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新潮社フォーサイト2017年02月02日 16:38 宮本雄二
http://blogos.com/article/208505/
中国はトランプにどう立ち向かうのか -
若いころ、米国の外交官に「この問題を解決しようとしても障害が多すぎる」と指摘すると、「障害は取り除けば良い」と軽く一蹴されたことがある。
★.日本は、与えられた条件の下で対応策を考える。
★.これに対し、米国は必要ならば前提条件そのものを変えて目的を達成しようとする。
これが日本と米国の違いであり、「大国の発想」はそういうものなのだ。
歴代の米国の指導者も同じ発想だった。
結果は成功したり、失敗したりだが、世界に対し大きな影響を及ぼしてきた。
■トランプを読み切れない中国
トランプ大統領は、かなり激しく「前提条件」の変更を試みようとしているように見える。
それが米国の社会をさらに分裂させるのか、世界の秩序を壊してしまうのか、まだ分からない。
だが、相対的な国力が低下しているとは言え、
トランプの発言に一喜一憂する世界を見ると、やはり米国は「超大国」だなと痛感する。
トランプを読み切れていないという点では中国も同じだ。
★.中国外交は、事前に十分準備したものはなかなか上手く対処してきた。
シンクタンクをはじめ、多くの人材を活用できるシステムを持っているからだ。
だが、フィリピンが南シナ海問題に関し常設仲裁裁判所に提訴したケースに対する対応は、例外的に下手だった。
中国外交が自己主張を強めてきたことのツケでもあるが、同時に現在の国際法秩序に対する理解不足のせいでもあった。
これに対し危機管理や臨機応変の対応はもともと不得手だ。
トランプ大統領の登場を、恐らく予測できていなかったと思うし、トランプ対策も不十分だったはずだ。
それに加え、トランプの手の内がまだ読めない。
そうなると、現時点において中国がやれることは、トランプの動向を慎重に見極めることしかない。
だが、中国が具体的な手を打ってくるときは、トランプを見定め方針を確定したときであり、その後は方針がすぐに変わることはない。
決めるのに時間がかかるが、変えるのにも時間がかかるのだ。
■米中経済戦争も
トランプは、台湾総統の蔡英文から当選祝いの電話を受け、その後のインタビューで「1つの中国」は原則でも何でもないとうそぶき、中国に衝撃を与えた。
それでも中国外交部の反応は抑えたものだった。
典型的な「相手を観測中の対応」と言える。
知米派であり、国際協調派でもある北京大学の王緝思は、トランプが自著に
「中国人に自分の考えていることをわからせない。
これが私の強みである」
と書いている点を指摘して、トランプの一々の発言を気にするなと説いている。
習近平も、わざわざダボス会議に出席し、国際経済秩序の擁護者として振る舞い、トランプの保護主義に反対する姿勢を明確にした。
通商関係の責任者に中国に厳しいピーター・ナバロが就任し、安全保障関係のポストには軍のタカ派が就任し、国務長官も決して中国に寛容ではない。
中国は、それでもまだトランプ政権を必死に観察中であり、見極めようとしている。
ただ台湾問題は、中国の「核心的利益」の最たるものである。
この問題で譲歩したと見られた途端に、中国の指導者の命運は定まる。
トランプが、中国から経済的な譲歩を勝ち取る手段として「1つの中国」カードをこれからも安易に使えば、米中関係は緊張する。
逆説的だが、後述するように、
中国側は余裕がないから強く出るのであり、
同じように余裕がないから本気で経済戦争を戦う可能性がある。
穏健派の王緝思でさえも
「(貿易経済問題について)中国側はかなりの準備ができている。
後手に回ることはない」
と明言している。
米中関係は実に不確実であり、経済面でも衝突は起こりうるのだ。
■最大の挑戦は軍事安全保障から来る?
中国は、孫文のころから豊かで強い「富強」の中国の再興を夢見てきた。
毛沢東や鄧小平もそうだったし、習近平もそうだ。
鄧小平の時代は、それを表に出さず意識的に抑えてきたが、最近は「超大国」への願望を隠すことはない。
2008年のリーマン・ショックによる米国の自信喪失が、米国に追いつけるし、追い越せると中国に思わせた結果でもある。
世の中は中国の思い通りにはならないと思うが、それでも予見しうる将来、中国経済が伸びれば軍事力増強も続くだろう。
米国と同じように中国は「超大国」として、それに見合った軍事力を持つべきだと考えているからだ。
つまり確実に、米国の、とりわけ西太平洋における軍事的優位に挑戦するということであり、米軍のオペレーションに対する大きな制約になるということだ。
トランプ・チームの軍事安全保障グループは軍のタカ派に率いられている。
オバマ政権より力に対しては力で応じるという姿勢は明確だ。
中国が、しかるべき調整をしないと、米中はさらに緊張するということだ。
その主戦場は台湾海峡と南シナ海となろう。
中国は台湾に対する不満を募らせており、軍事的危機はむしろ台湾海峡の方だという者もいる。
このシナリオはマイナスが多すぎ、理性的に判断すれば、排除されるべきものだが、中国側が読み違える可能性はある。
それを避けるためにも米中の軍同士の意思疎通は極めて重要である。
■南シナ海政策を調整
現時点をとれば、米国の軍事力は圧倒的だ(2015年の米国の軍事支出は中国の4倍)。
人民解放軍強硬派の政策は、その米国と正面からぶつかりかねない。
そこで習近平指導部は、南シナ海政策の調整を始めた気配がある。
もちろんすでに確保した岩礁や構築物は、そのままにした上での話だが、フィリピンとの外交関係を調整したし、ASEAN(東南アジア諸国連合)とも話し合い路線に転換した。
中国における南シナ海問題の権威の1人である呉士存中国南海研究院院長は、米国の「“過度に”頻繁な自由航行の示威」を抑制するように求めるとともに、中国は「“過度な”軍事的な建設を避ける」ことを提案している。
軍もこれ以上動くなと言っているのだ。
鄧小平は、経済を発展させ、国民の生活を改善することで国民の共産党に対する支持をつなぎとめようとした。
習近平は、ナショナリズムを活用し、
「富強の中国の復興」を内容とする「中国の夢」(その後、「人民の幸せの実現」が付け加えられた)を実現することで、共産党の統治の下支えを図ろうとしている。
ナショナリズムは自己主張の強い対外強硬姿勢となりがちだ。
しかし中国共産党の統治は、「経済の持続的成長」が止まれば、それで終わる。
グローバル経済の中で経済発展を続けようとすれば、平和な国際環境は不可欠であり、対外強硬姿勢は調整せざるを得ないのである。
だから調整の兆しを見せている。
だが、それが本当かどうかは、中国の国内情勢が決める。
■中国外交にも余裕はない
中国共産党の統治システムは、
トップに権力が集中しないとうまく回らない仕組みになっている。
習近平に権力を集中させないと中国の統治がうまくいかないので、昨年秋の党中央委員会において「習近平を“核心”とする党中央」と決めた。
しかし、肩書があれば何でもうまくいくというほど世の中は甘くはな
この「力」の内容は様々だが、一言でいえば物事を実現できる「力」のことだ。
私の判断では、習近平はこの「力」がまだ足りないように見受けられる。
中国は実に多くの問題を抱えており、それは改革を通じてのみ解決できる。
改革は必ず既得権益層の抵抗にあう。
それを突破する「力」が必要なのだ。
それは習近平に忠誠と協力を誓う人たちの数の多寡で決まる面がある。
だから今秋の第19回党大会において自派の数を増やしたいのだ。
もちろん「力」を削られる側は抵抗する。
中国共産党は、相当、緊張した状態に今ある。
そういうときには理性的な対外政策はやりにくくなる。
やはり強硬論が通りやすいのだ。
そうした国内の制約の中で、習近平は対外政策のかじ取りをしている。
その中でトランプが習近平に追い打ちをかければ、習近平は反撃するしかない。
米中関係は実に不確実なのだ。
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Yahooニュース 2/5(日) 11:54 遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20170205-00067372/
マティス国防長官日韓訪問に中国衝撃!――「狂犬」の威力
マティス国防長官の日韓訪問に衝撃が走った。
中国では連日のように特集番組を組み、アメリカこそが地域の平和を乱していると攻撃。
しまいにはCCTVにキッシンジャーを登場させて、アメリカを批判させる始末だ。
◆東北アジア安全保障を重視したトランプ政権
マティス国防長官が最初の訪問国として韓国と日本を選んだ。
トランプ政権の閣僚という観点から見ても、初めての外国訪問である。
おまけに国務長官ではなく国防長官が、最初に外国を訪問し、かつヨーロッパではなく韓国と日本を選んだという意義は非常に大きい。
トランプ政権のアジア太平洋地域に対する安全保障問題への関心の高さをうかがわせるからだ。
大統領選期間中、「世界の警察にならない」と何度も宣言することによって中国を喜ばせていたトランプ氏が、当選するや、矢継ぎ早にレックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官、あるいは新設した国家通商会議のピーター・ナバロ委員長など、錚々たる対中強硬派で布陣を揃えたことだけでも、中国にとっては十分に衝撃的だった。
加えて、政権誕生から2週間も経たないで国防長官が韓国日本を訪問するとは何ごとか。
その戸惑いようも、想像がつくだろう。
マティス国防長官は、2月2日に訪韓するなり、龍山(ヨンサン)駐韓米軍司令部を視察し、午後には政府ソウル庁舎と大統領府を訪問して、黄教安(ファン・ギョアン)大統領権限代行首相や金寛鎮(キム・グァンジン)国家安保室長と会談した。
3日には尹炳世(ユン・ビョンセ)外相や韓民求(ハン・ミング)国防相とも会談。
会談ではいずれも、アメリカが米韓同盟を重視していることを強調し、北朝鮮の脅威に対抗する固い意志に変わりはないことを確認。
また終末高高度防衛ミサイル(最新鋭迎撃ミサイル)THAADの年内配備も確認しあっている。
3日の午後には訪日し、安倍首相と対談した。
国防長官なので「表敬訪問」と位置付けながらも、事実上の日米(首脳級)対談で、10日からの日米首脳会談の準備段階の感がある。
安倍首相との会談では、韓国同様、日米同盟強化の重要性を強調し、尖閣諸島が日米安保第5条の防衛対象であることを明言した。
また、北朝鮮への対応とともに、中国の東シナ海や南シナ海における「力による」膨張に対する警戒感とさらなる協力を確認し合った。
◆中国の猛烈な抗議報道――キッシンジャーまで駆り出して
これに対して中国は尋常ではない抗議を表明し、中央テレビ局CCTVは連日マティス国防長官の訪韓訪日に関する特集番組を組み、1時間ごとに報道して、くりかえしアメリカとともに日本と韓国を批判した。
韓国に関しては韓国へのTHAAD配備を批判し、日本に関しては釣魚島(尖閣諸島)は「中国古来の領土」と、荒々しい語気で繰り返し主張した。
またマティス国防長官が在日米軍基地の経費負担増に関して持ち出さなかったことは、結局のところ
「安倍に日本自身が別の形で軍備を増強することを促し、自衛隊の軍事化を正当化する理由を与えた」
と、ほぼ八つ当たりだ。
北朝鮮の報道を引用しながら、
「朝鮮半島の不安定化をもたらしているのはアメリカであり、アメリカが半島から手を引きさえすれば、北朝鮮が核やミサイルの開発をする必要もない。
原因は全てアメリカにある」
「アメリカの武器商人のはけ口として、結局のところアメリカは世界のどこかに緊張を生んでいなければ、武器を使用する理由がなくなるので、韓国にTHAADを配備したり、大量の武器を売りつける」
などともしている。
一方では、日本(の安倍首相)がトランプ政権においては「日米同盟は軽視されているのではないか」と心配しているために、それを安心させるためにマティス国防長官がこんなに慌てて訪韓訪日をしたのだという分析も数多く見られる。
だからこの訪問は「安倍にとっての“定心丸”だ」というのもある(「定心丸」とは「心臓(精神)を安定させる丸薬」の意味)。
日本では韓国を最初に訪問したのは日本の国会日程の都合上という情報もあるが、中国では
「いまアメリカの同盟国にとって最も心配なのが韓国。
政権も不安定な上に、前政権を打倒するため日韓合意を覆し中国寄りになる可能性がる」
などと分析している。
ともかく、春節も明けやらぬうちに隣国に現れた「狂犬マティス」の威風堂々とした雄姿に中国は圧倒され、狼狽していることがうかがわれる。
動画で見られる報道のうち、安定的にネットで見られるものは多くないが、一例を挙げると以下のようになる(それでも画面が出て来なかったときはお許し願いたい。
しばらく待っていると出てくるものもあり、また▲印をクリックしないと始めないのもある。
タイトルが異なり内容が同じというものもあるかもしれないが、ネットでも見られそうな番組をいくつか拾ってみた)。
●「米新任国防長官本日訪韓:THAAD、軍事費、北朝鮮核問題などに関心」
●「米新任国防長官本日訪韓 マティスは朝鮮半島情勢の実態を理解するため」
●「米新任国防長官訪日:マティス日本を落ち着かせるため アメリカのアジア太平洋戦略の利益を強固にすることが意図」
などがある。
動画ではない情報は多すぎるが、いくつかの例を挙げると:
●「駐在米軍費用の分担がマティス訪日の焦点:韓日を引き寄せて中国に対抗」(新華網)
●「マティス訪日は釣魚島“共同防衛”のため」(全文)(中国政府の参考消息)
●「米国防長官マティスは、なぜ韓国を先に日本を後に訪問したのか」(日本の報道を紹介しつつ)
●「米国防長官訪日 安倍が“定心丸”を呑みたいため」
●「米国防長官マティス訪日は“定心丸”のため:100%日本と肩を並べて」
などなどがある。
アメリカこそが地域の平和を乱していると批判を強める中、CCTVは最終手段として、キッシンジャー元国務長官を取材して「“一つの中国”原則は米中関係の基礎であり、不変のものだ」という主旨のことを言わせている。
特に今年はキッシンジャー氏自身が手掛けた上海コミュニケ(1972年)発表から45周年記念の年。
中国としてはワラをもつかむ気持ちだろう。
キッシンジャーが長生きで良かったと中国は思っているにちがいない。
特集番組では、たとえば韓国にいる「米軍駐留反対派」や「THAAD配備反対派」などの抗議デモをクローズアップするなど、選定的に報道している。
これらはいずれも、如何に中国が大きな衝撃を受けて動転しているかを示すもので、その意味ではトランプ政権の東アジア戦略は、今のところ功を奏していると言えよう。
「狂犬」の威力は大きい。
遠藤誉:東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
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東洋経済オンライン 2017年02月20日 尾河 眞樹 :ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員
http://toyokeizai.net/articles/-/158613
トランプ政権により不利益を被るのは中国だ
米国の予算教書発表後は一段のドル高円安へ
「他国は資金供給と通貨切り下げで有利な立場にある。
日本は通貨安誘導を繰り広げ、米国はばかを見ている」
トランプ米大統領がこのように述べ、直接的に日本の為替政策を批判したのは1月31日のこと。
それからたった10日後の2月10日に行われた日米首脳会談では、意外にも米国から日本に対して通商・為替政策に関する注文はいっさいなかった。
そればかりか、同首脳会談は日米両国の友好関係を世界に向けて明確にアピールする場となった。
共同声明には、
(1)日米同盟:尖閣問題や北朝鮮問題など安全保障上の問題に関する米国のコミットメント、
(2)日米経済関係:金融・経済分野における利益共有や「3本の矢」の推進、日米2国間でのTPP(環太平洋経済連携協定)に代わる貿易・投資の枠組みの検討、
(3)本年中のトランプ大統領の訪日、
などが盛り込まれた。
また、麻生太郎副総理とペンス副大統領をトップとする「日米経済対話」の新設で合意し、
(1)財政政策、金融政策などマクロ経済政策の連携、
(2)インフラ、エネルギー、サイバー、宇宙などの分野での協力、
(3)2国間の貿易に関する枠組み、
の3項目について協議することが決まった。
■「インフラ投資銀行」の構想具体化に注目
トランプ大統領によるツイートや気まぐれな発言は今後も続きそうだが、それとは別に、麻生副総理とペンス副大統領といういわば政策のプロ同士で協議できる場が確保できたことは、為替市場にとっても不要なボラティリティーが避けられるという意味でプラスである。
今回の会談は日本政府にとって満額回答を得た格好であり、120点の結果だったといってよいだろう。
警戒感から、同首脳会談前にはドル円は一時1ドル=111円台まで円高が進んだが、週明けには安心感が広がり、114円台まで回復する場面も見られた。
同首脳会談ではまだ不在だったスティーブン・ムニューチン財務長官も、13日にようやく米議会で就任が承認された。
ムニューチン財務長官の就任によって、財政政策の策定が今後急速に進展する可能性もある。
2~3月中にトランプ政権から議会に提出される予算教書の内容に、今後市場関係者の注目が集まるだろう。
また、インフラ投資を促進するための「インフラ投資銀行」について、トランプ政権のスタッフで最初に設立の方向性を示したのがムニューチン氏だったことを考慮すれば、ムニューチン財務長官の就任によって、今後、インフラ投資銀行の構想は具体化すると考えられる。
■米国の景気拡大とインフレでドル円は120円へ
トランプ大統領は2月9日、法人税制の見直しについて「驚異的な」計画を2~3週間以内に発表すると述べた。
スパイサー報道官も、「1986年以降で最も包括的な法人税制・個人所得税制を作成中」であることを明らかにしている。
同報道官は、
「われわれが海外との競争に直面しているのは米国の税制が理由だ。
米国の税制は、国内にとどまりたくない企業に有利なもので、大統領もその点を認めている」
との見解を示した。
これを見るかぎり、現在策定中の税制案は、ライアン米下院議長が支持している「国境税調整」をベースにした内容になるのではないかと思われる。
共和党案の国境税調整は、
(1)米国への輸入品に対して一律20%の税金を課す、
(2)米国から輸出して得た利益については課税が免除される、
(3)国内から上がった利益にのみ20%の法人税がかかる、
という内容で、
★.事実上の関税引き上げと、
★.輸出の免税、
★.法人税率の引き下げ(35%→20%)
となる。
これに加え、所得税減税なども検討されており、実現すれば米国に景気拡大とインフレをもたらす公算は大きい。
米金利上昇に伴い、今後緩やかにドル高・円安が進行すると見ており、ドル円の2017年末予想値は120円に置いている。
日米首脳会談の結果をみれば、米国が日本の為替政策を再び直接的に批判し、ドル安誘導する可能性は当面低いと想定される。
しかし、それでもトランプ政権の政策によって、間接的に円高が進行するリスクもあるため、警戒は必要である。
そうした点で、筆者が最も警戒しているのは、中国のリスクだ。
■トランプ政権の政策で、最も不利益を被るのは中国だ
第一に、中国にとって最大の輸出先である米国で国境税調整が実施されれば、中国経済にとっては明らかにマイナスとなる。
中国の輸出先として、米国のシェアは現在「17%」と、国としてはトップである。
地域としては欧州連合(EU)の16%がこれに続くが、
その米国で中国のすべての製品に対して事実上一律20%の関税が課されるとなれば、中国の輸出には多大なインパクトを与えよう。
中国経済にはようやく回復の兆しが見えつつあるが、再び腰折れするようなら投資家心理を冷やす要因となるだろう。
第二に、トランプ政権になって初めての「為替報告書」が4月に公表されるが、ここで米財務省がはたして中国を「為替操作国」に認定するかどうかにも警戒したい。
トランプ大統領は選挙中、繰り返し「中国を為替操作国に認定する」としてきた。
中国は現在、資本流出に歯止めをかけようと人民元「買い」介入を実施しており、このため中国の外貨準備高は減少し続けている。
自国通貨買いを行っている国を「通貨安誘導で為替操作国に認定する」のは現実的ではないが、今回の報告書で中国と韓国を為替操作国に認定するのではないかとの報道も一部にある。
万一そのような事態になれば、一時的とはいえ、人民元の急騰とともに円高が進行する公算が大きい。
第三に、米国の利上げによって一段とドル高が進行した場合、
対ドルで人民元安が加速すれば、中国からの大規模な資本流出を促す可能性がある点だ。
1月末時点の中国の外貨準備高が3兆ドルを割り込んだが、このまま減少し続ける中で人民元安・ドル高が進行した場合には、
「中国当局は人民元相場をコントロールできていないのではないか」
「中国からの資本流出に歯止めがかからなくなるのではないか」
といった懸念がクローズアップされ、2015年8月に見られたような中国株の急落につながる可能性も捨てきれない。
この場合、2015年もそうだったように、リスクオフによって一時的とはいえドル円でも円高が進行する可能性はあるだろう。
■円高進行時には対策が限られることに注意
日本のリスクは、上述したような円高に歯止めをかける策が明確には見当たらないことだ。
円高が進行したからといって円売り介入に踏み切れば、それこそ日本が「為替操作国」となる。
では、日本銀行が追加緩和をできるかというと、マイナス金利の深掘りや、10年債利回りのターゲット引き下げなどは、日本の金融株にマイナスの影響を与える可能性が高く、実施しにくいのが実情だ。
では量的緩和の拡大に踏み切るかといえば、国債の買い入れに限界があるからこそイールドカーブ・コントロールを導入したにもかかわらず、再び「金利」から「量」に政策の軸足をシフトさせることは、政策の持続性を考えれば困難だろう。
足元、米国のインフレと日本のイールドカーブ・コントロールが奏功し、ドル円は堅調地合いを保っている。
この流れは基本的に変わらないと見ており、ドル円は2月中は110~115円のレンジ相場を続けたあと、予算教書などトランプ政権の財政政策が公表されれば、期待インフレ率の上昇とともに緩やかに115円を超えるだろう。
ただ、万一海外の政治要因や何らかのショックで急速に円高が進行し、100円を割り込むなどした際に、日本政府や日銀が講じられる対策が限られる点には、注意しておくべきかもしれない。
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【2017年 大きな予感:世界はどう変わるか】
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