2017年6月20日火曜日

アメリカと中国の関係:中国はどう見ているのか?

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ダイヤモンドオンライン 2017.6.20 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/132345

中国が「対米関係の悪化」を本音では望んでいない理由

■中国共産党指導部にとって
米国との関係とは

 前回コラムでは、李克強首相の欧州歴訪をケーススタディーに、中国共産党指導部が、激動の時代を迎えているかに見える国際政治経済情勢において、
★.欧州が米国とは異なるプレイヤーとして君臨するのを望んでいること、
★.トランプ政権の米国が“内向き”姿勢を見せる中、中国が新たな一角として世界的リーダーシップを果たしたいと考え動いていること、
★.その過程で共産党一党支配体制を確固たるものにしたいと考えていること
などをレビューした。

 掲載後、複数の読者から
 「中国にとって対米関係はどうなっていくのか?」、
 「トランプ大統領の言動が読めないというリスクへのヘッジとしての欧州接近なのか?」、
 「中国は対外協力の軸を米国から欧州へ切り替えようとしているのか?」
といった類の問題提起をいただいた。
 いずれも、中国の対外関係を考える上でのリアリティーとして直視すべき、あるいは想像力を膨らまして思考すべきテーマであると感じた。

 まず、私の現段階における観察に基づく結論から述べる。

 《中国共産党指導部にとって米国との関係は、
 依然として対外関係のなかで核心的であり、
 最も切実に、象徴的な領域も実質的な分野も含めて安定させたいと考える2ヵ国間関係であり、
 依然としてその安定化を通じて、自国民および国際社会に対して共産党一党支配下における統治力と権威性を示していきたいと党指導部に考えさせる戦略的関係である。》

 2点付け加えたい。
★.一つ目は、共産党指導部が、
 米国という中国にとって最も重要でかつライバルとしての関係を形成する大国との関係を安定させられない状況を、「人民からの信頼を失墜させる事態」と捉えていることだ。
 対米関係が共産党の正統性という文脈における、内政的性格を擁している
ということである。
★.二つ目は、本連載でも検証してきたように、中国は、習近平政権が一つの節目を迎えようとしている現在に至っても、
 第二次世界大戦後、米国が主導してきた既存の国際政治経済秩序に真っ向から挑戦し、
新たな秩序を“創造”しようと考えているわけではないことである。

 この点は、表面的には野心に富んでおり、拡張的な動きを見せているかに見える対外姿勢の背後で、
 中国が依然として自らのイデオロギーや発展モデルがどこまで国際社会で“通用”するのかに確信を持てないでいる現状を示しているように私には思える。

■中国商務部が発表した
「中米経済貿易関係に関する研究報告」

 5月25日、中国商務部が「中米経済貿易関係に関する研究報告」なるものを中国語と英語で同時公表した。
 中国語で計74頁に及ぶ。
 中国が昨今の対米経済貿易関係をどのように整理し、マネージしようとしているのかがよく分かる報告書であると同時に、前出にもあるように、激動の時代を迎えているかに見える昨今の国際政治経済情勢下において、
 中国が対外関係において米国との関係をどのように位置づけようとしているのかを私たちに示唆してくれる報告書でもある。

 本稿ではこの報告書の第一部(全四部。中国語と英語版を添付するので興味ある方は以下リンクを参照されたい:中国語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082811425.pdf;英語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082826423.pdf)「中米経済貿易関係をめぐる時代背景」をレビューすることで、その示唆を整理したい。

 報告書は「中米経済貿易関係は世界最大の途上国と世界最大の先進国の間の経済貿易関係である」と定義する。
 この定義に沿って、両国間における三つの違いを指摘する。

 《一つ目が国情の違いである。》

 「米国の一人あたりGDPは5万7700米ドル(2016年)で世界5位、中国のそれは8141米ドル(2015年)で世界74位、米国のエンゲル係数は10%以下で、中国のそれはいまだに30%前後あり、まだまだ内需市場を育んでいく必要がある。
 中国の都市化率は現在57%で先進国の平均70%よりも低い。
 2015年、中国の大学進学率は40%だ」(報告書)

 《二つ目が市場経済の発展段階を巡る違いである。》

 「米国は市場経済の先駆者であり、その経済体制・メカニズムは比較的成熟している。
 米国は世界に先駆けて独占禁止法、知的財産権の保護、外資によるM&Aに対する安全審査、金融監視監督制度などを確立した…
 一方の中国は1992年に社会主義市場経済体制を確立した。
 過去の20余年で大きな進歩を遂げたが、中国の国情に符合する社会主義市場経済体制をどのように構築するかという点において、模索しながら進んでいるのが現状である。
 各制度は改善しなければならず、管理水準も向上させなければならない」(報告書)

 《三つ目が“敏感な経済領域”の違いである。》

 「米国はグローバルバリューチェーンのハイエンドにおり、技術レベルも先を行っている。
 攻める利益は守る利益よりも多い。
 経済分野の関心は
 製造業分野における雇用機会の流失や
 米国の知的成果の保護、そして
 “知識経済”、“数字経済”という大きな流れの中で米国の利益に符合するグローバルなルールを打ち立てること、
 貿易パートナーに米国の商品、サービス、投資に対して自国市場を開放させること
などにある。

 一方の中国は国際バリューチェーン、産業チェーンのミッド・ローエンドにあり、イノベーションの推進が直面している外部環境は米国には及ばない。
 経済安全保障、産業安全保障という点において米国よりも大きな圧力に面している。
 中国の関心は、
 経済の持続可能な発展の保証、
 経済構造の転換とアップグレード、
 イノベーションによる発展の促進、
 経済安全や産業チェーンの安全の保障、
 中国の商品や投資が海外市場で遭遇する摩擦の解消
などに集中している」(報告書)

■対米関係に見られる
フラストレーションが存在する!?

 この三つの違いを提起する動機には、国内状況の改善や構造改革の促進にまだまだ長い時間を要するにもかかわらず、特に対米関係という文脈において、国際社会・市場・世論から多くを求められる現状に対するフラストレーションが存在しているように私には思われる。
 人民元為替レート、過剰生産能力・設備、国有企業改革、国内市場の開放(対米関係でいえば2ヵ国間投資協定におけるネガティブリスト問題が典型的)といった問題が代表的な対象になろう。

《「中米経済貿易関係を発展させる基礎は経済グローバリゼーションにある」》

 報告書が最も強調したい部分の一つであるように思われるこの記述は、昨今の習近平政権の世界観、そして対米戦略を体現している。
 「昨今、国際経済情勢は複雑に変化している。
 世界経済の成長インセンティブが不足し、貿易投資は低迷し、貿易保護主義が台頭している。
 しかし、これは各経済体間の相互融合・依存の趨勢を根本的に変えてはいない。
 経済グローバリゼーションは前進する中で調整し、均衡する中で深化するのだ」(報告書)
 グローバリゼーションの本質は各国間の相互依存であり、
 米中共にその受益者であると指摘するこの報告書の論調からは、習近平政権として、昨今のトランプ政権の動向を注視し、貿易保護主義にNOを掲げつつ、グローバリゼーションを死守する姿勢を誇示し続けることで国際的影響力・発言権を向上させたいのだろう。そんな戦略的思考が垣間見えてくる。

 《「中米経済貿易関係の法律的保障はWTOのルールや多国間協定にある」》

 報告書は
 「WTOは昨今の各国間貿易関係を処理するための唯一のグローバルな国際機構であり、中米両国を含めた各方面の経済貿易関係の発展に安定的で強靭な制度的保障を提供している。
 中米経済貿易関係とはWTOの枠組みの中における2ヵ国間関係に他ならない」、
 また、
 「WTOを主体とする多国間貿易体制は歴史の選択であり、グローバルな貿易投資問題を解決するためのメインチャネルである地位は変わらない。
 仮にあるメンバーがWTOのルールを放棄した上で2ヵ国間貿易を語ろうとするのならば、それはグローバル経済を“ゼロサム”的な危険な境地に陥れるであろう」
と指摘する。

 この部分には、昨今、“内向き”志向が比較的顕著なトランプ政権の経済貿易政策に対する警戒心がにじみ出ているという以外に、中国として米国との貿易摩擦や経済交渉においてWTOというプラットフォームを最大限に活用したいこと、2ヵ国間のゼロサム的な“貿易戦争”を避けたいと思っている心境が窺える。

■中国と米国
それぞれのアドバンテージ

 第一部の最終部分は米中経済貿易関係とは各自のアドバンテージを相互に生かした関係であることを主張している。
 中国側のアドバンテージとして、
 「世界の25%以上を占める製造業の比重」、
 「500品目ほどある主要工業商品の中で、中国は220以上におよぶ品目の生産量で世界一」
 「世界最大規模、かつ総合的に素質が高く、比較的安価な労働力」(2015年、15?64歳の労働人口は10.03億人で、この数字は欧米先進国の労働総人口7.3億人を超える;また米国の総合賃金は中国の約7?10倍などと指摘)、
 「インフラ建設の後発的優勢」
等を挙げている。

 「中国のサプライチェーンとパッケージングのアドバンテージが明らかである」というケースとして、
 深セン地区が世界最大のコスト競争力と最大規模の電子産業サプライチェーンを擁していること、
 米アップル社の携帯電話・パソコン商品が全世界で持つ700以上のサプライヤーのうち、半分近くが中国にあること
を挙げている。

 米国側のアドバンテージとしては、その科学技術と研究開発能力を挙げる。
 「米国の一部生産要素は比較的安価であり、電力、土地、物流、原材料、融資、税収などの分野において米国はコスト的アドバンテージを持つ」
と指摘するのは興味深い。
 例として、
 「米国の土地平均価格は中国の二級・三級都市相当」、
 「米国の工業用電力価格は中国の半分、
 ガソリン価格は中国の3分の2。
 総合物流のそれは中国の半分でしかない」
などを挙げている。
 中国企業はこれから米国を“世界の市場”としてだけではなく、“世界の工場”的な視点から眺め、本格的に戦略を練っていくに違いない。
 中国政府は、自国企業が米国に工場を作り、米国民を雇い、米国に税金を納めることを後押しすることを通じて、“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領に恩を売ろうとするに違いない。

 「サービス業が米国経済に占める割合」も米国側のアドバンテージとして挙げている。 
 2016年、サービス業が米国GDPに占める割合は79.5%(同期中国は50.7%)であること、2016年、米国のサービス貿易は2494億ドルの輸出超過であり、同期、中国のそれは2409億ドルの輸入超過である点も挙げた。
 “中国の対米貿易大幅黒字”に注目が集まり、トランプ大統領もそれに留意した貿易政策を取ろうとしている中、米中間貿易は一枚岩ではなく、“中国側にも損をしている部分はある”と言いたいのだろう。

 以上を基に、報告書は「中米両国が経済貿易協力を展開することは、グローバリゼーションという背景の下、国際産業の適材適所、資源配置の最適化を図った上での必然的結果である」と主張する。

■“違い”をクローズアップさせつつも
ポジティブ感で統一

 報告書はここから
 第二部「中米経済貿易関係が互恵的でウィンウィンであるという本質」、
 第三部「双方が重点的に関心を持つ経済貿易分野」、
 第四部「中米経済貿易協力の発展を不断に推進する」
と続くが、“違い”をクローズアップさせつつもポジティブ感で統一されたこのような報告書を中英2ヵ国語で同時公表すること自体、
 習近平国家主席率いる中国共産党指導部が、米国との関係を安定化させることに巨大な政治的需要を見出している現状を物語っているように、私には思えるのである。

 最後に、言葉遊びなどでは決してなく、中国政治・経済社会の切実な思いを理解する上で、情報量に溢れているように私には聴こえる第一部のクロージングワードを引用しつつ、本稿を終えることにしたい。

 「中米経済貿易関係の発展はポテンシャルで満ちている。
 中国経済の転換は、米国を含めた世界各国にこれまでよりも広大な市場、これまでよりも豊富な資本、これまでよりも充実した商品、これまでよりも貴重なビジネスチャンスを提供するだろう。
 そして、中国企業は米国の大規模なインフラ建設と製造業の復興に参入したいと思っている。
 中米経済貿易関係は中米間における経済社会の発展だけでなく、グローバル経済・投資など各方面に影響を与えずにはおかない。
 マクロ経済をめぐる政策協調、世界金融システムの安定、エネルギー資源、気候変動、グローバルバリューチェーン、eコマース、サイバーセキュリティ、流行性疫病といった世界経済の行方を左右する重大な問題を解決するためには、中米両国の協調と連携的対応が益々必要になってくるはずだ」



Record china配信日時:2017年6月29日(木) 6時10分
http://www.recordchina.co.jp/b161640-s0-c10.html

トランプ米大統領、対中政策で挫折感募らせる
=蜜月は早晩に終わる?―米メディア

 2017年6月27日、米華字ニュースサイト多維新聞によると、米政府の複数の高官はこのほど、トランプ米大統領が対中政策で大きな挫折感を感じていることを明らかにした。

 北朝鮮問題はこう着状態が続き、中国の努力も効果が見えない。
 トランプ大統領の挫折感は募っている。
 貿易問題で中国に対する忍耐強い態度にも変化が出始めている。
 ロイター通信によると、米政府高官3人がこのほど、中国が北朝鮮問題で大きな動きを見せないこと、米中貿易をめぐる話し合いがかみ合わないことに、トランプ大統領は日に日に大きな挫折感を感じている。
 中国に対し、貿易制裁措置をとることも検討しているという。

 米紙ニューヨーク・タイムズは最近、習近平(シー・ジンピン)国家主席とトランプ大統領の「蜜月は早晩に終わる」と予測。
 トランプ大統領は貿易、通貨、南シナ海問題などを棚上げし、北朝鮮問題で中国に協力をあおいだ。
 しかし、中国の北朝鮮に対する圧力は不十分で、効果は限られており、米国はさらなる圧力のため強硬姿勢を取る可能性がある。

 韓国の延世大学の中国・朝鮮半島問題専門家のジョン・デルリー氏は、トランプ大統領が
 「北朝鮮問題で中国を助ける必要はないとの姿勢を示した後、貿易問題の協議に着手する可能性がある」
と予測している。