2017年6月27日火曜日

「ハリボテ空母」写真への怒り:メンツをつぶされた習近平の怒りか

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6/27(火) 7:00配信 NEWS ポストセブン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170627-00000004-pseven-cn

中国の日本人拘束 
背景に「ハリボテ空母」写真への怒りも


●ジャンプ台のような船首部が特徴(写真:共同通信社)

 「違法な活動をした疑いで日本人6人を調べている」──5月22日、中国外務省は、今年3月下旬に千葉県内の地質調査会社社員など、計6人の日本人を中国当局が拘束したと発表した。
 彼らは全員、中国企業から依頼を受けて温泉探査のため訪中した“一般人”だった。

 中国は2014年に反スパイ法を制定して取り締まりを強化。
 2015年以降、「スパイ行為に関与した」として中国側が逮捕した日本人は計5人いるが、今回の拘束がこれまでと違うのは、容疑が明らかにされていないことだ。
 『習近平の「反日」作戦』の著者でジャーナリストの相馬勝氏が言う。

 「この6人は明らかにスパイではない一般人と考えられます。
 彼らが拘束されたのは中国の山東省や海南省で、両省には中国海軍所属の潜水艦や空母が拠点とする軍港などがある。
 実はこの近辺は今年に入り、警備が強化されていました。
 その理由は、日本のマスコミによる報道でした」

 昨年12月10日、大手通信社の共同通信が〈中国が遼寧省大連で建造している初の国産空母の船体と艦橋(ブリッジ)がほぼ完成〉していると報じた。
 記事とともに同社が入手したとされる建造中の空母の写真も加盟社に配信、産経新聞などが掲載したが、これが“虎の尾”を踏んだというのだ。
 写真は計5枚で、仕上げの塗装工程に入った船体部や空母の全貌を捉えたものもあった。
 いずれも高精細のデジタル画像で、秘密のベールに包まれてきた中国の国産空母を白日の下に晒したという意味ではスクープ写真といっていいだろう。

 これに過敏に反応したのが中国メディアだった。
 中国の最大手ニュースサイト「新浪」は、その3日後に〈日本人は軍事スパイだ〉のタイトルで記事を配信。
 その中で〈共同通信による写真盗撮行為は、中国の海軍力増強に対する日本の不安の裏返しだ〉と非難した。

 12月28日には、中国人民解放軍・総政治部傘下の『中国国防報』が一面で追撃。
 〈中国空母の鮮明な画像が日本から流出〉との見出しのもと〈空母の外観はもちろん構造や艦橋、配備されている武器まで写っていた。
 (中略)空母とは国家の要である。
 中国で空母を違法に撮影することは厳しく禁じられている〉と強く批判した。

 前出の相馬氏が言う。
 「共同通信の記事配信後、海軍基地のある中国各地で当局による監視体制が強化されました。
 この“戒厳令”によって、6人の無関係な一般人が拘束に繋がった可能性は高い。
 もちろんこれは習近平主席の厳命によるものでしょう。
 それほど、写真は中国にとって痛手だったということです」

◆スキージャンプ式

 すでに中国は初の空母となる『遼寧』を2012年に就役させている。
 現在、建造中の国産空母は習近平が国策に掲げる「海洋強国」建設に向け、機動力を確保する点から重要なオプションと見られている。
 2020年頃の就役を目指しているが、詳細な情報は公表されていなかった。

 判明しているのは、排水量約5万トン(『遼寧』は約6万7000トン)。
 最高速度は遼寧より10ノット速い31ノットとされる。
 最大の特徴は船首部に傾斜がついたスキージャンプ式の甲板である。
 実はこの甲板に怒りの導火線が隠されていたのだ。

 中国問題に精通するジャーナリスト・富坂聰氏の解説だ。
 「建造中の国産空母は甲板で高圧蒸気やリニアモーターなどにより艦載機を発進させるカタパルト(射出機)を備えておらず、そのためスキージャンプ式にして艦載機を離陸させる設計になっています。
 カタパルトは現代空母の最新装備といえるもので、米国やフランスなどの海軍が装備しています。
 つまり、中国が今作ろうとしているのは、米空母と比べるとはるかに見劣りのする旧式型なのです」

 中国の過敏ともいえる反応は、最新の軍事技術が漏れるのを恐れたというより、「時代遅れのハリボテ」である事実を、日本メディアにいち早く公にされたことに対する怒りだったようだ。
 ただし中国側の剣幕に外務省は大慌てだったという。

 「今年1月、共同通信記事に対する中国側の怒りを岸田外相に報告した。
 それを受けて大臣は、中国国内の在留邦人に向けて注意情報を出すように指示したが、実際に伝達されたのは公安当局の関係部署までで、一般の在留邦人には情報が届かなかったようだ」(外務省関係者)
 この間、国産空母の写真はネット上で拡散し続け、中国側はますます態度を硬化――ついに3月の邦人拘束に至ったと考えられる。
 外務省に、一連の日中の報道合戦による影響や拘束された6人の状況などを訊ねると、こう回答した。
 「報道については承知しているが、日中の外交ルートでは様々なやり取りが行なわれている。その一々について申し上げることは差し控える。
 (6人は)邦人保護の観点から適切に支援している」(報道課)

 前出の富坂氏が言う。
 「米国と肩を並べる最新鋭空母は建造できなくても、国産空母が就役するだけで周辺のアジア諸国に威圧と牽制を加えることができる。
 今後、中国が海洋進出を進めるなかで日本をはじめ周辺国との摩擦が増える可能性は高い」

 メンツを潰されただけで民間人を拘束する。
 短気な隣人との付き合い方は相変わらず難しい。

※週刊ポスト2017年7月7日号