『
CNN.co.jp 4/27(木) 14:26配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170427-35100436-cnn-int
北朝鮮高官「核実験止めぬ」、CNNが単独インタビュー
平壌(CNN)
北朝鮮の政府高官は27日までにCNNのインタビューに答え、同国の核実験について、米国が「侵略行為」とみなされる動きを続ける限り「決して止めることはない」と明言した。
6回目となる核実験をいつ実施するかは明かさなかったものの、外的な要因で左右されるものではないと語った。
26日に行われたインタビューに答えたのは、北朝鮮の社会科学院人権研究所所長を務めるソク・チョルウォン氏。
CNNに対しあらゆる問題についてコメントする権限を与えられた同氏は
「核実験は、核戦力の増強に向けた我が国の継続的な取り組みにおける重要な部分を占める」
「米国が侵略という敵対行為を続ける限り、我が国が核とミサイルの実験を止めることは決してない」
と述べた。
米国のトランプ政権は空母や原子力潜水艦を含む大規模な戦力を朝鮮半島周辺に展開している。
こうした状況下で新たな核実験が行われれば、地域の緊張は一段と高まることが予想される。
ソク氏はまた、25日に北朝鮮軍が実施した大がかりな実弾砲撃演習に言及し「米国による侵略行為に直接反応したものだ」と指摘。
トランプ米大統領への警告だったとの見方を示した。
現在北朝鮮に拘束されている米国籍の3人について質問されると、ソク氏は他の拘留者と同じ状態でとどめ置かれているとだけ答えた。
脱北者が声明で言及した強制収容所の存在については、これを強く否定した。
そこには子どもを含む12万人が収容され、過酷な扱いを受けているとされている。
ソク氏は
「あの人々(脱北者)は脱走した犯罪者で、金をもらってうそを言う。米国とそれに従う国々がそうさせているのだ」
と主張。
その上で
「国連は人権問題を政治利用したがっている。我が国の内政に干渉する口実としたいのだ。彼らの報告は捏造(ねつぞう)以外の何物でもない」
と批判した。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2017.4.25 上久保誠人:立命館大学政策科学部教授
http://diamond.jp/articles/-/125955
米国の北朝鮮攻勢はトランプの「孤立主義」と矛盾しない
●北朝鮮のミサイルが、これまでの地政学の概念を揺るがせている 写真:労働新聞(電子版)より
米国は4月6日、シリア空軍基地へのミサイル攻撃を実施した。
ドナルド・トランプ大統領が習近平中国国家主席を迎えて「米中首脳会談」の最中であった。
米国は続いて、アフガニスタンのISIS(イスラム国)に非核兵器としては最大級の威力がある大規模爆風爆弾(MOAB)による攻撃を行った。
さらに、大統領は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と北朝鮮に強硬姿勢を示し、空母カールビンソンを朝鮮半島近くに配置した。
トランプ大統領は就任前から「アメリカファースト」を標榜し、「外国への軍事介入は馬鹿げている」と主張する「孤立主義」の立場を打ち出していた(本連載2017.1.24付)。
しかし、大統領就任後、その主張とは真逆に見える「軍事介入」を次々と展開し始めている。米国や日本の様々なアナリストが大統領は変わったと指摘している。
だが、本稿は「4D地政学」という新たな概念を提示し、トランプ大統領が「アメリカファースト」の姿勢を全く変えていないと主張する。
そして、今後の米国の動きについては「孤立主義」を想定し、最悪事態に備えるべきであるとあらためて強調する。
■「地理的な環境が国家に与える政治的軍事的な影響」を分析してきた地政学
この連載では、国際政治の分析枠組の1つとして「英米系地政学」を用いてきた。
これは、英国の地理学者ハルフォード・マッキンダー卿と米国の学者ニコラス・スパイクマンが示した、
★.海洋国家(シーパワー)が
ユーラシア大陸中央部(ハートランド)に位置する大陸国家(ランドパワー)の拡大を抑止するための理論
である。
具体的には、ハートランドの周縁に位置する地域を「リムランド」と名付ける。
リムランドには、フランス、ドイツ、東欧など欧州諸国、中東、インド、東南アジア、中国沿岸部、韓国などが含まれる。
ランドパワーがリムランドを統合すると、シーパワーにとって巨大な脅威となると警告する。
逆にシーパワーは、リムランドを形成する国々と共同して、ハートランド勢力を包囲し、その拡大を抑止すべしと強調する(2010.12.14付)。
この連載では、例えば日本、米国、英国など海洋国家(シーパワー)の戦略は、経済関係構築にも当てはまると考えた。
経済成長著しい中国沿岸部は、「リムランド」の一部と見なすことができる。
これをシーパワーが取り込むとは、
「積極的に中国の経済発展に関与することで、中国を欧米ルールに従う市場経済圏として発展させること」であり、
「中国を資源ナショナリズムに走らせず、海洋権益に手を出すことのデメリットを認識させる」
ということになるからだ。
急拡大する中国では「軍事的な覇権国家」と「市場経済のルールの枠内での経済大国」の2つの方向性がせめぎ合っている。
シーパワー・日本としては、中国がランドパワー化して海洋進出するのはなんとか避けねばならない。
それには、日本が積極的に中国の経済発展に関与することで、中国沿岸部の都市部をハートランドから切り離し、経済的に「リムランド化」するというのが、本連載の主張であった(2015.12.8付)。
さて、地政学とは「地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的な影響を巨視的な視点で研究するもの」と定義できる。
例えば、中国の軍事的・経済的な急拡大は、中国と地理的に近接している日本にとっては脅威だが、地理的に遠い英国にとっては、「新たなビジネスパートナー」の登場であり、脅威とはならない。
例えば、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対して、なぜ日本は警戒して参加できず、英国は躊躇なく参加できたかは、地政学で説明可能である(2015.4.2付)。
スパイクマンは
「地理とは外交政策において最も基本的なファクターである。
何故ならば地理は不変であるからである」
という言葉を残している。
地政学において、国家間の関係は平面の地図上で「固定的」なものである。
そして、固定的であるがゆえに、国家間の関係は「運命的」なものとみなされる。
例えば、日本と米国が激突した「太平洋戦争」は、地政学的にみれば、不可避な運命であったと結論付けられる(フリーマン, 2014)。
■「空間」における国家間の「動的」な距離感を説明する「4D地政学」
地政学は、スパイクマンが「リムランド理論」を提示した1943年から約70年以上、基本的に新たな理論が提示されていない。
それは、地政学の国際関係を長期的な流れで読み解く理論としての確かな有効性を示している。
ゆえに、国際関係の劇的な変化に対して、地政学がもてはやされ、巷には「地政学本」が溢れている。
一方、地政学の限界を批判するアナリストは少なくない。
トランプ大統領の登場による国際関係の変化は、従来の地政学では説明しきれないものとなっているのも事実だからだ。
だが、本稿では「4D地政学」という新たな概念を提示して説明を試みる。
4Dとは、要するに「四次元」という意味である。
端的にいえば、これまで地図という「平面」の上で「固定」された国家の位置関係から国際関係を考察してきた地政学に、「空間」という新たな分析枠組を付け加えることである。
そして、空間における国家間の位置関係は不変で固定的なものではなく、
国家の持つ軍事的技術力の進歩によってグニャリと曲がって変化する「動的」なものと考える。
これが「4D地政学」である。
●アルフレッド・ウェゲナー『大陸と海洋の起源』第4版(1929年)より
それは、かつて地球上で、1つの大陸がプレートの移動とともに分裂して、現在の形となったという「プレートテクトニクス理論」の真逆の働きが、国家の軍事的技術力向上によって、空間がグニャリと曲がることで起こるイメージといえるだろうか。
もちろん、航空機、ミサイル、ロケットなどの登場は、地政学を無力化したという、よくある批判は承知している。
しかし、今回の北朝鮮情勢は、地理的な要素を排除して考えるべきではない。
米国と北朝鮮の軍事的対立は、地理的条件に関係なく起こったというよりは、北朝鮮のミサイル開発が次第に進むことで、遂に
★.米国を直接攻撃できるところまで「空間」における距離感を縮めていった
ことで、米国が動かざるを得なくなったために起こったと考えるべきだからだ。
従来の地政学では、米国は「New World」と呼ばれ、どの国からも直接攻撃されない離れた位置にあることで、政治的・軍事的に圧倒的な優位性を持っているとされてきた。
●ニコラス・スパイクマン『Macedonian Academy of Sciences and Arts』より
例えば、東西冷戦の1982年、ロナルド・レーガン大統領はパーシングII(弾道ミサイル)とトマホーク(GLCM、巡航ミサイル)を西ドイツ、英国、イタリア、オランダ、ベルギーなどに配備した。
これはソ連を恐怖のどん底に陥れ、東西冷戦を終結させる一因となった。
ミサイルの欧州配備により、ソ連は欧州戦域の主戦場になるのに対し、米国は戦場から全く安全な聖域の位置にあるという「地理的な非対称性」により、米国がソ連に対して圧倒的な軍事的優位性を持つことになったからである。
逆に言えば、
★.米国の圧倒的な地理的優位性が崩れる可能性があるとすれば、それは米国を直接攻撃できる手段を持つ国が出現する時である。
その事例が、米国と至近距離のキューバにソ連がミサイルを配備しようとして、米国をパニックに陥れた、1962年の「キューバ危機」である。
そして今回、北朝鮮はミサイル開発によって米国に対する直接攻撃の可能性を高めたことで、米国の圧倒的な地理的優位性を切り崩すことに成功したといえる。
ただし「キューバ危機」などと異なるのは、「平面上」での「固定的」な距離を埋めることが不可能だった北朝鮮が(例えば、北朝鮮がカリブ海に核配備することは不可能だ)、軍事技術力を強化することで、「空間」をグニャリと曲げることに成功し、米国との距離感を埋めたということである。
■「4D地政学」で北朝鮮のミサイル開発と米国の軍事行動を考える
●出典:平成27年版防衛白書より
具体的に北朝鮮のミサイル開発を振り返ってみる。
北朝鮮は1993年に準長距離弾道ミサイル「ノドン」を日本海に向けて発射して以来、次々とミサイル実験を行なってきた。
そして、2012年には射程1万キロメートルの大陸間弾道弾(ICBM)「テポドン2号」を発射実験するなど、着実にミサイルの射程距離を伸ばしてきた。
また、北朝鮮は2006年以降核実験を5回行っている。
ミサイルに核弾頭を搭載する能力を持つのは時間の問題とみなされるようになってきた。
今年2月、トランプ大統領と安倍晋三首相の日米首脳会談時に、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。
次は、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射ではないかとささやかれるようになった。
そして、北朝鮮の建国指導者金日成の生誕日「太陽節」の4月15日の前後に、6回目の核実験を実施するとの情報が流れた。
北朝鮮が米本土に届くICBMを完成させることが、現実の危機と認識されるようになってきたのだ。
トランプ政権が北朝鮮に対する軍事行動を決断したのは、この時点である。
「4D地政学」で北朝鮮の行動を評価すれば、「ミサイル技術の向上で米本土を核攻撃できる能力を持って、米国を対話の場に引きずり出す」という戦略には、極めて高い合理性があったといえるだろう。
もちろん、米国を引きずり出すことに成功したまではいいが、今後も北朝鮮の思惑通りにいくかどうかは全く別の話である。
■あくまで「中国主導の北朝鮮問題解決」が米国のファーストチョイス
今後の焦点は、米国が北朝鮮を先制攻撃するかどうかである。
既に、米国や日本の多くのアナリストが論じているように、現時点では先制攻撃の可能性は低いだろう。
北朝鮮は、多連装ロケット砲や長射程火砲など約1万発の火砲を38度線に集中させてソウルに向けている。
米国が先制攻撃すれば、北朝鮮が報復し、ソウルが「火の海」になる可能性がある。
攻撃開始前には、ソウルに在住する「非戦闘員退避」が不可避であるはずだが、まだ開始されていない。
また、北朝鮮の報復攻撃に対する在韓米軍の防衛体制が整っているともいえない。
高度ミサイル防衛システム(THAAD)は使用可能な状況ではない。
現時点で西太平洋に展開する空母がカールビンソンだけであり、先制攻撃にはいかにも戦力不足でもある。
★.現在のところ、米国の軍事行動は威嚇の段階にすぎない
ことを示している。
一方、北朝鮮への軍事的展開の前に行われた、シリア空軍基地への空爆との関連性はどうか。
これは結果論として、ISISと対峙するアサド政権を弱体化させるなど、空爆後の次の一手をどうするかの展望が見えず、トランプ政権の中東戦略の欠如を指摘されてしまっている。
ただし、米中首脳会談の最中に空爆を実行したことで、トランプ大統領は習近平主席に対して「本気度」を見せつける効果があったのは間違いない。
首脳会談で、トランプ大統領は習近平主席に、北朝鮮が進める核開発を抑えるよう、中国が真剣に取り組むことを要求したという。
そして、中国が北朝鮮を説得できなければ、米国単独で北朝鮮の核施設を先制攻撃することも辞さないと伝えた。
その上で、カールビンソンを主体とする空母機動部隊の北朝鮮近海への移動を、実際に開始したのである。
現在、中国は北朝鮮が核・ミサイル開発を断念するよう、これまでとは比較にならない真剣さで説得しているという。
金正恩委員長に亡命を促しているという情報もある。
つまり、米国の軍事展開は、中国が説得に失敗したらなんでもやるぞという牽制が目的であり、あくまで「中国主導での北朝鮮問題解決」が、米国のファーストチョイスなのである。
■「アメリカファースト」の姿勢は不変、日本は最悪事態に備えるべきだ
「4D地政学」が明らかにすることは、トランプ政権がこれまで主張してきた「孤立主義」的な考え方が、実はなにも変わっていないということだ。
米国が動いたのは、北朝鮮のミサイル開発で「空間」における距離感が縮まり、米本土が攻撃される危機が現実となってきたからである。
そして、その解決はあくまで中国主導と考えている。
要するに「アメリカファースト」そのものなのである。
そう考えると、この連載が主張してきたように、米国が孤立主義的になっていく中で、日本も東洋の一小国として孤立してしまう最悪の事態を想定しておくべきではないだろうか(2016.11.12付)。
端的にいえば、中国主導による北朝鮮の核廃絶、金正恩委員長の亡命、朝鮮半島の南北統一が実現し、在韓米軍が撤退する。
日本は中国の軍事的・経済的な膨張に、朝鮮半島という緩衝材なしに対峙しなければならなくなる。
更に、トランプ政権と中国の「ディール」による、太平洋二分割の新型大国関係が確立し、在日米軍がグアムまで撤退する。
この悪夢のようなシナリオを、決して想定の範囲から排除してはならないのではないだろうか。
参考文献:ジョージ・フリードマン(2014)『100年予測』早川書房
●本連載の著者、上久保誠人さんのの共著本が好評発売中です。『やらせの政治経済学:発見から破綻まで』(宮脇昇他編、ミネルヴァ書房刊)第3章「選挙とやらせと財政再建:英国・キャメロン政権と安倍政権の比較」を担当しています
』
『
アゴラ 4/27(木) 16:59配信 久保田 博幸
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170427-00010007-agora-int
北朝鮮の地政学的リスクは後退したのか
4月25日に北朝鮮は朝鮮人民軍創建85年の節目を迎えた。
このような節目に北朝鮮はミサイルを発射したり、核実験を行ってきたことで、緊張が高まっていた。
特に今回は米国のトランプ大統領が、この北朝鮮に対して強く非難しており、米原子力空母カール・ヴィンソンを中心とした空母打撃部隊を朝鮮半島に向かわせている。
23日にはカール・ヴィンソン空母打撃群と海上自衛隊がフィリピン海で日米共同巡航訓練を開始した。
また、米海軍の巡航ミサイル原潜ミシガン(トマホーク巡航ミサイル搭載)も韓国に寄港した。
25日には核問題を巡る6か国協議の日米韓首席代表が都内で会合を開いたが、すでにトランプ大統領は24日に中国の習近平国家主席との電話協議を行い、トランプ大統領は安倍首相とも電話協議を行った。
北朝鮮は核実験を強行する姿勢を崩しておらず、もしこのタイミングで核実験やミサイルを発射するなどした場合に、状況次第では一触即発の事態も危惧される。
ただし、いまのところは新たな朝鮮戦争を引き起こすようなことはないとみられている(今回は大規模攻撃訓練に止めた模様)。
過去にも米国は北朝鮮への攻撃を計画したことがあったようだが、特に北朝鮮と韓国との陸上戦となれば多くの犠牲者が出ることが想定されるため、さすがにそこまで踏み込むことは現状は考えづらい。
しかし、何かのきっかけで戦闘が始まるリスクは存在する。
カール・ヴィンソンやミシガンの存在も抑止効果が目的ではあろうが、何かことが起きれば軍事行動に移れることになる。
北朝鮮の問題は北朝鮮そのものが厚いペールで覆われて動きが見づらく、米国側もカール・ヴィンソンなどの軍事行動が伴っていることで秘密のベールに覆われ、実際に何を意図して何をしようとしているのか見えない部分も多い。
しかし、米国サイドは本格的な交戦を考慮しているというよりも、北朝鮮に自制を促すよう圧力を掛けているとみられる。
北朝鮮に対しては関係の深い中国やロシアに間を立ってもらうことも意識され、それが米中電話協議となったが、27日からは日ロ首脳会談がロシアで開催される。
つまりこれに向けて安倍首相はロシアに向かう予定であり、今のところキャンセルされている様子もないため、これをみても日本政府は北朝鮮を巡って情勢がここ数日で大きく変化するとは見ていないのではなかろうか。
それでも北朝鮮を巡る地政学的リスクは当面、後退することはないであろう。
ひとまずフランス大統領選挙では最悪の事態は回避され、欧米市場でもリスクオフの反動が起きている。
しかし、アジアでは北朝鮮と米軍のにらみ合いが今後も続くとみられ、見えないリスクを意識せざるを得ない。
』
『
ニューズウィーク日本版 4/27(木) 18:30配信 パトリック・ハーラン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170427-00191593-newsweek-int
サイコロを振って北朝鮮問題を考える(前編)
<北朝鮮への先制攻撃を辞さない構えを見せる米軍。その成否の可能性をサイコロを使った「ウォーゲーム/机上演習」で考えよう>
サイコロを持って、北朝鮮問題を考えよう。
ペンス米副大統領が日本を訪問し、繰り返し強硬な発言で北朝鮮を牽制した。
原子力空母カールビンソンが方向転換をして北朝鮮近海に向かっている。
米政府は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と公言して武力行使も辞さない姿勢を強調しており、先制攻撃をする可能性が1994年以来最も高い。
さて、なんで「今でしょ!」?
★.一番シンプルな説明は"トランプ非常識説"だ。
ロシアの選挙操作疑惑、側近のスキャンダル、オバマケア(医療保険制度改革)廃止案や入国禁止令の失敗などなどで叩かれっぱなしのドナルド・トランプ大統領はシリアへの空爆やアフガニスタンでの最強爆弾(MOAB)投下で、就任してから初めて評価されたのだ。
バカの一つ覚えで、低迷する支持率を回復するために北朝鮮への先制攻撃に踏み切るはず。
それが非常識人としてのやり方だろう
――これはアンチトランプの仲間からよく聞く陰謀説だが、僕はこれだけで議論を片付けたくない。
国際関係理論とは、行為主体がそれぞれの自己利益のために合理的に動く前提で考えるもの。
北朝鮮が金正恩政権の存続のためにミサイルや核を開発し続けるのも、中国が北朝鮮の崩壊や朝鮮半島の統一を防ぐために石油の輸出を止めないのも、合理的な判断と考えられる。
正しいとは言わないが、その言動の理由を理解できる。
普段からいくら非常識っぽいトランプ政権であっても合理的な計算の下で動くはずだという前提で、先制攻撃を推進する側の主張を、反対する側が理解する努力は大事だ。
そのために役立つのはサイコロ。
軍事アナリストや戦略家は他国が持っている選択枝を考え、それぞれの行動が選ばれる確率を推測したうえで、自国の行動とその結果をシミュレーションするのだ。
このプロセスはよくウォーゲーム(War Game/机上演習)と呼ばれる。
ゲームといっても国民の命がかかる政策につながる、とても深刻な精査方法でもある。
今回はサイコロを手に、ちょっとしたウォーゲームごっこで先制攻撃の意味を探ろう。
【参考記事】北朝鮮危機のさなか、米空軍がICBM発射実験
まず、先制攻撃の成否を考える。
もちろん、さまざまなやり方や狙いは考えられる。
北朝鮮が報復攻撃できないほど、移動式ミサイルなども含めて軍の施設を徹底的に破壊する大規模な攻撃もあれば、先日のシリア爆撃と同じような小規模の攻撃もありうる。
ここでは後者のほうに絞って考えよう。
これは正確かつ限定的な攻撃をすることで、民間人の被害を少なくし、金正恩に「報復攻撃をしない」という選択肢を残すことを意味する。
「核やミサイルの開発は許さない」と意思表示をしながら、政権の存続も許し、戦争を避けるのが理想的な落としどころとなる。
では、その作戦が成功するためにはどのような条件が揃わなければならないのか。
◆北朝鮮のミサイル発射や核実験の場所が衛星写真などで把握できる
◆そのターゲットを巡航ミサイルなどで正確に攻撃できる
◆(これが一番きわどいところだけれども)攻撃を受けても報復攻撃をしないことを、金正恩が選択する
◆攻撃後に、金正恩政権が崩壊したり、権力争いや内紛に陥ったりすることなく、核兵器や核物質をしっかり管理できる状態を保つ
◆今後、北朝鮮がミサイルや核の開発を放棄する
こういった条件が揃ったら、成功どころか、大成功とみなしていいでしょう。
もちろん、これは極めて短絡的なリストだ。
実際に先制攻撃を行うなら100倍も複雑で難しい条件になるはずだが、僕らは「ごっこ中」だからこれぐらいにしよう。
それでは、それぞれの項目に確率をつけてサイコロを投げよう。
例えば成功率が50%だったら、サイコロの目で1~3が出たら成功で、4~6が出たら成功と考えるのだ。
でもせっかくだからここでは極端に楽観的な試算で、どれにおいても85%ぐらいの確率で成功すると設定しよう。
つまり、サイコロの目が1~5なら成功となり、6が出た場合は失敗だ。
もちろん、項目1つ1つに合わせて毎回サイコロを投げることになる。
上記のリストだと5回投げる。
1回でも6が出たら失敗になる。
この計算だと、成功する可能性は十分なように感じるかもしれない。
自分のカジノを破産させたとはいえ、トランプはギャンブルが好きそう。
もしかしたら、賭けに出るかもしれない。
【参考記事】英「ロシアに核の先制使用も辞さず」── 欧州にもくすぶる核攻撃の火種
ただし判断する前に、先制攻撃が失敗した場合の結果も考えないといけない。
◆北朝鮮が在韓米軍、在日米軍への報復攻撃をする
◆北朝鮮が韓国や日本の民間人への報復攻撃をする
◆アメリカ VS 北朝鮮の戦争になる
◆アメリカ+韓国+日本 VS 北朝鮮の戦争になる
◆アメリカ+韓国+日本 VS 北朝鮮+中国の戦争になる
◆アメリカ側が戦争で"勝利"しても
――北朝鮮の核兵器が海外へ流出する
――北朝鮮で内紛が始まる
――北朝鮮から難民が大量に出て韓国や中国も不安定になる
これらも楽観的にサイコロを投げてみてもいいが、1つでも6が出た場合、大惨事になる。
いろいろな試算はあるが、戦争になったら100万人単位で犠牲者が出る事態はほぼ避けられない。
そんな危険な賭けになど出たくないだろう。
ただ、ここがポイント。
先制攻撃をしなくてもサイコロを投げ続けないといけない。
というのは先制攻撃をしなかった場合でも、さまざまな選択肢と可能性が残っているからだ。
代替案の成果も保証できないから、先制攻撃以外のやり方も結局、一種の賭けになる。
先送りしたときのシミュレーションは次回に取っておこう。
サイコロを持ったまま、続けてお読みください。
<後編(28日アップ予定)に続く>
【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>
』
_