2017年6月15日木曜日

中国とインドと二大文明の衝突 地政学とイデオロギーがからむ新興大国の争い

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2017.6.15(木)  Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年6月6日付)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50267

中国とインドと二大文明の衝突
地政学とイデオロギーがからむ新興大国の争い


●インド・ニューデリーの渋滞する道路(2016年8月1日撮影)。(c)AFP/Prakash SINGH 〔AFPBB News〕

 中国はこの10年間、数々の指標で1位の座を獲得してきた。
 世界最大の製造業大国になり、
 世界最大の輸出国になり、
 世界最大の外貨準備と
 世界最大の自動車市場を持つ
に至った。
 2014年には国際通貨基金(IMF)が、購買力平価ベースで見るなら経済規模が世界最大の国は中国だという報告まで行った。

 だが、中国が失ってしまったかもしれない「世界最大」の称号が1つある。
 新しい人口統計調査によれば、世界最大の人口を擁する国は中国ではなく、インドかもしれない。
 非公式な推計ながら中国の人口はこれまで言われていたよりも少ない13億人弱で、インドの人口は13億3000万人だというのだ。

 インドでは、過去30年間における世界最大の話題は中国の台頭だったが、今後30年間はインドが輝く時代になるとの認識が強まっており、このニュースはその傾向に拍車をかけることになるかもしれない。
 確かに、長期の経済成長の観点から見るなら、人口トレンドは中国よりもインドの方が好ましく見える。
 インドの人口は中国を上回った可能性があり、今後はインドの方が成長率も高くなるかもしれないというだけではない。
 それ以上に重要なのは、
 インドの人口が中国のそれよりも大幅に若いこと
 つまり生産年齢人口が中国より多くなる一方で、支える必要がある高齢者は中国よりも少なくなるということだ。
 近年の日本が示しているように、人口の減少と高齢化は経済成長を力強く押し下げる方向に作用する。

 このような人口動態による力は、経済成長率に影響している可能性がある。
 インドはこれまでなかなか成長できず、「ヒンズー成長率」などと揶揄されても我慢しなければならない時代が長かったが、今日では中国を上回るペースで伸びている。
 今年の経済成長率は7%を超えると見込まれており、中国の公式予想である6.5%より高くなっている。
 しかし、インドは中国に追いつき追い越す態勢が整っているとの見方には、厳しい留保条件もいくつか付いている。
★.第1に、中国経済はすでに実質ベースでインド経済の5倍の規模を誇る。
 従って、現在はインドが中国をわずかに上回るペースで成長しているとしても、両国の経済規模の差は縮まるどころか拡大していることになる。

★.第2に、人口動態の面ではインドが有利ではあるものの、ほかの重要な点では中国の方が優位にある。
 インドでは、読み書きのできない人が国民の30%を占める一方、中国ではこの割合が5%を下回る。
 道路や鉄道、基本的な公衆衛生に反映されているように、インフラでも中国はインドを凌駕している。
 実際、インドでは国民の半分がまだ基本的なトイレを利用できずにいる。

 こうした比較はただのクイズのように見えるかもしれないが、実は非常に重要だ。
 中国とインドは21世紀に台頭してきた超大国だからだ。
 両国は目立たないところで地政学やイデオロギーのからんだ戦いをすでに始めている。
 アジア中のインフラを接続するという中国の野心的な計画に対し、インドは警戒心を示している。
 中国の勢力圏が作られてインドを取り囲んでしまうのではないか、と恐れているのだ。

 中国が先月、ユーラシア大陸中のインフラの接続に巨額の資金を投じる計画を促進するために北京で「一帯一路」のフォーラムを開催した際、100を超える国々が正式な代表団を派遣したが、インドは見送った。
 インドは、中国はかつての朝貢制度を復活させようとしている、
 「すべての道は北京に通ず」式の経済システムにアジア諸国をからめ取ろうとしている、と恐れている。
 これらのインフラ開発には、戦略的な意味や経済的な意味も隠されている。
 中国の海軍が急拡大を遂げているときに、スリランカやパキスタンで中国の資金援助によって建設された港にインド政府は特別な疑念を抱く。
 パキスタンと中国のつながりが深まれば、パキスタンと4度の戦争を戦ったことがあるインドは心中穏やかではいられない。
 また、中国とインドの間にも、1962年の戦争に端を発する未解決の国境紛争案件がある。
 インドのアルナチャル・プラデシュ州には中国も領有権を主張しており、その圧力が強まることをインドは懸念をしている。

 中国とインドはともに軍事予算を急増させている。
 中国は2隻目の空母を先日完成させ、現在は3隻目の建造に取り組んでいる。
 片やインドは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の武器輸入国となり、米国や日本――どちらも中国に戦略的な敵国と見なされている――との軍事演習のレベルを段階的に引き上げている。

 英王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)のシャシャンク・ジョシ氏によれば、戦略的な緊張が高まる中、中印関係は「十数年ぶりの悪い状態」にある。
 中国は、目の敵にしているチベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世がインドを拠点にし続けていることに不満を持っている。
 従って、インドと中国のライバル関係には思想がらみの側面もあることになる。

 中国側のアナリストは、中国の開発モデルの成功とインドの「カオスのような」民主主義による低成長を比較して論じることが多い。
 するとインド側は、インドの民主的なシステムの方が中国の一党独裁よりも安定していることがいずれ証明されるだろうと反論したがる。
 この論争には、道徳にかかわる側面もある。
 インド側は言論の自由と司法の独立があることを誇りにしている。
 片や中国側は、中国の普通の市民は平均的なインド国民よりも快適で品のある暮らしをしていると主張しているのだ。

 こうした論争は、中国とインドが大国としてライバル関係にあるというだけでなく、政治制度やイデオロギーのライバルであり、文明のライバルでもあるという事実を反映している。

 西側の政治アナリストは、米国の中国の間で始まった権力闘争のことで頭がいっぱいだ。
 だが、経済と政治のパワーがアジアにシフトしていく中、21世紀を最終的に形作るのは中国とインドの争いなのかもしれない。

By Gideon Rachman
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