2017年2月9日木曜日

中国(18):人民元国際化が後退、トランプ時代のアジアに試練

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ロイター  2017年 02月 16日 11:38 JST  Pete Sweeney
http://jp.reuters.com/article/column-yuan-trump-asia-idJPKBN15V07S?sp=true

コラム:人民元国際化が後退、トランプ時代のアジアに試練

[香港 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
 中国は、自国通貨の国際化計画を放棄してしまった。
 アジア各国はこのことを悔やむ羽目に陥るかもしれない。
 トランプ米政権下での「ドルショック」に対するリスク回避を強いられる可能性があるからだ。
 人民元が、ドル、ユーロ、ポンドや円と並ぶ地位を確立することは確かだと思われていた。
 外国人投資家は、高い国債利回りとともに、急速に拡大する大国経済を目にしてきた。
 中国指導部は、米金融政策のリスクにさらされていることに対していら立っていた。

 中国当局は、香港やロンドン、シンガポール、そして台湾にまで人民元のオフショア市場が発展することを支援し、人民元の取引と投資を容易にするための規制緩和を打ち出した。
 その一方で、まったく新しい関連商品やサービスを販売する期待に沸いた外国の銀行は、それによっていかに利益を上げられるかについてリポートを量産した。

 人民元は昨年、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨バスケットに採用された。
 楽観主義者は、それによって新たな改革の波が訪れると期待していた。
 しかし、その波は引いてしまった。
 スタンダード・チャータード銀行によると、
 人民元建てで決済されたクロスボーダー貿易の割合は、昨年12月に全体の11.5%と、2013年9月以来の低水準となった。
 最大のオフショア人民元市場である香港における人民元建て預金残高は、1兆元(約16兆6600億円)を突破した2014年のピーク時に比べ、半分近くにまで落ち込んでいる。

 オフショア人民元建て債券「点心債」の市場は眠りについている。
 ロイターのデータによれば、点心債の2016年発行額は21%減少して225億元だった。
 それに比べ、日本、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、マレーシアといったアジア主要経済6カ国のドル建て債券発行額は計2500億ドルで、2015年から27%増加している。

 世界中どこでも取引されている米ドルとの差は明らかだ。
 人民元は中国の国内市場にほぼ閉じ込められており、
 本土の企業間で取引され、中国政府によって厳しく規制されている。
 中国政府はこうした人民元の後退に無関心に見える。
 主要な外国為替市場であるロンドンで、人民元建て債券発行を増やす計画も当面ない。
 中国当局は外国人投資家がオンショア資産に向かうことを歓迎している一方で、資金流出に対する監視をこれまで以上に強化している。
 そのため、外国人投資家に中国国内市場の株式や債券を買わせることは中途半端な策と言える。
 中国人民銀行(中央銀行)のデータによれば、
IMF通貨バスケットに組み入れられてから4カ月となる今年1月、外国人機関投資家による中国の国債保有額は減少した。

■<無秩序な新世界>

 問題は米国経済が復活するのと同時に表面化した。
 2014年後半からドルが強くなり、人民元は10%超下落。
 さらなる元安期待から、企業は元を売ってドルに替えた。
 このことが中国金融市場の流動性を引き締め、金利引き下げによる景気刺激策を一段と困難にさせている。

 中国の外貨準備高は、2011年以来約6年ぶりに3兆ドルを割り込むなど着実に減少している。
 これは、中国の未来に対して不信任案を突きつけている、と一部で受け止められている。
 毎月のように資金流出に対する新たな取り締まりが行われている。

 オフショア市場で人民元を使えるようにすることは常にチャレンジだった。
 ドルの高い普及率は、輸入品へのドル建て決済がもたらす長期の貿易赤字によって維持されている。
 中国の貿易黒字は年5000億ドル強に上る。
 人民元建て海外投資は、中銀間の通貨スワップのように補うことが可能だろうが、海外投資や外貨準備における人民元の比率を相当な水準にまで増やすには多大な努力を要するだろう。

 だからといって、試してみる価値がないと言っているわけではない。
 人民元の撤退はドルに依存する不健全な世界を助長したように見える。
 IMFのデータによると、正味の世界外貨準備高は2014年以降、減少しているが、ドルの比率は高まっている。

 とりわけ人民元の比率を高めるには好環境にあったアジアの経済国が、代わりにドルへの依存をいっそう強めている。
 国際決済銀行(BIS)のデータによると、アジア太平洋地域の途上国が抱えるドル建て債務は昨年9月、1.1兆ドルで、史上最高額を記録した6月をやや下回る高水準だった。
 中国など債務を抱える新興経済国にとっては、ドルに過度に依存する現状は、かつてないほど最悪な状況かもしれない。

 トランプ大統領はワイルドカードと言える。
 同大統領が唱える財政出動はインフレ過熱を招く可能性がある。
 外交面では貿易戦争、あるいはそれより悪い事態を勃発させる恐れもある。
 ドルの流動性引き締めは十分にあり得ることだ。
 米国が自国のエネルギー依存度を高めたり、あるいは貿易赤字を減らす場合はなおさらそうである。

 国内の成長を守るために人民元の国際化を停滞させたことにより、中国がもし仮に、すぐに国際化を再始動させようとしても、それは非常に困難な道となるだろう。
 アジアはドルを抱えて、かつてないほど立ち往生している。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。








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