2017年2月13日月曜日

トランプ大統領登場(13):米中電話会談と日米首脳会談、世界スタンダードへの切り替え、台湾と尖閣

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 米中電話会談と日米首脳会談、この2つでの裏取引は何?
 ここが一番気になるところだろう。
 分かりやすい評価は、
 アメリカ側からすると「一つの中国を認める」から、南シナ海から中国は手を引け、
というものだろう。
 アメリカとしては公海上に勝手に領有権を主張し、アメリカ船舶の航行を妨げることは、アメリカの主権を犯すことにもつながる。
 よってこれは許しがたい。

 なら尖閣は何か、ということになる。
 尖閣はただのリップサービスにすぎない。
 アメリカはこの問題に直接かかわることは基本的にない。
 実際ことが起きても、アメリカは関わりたいだろうが、日本はアメリカの介入を極度に嫌がるだろう。
 日本は物理的にはアメリカ抜きでこの問題に対処して、中国を黙らせたいという思惑がある。
 さすれば、その後の尖閣は日本の思い通りになる。
 もし、アメリカが関われば、アメリカは中国の意見を尊重しかねない。
 これは日本としてはこれはできるかぎり避けたい。
 ただその前のことが起こすことへの大義名分が必要である。
 「アメリカが認める日本の尖閣施政権へ中国が侵攻した」
というアピールが日本としてはぜがひでも欲しいということである。
 
 アメリカは今回の一連の動きで、
 中国のアキレス腱は台湾にある
ということを深く悟ったのではないだろうか。
 中国の弱みを、それも最大の弱みを見つけた
ということである。
 いいかえると、台湾はジョーカーになりえる、ということである。


Record china配信日時:2017年2月13日(月) 14時40分
http://www.recordchina.co.jp/a163719.html

日米首脳会談、“陰の主役”は中国、
共同声明「尖閣に安保適用」
―トランプ大統領、前日に習主席には「一つの中国」尊重

 2017年2月13日、安倍晋三首相とトランプ米大統領による日米首脳会談の“陰の主役”は中国だった。
 会談後の共同声明には、中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島に日米安全保障条約が適用されることを明記。
 一方でトランプ大統領は日米会談の前日、中国の習近平国家主席と電話会談し、「一つの中国」の原則を尊重する考えを伝えた。

 共同声明は「日米同盟」について、「核および通常戦力の双方による、あらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」と指摘。
 「(米国の防衛義務を定めた)日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認した」とした上、
 「同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」
 「東シナ海の平和と安定を確保するための協力を深める」
とも明記した。

 さらに、中国名指しこそ避けたものの、
 「日米両国は威嚇、強制または力によって海洋に関する権利を主張しようとするいかなる試みにも反対する」
と、けん制。
 「関係国に対し、拠点の軍事化を含め、南シナ海における緊張を高め得る行動を避け、国際法に従って行動することを求める」
と強調した。
 首脳会談でトランプ大統領は選挙中に触れた在日米軍の駐留経費負担増を封印。
 会談後の共同記者会見では米軍駐留を受け入れている日本国民に感謝する言葉まで付け加えた。

 一方でトランプ大統領は安倍首相との会談前日の9日、電話会談で習主席が「一つの中国」の原則を尊重するよう求めたのに対し、「同意する」と表明。
 大統領就任前に示唆していた「一つの中国政策の見直し」をあっさり引っ込めた。
 中国メディアによると、習氏はトランプ氏の表明を「『一つの中国』の原則は中米関係の政治的土台だ」と称賛。
 「中国は米国と共に意思疎通を強め、協力を拡大し、中米関係の健全で安定的な発展を推進していくよう努力したい」
と応じたという。

 トランプ大統領は共同記者会見でも、中国との対話を進める意向を示し、
 「中国とはとてもうまくやっていける。
 これは日米中、地域の全ての国に良い結果をもたらす」
と述べた。
 こうしたトランプ氏の対応について、英紙フィナンシャル・タイムズは
 「米国の安倍氏厚遇による副作用を減らす意図がある」
と報じている。

 しかし、「尖閣に安保」や「一つの中国」堅持は、これまでの米国の政策を追認しただけ。
 特に中国にとっては、大統領就任前の「不規則発言」による「失地」を回復したにすぎない。
 オバマ前大統領は13年6月、国家主席に就任したばかりの習氏をカリフォルニア州の保養地に招いて厚くもてなした。
 対照的にトランプ大領は今回、安倍首相との蜜月ぶりをわざわざ演出してみせた。
 中国は「予測不能」のトランプ政権に引き続き、強い警戒感を抱いているとみられる。



JB Press 2017.2.14(火)  筆坂 秀世
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49170

トランプ大統領が安倍首相を手厚くもてなした理由
蜜月関係の構築を最優先した安倍首相


●米フロリダ州パームビーチのリゾート施設「マーアーラゴ・クラブ」で共同記者会見に臨む安倍晋三首相(左)とドナルド・トランプ大統領(2017年2月11日撮影)。(c)AFP/Nicholas Kamm〔AFPBB News〕

 中東・アフリカの7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令を巡って、アメリカ国内でも、あるいは世界でもトランプ大統領への批判の声が渦巻いている。
 またTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱、国境税の創設、FTA(自由貿易協定)などの通商関係、中国やロシアとの関係など今後どういう手を打ってくるのか見通しが立たない中で、各国の首脳はトランプ大統領とどういう距離感で接していくべきなのか、頭を悩ましている。

■異例の蜜月関係を構築した安倍首相

 そんな中で異例の速さでトランプ大統領に接近し、蜜月関係の構築を最優先したのが日本の安倍首相である。

 これに対して、アメリカのメディアの中には、「トランプ大統領に取り入ろうとしている」(NBCニュース政治担当ディレクターのチャック・トッド氏のツイッター)とか、「こんなに大統領におべっかを使う外国の首脳は見たことがない」(ニュース専門局MSNBCのアナリスト、デビッド・コーン氏のツイッター)と批判するものもある。

 だが私はそうは思わない。
 日本の安全保障は、アメリカ抜きではあり得ない。
 相手の大統領がどのような人物であろうとも、緊密な関係を構築することは避けては通れないことである。
 記者会見で入国禁止令について聞かれた安倍首相は、「内政問題である」として、コメントを控えた。
 この大統領令は、トランプ大統領にとって、ある意味、一丁目一番地の公約であり、コメントを控えたのは仕方がないことであったと思う。

 だがこの対応は、当該国や他国からの批判が安倍首相に向けられるというリスクも背負ったことになる。

 蜜月関係が「率直に物を言えぬ関係」になってはならない。
 トランプ大統領の政策内容によっては、時にはたしなめることも必要な場面もあるかもしれない。
 世界の信頼を得るために、安倍首相はその責任も果たしていかなければならない重責を担ったということでもある。

■共同声明に使われた「核」という言葉

 防衛相幹部が、安全保障分野は「満額回答」だったと評価したという。

 確かに共同声明では、「核および通常戦力の双方による、あらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」と明記され、さらに、「両首脳は、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認した。両首脳は、同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」ことが明記された。

 共同声明で「核および通常戦力の双方による・・・日本の防衛」と表現するのは、核の傘を含む「拡大抑止」という考え方の表明である。
 「拡大抑止」とは、同盟国が攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国を他国の攻撃から守るという考え方である。
 この点は、マティス国防長官が2月初頭に来日した際にも、同様の考え方を表明していた。

 2月12日付産経新聞によれば、共同声明で「核」という表現が入ったのは、1975年の三木武夫首相とフォード大統領の共同文書以来だという。
 北朝鮮の核・ミサイル開発が顕在化してからは初めてのことであり、北朝鮮の動向を念頭に置いた声明だと報じている。
 また、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲であることは、オバマ前大統領も明言してはいたが、共同声明に明記されたことは初めてであり、その意義は大きい。防衛相幹部が「満額回答」だと評価したのも当然であろう。


 だが同時に、日本は大きな責任も負うことになった。
 共同声明には、
 「アジア太平洋地域において厳しさを増す安全保障環境の中で、
 米国は地域におけるプレゼンスを強化し、
 日本は同盟におけるより大きな役割および責任を果す」
ことも明記された。

 これは、日本やアジア太平洋地域の安全保障をアメリカ任せではなく、日本自身の軍事力強化や米軍への支援や共同作戦の強化という課題が、日本に課せられたということである。
 だがこれは当然のことと言ってよい。
 尖閣諸島の防衛は、一義的に日本自身が行うことだからだ。

■駐留経費の負担増はなくなった

 トランプ氏は、大統領選挙中、在日米軍駐留経費の日本側負担問題について、
 「日本が100%負担せよ。
 さもなくば撤退する。
 必要なら日本自身が核兵器を持て」
などと述べていた。

 だがこの点でも、2月4日に稲田朋美防衛相と会談したジェームズ・マティス国防長官が、記者会見で、日本の駐留経費負担は「お手本」と評価したように、トランプ大統領の選挙中の発言は覆されていた。
 おそらくマティス長官から話を聞いたのであろう。
 トランプ大統領は、「米軍を受け入れてくれている日本国民に感謝する」とまで発言し、大統領選中の発言を180度変えた。

 これで駐留経費負担増問題は、完全に解決したと考えて良い。
 これだけでも大きな成果である。

■異例の厚遇の背景にあるのは?

 それにしても今回の首脳会談は、安倍首相への異例とも言える厚遇が目立った。
 ホワイトハウスの会談では、報道されている限り、日本に無理難題を突き付けてくることはまったくなかった。
 日本の財界からも、国民の間からも、「ほっとした」という感想が聞こえてくる。率直な感想であろう。

 その後はフロリダに場所を移し、2人でゴルフに興じた。なぜ、これほどまでのもてなしが行われたのか。
★.1つには、各国首脳がトランプ大統領との間合いの取り方に悩んでいる時に、
 安倍首相がためらいもなく当選直後に会いに行って祝意を述べ、
 大統領就任後はイギリスのメイ首相に続いて2番目に訪問したことがあった。

 安倍首相がこういう選択をしたのは、当然のことであった。
 安全保障でも、経済分野でも、日本はアメリカとは切っても切れない関係にある。
 このアメリカと良好な関係を構築しようとするのは、日本の首相として当然のことである。
 他方、トランプ大統領にとっても、国内外から入国禁止令などによって、厳しい批判にさらされている中で、G8(主要国首脳会議)の中でもいまや古株になっている安倍首相と親密な関係を築くことは、他国首脳に影響を与えることができるという計算があったはずである。

★.2つには、この会談は、トランプ大統領が在日米軍の駐留経費問題などでまっとうな対応をすることを世界に示せる格好の機会である。
 会談の前日には、中国の習金平主席との電話会談で、「一つの中国」という原則もあっさり受け入れていた。
 ここでも世界のスタンダードを受け入れているのである。

★.3つには、トランプ大統領にとっての本命である通商・貿易問題では、これから麻生副総理とペンス副大統領との間で交渉に入るが、ここで日本の譲歩を迫るためにも、安全保障問題では、日本側に満足させる必要があった。

 これらのことが異例の厚遇につながったのであろう。

■経済・貿易関係はこれから

 2月12日付朝日新聞によれば、
 「トランプ氏がこだわる二国間の通商交渉の提案は米国側からなく、日本車や円安への不満も出なかったという。
 同席した日本政府高官は「トランプ氏は『アメリカでいい車をつくってくれてありがとう』という感じで、和気あいあい過ぎるぐらいだった」
という。

 だが、経済問題はもちろんこれからである。
 TPPを断念し、今後はアメリカとのFTA(自由貿易協定)の交渉を迫られることになるだろう。
 自動車輸出や円安問題だけではなく、豚肉、牛肉などの関税撤廃も議題になってくる可能性が高い。
 その時に、2人の蜜月関係がどう作用するのか。
 依然として、緊張した日米関係は続くことになる。



JP Press 2017.2.14(火)  武者 陵司
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49169

トランプ政権の本質、保護主義ではなく「帝国主義」
誤解されるトランプ政権
~孤立・保護・差別主義ではない


●トランプ大統領、米軍の「偉大なる再建」目指す大統領令に署名

 トランプ政権の戦略目標は単純明快で分かりやすい。
(1):強いアメリカ、
(2):安全な世界、
(3):強い国内雇用、
(4):それらを阻んでいる不公正
(a.=他国の過小な軍事負担と米国の不適切な対外関与、
 b.=米国に不利な通商産業政策・為替政策、
 c.=不適切な移民・難民政策)
の是正、である。
 それなのに、トランプ氏は人々の不満に訴える選挙戦術として、
(4):の不公正の是正を特に強調した。

 またトランプ氏を快く思わない
 メディアも(1)(2)(3)を全く看過し
(4)のみをトランプ氏の過激発言と絡めて報道した。
 そのために、トランプ政権の事実とは異なるイメージが定着している。

 つまり
a.:の従来の国際軍事戦略に対する不満が孤立主義と受け取られ、
b.:の通商産業政策の不満が保護主義と受け取られ、
c.:の難民・移民政策に対する不満が人種・人権差別主義ととらえられている。

 しかし、
 (1)強いアメリカ、(2)安全な世界、(3)強い国内雇用を実現するためには
 孤立主義や保護主義が全く逆効果であることは論を待たない。
 また世界で最も民主的な米国において、過激な差別主義が定着するとは思われない。
 トランプ政権の政策の成長進化、メディアの曲解是正により、トランプ政権の3つの負のイメージ(孤立主義・保護主義・差別主義)は急速に是正されていくはずである。

■確認された対外関与の強化

 2月10~11日の日米首脳会談において、トランプ大統領は日米同盟の意義を強調し、米国が対外関与を薄めるという孤立主義的誤解を大きく解消した。
 トランプ政権の軍事力増強計画、力による平和戦略(Peace through Strength)はむしろ対外関与を強化するものである。

 また、多国間ではなく2国間の通商交渉により、米国に不利な不公正さを是正するというトランプ政権の政策も、保護主義と言うべきではあるまい。
 安倍首相が日米首脳共同記者会見でいみじくも
 「国有企業による国家資本を背景とした経済介入はあってはならず、
 知的財産のただ乗りは許されない」
と指摘したように、中国に極端にみられる不公正通商慣行の是正は保護主義とは真逆のモノである。

■トランプ政権の米帝国再構築の野望

 そろそろ「弱体化する米国経済の下で不満が高まりポピュリスト政権が誕生した」というステレオタイプ化した考え方を改めるべきではないか。
 トランプ政権の神髄は「弱いアメリカ? 守り・保護・孤立」ではなく、「覇権国アメリカを強化する」という攻撃性にある。
 彼が横暴に見えるのはその攻撃性があからさまであるからであろう。

「オバマ政権の8年の間に、世界はより危険になり、米国の経済軍事的プレゼンスは大きく低下した。
 そのしわ寄せが米国国内雇用にも及んでいるとすれば、その枠組みを力づくで変えなければならない」
というトランプ政権の目指すところはアメリカ帝国の再構築という表現が最もふさわしいのではないか。

 現代の帝国とは第二次大戦前の植民地支配を意味するのではなく、国境の外に強い影響力を確保することで国益を追求する明示的な国家戦略と定義されるが、そうした狙いを潜在的に持っているのは、米国と中国だけである。
 帝国は国境内の中枢地域と国境外の辺境・周辺地域に分かれ、両者の間に明白な優劣がある。
 価値観・経済力・軍事力で優位にある中枢が、辺境・周辺に対して一方的影響力を持つことが正当であるという論理である。

 トランプ氏が大統領就任演説において価値観も世界戦略も語らなかったからと言って、彼に戦略性がないと決めつけるのは正しくはない。
 トランプ氏は明確に米国の優越性を認識し、それを維持・強化しようとしている。
 それはオバマ政権が理想とした米国が世界の警察官から降り、各国の協調で営まれる世界共和国的概念(global commonwealth)とは大きく異なる。

■再度、アメリカ帝国主義の時代に、ドル高が国益に

 そこで問われるのはトランプ氏の帝国主義的野望は正当か、実現できるのかだが、正当であり、実現可能と考えられるのではないか。

 無政府化しテロリストが割拠する中東、中国・北朝鮮の軍事的膨張、国家資本主義により歪められ世界通商基盤などを見れば、世界の民主主義を保証する警察官国、アメリカ帝国の必要性は世界中から求められている。

 またアメリカ帝国主義を実現する経済基盤がかつてなくしっかりしていることは、かねてレポートしている通りである。
 米国の産業競争力は、情報インターネットインフラで圧倒的競争力を持ったことにより、かつてなく強い。
 企業収益(企業における価値創造)は空前であり、世界の警察官たる装備を十分に整える財政的基盤がある。
 トランプ政権の保護主義的に見える二国間交渉による通商秩序の構築はただでさえ強い米国の産業基盤をさらに強くするという、攻撃性、帝国主義の衝動と考えるべきであろう。

 言うまでもなく、トランプ氏のアメリカ帝国主義の野望には、強いドルが整合的かつ不可欠であり、トランプ政権は保護主義だからドル安を望んでいるという見解は、いずれ是正を余儀なくされるだろう。

■日本に吹く歴史的順風

 さて今回の日米首脳会談において、アメリカ帝国再構築に乗り出したトランプ政権と日本の安倍政権は、信じがたい蜜月関係を持つことになった。
近代日本の長期繁栄は地政学によって規定されてきた
 明治から大正期の日本資本主義勃興期(日英同盟)、
 1920年代後半以降の停滞から破局期、
 1950年から1990年の戦後の奇跡の復活成長期(日米同盟)、
 1990年以降の長期停滞期、
はいずれも地政学、世界のスーパーパワーとの位置関係が日本の運命を決めてきた。
 今後、米中対立が明確となりトランプ政権の中国封じ込め政策が現実となった場合、日米同盟は米国にとって最も重要な二国関係になっていくだろう。

 トランプ新政権の下でアメリカ帝国主義という色彩が強まる中で、日本には歴史的追い風が吹きつつある、と考えられよう。

◎本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第177号(2017年2月13日)」を転載したものです。

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東洋経済オンライン 2017年02月18日 ダニエル・スナイダー :スタンフォード大学APARC研究副主幹
http://toyokeizai.net/articles/-/158781

日本がトランプ政権でも「重宝」されるワケ
安定している日本は世界で希有な存在だ

米国でドナルド・トランプ政権が発足してから、20日で1カ月が経つ。
トランプ大統領はこれまでに、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱するなど、日本やアジアにおける米政権の戦略転換を図る可能性をにおわせている。
こうしたなか、米スタンフォード大学のショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)の研究者8人が、トランプ政権に対するアジア戦略提案をまとめた。
今回はその中から、対日政策について紹介する。

■アジアにおける米国の最も貴重な同盟国

 トランプ政権は、日本と米国の国益に効果的に貢献している密接な協力関係の観点から、日米同盟を続ける考えだ。
 現時点で日本は、世界ではないにしろアジアにおける米国の最も貴重な同盟国である。
 「世界的な役者」としての日本
 そして日米同盟の重要性は、米国が考える世界秩序に挑戦しようとする中国の台頭とともに発展してきた。

 安全保障分野では、日本は世界的にも、地域的にもより大きな役割を果たすと同時に、平和を保つため、核拡散、テロ、海上安全保障において米国に重要な支援を行っている。
 日本軍は現在、スーダンの平和維持活動、インドからオーストラリアへの海軍共同戦闘に参加しているほか、フィリピンやベトナムなどに軍事装備や訓練援助を提供している。
 また、韓国と米国との3国間の安保協力に加わり、北朝鮮のミサイルや核実験に対応したミサイル防衛の準備を行ったり、米国との共同緊急事態計画と運航協力を強化したりしている。
 中国の南シナ海における活動に関しても、米国への協力姿勢を示している。

 日本の役割が大きくなったのは、安倍晋三首相が集団的自衛権を行使できるように憲法を「再解釈」したことがある。
 これにより、防衛費の引き上げを含めて行使に関する立法が可能になったのだ。

 すでに防衛省は米国と協力して、F-35戦闘機や新型輸送機「オスプレイ」など高度兵器を積極的に購入している。
 また、沖縄の米軍普天間基地の辺野古移転に関する合意についても、(沖縄では深刻な反対があるにもかかわらず)着実に進めようとしている。
 グアムで予定されている海軍の新施設建設についても相当資金援助をしているほか、米軍が駐留する国の中ではトップレベルの支援を行っている。

 安倍政権はオバマ政権の「励まし」の下、第2次世界大戦に関する歴史的問題をめぐる韓国との緊張関係を克服しようと、より親密な関係を築こうとしてきた。
 日米韓の3カ国は情報共有について合意しただけでなく、拡大する北朝鮮の脅威に対抗するために協議を重ねるなど互いに協力している。
 生き残った韓国の慰安婦に援助を提供し、安倍首相による謝罪声明文を出すという2015年12月の合意は、日韓(そして米国)の和解と協力を促進するための重要なステップであった。

 歴史的和解ということでは、オバマ大統領による広島訪問と、それに続く昨年12月の安倍首相による真珠湾攻撃の被害者の記念碑への訪問は、「深いレベル」での同盟関係を反映している。

 安倍政権はまた、ロシアとの関係改善にも尽力してきた。
 安倍首相は、戦争終結後に発生する領土紛争の歴史的な解決とロシアとの平和条約締結という目標をあきらめていない。
 これは依然として難しい課題であることは確かだ。
 オバマ政権はウクライナ危機後、日本が米国と欧州とともに行っている経済制裁を解除する可能性を懸念して、日本とロシアの接近を阻止しようとしていた。
 もっともこれは短絡的な考え方だ。
 それよりは、日本によるこうした試みが、中国とロシアの協力関係を弱める効果があることのほうが大きい。

■日本は予測可能性を備えた成熟社会だ

 今日本では、これまで例がないような安定した政権運営が行われている。
 自民党率いる連立与党は、安倍首相を中心に4年以上継続しており、国会で支配的な地位を築いている。
 保守政策が継続的に行われるという見通しと、長期にわたって安倍首相が在任しているという事実は、国家の将来の方向性に関する政治的な合意がなされていることを反映している。
 政治的に不安定な状態にある韓国とは対照的に、
 日本は今日の先進国ではめったにない、予測可能性を備えた成熟社会である
といえる。

 こうした前向きな側面がある一方、米国の政策立案者たちが懸念していることもある。
 たとえば、治安に関していえば、東シナ海、特に尖閣諸島周辺で、日中の緊張が高まる危険性は消えていない。
 存在感を増している中国
 米国はこの地域の動きを注意深く見守り、日本による危機管理の継続的な取り組みを促す必要がある。
 また、韓国で日本との合意に反対する韓国の進歩的政治勢力が勢いを増していることによって、歴史問題に関する日韓の緊張感が再び高まる危険性もある。
 一方、日本の安倍政権でも極端な民族主義的な思想をもつ一部の閣僚によって、日本が挑発的な行動に出る懸念もある。

 安倍首相が憲法第9条の改正を追求することは、安全保障分野における進展を潜在的に損なう危険性を伴う。
 中国と韓国との緊張感を一段と高める懸念があるが、もっと深刻なのは、日本国内で強い反発を呼び起こし、より広い範囲での安全保障や秩序を保つうえで重要な役割を担うようになっている日本の存在感が弱まることである。

 経済政策においては、景気回復に向けたこれまでの取り組みと、成果がひっくり返されることも考えられる。
 成長を持続させるには、外国人による投資や貿易面での開放を一段と進めると同時に、日本国内のイノベーションを促進させる政策が今以上に必要だ。
 日本は人口減少や労働力不足など、長期的な人口動態上の問題にも直面している。
 トランプ大統領による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの撤退は、日本国内に根強い市場改革や開放に対する反対意見を後押しすることになったかもしれない。

■米国が推し進めるべき政策

こうしたなか、米国は以下のような政策を推し進めるべきである。

★・米国と日本は、日米安全保障協議委員会を含め、軍隊間の共同緊急事態計画と運営協力を深めるために早急に動くべきである。

★・米国は、海兵隊のグアムへの新施設の再配置を進めるために、沖縄を含む日本に駐留する米軍の基本的な取り決めを見直し、それに基づいて辺野古の補充施設の必要性を再考するよう提案すべきである。

★・米国は、北朝鮮の抑止力を強化するだけでなく、中国の軍事力拡大に対応することを念頭に置き、本州および九州に拠点を置く米海軍と空軍の増強必要性を検討する必要がある。

★・米国は、第9条の改正を支持する提案を含め、憲法改正に関して日本国内の内部討論に干渉するように見えるコメントを避けるべきである