_
これまで「解決先送り法」で辻褄を合わせてきた自衛隊だが、中国での2012年の反日デモでそれができなくなってしまった。
解決先送り法でこのところ有名なのはオバマの北朝鮮に対する「戦略的忍耐」であろう。
だがその結果は惨めなものであった。
逆に日本はオバマの結果をうまく利用して、解決先送りを解消してしまおうともくろんでいる。
北朝鮮は日本にとって「いま、そこにある危機」としてアピールしやすい。
絶好のチャンスをつかんでいる、ということであろう。
もし、金正恩がなんらかの形で排除されるようなことがあったら、千載一遇のチャンスを逃すことになる。
金正恩が権力を把握しているあいだに一歩踏み出しておきたい、というのが政府の意図であろう。
『
ロイター 2017年 06月 22日 02:00 JST
http://jp.reuters.com/article/idJP2017062101001688
自衛隊「防衛の実力組織」
自民党の憲法改正推進本部が、憲法9条に自衛隊の存在を明記する安倍晋三首相(党総裁)提案を踏まえ、今後の議論のたたき台とする条文案が21日、判明した。
現行9条と別立ての「9条の2」を新設し、自衛隊について
「わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織」
と規定。
戦力不保持などを定めた現行9条2項を受ける形で「自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない」と明示した。
首相が自衛隊の指揮監督権を持つことも盛り込んだ。
党関係者が明らかにした。
自民党は年内の改憲案策定を目指しており、早ければ秋にも具体的な条文案を巡って公明党との調整に着手したい意向。
』
『
6/24(土) 14:47配信 時事通信
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017062400384&g=pol
安倍首相、年内に自民改憲案提出
=「歴史的一歩」に決意
安倍晋三首相(自民党総裁)は24日、神戸市内で講演し、憲法改正について
「来るべき臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に自民党案を提出したい」
と述べ、年内提出を目指す方針を明らかにした。
首相は9条を改正して2020年の施行を目指す意向を示しているが、今秋に想定する臨時国会への提出に言及したのは初めて。
自民党の憲法改正推進本部は首相の指示を受け、年内をめどに改憲原案を取りまとめる方針だが、衆参憲法審への年内提出までは明言していなかった。
首相は既に、内閣改造・党役員人事を8月上旬にも前倒しする方向で調整。
改憲の国民投票と衆院解散・総選挙の同時実施も視野に置いているとみられ、改憲案の策定を急いで解散時期の選択肢を広げる狙いもありそうだ。
首相は講演で
「憲法施行70年の節目である本年中に、わが党が先頭に立って歴史的一歩を踏み出す決意だ」
と表明。
教育も「避けて通れない重要なテーマ」との認識を示し、「人づくり、教育の重要性をもう一度確認すべき時だ」と指摘した。
教育無償化の改憲案への明記が念頭にある。
』
『
Record china配信日時:2017年6月24日(土) 18時10分
http://www.recordchina.co.jp/b182080-s0-c10.html
支持率に陰りの安倍首相、
「応援団」は中国と北朝鮮、
日本への「風圧」が政権の求心力下支え、韓国も仲間入り?
2017年6月23日、加計学園問題などを抱え、最新の各種世論調査で支持率に陰りものぞく安倍晋三首相。
そんな安倍政権の「応援団」は皮肉にも中国と北朝鮮だ。
日本への「風圧」が政権の求心力を下支えしている。
文在寅政権の誕生で慰安婦問題が再燃している韓国も応援団に仲間入りしそうな雲行きだ。
まず中国。
東シナ海の沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺では中国公船による領海侵入が常態化している。
広範な領有権を主張する南シナ海でも軍事拠点化を緩める気配はない。
防衛省によると、昨年4月〜12月末までの間に航空自衛隊が領空侵犯に備えて緊急発進(スクランブル)した回数は838回で、前年同時期と比べて316回増えて過去最多となった。
国別では中国機に対する発進が644回と、前年同時期から271回も増えた。
日本人を標的にした攻勢も目立つ。
「スパイ活動」の疑いで、この2年間に中国で拘束された日本人は12人にも上る。
中国当局が詳細を明らかにしていないため、事の真偽は不明だが、中国網は「12人はどんな活動をしていたのか」との記事を掲載。
「日本は最近、海外情報に力を入れるため、政府内に新たな機関を設置。スパイ活動を行うチームを拡充させている」などと敵対視している。
核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮から吹く風はさらに強烈だ。
今年なってからも、日本海に向けて弾道ミサイル発射を繰り返し、一部は日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾した。
核攻撃をちらつかせながら、「有事には米国より先に日本列島が丸ごと焦土になり得る」「米軍の兵たん、発進、出撃基地になっている日本が真っ先に(核爆発による)放射能雲で覆われる」などとも威嚇している。
安倍首相は日本を取り巻く安全保障環境の変化を理由として野党の反対を押し切り、一定の条件下で集団的自衛権の行使は認められるという14年7月の憲法解釈変更の閣議決定や、15年9月の「平和安全法制」の制定などを積み重ねてきた。
日本に圧力を強める中朝両国の動向を目の当たりにすると一連の取り組みは説得力を持ち、日本国内のナショナリズムとも相まって政権を少なからずアシストしている。
一方、韓国の文大統領は米紙とのインタビューで、15年末に日本との間で「不可逆的に解決」したはずの慰安婦問題について「日本政府の公式謝罪」に言及した。
「ゴールポスト」が動く事態になれば日本国内の反発を招き、韓国に譲らない態度を取る安倍政権の追い風になりそうだ。
安倍首相の応援団は国内にもいる。
民進党だ。
共同通信社が17,18両日に実施した世論調査によると、内閣支持率は加計学園問題などが響き、44.9%と前回5月から10.5ポイントも急落。
不支持率は8.8ポイント増の43.1%になったが、支持する理由は「ほかに適当な人がいない」が46.1%と最多だった。
NHKの6月の世論調査でも「他の内閣より良さそうだから」が50%を占めた。
迷走を続けた旧民主党政権3年間のツケは大きい。
』
2017年6月22日木曜日
中国は今(5):外資撤退がもたらす「失業の嵐」そこにメリットはあるのか
_
『
サーチナニュース 2017-06-22 07:12
http://news.searchina.net/id/1638262?page=1
外資撤退がもたらす「失業の嵐」
・・・そこにメリットはあるのか=中国
世界の工場として、世界中のメーカーが進出していた中国だが、近年は人件費の高騰などを背景に、中国から工場を東南アジアなどに移転する動きが進んだ。
外資メーカーの工場は中国にとって雇用の受け皿となってきたため、撤退は雇用の喪失につながると懸念が高まっている。
中国メディアの今日頭条はこのほど、中国から外資企業が相次いで撤退していることについて、
「中国で失業の嵐がかつてないほど吹き荒れている」
と伝える一方、長期的に見れば外資の撤退は中国にとって悪いことではないと主張する記事を掲載した。
記事は、中国でも広く知られた日本企業が相次いで撤退したり、欧米のメーカーが中国国内の工場を閉鎖したりする動きが見られると紹介し、中国国内では外資撤退に対して懸念が高まっていると指摘。
さらに、中国経済の成長率が鈍化し、中小企業が不景気に喘ぐなか、外資撤退は確かに中国経済にマイナスの影響を及ぼすものであり、ただでさえ税収の伸びが鈍化しているのに、外資が撤退すれば地方政府の税収はさらに減少することになると論じた。
一方で、外資撤退は必ずしも悪いことばかりではないとし、各メーカーは今後、中国で製品を販売するためには輸送費をかけて中国に製品を持ち込まねばならず、コスト競争で不利になるため中国国内における中国製品の競争力が相対的に向上すると指摘。
また、外資企業で働いていた優秀な人材が中国企業に流れることになるため、中国企業の経営力も向上することになると主張した。
また、外資が中国から撤退するのは、
中国の人件費や物価、不動産価格の高騰や環境汚染といった問題が背後にあるのは事実であり、
外資撤退は中国政府に対策を取るよう促すことにもつながると指摘。
中国が今後、ハイテク企業を誘致するためには、
投資環境をめぐる諸問題を解決する必要があると指摘し、
外資撤退は現在の中国に「失業の嵐」という問題をもたらしているが、長期的に見ればメリットも多いと指摘している
』
「落ち目のいいわけ」というか「やせ我慢のつっぱり」というか、そんな風にみえる。
『
6/25(日) 6:07配信 朝鮮日報日本語版
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170623-00001578-chosun-kr
【コラム】中国の最低賃金引き上げに見る価格統制の問題点
2012年夏、中国・吉林省にある韓国系の中小企業を訪れた。
当時中国では最低賃金引き上げの動きが盛んだった。
大都市の住宅賃貸料と物価上昇で都市に移住した農村労働者の生活環境が悪化すると、2010年から官営メディアは「最低賃金を大幅に引き上げるべきだ」という報道を展開した。
これを「党中央」の方針と受け止めた地方政府は毎年最低賃金の引き上げ競争を展開した。
1年で30%以上引き上げた地方もあった。
この中小企業の社長に「人件費のせいで苦しくないか」と話しかけたのだが、答えは意外なものだった。
「全然心配していない」というのだ。
この企業が位置する都市の市長と投資誘致局長が外資系企業の代表と会うたびに、
「上の方針なので最低賃金を引き上げているが、違反しても取り締まらない。雇用を減らさないでほしい」
と懇願されたという。
中国の大都市における勤労者の賃金は、2004年から毎年上昇している。
10年からはペースが急になった。
1980年に始まった一人っ子政策で労働市場に流入する若者が増えなくなったことが一因だった。
内陸への投資が活発化し、農村労働者があえて沿海部の工業地帯まで出てこなくても、故郷の近くで働き口が見つかることになった点も重要な理由だった。
人材需要はあるが労働力の供給は足りないので、都市労働者の賃金は自然に上昇した
中国政府の最低賃金引き上げはそうした流れに乗った側面がある。
毎年上昇する最低賃金には副作用が少なくない。
最低賃金を守らない企業が続出したほか、名目上の最低賃金を支給し、巧妙に労働時間を増やす脱法もはびこった。
地方政府にはそれを取り締まる意思も余力もなかった。
雇用規模が大きい沿海部の大企業は、雇用を減らし、ロボット導入で生産を自動化する方向へと向かった。
見かねた中国社会科学院は15年の報告書で、「最低賃金は低賃金勤労者を保護するための制度であって、所得分配の手段ではない」とし、最低賃金引き上げには慎重になるべきだと政府に勧告した。
政府は賃金の下限を定めたり、生活必需品の価格に上限を定めたりすることを価格統制という。
政府にとっては価格統制は常に魅力的なカードだ。
統制で恩恵を受ける大衆は歓呼し、当面は問題が解決されたように見える。
しかし、市場の流れに逆行する価格統制は持続不能で、逆効果を生みかねない。
代表的な例がフランス革命当時のジャコバン派を率いたロベスピエールによる牛乳価格の統制だった。
ロベスピエールは牛乳が高騰しているという市民の不満を受け、牛乳価格に上限を設けた。
貧しい親も子どもたちに牛乳を飲ませることができるようにする趣旨だった。
いったんは価格が下落し、市民が歓呼したが、その後は市場に出回る牛乳が激減した。
乳牛農家がコスト割れで牛乳を生産した結果、乳牛を肉牛として売り払ったり、牛乳の代わりにバターやチーズを生産したりしたからだ。
それまでは高くても牛乳を買うことができたが、カネがあっても牛乳を買えない状況になってしまった。
文在寅(ムン・ジェイン)新政権が雇用創出、二極化解消を名分に発表するさまざまな政策は価格統制と関連しており、利害当事者が強く反発している。
「何かをする」ということと同じくらい大切なことが「どのようにやるか」だ。
現実に見合ったアクションプラン不在で無理に推し進めれば、ロベスピエールの牛乳騒動が繰り返されかねない。
』
『
Record china配信日時:2017年6月25日(日) 6時40分
http://www.recordchina.co.jp/b181231-s0-c30.html
日本は低コストで大きな発展を遂げた国、
ただ、中国が参考にできない理由がある―中国メディア
2017年6月22日、中華網は
「中国はなぜ日本の経験を参考にしてはいけないのか?」
と題し、中国の発展において日本を参考にできない理由について中国の経済学者・温鉄軍(ウェン・ティエジュン)氏の見解を紹介した。
日本の1991年以降は「失われた20年」と表現されるなど、低迷のイメージが強いが、
★.失業率の異常な上昇や社会的な動乱もなかった安定期
ともいえる。
日本は20年間ゼロ成長にもかかわらず社会的な動乱が起きなかった珍しい国である。
政治も、首相がころころ代わったものの、比較的安定していると言える。
日本の政治や経済、社会など中国は研究を進める必要がある点が多い。
ただ、研究しても参考にできるとは限らない。
日本は明治維新以降、西欧文化を取り入れ発展を続けたが、西欧のやり方をまねるだけではいけないと感じ、植民地を広げ世界に進出した。
日本の対外進出によって成し遂げられた工業化は、アジアの「内向的で蓄積型」の典型的な工業モデルとは大きく異なる。
周知のとおり日本はその後戦争に負けるのだが、ここで日本は欧米に依存した発展モデルに転換する。
「完全な主権」を犠牲に、欧米から軍事的な援助を受け、政治的、軍事的な労力を大きく省くことに成功した。
欧米は植民地を広げることで資源や市場を占有してきたが、こうした場合、植民地での反発が予想され、戦争や大きな衝突が起きる。
だが、日本は欧米の支援があるため反発も少なく、世界でのイメージも悪くならない。
日本は低コストで大きな発展を遂げたといえるのだ。
ではなぜ日本の経験は参考にできないのか。
それは日本のように世界第2位の座に座り続ける限り、1位のボスに相応の対価を支払う必要があるからだ。
米国はアジアで中ロをけん制するため日本の存在を利用しているため、日本が世界2位の座に座ったとしてもたたくことはない。
しかし、中国となると状況は違ってくる。
中国は日本に比べ比較的主権が整っている国で、中国の発展は世界のボスにとって敵とみなされる。
中国は今や日本を抜き世界2位の強国にまで成長したが、こうした違いから日本の発展モデルは参考にできないのだ。
』
『
サーチナニュース 2017-06-22 07:12
http://news.searchina.net/id/1638262?page=1
外資撤退がもたらす「失業の嵐」
・・・そこにメリットはあるのか=中国
世界の工場として、世界中のメーカーが進出していた中国だが、近年は人件費の高騰などを背景に、中国から工場を東南アジアなどに移転する動きが進んだ。
外資メーカーの工場は中国にとって雇用の受け皿となってきたため、撤退は雇用の喪失につながると懸念が高まっている。
中国メディアの今日頭条はこのほど、中国から外資企業が相次いで撤退していることについて、
「中国で失業の嵐がかつてないほど吹き荒れている」
と伝える一方、長期的に見れば外資の撤退は中国にとって悪いことではないと主張する記事を掲載した。
記事は、中国でも広く知られた日本企業が相次いで撤退したり、欧米のメーカーが中国国内の工場を閉鎖したりする動きが見られると紹介し、中国国内では外資撤退に対して懸念が高まっていると指摘。
さらに、中国経済の成長率が鈍化し、中小企業が不景気に喘ぐなか、外資撤退は確かに中国経済にマイナスの影響を及ぼすものであり、ただでさえ税収の伸びが鈍化しているのに、外資が撤退すれば地方政府の税収はさらに減少することになると論じた。
一方で、外資撤退は必ずしも悪いことばかりではないとし、各メーカーは今後、中国で製品を販売するためには輸送費をかけて中国に製品を持ち込まねばならず、コスト競争で不利になるため中国国内における中国製品の競争力が相対的に向上すると指摘。
また、外資企業で働いていた優秀な人材が中国企業に流れることになるため、中国企業の経営力も向上することになると主張した。
また、外資が中国から撤退するのは、
中国の人件費や物価、不動産価格の高騰や環境汚染といった問題が背後にあるのは事実であり、
外資撤退は中国政府に対策を取るよう促すことにもつながると指摘。
中国が今後、ハイテク企業を誘致するためには、
投資環境をめぐる諸問題を解決する必要があると指摘し、
外資撤退は現在の中国に「失業の嵐」という問題をもたらしているが、長期的に見ればメリットも多いと指摘している
』
「落ち目のいいわけ」というか「やせ我慢のつっぱり」というか、そんな風にみえる。
『
6/25(日) 6:07配信 朝鮮日報日本語版
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170623-00001578-chosun-kr
【コラム】中国の最低賃金引き上げに見る価格統制の問題点
2012年夏、中国・吉林省にある韓国系の中小企業を訪れた。
当時中国では最低賃金引き上げの動きが盛んだった。
大都市の住宅賃貸料と物価上昇で都市に移住した農村労働者の生活環境が悪化すると、2010年から官営メディアは「最低賃金を大幅に引き上げるべきだ」という報道を展開した。
これを「党中央」の方針と受け止めた地方政府は毎年最低賃金の引き上げ競争を展開した。
1年で30%以上引き上げた地方もあった。
この中小企業の社長に「人件費のせいで苦しくないか」と話しかけたのだが、答えは意外なものだった。
「全然心配していない」というのだ。
この企業が位置する都市の市長と投資誘致局長が外資系企業の代表と会うたびに、
「上の方針なので最低賃金を引き上げているが、違反しても取り締まらない。雇用を減らさないでほしい」
と懇願されたという。
中国の大都市における勤労者の賃金は、2004年から毎年上昇している。
10年からはペースが急になった。
1980年に始まった一人っ子政策で労働市場に流入する若者が増えなくなったことが一因だった。
内陸への投資が活発化し、農村労働者があえて沿海部の工業地帯まで出てこなくても、故郷の近くで働き口が見つかることになった点も重要な理由だった。
人材需要はあるが労働力の供給は足りないので、都市労働者の賃金は自然に上昇した
中国政府の最低賃金引き上げはそうした流れに乗った側面がある。
毎年上昇する最低賃金には副作用が少なくない。
最低賃金を守らない企業が続出したほか、名目上の最低賃金を支給し、巧妙に労働時間を増やす脱法もはびこった。
地方政府にはそれを取り締まる意思も余力もなかった。
雇用規模が大きい沿海部の大企業は、雇用を減らし、ロボット導入で生産を自動化する方向へと向かった。
見かねた中国社会科学院は15年の報告書で、「最低賃金は低賃金勤労者を保護するための制度であって、所得分配の手段ではない」とし、最低賃金引き上げには慎重になるべきだと政府に勧告した。
政府は賃金の下限を定めたり、生活必需品の価格に上限を定めたりすることを価格統制という。
政府にとっては価格統制は常に魅力的なカードだ。
統制で恩恵を受ける大衆は歓呼し、当面は問題が解決されたように見える。
しかし、市場の流れに逆行する価格統制は持続不能で、逆効果を生みかねない。
代表的な例がフランス革命当時のジャコバン派を率いたロベスピエールによる牛乳価格の統制だった。
ロベスピエールは牛乳が高騰しているという市民の不満を受け、牛乳価格に上限を設けた。
貧しい親も子どもたちに牛乳を飲ませることができるようにする趣旨だった。
いったんは価格が下落し、市民が歓呼したが、その後は市場に出回る牛乳が激減した。
乳牛農家がコスト割れで牛乳を生産した結果、乳牛を肉牛として売り払ったり、牛乳の代わりにバターやチーズを生産したりしたからだ。
それまでは高くても牛乳を買うことができたが、カネがあっても牛乳を買えない状況になってしまった。
文在寅(ムン・ジェイン)新政権が雇用創出、二極化解消を名分に発表するさまざまな政策は価格統制と関連しており、利害当事者が強く反発している。
「何かをする」ということと同じくらい大切なことが「どのようにやるか」だ。
現実に見合ったアクションプラン不在で無理に推し進めれば、ロベスピエールの牛乳騒動が繰り返されかねない。
』
『
Record china配信日時:2017年6月25日(日) 6時40分
http://www.recordchina.co.jp/b181231-s0-c30.html
日本は低コストで大きな発展を遂げた国、
ただ、中国が参考にできない理由がある―中国メディア
2017年6月22日、中華網は
「中国はなぜ日本の経験を参考にしてはいけないのか?」
と題し、中国の発展において日本を参考にできない理由について中国の経済学者・温鉄軍(ウェン・ティエジュン)氏の見解を紹介した。
日本の1991年以降は「失われた20年」と表現されるなど、低迷のイメージが強いが、
★.失業率の異常な上昇や社会的な動乱もなかった安定期
ともいえる。
日本は20年間ゼロ成長にもかかわらず社会的な動乱が起きなかった珍しい国である。
政治も、首相がころころ代わったものの、比較的安定していると言える。
日本の政治や経済、社会など中国は研究を進める必要がある点が多い。
ただ、研究しても参考にできるとは限らない。
日本は明治維新以降、西欧文化を取り入れ発展を続けたが、西欧のやり方をまねるだけではいけないと感じ、植民地を広げ世界に進出した。
日本の対外進出によって成し遂げられた工業化は、アジアの「内向的で蓄積型」の典型的な工業モデルとは大きく異なる。
周知のとおり日本はその後戦争に負けるのだが、ここで日本は欧米に依存した発展モデルに転換する。
「完全な主権」を犠牲に、欧米から軍事的な援助を受け、政治的、軍事的な労力を大きく省くことに成功した。
欧米は植民地を広げることで資源や市場を占有してきたが、こうした場合、植民地での反発が予想され、戦争や大きな衝突が起きる。
だが、日本は欧米の支援があるため反発も少なく、世界でのイメージも悪くならない。
日本は低コストで大きな発展を遂げたといえるのだ。
ではなぜ日本の経験は参考にできないのか。
それは日本のように世界第2位の座に座り続ける限り、1位のボスに相応の対価を支払う必要があるからだ。
米国はアジアで中ロをけん制するため日本の存在を利用しているため、日本が世界2位の座に座ったとしてもたたくことはない。
しかし、中国となると状況は違ってくる。
中国は日本に比べ比較的主権が整っている国で、中国の発展は世界のボスにとって敵とみなされる。
中国は今や日本を抜き世界2位の強国にまで成長したが、こうした違いから日本の発展モデルは参考にできないのだ。
』
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2017年6月20日火曜日
アメリカと中国の関係:中国はどう見ているのか?
_
『
ダイヤモンドオンライン 2017.6.20 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/132345
中国が「対米関係の悪化」を本音では望んでいない理由
■中国共産党指導部にとって
米国との関係とは
前回コラムでは、李克強首相の欧州歴訪をケーススタディーに、中国共産党指導部が、激動の時代を迎えているかに見える国際政治経済情勢において、
★.欧州が米国とは異なるプレイヤーとして君臨するのを望んでいること、
★.トランプ政権の米国が“内向き”姿勢を見せる中、中国が新たな一角として世界的リーダーシップを果たしたいと考え動いていること、
★.その過程で共産党一党支配体制を確固たるものにしたいと考えていること
などをレビューした。
掲載後、複数の読者から
「中国にとって対米関係はどうなっていくのか?」、
「トランプ大統領の言動が読めないというリスクへのヘッジとしての欧州接近なのか?」、
「中国は対外協力の軸を米国から欧州へ切り替えようとしているのか?」
といった類の問題提起をいただいた。
いずれも、中国の対外関係を考える上でのリアリティーとして直視すべき、あるいは想像力を膨らまして思考すべきテーマであると感じた。
まず、私の現段階における観察に基づく結論から述べる。
《中国共産党指導部にとって米国との関係は、
依然として対外関係のなかで核心的であり、
最も切実に、象徴的な領域も実質的な分野も含めて安定させたいと考える2ヵ国間関係であり、
依然としてその安定化を通じて、自国民および国際社会に対して共産党一党支配下における統治力と権威性を示していきたいと党指導部に考えさせる戦略的関係である。》
2点付け加えたい。
★.一つ目は、共産党指導部が、
米国という中国にとって最も重要でかつライバルとしての関係を形成する大国との関係を安定させられない状況を、「人民からの信頼を失墜させる事態」と捉えていることだ。
対米関係が共産党の正統性という文脈における、内政的性格を擁している
ということである。
★.二つ目は、本連載でも検証してきたように、中国は、習近平政権が一つの節目を迎えようとしている現在に至っても、
第二次世界大戦後、米国が主導してきた既存の国際政治経済秩序に真っ向から挑戦し、
新たな秩序を“創造”しようと考えているわけではないことである。
この点は、表面的には野心に富んでおり、拡張的な動きを見せているかに見える対外姿勢の背後で、
中国が依然として自らのイデオロギーや発展モデルがどこまで国際社会で“通用”するのかに確信を持てないでいる現状を示しているように私には思える。
■中国商務部が発表した
「中米経済貿易関係に関する研究報告」
5月25日、中国商務部が「中米経済貿易関係に関する研究報告」なるものを中国語と英語で同時公表した。
中国語で計74頁に及ぶ。
中国が昨今の対米経済貿易関係をどのように整理し、マネージしようとしているのかがよく分かる報告書であると同時に、前出にもあるように、激動の時代を迎えているかに見える昨今の国際政治経済情勢下において、
中国が対外関係において米国との関係をどのように位置づけようとしているのかを私たちに示唆してくれる報告書でもある。
本稿ではこの報告書の第一部(全四部。中国語と英語版を添付するので興味ある方は以下リンクを参照されたい:中国語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082811425.pdf;英語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082826423.pdf)「中米経済貿易関係をめぐる時代背景」をレビューすることで、その示唆を整理したい。
報告書は「中米経済貿易関係は世界最大の途上国と世界最大の先進国の間の経済貿易関係である」と定義する。
この定義に沿って、両国間における三つの違いを指摘する。
《一つ目が国情の違いである。》
「米国の一人あたりGDPは5万7700米ドル(2016年)で世界5位、中国のそれは8141米ドル(2015年)で世界74位、米国のエンゲル係数は10%以下で、中国のそれはいまだに30%前後あり、まだまだ内需市場を育んでいく必要がある。
中国の都市化率は現在57%で先進国の平均70%よりも低い。
2015年、中国の大学進学率は40%だ」(報告書)
《二つ目が市場経済の発展段階を巡る違いである。》
「米国は市場経済の先駆者であり、その経済体制・メカニズムは比較的成熟している。
米国は世界に先駆けて独占禁止法、知的財産権の保護、外資によるM&Aに対する安全審査、金融監視監督制度などを確立した…
一方の中国は1992年に社会主義市場経済体制を確立した。
過去の20余年で大きな進歩を遂げたが、中国の国情に符合する社会主義市場経済体制をどのように構築するかという点において、模索しながら進んでいるのが現状である。
各制度は改善しなければならず、管理水準も向上させなければならない」(報告書)
《三つ目が“敏感な経済領域”の違いである。》
「米国はグローバルバリューチェーンのハイエンドにおり、技術レベルも先を行っている。
攻める利益は守る利益よりも多い。
経済分野の関心は
製造業分野における雇用機会の流失や
米国の知的成果の保護、そして
“知識経済”、“数字経済”という大きな流れの中で米国の利益に符合するグローバルなルールを打ち立てること、
貿易パートナーに米国の商品、サービス、投資に対して自国市場を開放させること
などにある。
一方の中国は国際バリューチェーン、産業チェーンのミッド・ローエンドにあり、イノベーションの推進が直面している外部環境は米国には及ばない。
経済安全保障、産業安全保障という点において米国よりも大きな圧力に面している。
中国の関心は、
経済の持続可能な発展の保証、
経済構造の転換とアップグレード、
イノベーションによる発展の促進、
経済安全や産業チェーンの安全の保障、
中国の商品や投資が海外市場で遭遇する摩擦の解消
などに集中している」(報告書)
■対米関係に見られる
フラストレーションが存在する!?
この三つの違いを提起する動機には、国内状況の改善や構造改革の促進にまだまだ長い時間を要するにもかかわらず、特に対米関係という文脈において、国際社会・市場・世論から多くを求められる現状に対するフラストレーションが存在しているように私には思われる。
人民元為替レート、過剰生産能力・設備、国有企業改革、国内市場の開放(対米関係でいえば2ヵ国間投資協定におけるネガティブリスト問題が典型的)といった問題が代表的な対象になろう。
《「中米経済貿易関係を発展させる基礎は経済グローバリゼーションにある」》
報告書が最も強調したい部分の一つであるように思われるこの記述は、昨今の習近平政権の世界観、そして対米戦略を体現している。
「昨今、国際経済情勢は複雑に変化している。
世界経済の成長インセンティブが不足し、貿易投資は低迷し、貿易保護主義が台頭している。
しかし、これは各経済体間の相互融合・依存の趨勢を根本的に変えてはいない。
経済グローバリゼーションは前進する中で調整し、均衡する中で深化するのだ」(報告書)
グローバリゼーションの本質は各国間の相互依存であり、
米中共にその受益者であると指摘するこの報告書の論調からは、習近平政権として、昨今のトランプ政権の動向を注視し、貿易保護主義にNOを掲げつつ、グローバリゼーションを死守する姿勢を誇示し続けることで国際的影響力・発言権を向上させたいのだろう。そんな戦略的思考が垣間見えてくる。
《「中米経済貿易関係の法律的保障はWTOのルールや多国間協定にある」》
報告書は
「WTOは昨今の各国間貿易関係を処理するための唯一のグローバルな国際機構であり、中米両国を含めた各方面の経済貿易関係の発展に安定的で強靭な制度的保障を提供している。
中米経済貿易関係とはWTOの枠組みの中における2ヵ国間関係に他ならない」、
また、
「WTOを主体とする多国間貿易体制は歴史の選択であり、グローバルな貿易投資問題を解決するためのメインチャネルである地位は変わらない。
仮にあるメンバーがWTOのルールを放棄した上で2ヵ国間貿易を語ろうとするのならば、それはグローバル経済を“ゼロサム”的な危険な境地に陥れるであろう」
と指摘する。
この部分には、昨今、“内向き”志向が比較的顕著なトランプ政権の経済貿易政策に対する警戒心がにじみ出ているという以外に、中国として米国との貿易摩擦や経済交渉においてWTOというプラットフォームを最大限に活用したいこと、2ヵ国間のゼロサム的な“貿易戦争”を避けたいと思っている心境が窺える。
■中国と米国
それぞれのアドバンテージ
第一部の最終部分は米中経済貿易関係とは各自のアドバンテージを相互に生かした関係であることを主張している。
中国側のアドバンテージとして、
「世界の25%以上を占める製造業の比重」、
「500品目ほどある主要工業商品の中で、中国は220以上におよぶ品目の生産量で世界一」
「世界最大規模、かつ総合的に素質が高く、比較的安価な労働力」(2015年、15?64歳の労働人口は10.03億人で、この数字は欧米先進国の労働総人口7.3億人を超える;また米国の総合賃金は中国の約7?10倍などと指摘)、
「インフラ建設の後発的優勢」
等を挙げている。
「中国のサプライチェーンとパッケージングのアドバンテージが明らかである」というケースとして、
深セン地区が世界最大のコスト競争力と最大規模の電子産業サプライチェーンを擁していること、
米アップル社の携帯電話・パソコン商品が全世界で持つ700以上のサプライヤーのうち、半分近くが中国にあること
を挙げている。
米国側のアドバンテージとしては、その科学技術と研究開発能力を挙げる。
「米国の一部生産要素は比較的安価であり、電力、土地、物流、原材料、融資、税収などの分野において米国はコスト的アドバンテージを持つ」
と指摘するのは興味深い。
例として、
「米国の土地平均価格は中国の二級・三級都市相当」、
「米国の工業用電力価格は中国の半分、
ガソリン価格は中国の3分の2。
総合物流のそれは中国の半分でしかない」
などを挙げている。
中国企業はこれから米国を“世界の市場”としてだけではなく、“世界の工場”的な視点から眺め、本格的に戦略を練っていくに違いない。
中国政府は、自国企業が米国に工場を作り、米国民を雇い、米国に税金を納めることを後押しすることを通じて、“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領に恩を売ろうとするに違いない。
「サービス業が米国経済に占める割合」も米国側のアドバンテージとして挙げている。
2016年、サービス業が米国GDPに占める割合は79.5%(同期中国は50.7%)であること、2016年、米国のサービス貿易は2494億ドルの輸出超過であり、同期、中国のそれは2409億ドルの輸入超過である点も挙げた。
“中国の対米貿易大幅黒字”に注目が集まり、トランプ大統領もそれに留意した貿易政策を取ろうとしている中、米中間貿易は一枚岩ではなく、“中国側にも損をしている部分はある”と言いたいのだろう。
以上を基に、報告書は「中米両国が経済貿易協力を展開することは、グローバリゼーションという背景の下、国際産業の適材適所、資源配置の最適化を図った上での必然的結果である」と主張する。
■“違い”をクローズアップさせつつも
ポジティブ感で統一
報告書はここから
第二部「中米経済貿易関係が互恵的でウィンウィンであるという本質」、
第三部「双方が重点的に関心を持つ経済貿易分野」、
第四部「中米経済貿易協力の発展を不断に推進する」
と続くが、“違い”をクローズアップさせつつもポジティブ感で統一されたこのような報告書を中英2ヵ国語で同時公表すること自体、
習近平国家主席率いる中国共産党指導部が、米国との関係を安定化させることに巨大な政治的需要を見出している現状を物語っているように、私には思えるのである。
最後に、言葉遊びなどでは決してなく、中国政治・経済社会の切実な思いを理解する上で、情報量に溢れているように私には聴こえる第一部のクロージングワードを引用しつつ、本稿を終えることにしたい。
「中米経済貿易関係の発展はポテンシャルで満ちている。
中国経済の転換は、米国を含めた世界各国にこれまでよりも広大な市場、これまでよりも豊富な資本、これまでよりも充実した商品、これまでよりも貴重なビジネスチャンスを提供するだろう。
そして、中国企業は米国の大規模なインフラ建設と製造業の復興に参入したいと思っている。
中米経済貿易関係は中米間における経済社会の発展だけでなく、グローバル経済・投資など各方面に影響を与えずにはおかない。
マクロ経済をめぐる政策協調、世界金融システムの安定、エネルギー資源、気候変動、グローバルバリューチェーン、eコマース、サイバーセキュリティ、流行性疫病といった世界経済の行方を左右する重大な問題を解決するためには、中米両国の協調と連携的対応が益々必要になってくるはずだ」
』
『
Record china配信日時:2017年6月29日(木) 6時10分
http://www.recordchina.co.jp/b161640-s0-c10.html
トランプ米大統領、対中政策で挫折感募らせる
=蜜月は早晩に終わる?―米メディア
2017年6月27日、米華字ニュースサイト多維新聞によると、米政府の複数の高官はこのほど、トランプ米大統領が対中政策で大きな挫折感を感じていることを明らかにした。
北朝鮮問題はこう着状態が続き、中国の努力も効果が見えない。
トランプ大統領の挫折感は募っている。
貿易問題で中国に対する忍耐強い態度にも変化が出始めている。
ロイター通信によると、米政府高官3人がこのほど、中国が北朝鮮問題で大きな動きを見せないこと、米中貿易をめぐる話し合いがかみ合わないことに、トランプ大統領は日に日に大きな挫折感を感じている。
中国に対し、貿易制裁措置をとることも検討しているという。
米紙ニューヨーク・タイムズは最近、習近平(シー・ジンピン)国家主席とトランプ大統領の「蜜月は早晩に終わる」と予測。
トランプ大統領は貿易、通貨、南シナ海問題などを棚上げし、北朝鮮問題で中国に協力をあおいだ。
しかし、中国の北朝鮮に対する圧力は不十分で、効果は限られており、米国はさらなる圧力のため強硬姿勢を取る可能性がある。
韓国の延世大学の中国・朝鮮半島問題専門家のジョン・デルリー氏は、トランプ大統領が
「北朝鮮問題で中国を助ける必要はないとの姿勢を示した後、貿易問題の協議に着手する可能性がある」
と予測している。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2017.6.20 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/132345
中国が「対米関係の悪化」を本音では望んでいない理由
■中国共産党指導部にとって
米国との関係とは
前回コラムでは、李克強首相の欧州歴訪をケーススタディーに、中国共産党指導部が、激動の時代を迎えているかに見える国際政治経済情勢において、
★.欧州が米国とは異なるプレイヤーとして君臨するのを望んでいること、
★.トランプ政権の米国が“内向き”姿勢を見せる中、中国が新たな一角として世界的リーダーシップを果たしたいと考え動いていること、
★.その過程で共産党一党支配体制を確固たるものにしたいと考えていること
などをレビューした。
掲載後、複数の読者から
「中国にとって対米関係はどうなっていくのか?」、
「トランプ大統領の言動が読めないというリスクへのヘッジとしての欧州接近なのか?」、
「中国は対外協力の軸を米国から欧州へ切り替えようとしているのか?」
といった類の問題提起をいただいた。
いずれも、中国の対外関係を考える上でのリアリティーとして直視すべき、あるいは想像力を膨らまして思考すべきテーマであると感じた。
まず、私の現段階における観察に基づく結論から述べる。
《中国共産党指導部にとって米国との関係は、
依然として対外関係のなかで核心的であり、
最も切実に、象徴的な領域も実質的な分野も含めて安定させたいと考える2ヵ国間関係であり、
依然としてその安定化を通じて、自国民および国際社会に対して共産党一党支配下における統治力と権威性を示していきたいと党指導部に考えさせる戦略的関係である。》
2点付け加えたい。
★.一つ目は、共産党指導部が、
米国という中国にとって最も重要でかつライバルとしての関係を形成する大国との関係を安定させられない状況を、「人民からの信頼を失墜させる事態」と捉えていることだ。
対米関係が共産党の正統性という文脈における、内政的性格を擁している
ということである。
★.二つ目は、本連載でも検証してきたように、中国は、習近平政権が一つの節目を迎えようとしている現在に至っても、
第二次世界大戦後、米国が主導してきた既存の国際政治経済秩序に真っ向から挑戦し、
新たな秩序を“創造”しようと考えているわけではないことである。
この点は、表面的には野心に富んでおり、拡張的な動きを見せているかに見える対外姿勢の背後で、
中国が依然として自らのイデオロギーや発展モデルがどこまで国際社会で“通用”するのかに確信を持てないでいる現状を示しているように私には思える。
■中国商務部が発表した
「中米経済貿易関係に関する研究報告」
5月25日、中国商務部が「中米経済貿易関係に関する研究報告」なるものを中国語と英語で同時公表した。
中国語で計74頁に及ぶ。
中国が昨今の対米経済貿易関係をどのように整理し、マネージしようとしているのかがよく分かる報告書であると同時に、前出にもあるように、激動の時代を迎えているかに見える昨今の国際政治経済情勢下において、
中国が対外関係において米国との関係をどのように位置づけようとしているのかを私たちに示唆してくれる報告書でもある。
本稿ではこの報告書の第一部(全四部。中国語と英語版を添付するので興味ある方は以下リンクを参照されたい:中国語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082811425.pdf;英語:http://images.mofcom.gov.cn/www/201706/20170607082826423.pdf)「中米経済貿易関係をめぐる時代背景」をレビューすることで、その示唆を整理したい。
報告書は「中米経済貿易関係は世界最大の途上国と世界最大の先進国の間の経済貿易関係である」と定義する。
この定義に沿って、両国間における三つの違いを指摘する。
《一つ目が国情の違いである。》
「米国の一人あたりGDPは5万7700米ドル(2016年)で世界5位、中国のそれは8141米ドル(2015年)で世界74位、米国のエンゲル係数は10%以下で、中国のそれはいまだに30%前後あり、まだまだ内需市場を育んでいく必要がある。
中国の都市化率は現在57%で先進国の平均70%よりも低い。
2015年、中国の大学進学率は40%だ」(報告書)
《二つ目が市場経済の発展段階を巡る違いである。》
「米国は市場経済の先駆者であり、その経済体制・メカニズムは比較的成熟している。
米国は世界に先駆けて独占禁止法、知的財産権の保護、外資によるM&Aに対する安全審査、金融監視監督制度などを確立した…
一方の中国は1992年に社会主義市場経済体制を確立した。
過去の20余年で大きな進歩を遂げたが、中国の国情に符合する社会主義市場経済体制をどのように構築するかという点において、模索しながら進んでいるのが現状である。
各制度は改善しなければならず、管理水準も向上させなければならない」(報告書)
《三つ目が“敏感な経済領域”の違いである。》
「米国はグローバルバリューチェーンのハイエンドにおり、技術レベルも先を行っている。
攻める利益は守る利益よりも多い。
経済分野の関心は
製造業分野における雇用機会の流失や
米国の知的成果の保護、そして
“知識経済”、“数字経済”という大きな流れの中で米国の利益に符合するグローバルなルールを打ち立てること、
貿易パートナーに米国の商品、サービス、投資に対して自国市場を開放させること
などにある。
一方の中国は国際バリューチェーン、産業チェーンのミッド・ローエンドにあり、イノベーションの推進が直面している外部環境は米国には及ばない。
経済安全保障、産業安全保障という点において米国よりも大きな圧力に面している。
中国の関心は、
経済の持続可能な発展の保証、
経済構造の転換とアップグレード、
イノベーションによる発展の促進、
経済安全や産業チェーンの安全の保障、
中国の商品や投資が海外市場で遭遇する摩擦の解消
などに集中している」(報告書)
■対米関係に見られる
フラストレーションが存在する!?
この三つの違いを提起する動機には、国内状況の改善や構造改革の促進にまだまだ長い時間を要するにもかかわらず、特に対米関係という文脈において、国際社会・市場・世論から多くを求められる現状に対するフラストレーションが存在しているように私には思われる。
人民元為替レート、過剰生産能力・設備、国有企業改革、国内市場の開放(対米関係でいえば2ヵ国間投資協定におけるネガティブリスト問題が典型的)といった問題が代表的な対象になろう。
《「中米経済貿易関係を発展させる基礎は経済グローバリゼーションにある」》
報告書が最も強調したい部分の一つであるように思われるこの記述は、昨今の習近平政権の世界観、そして対米戦略を体現している。
「昨今、国際経済情勢は複雑に変化している。
世界経済の成長インセンティブが不足し、貿易投資は低迷し、貿易保護主義が台頭している。
しかし、これは各経済体間の相互融合・依存の趨勢を根本的に変えてはいない。
経済グローバリゼーションは前進する中で調整し、均衡する中で深化するのだ」(報告書)
グローバリゼーションの本質は各国間の相互依存であり、
米中共にその受益者であると指摘するこの報告書の論調からは、習近平政権として、昨今のトランプ政権の動向を注視し、貿易保護主義にNOを掲げつつ、グローバリゼーションを死守する姿勢を誇示し続けることで国際的影響力・発言権を向上させたいのだろう。そんな戦略的思考が垣間見えてくる。
《「中米経済貿易関係の法律的保障はWTOのルールや多国間協定にある」》
報告書は
「WTOは昨今の各国間貿易関係を処理するための唯一のグローバルな国際機構であり、中米両国を含めた各方面の経済貿易関係の発展に安定的で強靭な制度的保障を提供している。
中米経済貿易関係とはWTOの枠組みの中における2ヵ国間関係に他ならない」、
また、
「WTOを主体とする多国間貿易体制は歴史の選択であり、グローバルな貿易投資問題を解決するためのメインチャネルである地位は変わらない。
仮にあるメンバーがWTOのルールを放棄した上で2ヵ国間貿易を語ろうとするのならば、それはグローバル経済を“ゼロサム”的な危険な境地に陥れるであろう」
と指摘する。
この部分には、昨今、“内向き”志向が比較的顕著なトランプ政権の経済貿易政策に対する警戒心がにじみ出ているという以外に、中国として米国との貿易摩擦や経済交渉においてWTOというプラットフォームを最大限に活用したいこと、2ヵ国間のゼロサム的な“貿易戦争”を避けたいと思っている心境が窺える。
■中国と米国
それぞれのアドバンテージ
第一部の最終部分は米中経済貿易関係とは各自のアドバンテージを相互に生かした関係であることを主張している。
中国側のアドバンテージとして、
「世界の25%以上を占める製造業の比重」、
「500品目ほどある主要工業商品の中で、中国は220以上におよぶ品目の生産量で世界一」
「世界最大規模、かつ総合的に素質が高く、比較的安価な労働力」(2015年、15?64歳の労働人口は10.03億人で、この数字は欧米先進国の労働総人口7.3億人を超える;また米国の総合賃金は中国の約7?10倍などと指摘)、
「インフラ建設の後発的優勢」
等を挙げている。
「中国のサプライチェーンとパッケージングのアドバンテージが明らかである」というケースとして、
深セン地区が世界最大のコスト競争力と最大規模の電子産業サプライチェーンを擁していること、
米アップル社の携帯電話・パソコン商品が全世界で持つ700以上のサプライヤーのうち、半分近くが中国にあること
を挙げている。
米国側のアドバンテージとしては、その科学技術と研究開発能力を挙げる。
「米国の一部生産要素は比較的安価であり、電力、土地、物流、原材料、融資、税収などの分野において米国はコスト的アドバンテージを持つ」
と指摘するのは興味深い。
例として、
「米国の土地平均価格は中国の二級・三級都市相当」、
「米国の工業用電力価格は中国の半分、
ガソリン価格は中国の3分の2。
総合物流のそれは中国の半分でしかない」
などを挙げている。
中国企業はこれから米国を“世界の市場”としてだけではなく、“世界の工場”的な視点から眺め、本格的に戦略を練っていくに違いない。
中国政府は、自国企業が米国に工場を作り、米国民を雇い、米国に税金を納めることを後押しすることを通じて、“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領に恩を売ろうとするに違いない。
「サービス業が米国経済に占める割合」も米国側のアドバンテージとして挙げている。
2016年、サービス業が米国GDPに占める割合は79.5%(同期中国は50.7%)であること、2016年、米国のサービス貿易は2494億ドルの輸出超過であり、同期、中国のそれは2409億ドルの輸入超過である点も挙げた。
“中国の対米貿易大幅黒字”に注目が集まり、トランプ大統領もそれに留意した貿易政策を取ろうとしている中、米中間貿易は一枚岩ではなく、“中国側にも損をしている部分はある”と言いたいのだろう。
以上を基に、報告書は「中米両国が経済貿易協力を展開することは、グローバリゼーションという背景の下、国際産業の適材適所、資源配置の最適化を図った上での必然的結果である」と主張する。
■“違い”をクローズアップさせつつも
ポジティブ感で統一
報告書はここから
第二部「中米経済貿易関係が互恵的でウィンウィンであるという本質」、
第三部「双方が重点的に関心を持つ経済貿易分野」、
第四部「中米経済貿易協力の発展を不断に推進する」
と続くが、“違い”をクローズアップさせつつもポジティブ感で統一されたこのような報告書を中英2ヵ国語で同時公表すること自体、
習近平国家主席率いる中国共産党指導部が、米国との関係を安定化させることに巨大な政治的需要を見出している現状を物語っているように、私には思えるのである。
最後に、言葉遊びなどでは決してなく、中国政治・経済社会の切実な思いを理解する上で、情報量に溢れているように私には聴こえる第一部のクロージングワードを引用しつつ、本稿を終えることにしたい。
「中米経済貿易関係の発展はポテンシャルで満ちている。
中国経済の転換は、米国を含めた世界各国にこれまでよりも広大な市場、これまでよりも豊富な資本、これまでよりも充実した商品、これまでよりも貴重なビジネスチャンスを提供するだろう。
そして、中国企業は米国の大規模なインフラ建設と製造業の復興に参入したいと思っている。
中米経済貿易関係は中米間における経済社会の発展だけでなく、グローバル経済・投資など各方面に影響を与えずにはおかない。
マクロ経済をめぐる政策協調、世界金融システムの安定、エネルギー資源、気候変動、グローバルバリューチェーン、eコマース、サイバーセキュリティ、流行性疫病といった世界経済の行方を左右する重大な問題を解決するためには、中米両国の協調と連携的対応が益々必要になってくるはずだ」
』
『
Record china配信日時:2017年6月29日(木) 6時10分
http://www.recordchina.co.jp/b161640-s0-c10.html
トランプ米大統領、対中政策で挫折感募らせる
=蜜月は早晩に終わる?―米メディア
2017年6月27日、米華字ニュースサイト多維新聞によると、米政府の複数の高官はこのほど、トランプ米大統領が対中政策で大きな挫折感を感じていることを明らかにした。
北朝鮮問題はこう着状態が続き、中国の努力も効果が見えない。
トランプ大統領の挫折感は募っている。
貿易問題で中国に対する忍耐強い態度にも変化が出始めている。
ロイター通信によると、米政府高官3人がこのほど、中国が北朝鮮問題で大きな動きを見せないこと、米中貿易をめぐる話し合いがかみ合わないことに、トランプ大統領は日に日に大きな挫折感を感じている。
中国に対し、貿易制裁措置をとることも検討しているという。
米紙ニューヨーク・タイムズは最近、習近平(シー・ジンピン)国家主席とトランプ大統領の「蜜月は早晩に終わる」と予測。
トランプ大統領は貿易、通貨、南シナ海問題などを棚上げし、北朝鮮問題で中国に協力をあおいだ。
しかし、中国の北朝鮮に対する圧力は不十分で、効果は限られており、米国はさらなる圧力のため強硬姿勢を取る可能性がある。
韓国の延世大学の中国・朝鮮半島問題専門家のジョン・デルリー氏は、トランプ大統領が
「北朝鮮問題で中国を助ける必要はないとの姿勢を示した後、貿易問題の協議に着手する可能性がある」
と予測している。
』
2017年6月17日土曜日
北朝鮮ミサイル 次から次へ(6):「米軍は北朝鮮を攻撃しない」 ソウルにおけるメガシティ戦闘で泥沼化の恐れ
_
『
JB Press 2017.6.16(金) 部谷 直亮
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50274
米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」
ソウルにおけるメガシティ戦闘で泥沼化の恐れ
今年の春、米軍の北朝鮮への先制攻撃の可能性を報じたメディアやジャーナリストは今やすっかり口を閉ざしてしまった。
中にはいまだにそうした見解を述べる論者も散見されるが、現実的にはその可能性はきわめて薄い。
5月21日、米軍の準機関紙「military times」は、北朝鮮への先制攻撃はリスクが高く、トランプ政権は攻撃を考えていないとする記事を掲載した。記事の概要は以下のとおりである。
* * *
トランプ政権は、北朝鮮への軍事的選択肢はないと考えている。
確かに北朝鮮の現政権によるミサイル実験は頻繁さを増し、金正恩は米西海岸への核攻撃能力獲得に近づいている。
だが、米国の軍高官は、先制攻撃が大惨事を招き、最悪の場合、10万人の民間人を含む大量の死者を生み出すと懸念している。
まず、国境地帯の花崗岩の山岳地帯に秘匿された北朝鮮の砲兵部隊は、砲撃から数分で山中に秘匿できる。
また、韓国のソウルは非武装地帯から約56キロメートルにある人口2500万人の大都市である。
シンクタンクの分析では、170ミリ自走砲、240ミリおよび300ミリの多連装ロケットシステムがソウルを攻撃できる。
特に300ミリロケットがソウルに向けられた場合、都市火災が発生する。
数百万人の民間人がソウルから南下して鉄道・航空・道路における大混乱をもたらし、大規模な人道危機を引き起こす。
元航空戦闘軍団司令官のハーバート・カーライル元空軍大将は、
「米韓連合軍が北朝鮮を倒すのは間違いないが、
韓国の民間人犠牲者を減らすのに十分な迅速さで北朝鮮軍を機能停止に追い込めるかが最大の問題だ」
と警鐘を鳴らす。
専門家たちも、ひとたび通常戦争が始まれば戦いは数カ月以上続くとみている
米軍が特に懸念しているのが、ソウルの一角に北朝鮮軍が侵入する事態である。
北朝鮮軍は非武装地帯に多数掘削した秘密トンネルから1時間に2万人を侵入させることができる。
これは「恐るべきメガシティ戦闘」を引き起こす可能性がある。
カーライル元空軍大将は
「ソウルのどこかに北朝鮮軍が侵入すれば、航空戦力の優位性は相対化される。
メガシティ戦闘では航空戦力は極めて限定的な役割しか発揮できない」
と指摘する。
米海兵隊の活動も困難である。
第1の理由は、海兵隊は朝鮮戦争以来、大規模な強襲揚陸作戦を行っていないこと。
第2は、現在西太平洋に展開中の5~6隻の水陸両用艦艇では、上陸作戦に必要な1~1.7万人の戦力を運べないこと。
第3は、北朝鮮の沿岸防衛能力は1950年とは比較にならないほど向上し、何百マイル先の艦艇や舟艇を破壊できることだ。
しかも、開戦となれば、米軍の地上基地が打撃を受ける可能性があるため、利用可能なすべての米空母がこの地域に吸引されることになる。
陸空軍なども同様で、全世界における米軍の即応能力を低下させるリスクがある。
また、ヘリテージ財団研究員のトム・スポウラー元陸軍中将は
「戦争が始まると米陸軍は旅団戦闘団を新たに編成しなければならない。
だが、イラクにおける経験で言えば2年間は必要だ」
と指摘する。
* * *
■考えれば考えるほどリスクが高い先制攻撃
以上の記事から分かるのは、元軍人たちは我々が考える以上にリスクを重く見ているということだ。
元米軍人たちの指摘は、
(1):海兵隊の脆弱性に伴う上陸作戦の困難性、
(2):頑丈な花崗岩と複雑な地形を利用した砲兵陣地の強靭さと威力、
(3):メガシティ戦闘、
(4):戦力の枯渇、
に集約できる。
海兵隊の脆弱性は言うまでもないが、(2)(3)(4)については改めて説明が必要だろう。
まず(2)についてだが、地形・地質の有効な活用は沖縄戦における日本軍の粘り強さを振り返れば、その効果がよく分かる。
沖縄戦闘時の日本軍は、沖縄の硬い珊瑚岩と起伏の激しい地形を利用して砲兵陣地(いわゆる反斜面陣地)を形成して、航空・火砲の圧倒的な劣勢下でも米軍を苦しめた。
(3)の「メガシティ戦闘」は、2014年頃から米陸軍が強調している概念である。
米陸軍は、2030年には全世界人口の6割がメガシティ(人口1000万以上の大都市圏で、世界に27か所存在)に居住する時代になるとして、メガシティ戦闘に必要な将来の米陸軍の戦力構成やドクトリンの検討を続けている。
米陸軍は、メガシティでは民間人への配慮や戦力の分散が余儀なくされるため、作戦が極めて複雑になる他、敵戦力が建物や住民に紛れ込むことで航空戦力が活用できず、相手の情報も手に入らないため、大苦戦が予想されるとしている。
イラク戦争時のファルージャ攻防戦や近年のイスラム国との各都市における死闘を思えば、元軍人たちがソウルに北朝鮮軍の部隊が侵入すればやっかいなことになると考えるのも当然だろう。
(4)については、要するに北朝鮮問題以外にも米国の抱える脅威はたくさんあるということだ。
米国は既にイスラム国との戦い、アフガンでの戦い、テロとの戦い、サウジアラビアとイランの覇権争いに巻き込まれている。
米国としては、すでに炎上しているそちらの「戦線」にこそ、まず戦力を割く必要がある。
特にイスラム国打倒はトランプ政権の主要公約であり、これを成し遂げねば北朝鮮どころではない。
実際、トランプ政権のシリアへの肩入れはさらに深まっている。
6月13日、米軍はついに「南シリア」に初めて長距離砲兵部隊を展開させた。
しかも、国防総省のスポークスマンたるライアン・ディロン大佐は、記者たちに対して「これは親アサド勢力の脅威に備えるためである。今後もそのために米軍の現地におけるプレゼンスを拡大していく」と述べた。
親アサド勢力とは、イランが支援する武装勢力のことであり、これは単にシリアへの深入りだけではなく、イランの代理勢力と米軍の戦闘すら秒読みに入ったことを意味する。
要するに、米イラン関係の悪化の第一歩になりかねないということだ。
このように、考えれば考えるほど、北朝鮮への先制攻撃は軍事的リスクが高く、それは外交的・政治的リスクに直結しているのである。
もちろん、政治的に「詰み」に近づきつつあるトランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するといった可能性もあるが、その場合でも、現時点では中東でさらなる軍事行動の方がはるかに安易かつ安全なのは言うまでもない。
やはり、北朝鮮への先制攻撃の可能性は「現時点」では低いだろう。
』
『
フジテレビ系(FNN) 6/23(金) 19:35配信
https://www.blogger.com/blogger.g?blogID=834615176734946573#allposts/postNum=0
日米開発の迎撃ミサイル 試験失敗
日米の弾道ミサイル迎撃試験が失敗した。
アメリカのミサイル防衛局によると、日本とアメリカは21日、共同開発している海上配備型迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」による迎撃試験をハワイ沖で行ったが、失敗した。
試験は、イージス艦からミサイルを発射し、上空を飛ぶ標的を撃ち落とすというもので、2017年2月に行った試験では成功していた。
一方、北朝鮮は21日、弾道ミサイルのエンジン燃焼実験を行った。
アメリカのメディアが22日に伝えたもので、このエンジンの技術は、将来、ICBM(大陸間弾道ミサイル)に使われる可能性があるという。
北朝鮮は、2017年3月にも高出力ロケットエンジンの燃焼実験を行っていて、アメリカなどが警戒を強めている。
』
『
JB Press 2017.6.16(金) 部谷 直亮
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50274
米軍準機関紙が断言「米軍は北朝鮮を攻撃しない」
ソウルにおけるメガシティ戦闘で泥沼化の恐れ
今年の春、米軍の北朝鮮への先制攻撃の可能性を報じたメディアやジャーナリストは今やすっかり口を閉ざしてしまった。
中にはいまだにそうした見解を述べる論者も散見されるが、現実的にはその可能性はきわめて薄い。
5月21日、米軍の準機関紙「military times」は、北朝鮮への先制攻撃はリスクが高く、トランプ政権は攻撃を考えていないとする記事を掲載した。記事の概要は以下のとおりである。
* * *
トランプ政権は、北朝鮮への軍事的選択肢はないと考えている。
確かに北朝鮮の現政権によるミサイル実験は頻繁さを増し、金正恩は米西海岸への核攻撃能力獲得に近づいている。
だが、米国の軍高官は、先制攻撃が大惨事を招き、最悪の場合、10万人の民間人を含む大量の死者を生み出すと懸念している。
まず、国境地帯の花崗岩の山岳地帯に秘匿された北朝鮮の砲兵部隊は、砲撃から数分で山中に秘匿できる。
また、韓国のソウルは非武装地帯から約56キロメートルにある人口2500万人の大都市である。
シンクタンクの分析では、170ミリ自走砲、240ミリおよび300ミリの多連装ロケットシステムがソウルを攻撃できる。
特に300ミリロケットがソウルに向けられた場合、都市火災が発生する。
数百万人の民間人がソウルから南下して鉄道・航空・道路における大混乱をもたらし、大規模な人道危機を引き起こす。
元航空戦闘軍団司令官のハーバート・カーライル元空軍大将は、
「米韓連合軍が北朝鮮を倒すのは間違いないが、
韓国の民間人犠牲者を減らすのに十分な迅速さで北朝鮮軍を機能停止に追い込めるかが最大の問題だ」
と警鐘を鳴らす。
専門家たちも、ひとたび通常戦争が始まれば戦いは数カ月以上続くとみている
米軍が特に懸念しているのが、ソウルの一角に北朝鮮軍が侵入する事態である。
北朝鮮軍は非武装地帯に多数掘削した秘密トンネルから1時間に2万人を侵入させることができる。
これは「恐るべきメガシティ戦闘」を引き起こす可能性がある。
カーライル元空軍大将は
「ソウルのどこかに北朝鮮軍が侵入すれば、航空戦力の優位性は相対化される。
メガシティ戦闘では航空戦力は極めて限定的な役割しか発揮できない」
と指摘する。
米海兵隊の活動も困難である。
第1の理由は、海兵隊は朝鮮戦争以来、大規模な強襲揚陸作戦を行っていないこと。
第2は、現在西太平洋に展開中の5~6隻の水陸両用艦艇では、上陸作戦に必要な1~1.7万人の戦力を運べないこと。
第3は、北朝鮮の沿岸防衛能力は1950年とは比較にならないほど向上し、何百マイル先の艦艇や舟艇を破壊できることだ。
しかも、開戦となれば、米軍の地上基地が打撃を受ける可能性があるため、利用可能なすべての米空母がこの地域に吸引されることになる。
陸空軍なども同様で、全世界における米軍の即応能力を低下させるリスクがある。
また、ヘリテージ財団研究員のトム・スポウラー元陸軍中将は
「戦争が始まると米陸軍は旅団戦闘団を新たに編成しなければならない。
だが、イラクにおける経験で言えば2年間は必要だ」
と指摘する。
* * *
■考えれば考えるほどリスクが高い先制攻撃
以上の記事から分かるのは、元軍人たちは我々が考える以上にリスクを重く見ているということだ。
元米軍人たちの指摘は、
(1):海兵隊の脆弱性に伴う上陸作戦の困難性、
(2):頑丈な花崗岩と複雑な地形を利用した砲兵陣地の強靭さと威力、
(3):メガシティ戦闘、
(4):戦力の枯渇、
に集約できる。
海兵隊の脆弱性は言うまでもないが、(2)(3)(4)については改めて説明が必要だろう。
まず(2)についてだが、地形・地質の有効な活用は沖縄戦における日本軍の粘り強さを振り返れば、その効果がよく分かる。
沖縄戦闘時の日本軍は、沖縄の硬い珊瑚岩と起伏の激しい地形を利用して砲兵陣地(いわゆる反斜面陣地)を形成して、航空・火砲の圧倒的な劣勢下でも米軍を苦しめた。
(3)の「メガシティ戦闘」は、2014年頃から米陸軍が強調している概念である。
米陸軍は、2030年には全世界人口の6割がメガシティ(人口1000万以上の大都市圏で、世界に27か所存在)に居住する時代になるとして、メガシティ戦闘に必要な将来の米陸軍の戦力構成やドクトリンの検討を続けている。
米陸軍は、メガシティでは民間人への配慮や戦力の分散が余儀なくされるため、作戦が極めて複雑になる他、敵戦力が建物や住民に紛れ込むことで航空戦力が活用できず、相手の情報も手に入らないため、大苦戦が予想されるとしている。
イラク戦争時のファルージャ攻防戦や近年のイスラム国との各都市における死闘を思えば、元軍人たちがソウルに北朝鮮軍の部隊が侵入すればやっかいなことになると考えるのも当然だろう。
(4)については、要するに北朝鮮問題以外にも米国の抱える脅威はたくさんあるということだ。
米国は既にイスラム国との戦い、アフガンでの戦い、テロとの戦い、サウジアラビアとイランの覇権争いに巻き込まれている。
米国としては、すでに炎上しているそちらの「戦線」にこそ、まず戦力を割く必要がある。
特にイスラム国打倒はトランプ政権の主要公約であり、これを成し遂げねば北朝鮮どころではない。
実際、トランプ政権のシリアへの肩入れはさらに深まっている。
6月13日、米軍はついに「南シリア」に初めて長距離砲兵部隊を展開させた。
しかも、国防総省のスポークスマンたるライアン・ディロン大佐は、記者たちに対して「これは親アサド勢力の脅威に備えるためである。今後もそのために米軍の現地におけるプレゼンスを拡大していく」と述べた。
親アサド勢力とは、イランが支援する武装勢力のことであり、これは単にシリアへの深入りだけではなく、イランの代理勢力と米軍の戦闘すら秒読みに入ったことを意味する。
要するに、米イラン関係の悪化の第一歩になりかねないということだ。
このように、考えれば考えるほど、北朝鮮への先制攻撃は軍事的リスクが高く、それは外交的・政治的リスクに直結しているのである。
もちろん、政治的に「詰み」に近づきつつあるトランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するといった可能性もあるが、その場合でも、現時点では中東でさらなる軍事行動の方がはるかに安易かつ安全なのは言うまでもない。
やはり、北朝鮮への先制攻撃の可能性は「現時点」では低いだろう。
』
『
フジテレビ系(FNN) 6/23(金) 19:35配信
https://www.blogger.com/blogger.g?blogID=834615176734946573#allposts/postNum=0
日米開発の迎撃ミサイル 試験失敗
日米の弾道ミサイル迎撃試験が失敗した。
アメリカのミサイル防衛局によると、日本とアメリカは21日、共同開発している海上配備型迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」による迎撃試験をハワイ沖で行ったが、失敗した。
試験は、イージス艦からミサイルを発射し、上空を飛ぶ標的を撃ち落とすというもので、2017年2月に行った試験では成功していた。
一方、北朝鮮は21日、弾道ミサイルのエンジン燃焼実験を行った。
アメリカのメディアが22日に伝えたもので、このエンジンの技術は、将来、ICBM(大陸間弾道ミサイル)に使われる可能性があるという。
北朝鮮は、2017年3月にも高出力ロケットエンジンの燃焼実験を行っていて、アメリカなどが警戒を強めている。
』
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2017年6月15日木曜日
中国とインドと二大文明の衝突 地政学とイデオロギーがからむ新興大国の争い
_
『
2017.6.15(木) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年6月6日付)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50267
中国とインドと二大文明の衝突
地政学とイデオロギーがからむ新興大国の争い

●インド・ニューデリーの渋滞する道路(2016年8月1日撮影)。(c)AFP/Prakash SINGH 〔AFPBB News〕
中国はこの10年間、数々の指標で1位の座を獲得してきた。
世界最大の製造業大国になり、
世界最大の輸出国になり、
世界最大の外貨準備と
世界最大の自動車市場を持つ
に至った。
2014年には国際通貨基金(IMF)が、購買力平価ベースで見るなら経済規模が世界最大の国は中国だという報告まで行った。
だが、中国が失ってしまったかもしれない「世界最大」の称号が1つある。
新しい人口統計調査によれば、世界最大の人口を擁する国は中国ではなく、インドかもしれない。
非公式な推計ながら中国の人口はこれまで言われていたよりも少ない13億人弱で、インドの人口は13億3000万人だというのだ。
インドでは、過去30年間における世界最大の話題は中国の台頭だったが、今後30年間はインドが輝く時代になるとの認識が強まっており、このニュースはその傾向に拍車をかけることになるかもしれない。
確かに、長期の経済成長の観点から見るなら、人口トレンドは中国よりもインドの方が好ましく見える。
インドの人口は中国を上回った可能性があり、今後はインドの方が成長率も高くなるかもしれないというだけではない。
それ以上に重要なのは、
インドの人口が中国のそれよりも大幅に若いこと、
つまり生産年齢人口が中国より多くなる一方で、支える必要がある高齢者は中国よりも少なくなるということだ。
近年の日本が示しているように、人口の減少と高齢化は経済成長を力強く押し下げる方向に作用する。
このような人口動態による力は、経済成長率に影響している可能性がある。
インドはこれまでなかなか成長できず、「ヒンズー成長率」などと揶揄されても我慢しなければならない時代が長かったが、今日では中国を上回るペースで伸びている。
今年の経済成長率は7%を超えると見込まれており、中国の公式予想である6.5%より高くなっている。
しかし、インドは中国に追いつき追い越す態勢が整っているとの見方には、厳しい留保条件もいくつか付いている。
★.第1に、中国経済はすでに実質ベースでインド経済の5倍の規模を誇る。
従って、現在はインドが中国をわずかに上回るペースで成長しているとしても、両国の経済規模の差は縮まるどころか拡大していることになる。
★.第2に、人口動態の面ではインドが有利ではあるものの、ほかの重要な点では中国の方が優位にある。
インドでは、読み書きのできない人が国民の30%を占める一方、中国ではこの割合が5%を下回る。
道路や鉄道、基本的な公衆衛生に反映されているように、インフラでも中国はインドを凌駕している。
実際、インドでは国民の半分がまだ基本的なトイレを利用できずにいる。
こうした比較はただのクイズのように見えるかもしれないが、実は非常に重要だ。
中国とインドは21世紀に台頭してきた超大国だからだ。
両国は目立たないところで地政学やイデオロギーのからんだ戦いをすでに始めている。
アジア中のインフラを接続するという中国の野心的な計画に対し、インドは警戒心を示している。
中国の勢力圏が作られてインドを取り囲んでしまうのではないか、と恐れているのだ。
中国が先月、ユーラシア大陸中のインフラの接続に巨額の資金を投じる計画を促進するために北京で「一帯一路」のフォーラムを開催した際、100を超える国々が正式な代表団を派遣したが、インドは見送った。
インドは、中国はかつての朝貢制度を復活させようとしている、
「すべての道は北京に通ず」式の経済システムにアジア諸国をからめ取ろうとしている、と恐れている。
これらのインフラ開発には、戦略的な意味や経済的な意味も隠されている。
中国の海軍が急拡大を遂げているときに、スリランカやパキスタンで中国の資金援助によって建設された港にインド政府は特別な疑念を抱く。
パキスタンと中国のつながりが深まれば、パキスタンと4度の戦争を戦ったことがあるインドは心中穏やかではいられない。
また、中国とインドの間にも、1962年の戦争に端を発する未解決の国境紛争案件がある。
インドのアルナチャル・プラデシュ州には中国も領有権を主張しており、その圧力が強まることをインドは懸念をしている。
中国とインドはともに軍事予算を急増させている。
中国は2隻目の空母を先日完成させ、現在は3隻目の建造に取り組んでいる。
片やインドは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の武器輸入国となり、米国や日本――どちらも中国に戦略的な敵国と見なされている――との軍事演習のレベルを段階的に引き上げている。
英王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)のシャシャンク・ジョシ氏によれば、戦略的な緊張が高まる中、中印関係は「十数年ぶりの悪い状態」にある。
中国は、目の敵にしているチベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世がインドを拠点にし続けていることに不満を持っている。
従って、インドと中国のライバル関係には思想がらみの側面もあることになる。
中国側のアナリストは、中国の開発モデルの成功とインドの「カオスのような」民主主義による低成長を比較して論じることが多い。
するとインド側は、インドの民主的なシステムの方が中国の一党独裁よりも安定していることがいずれ証明されるだろうと反論したがる。
この論争には、道徳にかかわる側面もある。
インド側は言論の自由と司法の独立があることを誇りにしている。
片や中国側は、中国の普通の市民は平均的なインド国民よりも快適で品のある暮らしをしていると主張しているのだ。
こうした論争は、中国とインドが大国としてライバル関係にあるというだけでなく、政治制度やイデオロギーのライバルであり、文明のライバルでもあるという事実を反映している。
西側の政治アナリストは、米国の中国の間で始まった権力闘争のことで頭がいっぱいだ。
だが、経済と政治のパワーがアジアにシフトしていく中、21世紀を最終的に形作るのは中国とインドの争いなのかもしれない。
By Gideon Rachman
© The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web
』
『
2017.6.15(木) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年6月6日付)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50267
中国とインドと二大文明の衝突
地政学とイデオロギーがからむ新興大国の争い

●インド・ニューデリーの渋滞する道路(2016年8月1日撮影)。(c)AFP/Prakash SINGH 〔AFPBB News〕
中国はこの10年間、数々の指標で1位の座を獲得してきた。
世界最大の製造業大国になり、
世界最大の輸出国になり、
世界最大の外貨準備と
世界最大の自動車市場を持つ
に至った。
2014年には国際通貨基金(IMF)が、購買力平価ベースで見るなら経済規模が世界最大の国は中国だという報告まで行った。
だが、中国が失ってしまったかもしれない「世界最大」の称号が1つある。
新しい人口統計調査によれば、世界最大の人口を擁する国は中国ではなく、インドかもしれない。
非公式な推計ながら中国の人口はこれまで言われていたよりも少ない13億人弱で、インドの人口は13億3000万人だというのだ。
インドでは、過去30年間における世界最大の話題は中国の台頭だったが、今後30年間はインドが輝く時代になるとの認識が強まっており、このニュースはその傾向に拍車をかけることになるかもしれない。
確かに、長期の経済成長の観点から見るなら、人口トレンドは中国よりもインドの方が好ましく見える。
インドの人口は中国を上回った可能性があり、今後はインドの方が成長率も高くなるかもしれないというだけではない。
それ以上に重要なのは、
インドの人口が中国のそれよりも大幅に若いこと、
つまり生産年齢人口が中国より多くなる一方で、支える必要がある高齢者は中国よりも少なくなるということだ。
近年の日本が示しているように、人口の減少と高齢化は経済成長を力強く押し下げる方向に作用する。
このような人口動態による力は、経済成長率に影響している可能性がある。
インドはこれまでなかなか成長できず、「ヒンズー成長率」などと揶揄されても我慢しなければならない時代が長かったが、今日では中国を上回るペースで伸びている。
今年の経済成長率は7%を超えると見込まれており、中国の公式予想である6.5%より高くなっている。
しかし、インドは中国に追いつき追い越す態勢が整っているとの見方には、厳しい留保条件もいくつか付いている。
★.第1に、中国経済はすでに実質ベースでインド経済の5倍の規模を誇る。
従って、現在はインドが中国をわずかに上回るペースで成長しているとしても、両国の経済規模の差は縮まるどころか拡大していることになる。
★.第2に、人口動態の面ではインドが有利ではあるものの、ほかの重要な点では中国の方が優位にある。
インドでは、読み書きのできない人が国民の30%を占める一方、中国ではこの割合が5%を下回る。
道路や鉄道、基本的な公衆衛生に反映されているように、インフラでも中国はインドを凌駕している。
実際、インドでは国民の半分がまだ基本的なトイレを利用できずにいる。
こうした比較はただのクイズのように見えるかもしれないが、実は非常に重要だ。
中国とインドは21世紀に台頭してきた超大国だからだ。
両国は目立たないところで地政学やイデオロギーのからんだ戦いをすでに始めている。
アジア中のインフラを接続するという中国の野心的な計画に対し、インドは警戒心を示している。
中国の勢力圏が作られてインドを取り囲んでしまうのではないか、と恐れているのだ。
中国が先月、ユーラシア大陸中のインフラの接続に巨額の資金を投じる計画を促進するために北京で「一帯一路」のフォーラムを開催した際、100を超える国々が正式な代表団を派遣したが、インドは見送った。
インドは、中国はかつての朝貢制度を復活させようとしている、
「すべての道は北京に通ず」式の経済システムにアジア諸国をからめ取ろうとしている、と恐れている。
これらのインフラ開発には、戦略的な意味や経済的な意味も隠されている。
中国の海軍が急拡大を遂げているときに、スリランカやパキスタンで中国の資金援助によって建設された港にインド政府は特別な疑念を抱く。
パキスタンと中国のつながりが深まれば、パキスタンと4度の戦争を戦ったことがあるインドは心中穏やかではいられない。
また、中国とインドの間にも、1962年の戦争に端を発する未解決の国境紛争案件がある。
インドのアルナチャル・プラデシュ州には中国も領有権を主張しており、その圧力が強まることをインドは懸念をしている。
中国とインドはともに軍事予算を急増させている。
中国は2隻目の空母を先日完成させ、現在は3隻目の建造に取り組んでいる。
片やインドは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の武器輸入国となり、米国や日本――どちらも中国に戦略的な敵国と見なされている――との軍事演習のレベルを段階的に引き上げている。
英王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)のシャシャンク・ジョシ氏によれば、戦略的な緊張が高まる中、中印関係は「十数年ぶりの悪い状態」にある。
中国は、目の敵にしているチベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世がインドを拠点にし続けていることに不満を持っている。
従って、インドと中国のライバル関係には思想がらみの側面もあることになる。
中国側のアナリストは、中国の開発モデルの成功とインドの「カオスのような」民主主義による低成長を比較して論じることが多い。
するとインド側は、インドの民主的なシステムの方が中国の一党独裁よりも安定していることがいずれ証明されるだろうと反論したがる。
この論争には、道徳にかかわる側面もある。
インド側は言論の自由と司法の独立があることを誇りにしている。
片や中国側は、中国の普通の市民は平均的なインド国民よりも快適で品のある暮らしをしていると主張しているのだ。
こうした論争は、中国とインドが大国としてライバル関係にあるというだけでなく、政治制度やイデオロギーのライバルであり、文明のライバルでもあるという事実を反映している。
西側の政治アナリストは、米国の中国の間で始まった権力闘争のことで頭がいっぱいだ。
だが、経済と政治のパワーがアジアにシフトしていく中、21世紀を最終的に形作るのは中国とインドの争いなのかもしれない。
By Gideon Rachman
© The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. Please do not cut and
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』
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共謀罪:テロ等準備罪新設へ 論点整理Q&A
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『
毎日新聞2017年6月15日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20170615/ddm/010/010/013000c
共謀罪:テロ等準備罪新設へ 論点整理Q&A
■刑事法、大きく変容
「共謀罪」の成立要件を改めたテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が成立することで、日本の刑事法のかたちが大きく変わる可能性がある。
改めて法律の内容と論点を紹介する。
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案について政府は「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要と主張する。
Q 条約の内容は。
A 国境を越える薬物や銃器の不正取引などに対処するため、締結国に重大犯罪の合意(共謀)やマネーロンダリング(資金洗浄)を犯罪化するよう義務付けています。
2000年に国連総会で採択され、日本の国会では03年、民主党(当時)や共産党も賛成して条約が承認されましたが、現在も締結されていません。
Q 各国の締結状況は。
A 187の国・地域が締結済みで、まだなのは日本やイランなど11カ国です。政府は20年東京五輪・パラリンピックを控えたテロ対策を前面に出し、締結の必要性を訴えています。
Q テロ対策が条約の目的か。
A 民進、共産両党は、マフィアなどによる経済的利益を得るための犯罪を防ぐのが目的で、政府は国民に誤った印象を与えていると批判しています。
政府は条約の起草段階からテロと関連付けて議論されてきたと反論しました。
Q 共謀罪がないと締結できないか。
A 条約は共謀罪か組織犯罪集団への「参加罪」のうち、少なくとも一方を犯罪化するよう求めています。
政府は特定の犯罪と結び付かない行為を処罰する参加罪は法制度になじまないと判断する一方、現在でも一部の犯罪には似たような規定があるため、共謀罪を選択しました。
民進党などは、必要な犯罪ごとに実行着手前の行為(凶器の準備など)を罰する「予備罪」の規定を設ければ締結できると主張。
政府はそれでは合意を犯罪化したことにならないため「条約の義務を履行できない」としています。
Q 他国の対応は。
A 経済協力開発機構(OECD)に加盟する35カ国のうち、
共謀罪や参加罪を新たに作ったのはノルウェー、オーストリア、カナダ、ニュージーランドの4カ国です。
日本を除く他の30カ国は既に国内法で両方またはいずれかの罪が規定されていたので、新たな法整備はしていません。
Q 条約にメリットは?
A 個別に条約を結んでいない国と外交ルートを通さずに捜査協力ができるようになります。
犯罪人引き渡しについても実効性が高まると期待されています。
■対象犯罪は277
Q 対象犯罪は、当初の政府案から半分以下に絞られた。
何を基に決めたのか。
A 政府が締結を目指す国際組織犯罪防止条約は、4年以上の懲役・禁錮を定めた「重大犯罪」の合意(共謀)を犯罪とするよう求めています。
政府は日本の法律に当てはめて当初676としていましたが、今国会に提出された法案では過失犯などが除かれ、277に削減しました。
Q なぜ。
A 公明党から「対象が広すぎる」と指摘されたためです。
Q 政府は過去に対象犯罪は削減できないと主張していた。
A 条約の規定を理由に「犯罪の内容に応じて選別できない」とした答弁書を05年に閣議決定しています。
しかし、過去の法案が「団体」としていた適用対象を今回の法案は「組織的犯罪集団」に変更しました。
その結果、そうした集団が計画することが現実的に想定される犯罪に限定することができたというのが政府の論理です。
Q 残ったのはどのような犯罪か。
A 政府は
(1)現住建造物等放火といった直接テロの手段になり得る犯罪
(2)薬物関連
(3)人身に関する搾取(児童買春あっせんなど)
(4)その他資金源(組織的詐欺など)
(5)司法妨害
--の五つに分類しています。
Q 公職選挙法や政治資金規正法は対象外になっている。
A 政府は「組織的犯罪集団が関与することは現実的に想定しがたい」としていますが、野党は「マフィアなどが政治家らと深く結び付いて経済的利益を得るのは常識だ」と指摘しました。
■「通信傍受」を懸念
Q 「テロ等準備罪」が新設されれば、捜査権限は大幅に拡大される。
警察や検察の受け止めは。
A 適用要件が厳しいとして、暴力団捜査などに限って有効との見方がある一方、摘発できなかった犯罪捜査に活用できるとの声も出ています。
Q 捜査はどの段階で始まるのか。
A 構成要件の一つである犯罪実行の「準備行為」がないと、逮捕や家宅捜索などの強制捜査はできないと政府は説明しています。
一方、裁判所の令状が必要ない任意捜査は必要性や手段の相当性が認められる範囲で、準備行為より前の段階で実施できるとしています。
ただ、任意であっても具体的な容疑がないのに捜査することは許されないとも答弁しています。
Q 任意捜査とは。
A 民進党は国会質問で、クレジットカードや出入国、銀行口座の履歴照会などを例として挙げました。
警察庁幹部は任意捜査として「あり得る」と答えました。
Q 「一般人」は捜査の対象にならないと政府は強調しているが。
A 通常の社会生活を送っている人は組織的犯罪集団に関与することは考えられず、捜査の対象にはならないというのが政府の説明です。
民進党は関与しているかどうかは捜査してみないと分からないので、捜査対象になるのではと指摘しました。
Q 捜査は簡単ではなさそうだ。
A 合意(共謀)を立証する材料を集めるのは困難です。
そのため警察内部では、捜査で電話やメールを傍受できる対象に「共謀罪」を加える法改正に期待する声もあります。
Q 昨年12月に改正通信傍受法が施行され、対象犯罪が拡大されたばかりだ。
A 傍受にはプライバシー侵害との懸念が付きまとうため、政府は「テロ等準備罪」に伴って、新たな捜査手法を導入する予定はないと繰り返しています。
ただ、警察当局は、暴力団事務所などの犯罪拠点に機器を設置する「会話傍受」の導入も検討課題としています。
野党は捜査権限が大幅に強化され、監視社会につながると懸念を表明しています。
■計画段階で処罰
Q 成立で、多くの犯罪を計画段階で処罰することが可能になる。
適用対象は。
A 「組織的犯罪集団」と規定されています。
テロリズム集団が例示され、政府は暴力団や振り込め詐欺集団なども挙げています。
Q 何をすれば処罰されるか。
A 組織的犯罪集団の構成員らが2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が実行のための「準備行為」をしたとき、計画に合意した全員が処罰されます。
Q 同僚と酒を飲みながら「あいつを殴ってやろう」と話せば、計画したことになるか。
A 政府は「具体的かつ現実的」な計画であることが必要で、そうした行為は当たらないと説明しています。
Q 準備行為とは。
A 「資金または物品の手配」と「関係場所の下見」を例示。
犯行手順の訓練や標的の行動監視も含まれ、それ自体が危険な行為である必要はありません。
Q 日常生活の一場面なのか準備行為なのか区別できるか。
A 野党からは「判断するには内心に踏み込まざるを得ない」との指摘が出ています。
政府は「携帯品などの外形的な事情から区別され得る」と答弁しています。
Q 過去に3度廃案になった法案との違いは。
A 過去の法案は適用対象を「団体」とし、準備行為の要件もなかったため、一般市民が話し合っただけで処罰されるとの批判を受けました。
政府は、かつても解釈では組織的犯罪集団が適用対象だったが、今回は法律に明記し、対象がより明確になったと説明しています。
Q 拡大解釈の恐れは。
A 組織的犯罪集団と認定するには、メンバーが犯罪の実行を目的に結び付いている必要があります。
政府は裁判所のチェック機能もあり、一般の会社や市民団体、労働組合などは対象にならないとしています。
民進党などは、正当な団体でも捜査機関の恣意(しい)的な判断で組織的犯罪集団に認定され得るとしています。
Q 犯罪実行前に自首した場合は刑を減免する規定もある。
A 「密告を奨励する」との批判が出ました。
政府は
「犯罪の甚大な被害を防ぐために設けている。
国民の一般的な社会生活とは無関係」
と反論しました。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2017.6.20 上久保誠人:立命館大学地域情報研究所所長
http://diamond.jp/articles/-/132343
“共謀罪”を無修正で通した野党の国会対応は「0点」だ
「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、参議院本会議で採決され、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した。
2015年の「安保法制」の成立に続き(本連載2015.9.19付)、民進党・社民党・共産党などの野党は、法案の「廃案」を求めて、国会で徹底的に抗戦した。
また、国会の周辺では、反対を訴えている人たちが、「強行採決絶対反対」と抗議の意思を示していた。
しかし、「安保法制」に続いて、法案は事実上「無修正」で国会を通過してしまった。
本稿は、今国会における野党の対応を「0点」と厳しく批判せざるを得ない。
「テロ等準備罪」を新設する法案が、問題の多いものだということは言うまでもない。
277ある処罰対象の罪のうち、テロに関連するものは110しかない。
国民の大多数が、不安に思っているのは明らかだろう(2017.4.11付)。
しかし、それらは1つも削られることなく、無修正で国会通過し、法律として成立してしまったのだ。
この責任は、野党の側にある。
安倍政権は、国政選挙で4連勝し、衆参両院で圧倒的多数の議席を獲得している(2016.7.19付)。
政府提出の法案は、国会で可決するのが当然であり、また民主的な正当性もあるのだ。
野党が廃案を求めるのは、非現実的である。
野党は、法律の成立は仕方ないものとして、国民の不安をできる限り払拭するため、与党と協議に臨み、法案の修正を全力で求めていくべきではなかったか。
さらに言えば、法律の成立を前提として、その法律の運用を厳しくチェックするための「対案」を提示する「第3の道」があったのではないかと考える。
■フランス式でもイギリス流でも
テロは防ぎきれなかった
フランス、ベルギー、そして英国でテロが連続して起こっている現実が示すことは、この連載が紹介した、「テロ対策は英国流かフランス流か」(2017.5.23付)ということを論じる次元を超えてしまったということではないだろうか。
まず、「目に見える形での治安維持の強化」によってテロを抑止するという方法は無力だといえる。
自動小銃をもって武装した憲兵や警察を主要駅や街頭に立たせて警戒しても、それだけではテロは防げない。
それは、ISのテロの最大の攻撃目標となっているフランスを見れば明らかだ。
2015年1月に起きた風刺週刊誌シャルリー・エブド襲撃事件を契機にして、頻発するテロに対抗するため、既存の軍隊、警察組織に次ぐ新たな治安維持組織として「National Guard(国家警備隊)」を新設するなど、徹底的なテロ対策をとった。
しかし、2015年以降、238人がテロの犠牲者になっている。
要するに、自動小銃を持った警官を街に並べても、テロ組織が事前に集会を開き、同時多発テロを実行したら手も足も出ないのだ。
それでは、事前にテロを察知する体制を構築したらどうか。
英国内には約420万台の監視テレビ(CCTV)が設置されている。
ロンドン市民が普通に生活していると、1日に約300回監視テレビに捉えられる。
携帯電話やPC、ラジオ、電子切符「オイスター」などから得られる様々なデジタル情報を組み合わせて、特定の人物の所在を高精度に追跡できるデータベースも構築している。
犯罪人データベースには、約400万人分のDNAサンプルを所持している。
地方自治体、刑務所、保護観察、福祉部門の職員、学校や大学の教員、NHS(国家医療制度)の医師、看護士は、過激化の兆候を見つけたら当局に報告することが義務付けられており、情報機関と警察の間の情報交換も綿密に行われている。
英国はこのような「監視社会」を築いて、過去4年間で13件の大規模テロを未然に防ぎ、常に500件を調査対象としているという。
要注意リストには約3000人が掲載され、別の300人を監視下に置いている。
■テロを完全に防ぎたければもはや
「内心の自由」を制限するしかない
これだけの厳重な監視体制を築けば、フランスのような自動小銃を乱射する同時多発テロが起きることはない。
だが、それでもテロは起きてしまった。
ロンドンやマンチェスターのテロを起こした犯人については、自爆テロを賛美するなど「過激な言動」を繰り返していたという情報が、英情報局保安部(MI5)など治安当局に何度も提供されていたのだという。
しかし、いくら過激な言動があったとしても、それだけで不審な人物を逮捕はできなかった。
その人物が仲間と集まって集会を開いたりする「組織的な動き」を見せることがなく、銃器などの武器を購入したりすることもなければ、警察は動きようがないのだ。
そして、自宅元々あるナイフをもって暴れたり、自家用車に乗って、突如群衆の中に突っ込んだり、自宅で作った手動爆弾で自爆したりされると、対応のしようがなかったのである。
要するに、欧州の事例が明らかにすることは、
★.テロを完全に防ぎたければ、
過激な言動があったと警察に通報があった時点で、即座に拘束・取り調べができるようにするしかない
ということだ。
つまり、「内心の自由」という人権を制限するしか、テロを防げないということなのだ。
実際、英国のテリーザ・メイ首相は、「人権保護規定を修正してでも過激派の摘発を強化する」と表明した。
テロ対策と人権保護の関係は、あらためて考え直してみる時期にきているのだ。
■テロを完全に防ぎたい日本人には
「内心の自由の制限」論議が必要だった
日本の国会で「テロ等準備罪」を審議する際、本当に重要だったのは、この「欧州の現実」を直視することだったのではないだろうか。
現在のところ、日本は国際テロリストの関心の対象にはなっていないかもしれない。
また、テロが起きるとすれば、それは安倍晋三首相の「好戦的」な態度のせいであり、首相が退陣すれば、日本は元の「平和国家」に戻り、テロは起きないという主張もあるかもしれない。
しかし、これらはなにも根拠がない、ただの希望的観測に基づいた考えに過ぎない。
今後、日本はラグビーW杯、東京五輪、そして万博の誘致など、国際的大イベントが次々と控えている。
「カネが切れれば、またカネがいる」のバラマキを繰り返すアベノミクスをずっと続けるならば、国際イベントを次々と獲得し続けなければならなくなる。
そして、国際イベントが続けば、テロリストに日本が関心を持たれるようになり、テロの標的になるかもしれない。
少なくとも、テロの標的となっている国の人たちが、多く日本にやってくることになる。
今後、日本がテロと無縁だと、なにを根拠に言えるだろうか。
このような状況で、日本人の大多数が、完全なテロ対策を求めているのはいうまでもないだろう。
例えば、フランス人のような、人権意識、民主主義についての意識が高い人たちならば、「内心の自由」を死守するために、結果としてテロが起きても、潔く受け止めるのかもしれない。
なにせテロが起きた直後に、メディアがテロの原因となった「風刺画」を堂々と掲載し、果ては風刺画のコンテストまでやってしまうような国だ。
しかし、日本人の感覚はフランス人とは違う。
日本人は「テロは2万%防いでほしい」と願っているといっても、決して大げさではない。
「民主主義という価値を守るために、テロが防げなくても受け入れる」というのは、リベラル系の「プロ市民」のような人を除いては、日本にはいない。
多くの日本人は「お上意識」が強い。
「民主主義」か「安全」か、どちらかを選べといわれたら、ためらいなく安全を選ぶ。
「お上」から徹底して独立した個人になるよりも、
「お上」に守ってもらいたいという意識が強い。
国民が完全なテロ対策を求めるならば、欧州の事例に倣えば、「内心の自由」という人権を制限してでも、テロを防ぐことに、踏み込まざるを得ないのかどうか、国会で真剣に検討する必要があったのではないだろうか。
■人権に踏み込むなら人権侵害を防ぐ
チェック・アンド・バランスが必要不可欠だ
権力が「内心の自由」という人権に踏み込むと、なし崩し的に人権侵害が拡大し、戦前の治安維持法のような悪夢が再び起こるという主張がある(2013.12.6付)。
しかし、それを防ぐ方策がとられている事例が世界にはある。
英国は「監視社会」が構築されているのだが、政府や警察が市民の人権を簡単に制限できるわけではない。
英国には、1998年制定の「データ保護法」で規定された「情報コミッショナーオフィス」という個人情報保護の監督機関と、2012年の「自由保護法」に基づいて設置された「監視カメラコミッショナー」という監視カメラの監督機関の、2つの監督機関がある、
いずれも、政府や警察、諜報機関が市民の人権を侵害することがないよう、政府から独立して監視する「第三者機関」である。
これらは、公共空間において犯罪と無関係な一般市民を常時撮影することに強く反対する市民団体の動きに、政府が対応して設置されたものである。
日本でも、人権侵害を防ぐために、「テロ等準備罪」の廃案をひたすら求め続けるのではなく、「第三者機関」の設置により人権を守るという提案が、野党側と市民運動からあってもよかったのではないかと思う。
本稿も、「テロ等準備罪」のようなものは、できればないほうがいいと考えている。
しかし前述の通り、テロの恐怖は日本に迫っていないと言い切ることはできない。
テロ対策は現行法を基に、現行の体制で十分という主張は、全く説得力がないと思う。
現代社会は、人権を守るために、権力が市民を監視するようなことを一切許さないというような、理想的な状況にはない。
人権侵害が起きる懸念があるような、厳しい安全対策を取り、一方で人権侵害を厳しく監視するというような、チェック・アンド・バランスをどう社会の中で機能させるかを考えることが重要ではないだろうか。
米国にドナルド・トランプ政権が誕生した時、大統領が公約通りにすべてを実行したらどんなことになるかと世界中が恐れた。
しかし実際は、米国の厳格な三権分立が効果を発揮し、大統領の公約は、議会や司法の高い壁に阻まれている(2017.1.24付)。
日本でも、ただひたすら理想論を訴えるだけではなく、どのように権力に実質的な歯止めをかけられるか、それにはどのような政治・行政の制度設計をするか、現実的に考える時にきているのではないだろうか。
』
『
毎日新聞2017年6月15日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20170615/ddm/010/010/013000c
共謀罪:テロ等準備罪新設へ 論点整理Q&A
■刑事法、大きく変容
「共謀罪」の成立要件を改めたテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が成立することで、日本の刑事法のかたちが大きく変わる可能性がある。
改めて法律の内容と論点を紹介する。
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案について政府は「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要と主張する。
Q 条約の内容は。
A 国境を越える薬物や銃器の不正取引などに対処するため、締結国に重大犯罪の合意(共謀)やマネーロンダリング(資金洗浄)を犯罪化するよう義務付けています。
2000年に国連総会で採択され、日本の国会では03年、民主党(当時)や共産党も賛成して条約が承認されましたが、現在も締結されていません。
Q 各国の締結状況は。
A 187の国・地域が締結済みで、まだなのは日本やイランなど11カ国です。政府は20年東京五輪・パラリンピックを控えたテロ対策を前面に出し、締結の必要性を訴えています。
Q テロ対策が条約の目的か。
A 民進、共産両党は、マフィアなどによる経済的利益を得るための犯罪を防ぐのが目的で、政府は国民に誤った印象を与えていると批判しています。
政府は条約の起草段階からテロと関連付けて議論されてきたと反論しました。
Q 共謀罪がないと締結できないか。
A 条約は共謀罪か組織犯罪集団への「参加罪」のうち、少なくとも一方を犯罪化するよう求めています。
政府は特定の犯罪と結び付かない行為を処罰する参加罪は法制度になじまないと判断する一方、現在でも一部の犯罪には似たような規定があるため、共謀罪を選択しました。
民進党などは、必要な犯罪ごとに実行着手前の行為(凶器の準備など)を罰する「予備罪」の規定を設ければ締結できると主張。
政府はそれでは合意を犯罪化したことにならないため「条約の義務を履行できない」としています。
Q 他国の対応は。
A 経済協力開発機構(OECD)に加盟する35カ国のうち、
共謀罪や参加罪を新たに作ったのはノルウェー、オーストリア、カナダ、ニュージーランドの4カ国です。
日本を除く他の30カ国は既に国内法で両方またはいずれかの罪が規定されていたので、新たな法整備はしていません。
Q 条約にメリットは?
A 個別に条約を結んでいない国と外交ルートを通さずに捜査協力ができるようになります。
犯罪人引き渡しについても実効性が高まると期待されています。
■対象犯罪は277
Q 対象犯罪は、当初の政府案から半分以下に絞られた。
何を基に決めたのか。
A 政府が締結を目指す国際組織犯罪防止条約は、4年以上の懲役・禁錮を定めた「重大犯罪」の合意(共謀)を犯罪とするよう求めています。
政府は日本の法律に当てはめて当初676としていましたが、今国会に提出された法案では過失犯などが除かれ、277に削減しました。
Q なぜ。
A 公明党から「対象が広すぎる」と指摘されたためです。
Q 政府は過去に対象犯罪は削減できないと主張していた。
A 条約の規定を理由に「犯罪の内容に応じて選別できない」とした答弁書を05年に閣議決定しています。
しかし、過去の法案が「団体」としていた適用対象を今回の法案は「組織的犯罪集団」に変更しました。
その結果、そうした集団が計画することが現実的に想定される犯罪に限定することができたというのが政府の論理です。
Q 残ったのはどのような犯罪か。
A 政府は
(1)現住建造物等放火といった直接テロの手段になり得る犯罪
(2)薬物関連
(3)人身に関する搾取(児童買春あっせんなど)
(4)その他資金源(組織的詐欺など)
(5)司法妨害
--の五つに分類しています。
Q 公職選挙法や政治資金規正法は対象外になっている。
A 政府は「組織的犯罪集団が関与することは現実的に想定しがたい」としていますが、野党は「マフィアなどが政治家らと深く結び付いて経済的利益を得るのは常識だ」と指摘しました。
■「通信傍受」を懸念
Q 「テロ等準備罪」が新設されれば、捜査権限は大幅に拡大される。
警察や検察の受け止めは。
A 適用要件が厳しいとして、暴力団捜査などに限って有効との見方がある一方、摘発できなかった犯罪捜査に活用できるとの声も出ています。
Q 捜査はどの段階で始まるのか。
A 構成要件の一つである犯罪実行の「準備行為」がないと、逮捕や家宅捜索などの強制捜査はできないと政府は説明しています。
一方、裁判所の令状が必要ない任意捜査は必要性や手段の相当性が認められる範囲で、準備行為より前の段階で実施できるとしています。
ただ、任意であっても具体的な容疑がないのに捜査することは許されないとも答弁しています。
Q 任意捜査とは。
A 民進党は国会質問で、クレジットカードや出入国、銀行口座の履歴照会などを例として挙げました。
警察庁幹部は任意捜査として「あり得る」と答えました。
Q 「一般人」は捜査の対象にならないと政府は強調しているが。
A 通常の社会生活を送っている人は組織的犯罪集団に関与することは考えられず、捜査の対象にはならないというのが政府の説明です。
民進党は関与しているかどうかは捜査してみないと分からないので、捜査対象になるのではと指摘しました。
Q 捜査は簡単ではなさそうだ。
A 合意(共謀)を立証する材料を集めるのは困難です。
そのため警察内部では、捜査で電話やメールを傍受できる対象に「共謀罪」を加える法改正に期待する声もあります。
Q 昨年12月に改正通信傍受法が施行され、対象犯罪が拡大されたばかりだ。
A 傍受にはプライバシー侵害との懸念が付きまとうため、政府は「テロ等準備罪」に伴って、新たな捜査手法を導入する予定はないと繰り返しています。
ただ、警察当局は、暴力団事務所などの犯罪拠点に機器を設置する「会話傍受」の導入も検討課題としています。
野党は捜査権限が大幅に強化され、監視社会につながると懸念を表明しています。
■計画段階で処罰
Q 成立で、多くの犯罪を計画段階で処罰することが可能になる。
適用対象は。
A 「組織的犯罪集団」と規定されています。
テロリズム集団が例示され、政府は暴力団や振り込め詐欺集団なども挙げています。
Q 何をすれば処罰されるか。
A 組織的犯罪集団の構成員らが2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が実行のための「準備行為」をしたとき、計画に合意した全員が処罰されます。
Q 同僚と酒を飲みながら「あいつを殴ってやろう」と話せば、計画したことになるか。
A 政府は「具体的かつ現実的」な計画であることが必要で、そうした行為は当たらないと説明しています。
Q 準備行為とは。
A 「資金または物品の手配」と「関係場所の下見」を例示。
犯行手順の訓練や標的の行動監視も含まれ、それ自体が危険な行為である必要はありません。
Q 日常生活の一場面なのか準備行為なのか区別できるか。
A 野党からは「判断するには内心に踏み込まざるを得ない」との指摘が出ています。
政府は「携帯品などの外形的な事情から区別され得る」と答弁しています。
Q 過去に3度廃案になった法案との違いは。
A 過去の法案は適用対象を「団体」とし、準備行為の要件もなかったため、一般市民が話し合っただけで処罰されるとの批判を受けました。
政府は、かつても解釈では組織的犯罪集団が適用対象だったが、今回は法律に明記し、対象がより明確になったと説明しています。
Q 拡大解釈の恐れは。
A 組織的犯罪集団と認定するには、メンバーが犯罪の実行を目的に結び付いている必要があります。
政府は裁判所のチェック機能もあり、一般の会社や市民団体、労働組合などは対象にならないとしています。
民進党などは、正当な団体でも捜査機関の恣意(しい)的な判断で組織的犯罪集団に認定され得るとしています。
Q 犯罪実行前に自首した場合は刑を減免する規定もある。
A 「密告を奨励する」との批判が出ました。
政府は
「犯罪の甚大な被害を防ぐために設けている。
国民の一般的な社会生活とは無関係」
と反論しました。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2017.6.20 上久保誠人:立命館大学地域情報研究所所長
http://diamond.jp/articles/-/132343
“共謀罪”を無修正で通した野党の国会対応は「0点」だ
「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、参議院本会議で採決され、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した。
2015年の「安保法制」の成立に続き(本連載2015.9.19付)、民進党・社民党・共産党などの野党は、法案の「廃案」を求めて、国会で徹底的に抗戦した。
また、国会の周辺では、反対を訴えている人たちが、「強行採決絶対反対」と抗議の意思を示していた。
しかし、「安保法制」に続いて、法案は事実上「無修正」で国会を通過してしまった。
本稿は、今国会における野党の対応を「0点」と厳しく批判せざるを得ない。
「テロ等準備罪」を新設する法案が、問題の多いものだということは言うまでもない。
277ある処罰対象の罪のうち、テロに関連するものは110しかない。
国民の大多数が、不安に思っているのは明らかだろう(2017.4.11付)。
しかし、それらは1つも削られることなく、無修正で国会通過し、法律として成立してしまったのだ。
この責任は、野党の側にある。
安倍政権は、国政選挙で4連勝し、衆参両院で圧倒的多数の議席を獲得している(2016.7.19付)。
政府提出の法案は、国会で可決するのが当然であり、また民主的な正当性もあるのだ。
野党が廃案を求めるのは、非現実的である。
野党は、法律の成立は仕方ないものとして、国民の不安をできる限り払拭するため、与党と協議に臨み、法案の修正を全力で求めていくべきではなかったか。
さらに言えば、法律の成立を前提として、その法律の運用を厳しくチェックするための「対案」を提示する「第3の道」があったのではないかと考える。
■フランス式でもイギリス流でも
テロは防ぎきれなかった
フランス、ベルギー、そして英国でテロが連続して起こっている現実が示すことは、この連載が紹介した、「テロ対策は英国流かフランス流か」(2017.5.23付)ということを論じる次元を超えてしまったということではないだろうか。
まず、「目に見える形での治安維持の強化」によってテロを抑止するという方法は無力だといえる。
自動小銃をもって武装した憲兵や警察を主要駅や街頭に立たせて警戒しても、それだけではテロは防げない。
それは、ISのテロの最大の攻撃目標となっているフランスを見れば明らかだ。
2015年1月に起きた風刺週刊誌シャルリー・エブド襲撃事件を契機にして、頻発するテロに対抗するため、既存の軍隊、警察組織に次ぐ新たな治安維持組織として「National Guard(国家警備隊)」を新設するなど、徹底的なテロ対策をとった。
しかし、2015年以降、238人がテロの犠牲者になっている。
要するに、自動小銃を持った警官を街に並べても、テロ組織が事前に集会を開き、同時多発テロを実行したら手も足も出ないのだ。
それでは、事前にテロを察知する体制を構築したらどうか。
英国内には約420万台の監視テレビ(CCTV)が設置されている。
ロンドン市民が普通に生活していると、1日に約300回監視テレビに捉えられる。
携帯電話やPC、ラジオ、電子切符「オイスター」などから得られる様々なデジタル情報を組み合わせて、特定の人物の所在を高精度に追跡できるデータベースも構築している。
犯罪人データベースには、約400万人分のDNAサンプルを所持している。
地方自治体、刑務所、保護観察、福祉部門の職員、学校や大学の教員、NHS(国家医療制度)の医師、看護士は、過激化の兆候を見つけたら当局に報告することが義務付けられており、情報機関と警察の間の情報交換も綿密に行われている。
英国はこのような「監視社会」を築いて、過去4年間で13件の大規模テロを未然に防ぎ、常に500件を調査対象としているという。
要注意リストには約3000人が掲載され、別の300人を監視下に置いている。
■テロを完全に防ぎたければもはや
「内心の自由」を制限するしかない
これだけの厳重な監視体制を築けば、フランスのような自動小銃を乱射する同時多発テロが起きることはない。
だが、それでもテロは起きてしまった。
ロンドンやマンチェスターのテロを起こした犯人については、自爆テロを賛美するなど「過激な言動」を繰り返していたという情報が、英情報局保安部(MI5)など治安当局に何度も提供されていたのだという。
しかし、いくら過激な言動があったとしても、それだけで不審な人物を逮捕はできなかった。
その人物が仲間と集まって集会を開いたりする「組織的な動き」を見せることがなく、銃器などの武器を購入したりすることもなければ、警察は動きようがないのだ。
そして、自宅元々あるナイフをもって暴れたり、自家用車に乗って、突如群衆の中に突っ込んだり、自宅で作った手動爆弾で自爆したりされると、対応のしようがなかったのである。
要するに、欧州の事例が明らかにすることは、
★.テロを完全に防ぎたければ、
過激な言動があったと警察に通報があった時点で、即座に拘束・取り調べができるようにするしかない
ということだ。
つまり、「内心の自由」という人権を制限するしか、テロを防げないということなのだ。
実際、英国のテリーザ・メイ首相は、「人権保護規定を修正してでも過激派の摘発を強化する」と表明した。
テロ対策と人権保護の関係は、あらためて考え直してみる時期にきているのだ。
■テロを完全に防ぎたい日本人には
「内心の自由の制限」論議が必要だった
日本の国会で「テロ等準備罪」を審議する際、本当に重要だったのは、この「欧州の現実」を直視することだったのではないだろうか。
現在のところ、日本は国際テロリストの関心の対象にはなっていないかもしれない。
また、テロが起きるとすれば、それは安倍晋三首相の「好戦的」な態度のせいであり、首相が退陣すれば、日本は元の「平和国家」に戻り、テロは起きないという主張もあるかもしれない。
しかし、これらはなにも根拠がない、ただの希望的観測に基づいた考えに過ぎない。
今後、日本はラグビーW杯、東京五輪、そして万博の誘致など、国際的大イベントが次々と控えている。
「カネが切れれば、またカネがいる」のバラマキを繰り返すアベノミクスをずっと続けるならば、国際イベントを次々と獲得し続けなければならなくなる。
そして、国際イベントが続けば、テロリストに日本が関心を持たれるようになり、テロの標的になるかもしれない。
少なくとも、テロの標的となっている国の人たちが、多く日本にやってくることになる。
今後、日本がテロと無縁だと、なにを根拠に言えるだろうか。
このような状況で、日本人の大多数が、完全なテロ対策を求めているのはいうまでもないだろう。
例えば、フランス人のような、人権意識、民主主義についての意識が高い人たちならば、「内心の自由」を死守するために、結果としてテロが起きても、潔く受け止めるのかもしれない。
なにせテロが起きた直後に、メディアがテロの原因となった「風刺画」を堂々と掲載し、果ては風刺画のコンテストまでやってしまうような国だ。
しかし、日本人の感覚はフランス人とは違う。
日本人は「テロは2万%防いでほしい」と願っているといっても、決して大げさではない。
「民主主義という価値を守るために、テロが防げなくても受け入れる」というのは、リベラル系の「プロ市民」のような人を除いては、日本にはいない。
多くの日本人は「お上意識」が強い。
「民主主義」か「安全」か、どちらかを選べといわれたら、ためらいなく安全を選ぶ。
「お上」から徹底して独立した個人になるよりも、
「お上」に守ってもらいたいという意識が強い。
国民が完全なテロ対策を求めるならば、欧州の事例に倣えば、「内心の自由」という人権を制限してでも、テロを防ぐことに、踏み込まざるを得ないのかどうか、国会で真剣に検討する必要があったのではないだろうか。
■人権に踏み込むなら人権侵害を防ぐ
チェック・アンド・バランスが必要不可欠だ
権力が「内心の自由」という人権に踏み込むと、なし崩し的に人権侵害が拡大し、戦前の治安維持法のような悪夢が再び起こるという主張がある(2013.12.6付)。
しかし、それを防ぐ方策がとられている事例が世界にはある。
英国は「監視社会」が構築されているのだが、政府や警察が市民の人権を簡単に制限できるわけではない。
英国には、1998年制定の「データ保護法」で規定された「情報コミッショナーオフィス」という個人情報保護の監督機関と、2012年の「自由保護法」に基づいて設置された「監視カメラコミッショナー」という監視カメラの監督機関の、2つの監督機関がある、
いずれも、政府や警察、諜報機関が市民の人権を侵害することがないよう、政府から独立して監視する「第三者機関」である。
これらは、公共空間において犯罪と無関係な一般市民を常時撮影することに強く反対する市民団体の動きに、政府が対応して設置されたものである。
日本でも、人権侵害を防ぐために、「テロ等準備罪」の廃案をひたすら求め続けるのではなく、「第三者機関」の設置により人権を守るという提案が、野党側と市民運動からあってもよかったのではないかと思う。
本稿も、「テロ等準備罪」のようなものは、できればないほうがいいと考えている。
しかし前述の通り、テロの恐怖は日本に迫っていないと言い切ることはできない。
テロ対策は現行法を基に、現行の体制で十分という主張は、全く説得力がないと思う。
現代社会は、人権を守るために、権力が市民を監視するようなことを一切許さないというような、理想的な状況にはない。
人権侵害が起きる懸念があるような、厳しい安全対策を取り、一方で人権侵害を厳しく監視するというような、チェック・アンド・バランスをどう社会の中で機能させるかを考えることが重要ではないだろうか。
米国にドナルド・トランプ政権が誕生した時、大統領が公約通りにすべてを実行したらどんなことになるかと世界中が恐れた。
しかし実際は、米国の厳格な三権分立が効果を発揮し、大統領の公約は、議会や司法の高い壁に阻まれている(2017.1.24付)。
日本でも、ただひたすら理想論を訴えるだけではなく、どのように権力に実質的な歯止めをかけられるか、それにはどのような政治・行政の制度設計をするか、現実的に考える時にきているのではないだろうか。
』
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