2017年4月11日火曜日

中国(34):密告制度復活、文化大革命時代へ逆戻り?

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 中国で密告制度が復活したという。
 習近平の締め付けが厳しくなってきているということだが、それは中国の社会状況が非常に危険なレベルにはいりつつあるということでもある。
 習近平が「共産党最後の指導者」という先だってのメデイアの発表が実際化するかもしれない。
 文化大革命の時代ならいざしらず、かくも中国人観光客が世界に出ている現状でスパイ探しを密告制度にしても益はないだろうと思うのだが。
 外国人スパイというのも、嫌がられる中国を宣伝するようなものになると思われるが。


[北京 10日 ロイター] 2017年4月10日(月)17時57分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7366.php

北京市、外国人スパイ取り締まり強化へ 
情報提供に報奨金

中国の北京市の国家安全局は10日、外国人スパイに対する取り締まりを強化し、スパイとみられる人物を通報した市民に1万─50万元(1500─7万3000ドル)の報奨金を与えると発表した。国営メディアの北京日報が報じた。

 同紙は、外国人スパイを防ぐために「緊急に」必要とされる新たな対策は、中国の改革や世界への開放の不幸な副作用とした上で、
 「外国の情報機関やその他の敵対勢力は、潜入や分断、破壊活動を通して我が国を妨害し、機密情報を盗んでいる」
と述べた。

 同紙によると、中国の国益を損ねる目的で国営機関の職員に協力したり、背信行為をけしかけたり、国家機密を入手しようする行為などが、報告すべきスパイ行為だという。



Record china配信日時:2017年4月10日(月) 18時50分
http://www.recordchina.co.jp/b159058-s0-c10.html

北京市が市民によるスパイ活動情報の通報を奨励、
最高800万円の賞金制度導入―英メディア

 2017年4月10日、英BBCの中国版サイトは、北京市政府がスパイ活動の通報に最高50万元(約800万円)の賞金を出す法規を発布したと報じた。
 同市が10日に発布した
 「公民による諜報行為の手がかり通報奨励弁法」では、
★.電話、郵送、直接窓口へ赴くといった方法による国家安全局への諜報活動の情報提供が奨励され、
★.1万元(約16万円)から50万元まで3段階の報奨金制度
が設けられている。
 また、通報者を身の危険から守ることも約束される一方、故意に他人を陥れたり、虚偽の情報をでっち上げた場合には法的責任が追及されるという。

 この法規について地元メディアの新京報は
 「反スパイ活動において、国の安全を守る市民の積極性と自覚性を呼び覚まし、
 スパイに対抗する鋼鉄の長城を構築していくことが急務になっている
と伝えている。

 記事は
 「中国では習近平(シー・ジンピン)氏が国家主席に就任して以降、
 一連の法規を出して国内外からの脅威に対する安全保障体制を強化している」
とし、2015年には全国人民代表大会(全人代)が中国初となる「反テロリズム法」を批准したことを紹介した。

 一方で
 「米国を中心とする西側諸国からは、中国が反テロリズムを大義名分として市民の言論や集会、宗教の自由を制限するのではないかとの懸念が出ている。
 特に新疆ウイグル自治区では大量の武装警察官の配備や、今年2月には自治区内のすべての自動車に対してGPSシステムの設置を強制するといった厳しい管制が敷かれている」
と伝えた。



JB Press 2017.4.24(月)  安田 峰俊
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49788

外国人は我慢しろと?
「鎖国」が進む中国社会
覚悟が必要、支配を拒めばこんなに不便だ


●中国の高速鉄道。中国人は外国人よりもスムーズにチケットを買える。ただし移動の履歴をすべて当局に管理されることになる(資料写真)

 今春、江戸時代の日本の外交姿勢をたとえる「鎖国」という言葉を教育指導要領に含めるか否かで世論が沸騰したことは記憶に新しい。
 実際はオランダや中国と交易関係があったと解釈する学問上の定説と、「鎖国」という単語に慣れ親しんだ世間の感覚とのズレが議論の原因だった。

 他方、現代の中国においても「鎖国」が進んでいると聞けば、やはりピンとこない方が多いことだろう。
 2016年の中国の貿易総額は3兆6850億ドルで世界2位、一帯一路政策を提唱する中国首脳部は毎日のように各国の首脳とよしみを通じ、国際社会におけるプレゼンスの拡大を図り続けている。
 現在、中国はボリュームの面においては史上最も海外との接触が多い時代を迎えていると言っていい。

 だが、中国を訪れる外国人の肌感覚として「鎖国」はリアルな言葉だ。
 すなわち、われわれ外国人の多くは、現代中国の一般市民が当たり前のように享受している便利なサービスの多くを利用できず、また自国で使っている多くのサービスが中国では使えないためである。
 しかも、この不便さは中国の社会が「遅れている」から発生するのではない。
 中国では(特にITの分野では日本以上に)先進的でスマートなサービスが数多く提供されているにもかかわらず、これらがほぼ意図的に中国国民のみに特化した提供形態を採用しているため、下準備をおこなわない外国人だけ大きく割を食うハメになっているのだ。
 砂漠で自分の目の前に水がたっぷりあるのに、ヨソ者の自分だけがそれを飲めないもどかしさ。
 これぞ現代の中国における「鎖国」の正体である。

■中国では”ガイジン”だけが損をし続ける

 具体的な場面をシミュレートしたほうが分かりやすいだろう。
 仮にあなたが予備知識を持たず、また現地の中国人からのサポートもない状態で、北京に3日間出張したとする。
 空港の制限エリアを出て、まずは困るのがホテルへの移動だ。
 中国では国民への情報統制と自国産業保護の目的からグーグルをはじめとした国外のインターネットサービスの多くが遮断されているため、いまや私たちの生活上の必需品となっているグーグルマップが使えない。

 この問題を解決するには中国アプリ(中国語)の「百度地図」などを、情報流出のリスクを覚悟してあらかじめインストールしておくか、中国からでも国外サイトに接続可能な技術を提供するVPN機能をスマホやパソコンに仕込んでおく必要がある。
 ただしこのVPNも、特にセキュリティの厳しい北京などではなかなか接続できず、トライ&エラーの繰り返しで膨大な時間を無駄にすることを余儀なくされる。
 そもそも、日本の携帯キャリアから海外でネットにつなぐ際に追加のパケット代を支払いたくない場合はWi-Fiを利用するしかないが、中国のパブリックWi-Fiの多くは現地の携帯電話番号を用いたログインが必須である。
 中国大都市部の公共スペースのWi-Fi環境は日本以上に整備されているものの、最もWi-Fiが必要であるはずの短期滞在の外国人はそれを使えないという困った事態に直面することとなる。

 ちなみに外国人が中国で携帯電話のSIMカードを買う際はパスポートの提示が必須で、自分の個人情報を当局に提供しなくてはならない。
 他国とは異なり監視社会である中国においては、このSIMを使った携帯は当然ながら会話を盗聴される可能性があるし、その気になれば当局はGPSを使って携帯の所有者の所在地や行動の内容をリアルタイムで補足し続けることもできる(事実、中国国内にいる民主活動家や外国人ジャーナリスト、大企業の外国人幹部などはこの方法で一挙手一投足を監視され続けている)。

 なんとか空港シャトルに乗り、市内の駅に到着してからも大変だ。
 ホテルまでの交通手段が分からないならばタクシーを使えばいいと、北京のすさまじい大気汚染に耐えながら道路脇で車を何十分も待っていても、いつまでも捕まらない。
 しかも腹が立つことに、なぜか周囲にいる中国人たちは待たずにどんどん車両に乗り込んでいく。
 これは彼らがタクシーの配車アプリや中国版のUber「滴滴打車」を使っているためだ。
 例によって中国アプリをインストールし、中国国内の携帯電話番号を入力するなどすれば、苦労を味あわずにすぐに車に乗れるわけである。
 現地では逆に「流し」のタクシーがどんどん減っているため、中国語が話せなかったり、アプリ利用を知らない(できない)人だけが大幅に割を食うことになる。

■利便性は個人情報と引き換えに

 やっとホテルに到着して、近所のキオスクのような店でミネラルウォーターを買おうとすると、さっき空港で両替したばかりの100元札がニセ札であると突き返されるかもしれない。
 いっぽうで他の中国人客を見ると、スマホのウェブ電子マネー「WeChat Payment(微信支付)」などを使って、ニセ札知らずでキャッシュレスで買い物をしている。
 これを使うにはやはり中国アプリをスマホにインストールし、さらに現地の銀行口座と紐つける必要がある。

 仮にあなたが現地の知人名義の携帯SIMを使うなどしていた場合(※ 長期・短期滞在を問わず、私を含めた外国人は従来こうした手法を取る人も多かった)、携帯と銀行口座の名義が一致しないため利用はNGである。
 ウェブ電子マネーはものすごく便利な機能なのだが、これを使うことで自分の行動形態はすべて当局に筒抜けだ。

 翌朝、すこしホテルの近所を出歩きたいと考えたとする。
 中国の街はだだっ広く、徒歩移動には限界があるため、自転車があると便利だ。
 中国では昨年ごろからシェアサイクルがブームで、街のあちこちで乗り捨て可能なレンタル自転車を安価で借りることができる。
 ただ、こちらも多くは料金支払いにあたって専用アプリや WeChat Payment の利用が必要。
 結果、周囲の老若男女の中国人がスイスイとシェアサイクルをこいで移動するなか、外国人のあなただけが徒歩でとぼとぼと街を歩くこととなる。

 ちなみにシェアサイクルの提供元である大手各社は、中国国内の信用ポイントサービスと連動しているため、過去に各種のウェブサービスで踏み倒しなどを行ったユーザーだと貸し出し処理ができない場合がある。
 品行方正ではない人はサービスを利用できないというわけで、確かに便利かもしれないが、中国では“オイタ”な行動やささいな失敗がまったく許容されない社会が構築されつつあるということでもある。
 ほか、仮にあなたが別の都市に移動したいとする。
 2000年代以降、中国では高速鉄道網の整備が急速に進み、いまや総延長距離で従来は各国別1位だった日本を抜いて世界最大の高速鉄道大国に成長した。
 だが、(路線によっても異なるが)外国人の場合は長い列に並び、膨大な時間を使って疲れ果ててチケットを買うことを余儀なくされる。
 もちろん中国人であれば、自動販売機にIC化されたIDカードをかざすだけでスムーズにチケットを買えるし、そもそもネットで買ってしまう人も多い。

 ここでも割を食うのは外国人だけというわけだ。
 ただし中国人の場合、高速鉄道や航空機での移動の履歴はすべて当局側に蓄積されていくので、お忍びの行動などはまったくできない。
 また当局は、過去に公共交通機関の利用上で問題行為を起こしたデータを持つ人間にチケットの購入を制限するなど、より踏み込んだ管理も進めつつある。

■「鎖国」から逃れるには支配を受け入れるしかない

 日本においても、一部のポイントカードや電子マネーは使用者の利用情報を収集してビッグデータとして活用しているが、こちらは個人情報保護の面での配慮がなされている(とされる)。
 いっぽうで中国の場合、生活の各方面において提供されている極めて便利で先進的なサービスの数々は、すべて本人のプライバシーと明確に紐付けされた膨大な個人情報を当局に握られることと引き換えに、得られる仕組みとなっている。

 これらはもちろん、中国当局が防諜や国民管理の目的から意図的に政策として進行させているものである。
 その背景にある事情や中国人自身の認識について、亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師の田中信彦氏は下記のような指摘を行っている。
 これは主にウェブサービスの信用度に関して論じた内容だが、中国におけるより広範な各種サービスへの個人情報の紐付けについても同様の論理が適用できるはずだ。やや長くなるが引用しておきたい。

 “悪いことをしようとしてもできない(リスクが高すぎる)社会、
 人を騙そうとしても騙せない(割が悪すぎる)社会
をデジタル的につくり上げ、
 「ルールを守り、真面目にコツコツやったほうが結局はトクだ」
という仕組みで、社会をがんじがらめにする。
 そうすることで否応なく人に「良い行動」をさせる。
 やや極端に言うと、そういう壮大な試みが、いま全土で進行中だ。”

 “一方、中国ではもともと社会主義的な情報一元管理の仕組みがあり、西欧社会流の「プライバシー」という観念は成熟していない。
  宗教的、道徳的な土壌も違う。

 自らの情報が公的機関はもちろん、企業によって収集、活用されることへの抵抗感は、個人差はあるものの、全般に薄い。
 むしろ自分自身の情報開示に相応のメリットがあるならば、積極的に公開してもよいと考える人が多数派だ。
 そのため企業が個人の信用情報の活用を進めやすい。
 ここに中国の信用情報システム構築の際立った特徴がある。”

 “情報のデジタル化を武器に、権力と民間が一体となって個人の信用情報を網羅的に管理し、その「アメとムチ」によって個人の行動を変えさせる。
 その試みは、まさに中国という専制国家ならではの凄味がある。
 その全ての基盤は冒頭に書いたように
 「快適かつ安全な社会の実現はプライバシーに優先する」
という中国社会のコンセンサスにある。 ”
(「『信用』が中国人を変える スマホ時代の中国版信用情報システムの『凄み』」) 

 私が本稿で挙げたシミュレーションは単発の短期出張者の行動なので、やせ我慢をして中国式の「便利」なサービスの利用を拒否し、「鎖国」に甘んじる選択肢も可能ではある。
 だが、定期的に中国を訪問したり、現地に駐在・留学する人にとって、この選択肢は日常生活上においてきわめて不公平で理不尽な苦労を背負い込むことになるため現実的ではない。
 自分が損をしないためには、消費・移動・通信などにまつわるあらゆる行動の情報を、中国人と同様に当局に提供せざるを得ないというわけだ。
 中国における「便利」は「監視」と同義語なのである。

 もちろん、「自分は悪いことをしないので情報を提供してもよい」という考え方もあるだろう。
 だが、中国における「悪いこと」の基準は日本とは異なる。

中国国内でNGOに協力したり、
 在留日本人としての権利保護を集団で主張したり、
 たまたま中国人の民主活動家の友人を持ったりすること
「悪いこと」である。
 それどころか、仮に今後に日中両国の関係が極度に悪化した場合、
 日本人であることそれ自体が「悪いこと」となり、
移動や通信が制限される可能性だって否定できない。

──そこまで怖いことを考えなくとも、事実として中国は外国人にとってはどんどん不便な国になりつつある。
 そして、この変化は今後も不可逆的に進んでいくはずなのだ。



ダイヤモンド・オンライン 5/9(火) 6:00配信 加藤嘉一:国際コラムニスト
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170509-00127130-diamond-cn

中国の著名外交官登用に見る苛烈な「反腐敗闘争」の実情

● 中国内政・外交を観察する上で インパクト大の人事ニュース

 5月5日、歴史上の“五四運動”が発端となり制定された「五四青年節」(筆者注:言うなれば若者の社会における役割を喚起し、行動を鼓舞する記念日)が過ぎた頃、私から見て、中国内政・外交を観察する上でインパクトのあるニュースが飛び込んできた。

 《劉建超已于2017年4月担任浙江省共産党委員会常務委員、規律委員会書記》――。

 劉建超氏と言えば、まず思いつくのが外交官という職責であろう。
 今でも覚えている。
 私が北京大学国際関係学院で学部生をしていた2006年頃だっただろうか。
 当時中国外交部報道官を歴任していた劉氏が同学院を訪れ、関貴海同学院副院長司会の下、我々学生に講演を行った。
 当時、我々はちょうど関先生が担当する《鄧小平理論》という学部内の必修科目を受講していた。

 「仮に劉氏が学者の道へと進んでいたなら、ここには貴方が座っていたにちがいない」
 「仮に関先生が外交官になっていたなら、現在と同じように卓越した業績を残したに違いない」

 学生たちを前に胡麻をすり合う大人の光景がやけに印象的だったのを覚えている。

 その後、劉氏は中国駐フィリピン大使、駐インドネシア大使(2009~2013年)、外交部部長代理(2013~2015年)を歴任した後、外交部を離れ、国家予防腐敗局副局長(専属、副部長級)に就任、と同時に、中央規律検査委員会国際協力局局長、中央反腐敗協調小組国際追逃追贓工作弁公室(筆者注:党中央直属の反腐敗を目的としたワーキンググループで、汚職・腐敗などに端を発する罪を犯した後海外へ逃亡した公職者を連れ戻す、およびそれによって海外に逃げた資金を取り戻す工作を担当するオフィス)責任者を兼任するようになった。

 そして今年4月、浙江省という、上海の南側に位置する経済の発展した沿岸地域の共産党常務委員会で常務委員(計11名、劉氏は序列7位)に就任した。
 所謂“飛び級”を彷彿とさせるようなサプライズ人事ではないが、昨今の中国の内政と外交、および両者の接点という観点からすれば“意味深人事”であることは間違いないだろう。

● 習近平総書記・国家主席の目玉政策 “反腐敗闘争”のトップに

 上で記したキャリアから、劉氏が外交→外交+内政→内政という道を歩んできた事実を挙げることができる。
 外交官として社会人生活をスタートさせ、その後、習近平政権の下で対外関係という観点から習近平総書記・国家主席の目玉政策とも言える“反腐敗闘争”に従事するようになった。
 そして今年の4月からは浙江省という習近平氏の古巣(2002~2007年、同省書記を歴任)で、習氏が最も重視する政策の一つである“反腐敗闘争”を実行するトップの同省規律委員会書記を担当することになったのである。

 時期、場所、分野。仮に偶然だったとしても、何らかの政治力学が働いているのではないかという想像が産まれてしまうのは、党の19回大会を半年後に控え、脳裏が中国の国内政治に傾きすぎているからであろうか。

 劉建超書記の内政への関心は私も過去約10年の間に複数の外交部、地方政府の関係者から耳にしたことがある。
 実際、劉氏は外交部で報道官を務める直前、2000~2001年の間、遼寧省興城市共産党委員会常務委員、副書記を歴任している。
 1964年2月生まれの劉建超氏は現在53歳。
 まだ若い。
 仮に外交+内政→内政&中央→地方という“転身”が、今後へ向けた布石であるすれば、今後再び中央、例えば中央規律委員会副書記といったポジションへと“復帰”し、そこから更なる上のポジションへと登り詰める可能性は十分にあると言える。

 少なくとも私の(特に昨今の)中国共産党政治への理解からすれば、習近平総書記や王岐山中央規律委員会書記が劉建超氏のここ数年の“反腐敗闘争”における業績や活躍を評価していない状況下で同氏を浙江省規律委員会書記に抜擢することは考えにくい。
 “次”を見据えた上での人事であると私は推察している。
 ちなみに、習近平氏が53歳だった頃は浙江省共産党委員会で常務委員、そして党書記を歴任していた。
 そこから上海市共産党委員会書記を経て、中央政治局常務委員入りを果たし、現在に至っている。

● 自制的だが 依然として続く“反腐敗闘争”

 本連載でも“反腐敗闘争”については随時扱ってきたが、同闘争の現在地をこの辺でレビューしておきたい。
 私なりの観察・整理を経た現状に対する結論を述べると、次のようになる。

 「党の19回大会を控え、過度の権力闘争を懸念するが故に、
 自制的になってはいるが、
 対外的アクションを中心に依然として続いている」――。

 5年前の2012年の18回党大会前は、“薄煕来事件”などで中国共産党政治は荒れた。
 党大会前後に権力闘争が(特に政治局常務委員人事をめぐって)ある程度激化するのは常であるが、5年前のように、薄煕来(当時は重慶市党書記、中央政治局委員)ほどの影響力を持つ人間が“落馬”したり(筆者注:汚職や腐敗が直接的原因で、中央規律委員会による立案・調査を受け、往々にして全ての職責、および党籍を解かれる。
 司法によって裁かれることもある。
 薄煕来、周永康ともに無期懲役刑の判決を言い渡され、生涯に及ぶ政治的権利を剥奪されている)、その後公安・政法を党中央で主管していた周永康が政治局常務委員経験者として初めて“落馬”したような政治的事態は避けたいというのが党指導部、そして習近平総書記の本心であるように思われる。

 中央規律委員会による公表を元に、最近落馬した高級官僚のデータを見てみよう。
 中央委員候補、江蘇省党委員会元常務委員兼常務副省長・李雲峰(4月7日)、中国保険監督管理委員会党委員会書記兼主席・項俊波(4月9日)、安徽省元副省長・陳樹隆(5月2日)などが党規律に重大違反したとして同委員会による立案・調査を受けている。
 李、陳両氏に関しては、立案と同時に党籍と公職の解除が言い渡されている。

 地方政府の中級幹部への取り締まりも続いている。
 私が現在拠点とする遼寧省における最近の例で言えば、同省国土資源庁元党組織委員、副庁長・呉景濤が党規律に重大違反したとして立案・調査され、党籍と公職を解かれている。

● 2873人の海外逃亡者を 連れ戻した劉建超氏

 まさに劉建超氏が担当してきた対外的な“反腐敗闘争”を見てみよう。
 党中央は“天網行動”という名の下で汚職や腐敗が原因で海外に逃亡した公職者(筆者注:党・政府・軍関係者以外に、国有企業従業員や大学教授なども含まれる)および彼ら・彼女らが持ち去った公的資金を国内に戻す工作を行っている。

 4月27日に中央反腐敗協調小組国際追逃追贓工作弁公室が発表した情報・データによると、党の18回大会(2012年11月)から2017年3月31日までの期間、
 計90の国家・地域から計2873人の海外逃亡者を中国国内に連れ戻した
とのことである。
 そのうち、
 国家工作人員(筆者注:北京を拠点とする中央党・政府組織などで公職に従事する人員)が476人
 また党中央が重点的に捕まえようとする“百名紅通人員”(筆者注:各国政府や国際刑事警察機構などの支持を仰ぎつつ国際指名手配した100人の主要逃亡者)のうち40人(2017年4月末現在)がすでに国内に連れ戻されており、
その過程で取り戻した公的資金は89.9億元(筆者注:1元16円換算で約1438億円)に及ぶという。
 その成果を強調する一方で、「任務は依然として厳しい」との認識を同小組は示す。
 同じく2017年3月31日現在、汚職・賄賂といった職務犯罪に関わったことが原因で
 現在に至るまで
 海外に逃亡している国家工作人員は365人、
 失踪し行き先が不明な国家工作人員は581人
いるとのことである。
 「これらの逃亡者は我々が国際指名手配を発表してからというもの身分を変えたり、身を隠したりしている」(同小組)。

 同小組としては引き続き外国政府や国際刑事警察機構などの協力を仰ぎながら海外逃亡者の取り押さえや連れ戻しに奔走するであろう。
 昨年9月、習近平国家主席自らが古巣の浙江省杭州市で主催したG20首脳会議のコミュニケは反腐敗条項(第22条)で合意しており、
 「我々はG20集団が腐敗分子の入国を拒絶するための法執行協力ネットワークを引き続き構築していくことで承諾した。
 各国国内の法律に基づき、法執行部門、反腐敗組織、司法機関の間で国境を超えた協力と情報の共有を展開していく」
と謳っている。

● オフィシャルサイトで 逃亡者の具体的情報を公表

 興味深いことに、党中央は“反腐敗闘争”をめぐる国際協力という大義名分の下、新興国や途上国への“反腐敗”研修を企画・主催したりもしている。
 例えば、5月3日、自国の反腐敗能力建設を高めるために中国を訪問し、研修していたカンボジア反腐敗委員会一行に対して、中央規律委員会副書記(現書記は王岐山)、国家予防腐敗局局長(元副局長は劉建超)の楊暁渡氏が会見をし、「両国の反腐敗事業が共に進歩することを願っている」と指摘している。

 4月27日、中央規律委員会は自らのオフィシャルサイトでいまだ60人が逃亡中の“百名紅通人員”のうち22名の具体的な情報を公表した。

 リンクに入ると一目瞭然であるが、写真、氏名、以前所属していた機関、身分証番号、逃亡時に所持していたパスポート番号(複数のパスポートを所持していた人間が複数いる事実が目に付く)、逃亡時期、逃亡目的国、現在潜伏していると想定されている住所、罪名が明記されている。
 このような政策の大々的履行や一覧表の公表などは、少なくとも私から見て、2002~2012年の胡錦濤政権時代には想像もつかなかった事象であり、今秋で一つの節目を迎える習近平政権時代の特徴、そして決意を示しているように思われる。