク時には、毎分300社が決算を開示するが、速報として執筆できるのは、注目度の高い大企業に限られてしまうという。
「ただ、どんなに小さな会社でも企業情報を求めているユーザーは必ずいます。
AI記者による記事の大量生成は、そうしたユーザーのニーズに応えるサービスとなるはずです」
■AI記者と人間の記者、それぞれの強みを生かすサービスへ
より多くの決算情報を瞬時に届けてくれるAI記者。
この新たな仲間に対して、編集部員たちはどう受け止めているのだろうか?
「AIの導入によって、業務の変更は起きてくると思います。
ただ、編集部員たちも仕事を取られるという意識はまったくなく、好意的に受け止め『あんなことはできないの?』など、いろいろな提案してくれます。
AI記者が業績速報などの定型業務を行うことで、人間の記者の負担が減るため、サポーターとして非常に期待してくれているようです」
これまで、人の手で作られてきた速報や定型業務をAI記者に任せることで、記者は自分の足を使って取材ができるため、記事内容の“付加価値”を高めることにつながるという。
「文章の流暢さや創造性などの課題が残るものの、
数字の正確性と、記事の大量生成、処理速度は、AI記者の最大の“強み”になります。
人間の記者は、負担が軽くなったぶん、業績速報で特徴的な決算をした企業に後追い取材を続け、どんどん情報を掘り下げていくことで、きちんとした報道をすることができるはずです」
今後は文章力をチューニングしつつ、業績速報のほかにも市場速報や、統計記事、社長交代、プレスリリースなどの“パターン化された記事”の執筆もAI記者に任せていく予定、と藤原氏。
まさに、人とAIが共存する時代の幕開けを感じるスピーチだった。
数年後には「AIに仕事が奪われる!」という考え方のほうが、時代遅れになっているのかもしれない。
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