2017年3月10日金曜日

韓国は(13):主文 被請求人、大統領・朴槿恵氏を罷免する

_


毎日新聞2017年3月11日 東京朝刊
http://mainichi.jp/articles/20170311/ddm/007/030/047000c

朴大統領罷免 憲法裁決定 要旨

 裁判官らはこの90日間余り、本事件を公正かつ迅速に解決するため全力を尽くしてきた。
 昨年12月9日以降、休日を除く60日間余り、毎日評議を行った。
 全員の議論を経ていない事項はない。証拠調べした資料は4万8000ページ余りに達し、嘆願書なども40箱の量に上る。

 憲法は大統領を含む全ての国家機関の存立根拠で、国民は憲法を作り出す力の源泉だ
 裁判所は今日の言い渡しがこれ以上の国論分裂と混乱を収束させ、和解と治癒の道へと進む土台となることを望む。
 いかなる場合も憲法と法治主義は揺らいではならない、皆が守っていくべき価値だ。

■国会の議決

 憲法上、弾劾訴追の事由は、公務員がその職務執行で憲法や法律に違反した事実だ。
 弾劾決定は対象者を公職から罷免するもので、刑事上の責任を問うものではない。

 弾劾訴追案を議決する当時、国会法制司法委員会の調査もなく、起訴状と新聞記事ぐらいだけが証拠として提示されたが、事由調査の是非は国会の裁量と規定しており、憲法や法律に違反したものとは見なせない。

 討論なしに表決が行われたのは事実だが、国会法上、必ず討論を経なければならないという規定はない。
 当時、討論を希望した議員は一人もなく、国会議長が討論を希望しているのにできなくした事実もない。

■訴追手続きは適法

 憲法裁判所は憲法上、9人の裁判官で構成されている。
 しかし現実的にはさまざまな理由で一部が裁判に関与できない場合がある。
 弾劾決定を行う際は裁判官6人以上の賛成がなければならず、7人以上の出席で事件を審理すると規定している。

 9人全員が出席した状態まで待たなければならないという主張は現在の状況では結局、審理をするなということだ。
 憲法裁としては憲政危機の状況を引き続き放置することはできない。
 したがって国会の弾劾訴追可決手続きに違法性はなく、いかなる瑕疵(かし)もない。

■人事と言論の自由

 公務員任命権を乱用したかについては、文化体育観光省の局長と課長が被請求人(朴槿恵氏)の指示で問責的な人事を受け局長は退職し、文化体育観光相は更迭された。
 大統領秘書室長(当時)が第1次官に指示し公務員6人に辞表を提出させ、3人の辞表が受理された事実が認定される。

 しかし提出された証拠を総合しても崔順実被告の私益追求に妨害となったために人事を行ったと認定するには不足で、長官の更迭理由や秘書室長が6人に辞表を提出させた理由も明確ではない。

 言論の自由を侵害したかについては、請求人側(国会)は朴氏が圧力を行使し、世界日報の社長を解任したと主張している。
 世界日報が、大統領府の民情首席秘書官室が作成した朴氏の元側近に関する文書を報じた事実や、朴氏が文書の外部流出を非難した事実は認められる。

 しかし全ての証拠を総合しても、世界日報に具体的に誰が圧力を行使したのか明確ではなく、朴氏が関与したと認定するだけの証拠はない。

■セウォル号事故

 旅客船セウォル号沈没事故に関する生命権保護義務と職責誠実義務違反についてみる。

 2014年4月16日、セウォル号が沈没した当時、朴氏は大統領府の公邸にとどまっていた。
 国家が国民の生命と身体の安全保護義務を忠実に履行できるよう権限を行使し、職責を遂行しなければならないが、国民の生命が脅かされる災難が発生したからといって直接救助活動に参加しなければならないなど、具体的で特定の行為義務まで直ちに発生するとは見なしがたい。

 朴氏は憲法上、大統領としての職責を誠実に遂行する義務を負うが、誠実な職責遂行義務のような抽象的義務規定の違反を理由に弾劾訴追するのは難しい。
 政治的無能力や政策決定上の誤りなど職責遂行の誠実さの有無は、それ自体では訴追事由にならない。

■国政介入

 朴氏の崔被告に対する国政介入許容と権限乱用についてみる。

 付属秘書官(当時)チョン・ホソン被告がほとんど朴氏に報告するが、チョン被告は13年1月ごろから16年4月ごろまで人事、会議資料、海外歴訪日程や米国務長官との面会資料など、公務上の秘密を含んでいる文書を崔被告にも伝達した。

 崔被告は文書を読み、意見を出したり、内容を修正したりし、朴氏の日程を調整するなど職務活動に関与したりもした。
 公職候補者の推薦も行ったが、うち一部は崔被告の利権追求を手伝った。

■大統領権限の乱用

 朴氏は崔被告から自動車部品会社の大企業への納品を依頼され、(大統領府の前政策調整首席秘書官)安鍾範被告を通じて現代自動車グループに取引を依頼した。

 朴氏は安被告に文化とスポーツに関する財団法人を設立するよう指示し、大企業から486億ウォン(約48億円)の拠出を受け「ミル財団」、288億ウォンの拠出を受け「Kスポーツ財団」を設立させた。
 両財団の運営に関する意思決定は朴氏と崔被告が行い、財団に資金拠出した企業は全く関与できなかった。

 崔被告はミル財団が設立される直前、広告会社を設立した。
 崔被告は自身が推薦した役員を通じてミル財団を掌握し、自身の会社とサービス契約を締結させ利益を得た。

 崔被告の要請により、朴氏は安被告を通じて通信大手KTに2人を採用させた後、広告関連業務を担当させるように要求した。
 崔被告の会社はKTの広告代理店に選定され、KTから約68億ウォンに上る広告を受注した。

 崔被告は文化体育観光第2次官(当時)を通じて文化体育観光省の内部文書を受け取り、Kスポーツ財団を関与させ利益を得る方策を考案。
 朴氏はロッテグループ会長と単独面会し、資金支援を要求し、ロッテはKスポーツ財団に70億ウォンを送金した。

■違法性の検討

 憲法は、公務員を「国民全体に対する奉仕者」と規定し、公務員の公益実現義務をうたっている。
 朴氏の行為は、崔被告の利益のために大統領の地位と権限を乱用したもので、公正な職務遂行とは言えず、憲法、国家公務員法、公職者倫理法などに違反している。

 両財団の設立、崔被告の利権介入を直接、間接的に手助けした行為は、企業の財産権を侵害しただけでなく、企業経営の自由を侵害したものだ。

 朴氏の指示または放置により、職務上の秘密に当たる多くの文書が崔被告に流出した点は、国家公務員法の秘密厳守義務に違反したものだ。
 大統領は憲法と法律に基づき権限を行使すべきであるのはもちろん、公務遂行は公開し国民の評価を受けなければならない。

 しかし崔被告の国政介入事実を徹底的に隠し、疑惑が提起されるたびにこれを否認し非難した。
 これにより国会などのけん制やメディアによる監視が機能しなかった。
 両財団の設立など崔被告の私益追求を支援した。

 憲法と法律への違反行為は在任期間全般にわたり持続的に行われ、国会とメディアの指摘にも事実を隠蔽(いんぺい)、関係者を取り締まってきた。
 その結果、朴氏の指示に従った安被告らが逮捕、起訴される重大な事態に至った。

■全員一致で罷免

 こうした朴氏の行為は代議制民主主義の原理と法治主義の精神を損なうものだ。
 国民向け談話で真相究明に最大限協力すると言ったが、実際は検察や特別検察官の捜査に応じず、大統領府に対する家宅捜索も拒否した。

 一連の言動を見ると、違法行為が繰り返されないようにする憲法を守る意思が見られない。
 結局、朴氏の行為は国民の信任を裏切ったもので、憲法を守る観点から容認できない重大な違法行為だ。
 憲法秩序に及ぼす否定的影響と波及効果は重大で、朴氏を罷免することで得られる憲法を守る利益は圧倒的に大きい。

 したがって裁判官全員の一致した意見として主文を言い渡す。

■ 主文 被請求人、大統領・朴槿恵氏を罷免する。

★:
 沈没事故に関連して朴氏は生命権保護義務に違反していない一方、
 憲法の誠実な職責遂行義務および国家公務員法の誠実義務に違反したが、そうした事由だけでは罷免は難しいという裁判官2人の補充意見がある。
 憲法秩序を守るため罷免決定を出さざるを得ないという裁判官1人の補充意見がある。【共同】



CNN.co.jp 3/11(土) 12:35配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170311-35097944-cnn-int

韓国大統領罷免、
抗議デモで3人死亡 
政局は不透明に

 韓国・ソウル(CNN) 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が汚職疑惑で罷免(ひめん)されたことを受け、同国は政治的に不透明な状況に陥っている。
 首都ソウルでは、弾劾(だんがい)決定をめぐる抗議デモが発生し、3人が死亡した。

 韓国の憲法裁判所は、汚職容疑や友人に便宜を図った疑いをめぐり国会で可決された朴氏の弾劾を支持する判断を示した。
 民主的に選ばれた指導者が罷免されるのは韓国では初めて。

 憲法裁の判事8人による全会一致の決定がテレビ中継で読み上げられた後には、数千人がデモを行った。
 警察の広報担当によれば、死者のうち1人は搬送先の病院で死亡した。
 残りの2人については、10日にデモの現場で救急医療を行った消防士によって死亡が確認されていた。
 そのほか、10人以上が負傷した。

 憲法裁の決定により、韓国初の女性大統領のキャリアは不名誉な形で終わりを迎える。
 北朝鮮が核兵器の実験プログラムを強化する中、東アジア地域が重要な局面に差し掛かかっている時点での決定でもある。

 大統領権限を代行する黄教安(ファンギョアン)首相は、北朝鮮が不透明な情勢に乗じる可能性もあると警告した。

 朴氏は大統領としての免責特権を失ったため、刑事訴追の対象となる。

 大統領選は60日以内に行われる見通し。
 朴氏の属する保守系与党が有権者の支持を失ったとみられる中、韓国が左派系の野党に目を向ける可能性もある。
 こうした野党は北朝鮮との対話政策を進める方針を示唆してきた。

 左派系政権が成立した場合、中国が激しく反発する米軍の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の韓国配備継続に疑問府を投げかける可能性もある。



産経新聞 3/11(土) 12:05配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170311-00000523-san-kr

韓国は希望消え不満のどん底 
分裂・混乱・国政停滞 “負の遺産”は次期政権へ

 「決定は無効だ!」

 韓国の憲法裁判所が朴槿恵氏の大統領罷免を決定した10日、ソウルの憲法裁周辺では激怒した朴氏の支持者らが警官隊と激しく衝突し、流血の事態となった。
 警察などによると2人が死亡、76人が負傷した。

 朴氏の支持者らは韓国国旗を振り「弾劾反対」を叫び続け、角材などを手に警察車両を襲撃。
 車両の屋根に上り転落、負傷する者もいた。
 中には支持者らから棒で顔面を殴打され搬送された警察官もいる。
 暴行は取材中の報道関係者にも及んだ。
 テレビカメラを破損されたとの情報もある。

 「申し上げることはない」。
 聯合ニュースによると、大統領職を罷免された朴氏は韓光玉大統領秘書室長らにそう語った。
 支持者が暴徒化し、混乱した現場は大統領府の近くだった。
 自らの問題で流血騒動が起きたにもかかわらずだ。

 「経済復興を実現し、国民が幸福な“第2の漢江の奇跡”を実現させる!」

 2013年2月、朴氏は大統領就任式の演説で、父、朴正煕元大統領が果たした高度経済成長に言及した。
 現在も韓国では絶大な尊敬を受ける朴正煕を娘の姿に重ね、韓国国民は夢を託した。
 罷免に反発し、暴れた人々は、最後まで朴氏を守ろうとしたようだ。

 だが、5年の任期中に達成すべき公約はほとんど実現できず、任期を11カ月余り残し朴氏は大統領の座から降ろされた。
 「希望の時代」「経済民主化」といった華々しい言葉を繰り返した朴氏だが、今の韓国に希望はなく、経済はどん底。国民は幸福どころか不満でいっぱいだ。
 朴氏が描いた夢はすべて悪夢と化した。

 とくに就任2年目の14年4月に起きた旅客船セウォル号沈没事故以降、朴政権は何もできず、朴氏は「無能」とさえ呼ばれた。

 朴氏は弾劾訴追により大統領権限を失った昨年12月まで3回、国民に謝罪した。
 辞任する意向も示した。
 ただ、検察の直接での事情聴取に応じず、政府から独立して捜査を行う「特別検察官」(特検)に対しては、事情聴取に加え家宅捜索も拒否し続けた。

 開き直ったかのような態度に世論は猛反発。
 憲法裁の判断も、捜査に対する朴氏の姿勢を問題視した。
 罷免決定直前の世論調査では、朴氏弾劾への賛成世論は約77%にも上った。

 暗殺、亡命、逮捕・服役、親族の不正、自殺…。
 韓国歴代大統領のほとんどが、政権末期や退任後、不幸に見舞われており、歴史は今回も繰り返された。

 検察は朴氏を、友人で実業家の崔順実被告の収賄での“共犯”とみなしており、私人となった朴氏が今後、起訴される可能性は十分ある。
 逆にそうしなければ世論は納得しない。

 「分裂と混沌に終止符を打とう」(東亜日報)と警鐘も鳴らされている。
 朴氏の罷免で韓国社会が正常に戻ることへの期待感もある。
 ただ、国政の停滞が続く韓国は経済、外交、対北関係など、いずれも泥沼状態だ。
 国民は“国家の危機”を訴える声に耳を貸さない。
 大統領選を経て新政権が誕生しても、分裂、混乱といった“負の遺産”を引きずった政権発足となることは避けられそうにない。



ニューズウイーク 2017年3月11日(土)11時30分 西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/post-7151.php

どうなるポスト朴槿恵の韓国
<朴槿恵大統領の失職に伴い、60日以内に大統領選挙が実施される。
候補者は国民が望む「公正な社会」をいかに実現するかのビジョンが問われることになる。
大統領選とその後の韓国を占うポイントは>

 朴槿恵大統領の弾劾を審理していた憲法裁判所は、全員一致で大統領罷免の決定を下した。
 昨年12月9日の韓国国会における弾劾訴追案可決を受けて、これまで憲法裁がいつ、どのような決定をするのか注目されてきたが、今後は60日以内に実施される大統領選挙(5月9日が有力視)で誰が当選するのかに関心が向かうことになる。

 朴大統領の弾劾がなければ今年12月20日に予定されていた大統領選挙が約7か月前倒しされることで、過去の選挙では半年以上が費やされた各党候補選出のための予備選挙や選挙公約作成、そして本選挙戦といった一連の過程が僅か2カ月間に圧縮されることになる。

 僅か2カ月、とはいっても、これまでの選挙などから明らかなように、2カ月あればあらゆることが起こりうるのが韓国政治である。
 予断を排して選挙戦の行方を見ていくべきであることは言うまでもない。
 そのことを前提としつつ、大統領選挙の動向を見る際には、
 「争点、候補者、選挙構図」の3つがポイント
となることを指摘しておきたい。

★.第1に、選挙の争点である。
 憲法裁の弾劾審理が続く中、弾劾賛成のろうそくデモに対抗して、太極旗を手にした弾劾反対デモが行われるなど、韓国では国論の分裂が深刻化しつつあった。
 この分裂状況が収束するのかどうかは、選挙戦の行方を左右することになる。

■憲法改正の可能性も

 一方、韓国民の80%が弾劾に賛成し、憲法裁が全員一致で罷免を決定した状況を踏まえれば、朴槿恵政権の国政運営が間違っていたという点自体が選挙の主要争点となることはない。
 それでは、選挙戦で各候補は何を訴えることになるのか。

 おそらくすべての候補が、朴槿恵政権の独善、独断的統治と密室政治を繰り返さないようにするための政治改革を主張するはずである。
 大統領の権限をさらに制限し、国会等によるチェック機能を高めるという観点から、次期政権での憲法改正の可能性が高まってきている。

 国会には憲法改正を議論するための特別委員会が設置された。
 奇しくも、今年が現行の民主化憲法制定から30年の節目にあたる。
 但し、改正の是非やどのような改正にすべきかについて有力候補ごとに主張が異なっており、それが選挙戦で問われる争点のひとつになるだろう。

 また、崔順実氏が大統領との関係を利用して私的利益を得ていたことに対する国民の怒りを踏まえ、次期政権は国民が求める「公正な社会」実現のための一層の努力を迫られる。
 どのような手段、政策でそれを目指すのかもまた選挙戦の争点となる。

 弾劾訴追案の可決から今日までの韓国内の雰囲気(韓国で言うところの「時代精神」)は、「政権交代への熱望」にあふれていた。
 したがって、選挙戦は野党陣営有利で進むことになるが、大統領罷免を受けて理念対立のさらなる深刻化など国内状況に変化が起これば、それは選挙戦の動向にも影響を与えることになる。

★.第2の候補者についても、
 各種世論調査結果から現状では野党優勢が明らかである。
 3月10日発表の韓国ギャラップ調査によれば、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)元代表が32%の支持を得てトップを走り、同じ党の安煕正(アン・ヒジョン)忠清南道知事と李在明(イ・ジェミョン)城南市長がそれぞれ17%、8%の支持を得ている。

 今後約ひと月かけて行われる党内予備選挙では、文・元代表優勢が予測されるが、安知事がどこまで支持を伸ばせるかが注目されている。
 第2野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏の支持が9%にとどまる中、共に民主党の候補になった者が本選挙でも有利な戦いを進めることは間違いない。

■国論分裂の中いかに戦うか

 一方、与党陣営には有力候補が不在であり、そのためもあって現在大統領権限代行を務める黄教安(ファ・ギョアン)首相が9%の支持を集めている。
 しかし、朴槿恵政権の首相である黄氏が出馬を表明すれば、政権交代を望む国民から大きな反発を招くのは必至である。

 以上を踏まえると、野党候補の有利は揺るぎないかに見える。
 しかし、
★.第3のポイントである選挙構図がどうなるのかによって、
 選挙結果は大きく変わりうる。
 つまり、保守対進歩(与党系対野党系)候補の一騎打ち、つまり2大対決になるのか、あるいは有力候補が複数出馬して3者対決、4者対決になるのかは、有権者の投票行動に大きな影響を及ぼしうる。

 現在のところ可能性は高くないが、かりに2大対決となれば保守勢力の結集が起こり、保守系候補がかなりの票を獲得するかもしれない。
 これから約2カ月のあいだに、各党、各勢力がどう連携するのか、さらには候補者一本化の動きがあるのかどうか、から目が離せない。

❖最後に、次期韓国大統領は、誰が就任しても、国政運営にあたり大きな困難に直面することになる。
 朴槿恵政権下で先鋭化した保守対進歩の理念対立、弾劾政局が続く中で深まった国論分裂の中で、新政権をスタートさせなければならないからである。

 歴代大統領選挙と異なり、選挙直後から新政権の発足となるため、過去の政権交代では約2カ月間あった政権移行期間は存在しない。
 そのため、歴代政権が当選から政権発足までの間に行ってきた、選挙公約を踏まえた国政課題の決定や次期政権人事の選定のための時間がない。

 加えて、国務総理はじめ閣僚や重要人事の任命に際して行われる国会人事聴聞会を上手く乗り切ることができるかも不透明である。
 李明博、朴槿恵政権の発足時でさえ、聴聞会で少なからぬ人事が頓挫したことに鑑みれば、政権発足準備期間のない次期政権はより厳しい状況に直面するかもしれない。

 しかも、現在の国会勢力分布を見れば、どの党も過半数を持っておらず、誰が大統領になっても、人事聴聞会に限らず、円滑な国政運営のためには他党との協力や連携が不可欠な状況である
 (共に民主党121、自由韓国党94、国民の党39、正しい政党32、正義党6、無所属7)

 果たして、新大統領は、前大統領の弾劾、罷免という事態によって傷ついた国民の心を癒し、分裂した国論をまとめることができるのか。
 次期韓国政権は、あまりにも重い課題を背負ってスタートすることになる。

西野純也 慶應義塾大学法学部政治学科教授、同大学現代韓国研究センター長。
専門は東アジア国際政治、朝鮮半島の政治と外交。慶應義塾大学、同大学院で学び、韓国・延世大学大学院で政治学博士号を取得。在韓日本大使館専門調査員、外務省専門分析員、ハーバード・エンチン研究所研究員、ジョージ・ワシントン大学シグールセンター訪問研究員、ウッドロー・ウィルソンセンターのジャパン・スカラーを歴任。著書に『朝鮮半島と東アジア』(共著、岩波書店)、『戦後アジアの形成と日本』(共著、中央公論新社)、『朝鮮半島の秩序再編』(共編、慶應義塾大学出版会)など。



新潮社フォーサイト2017年03月11日 08:57
http://blogos.com/article/213558/

速報・朴槿恵大統領「罷免」
「分裂した国論」「崩壊した自尊心」は回復できるか - フォーサイト編集部

 現職大統領を罷免するかどうかの宣告は、意外にも30分足らずの短い時間で終わってしまった――。
 韓国の憲法裁判所は3月10日、韓国国会による朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追は妥当との判断を示し、朴氏は即時に失職した。
 8名の裁判官全員の一致によるものだった。

■当然の結果だった「全員一致」での罷免

 事前の予想では、罷免決定は免れないにしても、全員一致とはならないのではないかとの観測もあった。
 ところがふたを開けてみればこの結果である。
 韓国国会の8割弱が弾劾訴追に賛成し、直近の世論調査でも国民の8割弱が弾劾を支持している状況でのこの結果は、民意を反映した形になるのだが、元共同通信ソウル支局長でフォーサイト「朝鮮半島の部屋」の運営者の平井久志氏は、
 「憲法裁判所の裁判官は個々の判断では補充意見を出したが、罷免の判断では全員が一致した。
 憲法裁判所の判断が、韓国の分裂した国論を統合していくために、裁判官全員の一致した見解になったといえそうだ」
 と分析する。
 ただ、これは憲法裁判所の存在意義からして当然というのは、朝鮮半島政治が専門の小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授だ。
 「そもそも憲法裁判所は、民主化闘争を経て1987年に制定された現行の『第6共和国憲法』で新設されたもので、一般的な裁判所とは違います。
 基本的には憲法解釈をすることが目的ですが、隠された最大の目的があり、それは国論が分裂するような事態を回避することにある。
 かつて韓国は、軍部の政治への介入があり、国民はそれと戦って民主化を勝ち取ったという歴史があります。
 2度とそうした事態を引き起こさないための『政治的知恵』として設けられたものなのです。
 だから今回、李貞美(イ・ジョンミ)憲法裁判所所長権限代行が読み上げた決定文の中にも『今回の決定が国論分裂の終息や和合の道への契機となることを期待する』という趣旨の言葉が入っている。
 そこにも、『政治的知恵』が垣間見えます」

■国民との意思疎通を欠いた朴槿恵氏の悲劇

 今回の決定で興味深いのは、朴前大統領の政治手法について触れた部分である。平井氏は言う。
 「憲法裁判所は
 『朴槿恵大統領が対国民談話で真相究明に最大限協力すると言いながら、検察や特別検察官の調査に応じず、青瓦台に対する押収捜索も拒否した』
と指摘した上で
 『朴大統領の言動を見れば、法違反行為が繰り返されないようにする憲法守護意思が表れていない』
と批判しています。
 結局は朴前大統領の悲劇は、就任以来指摘されてきた国民や側近など周辺とのコミュニケーションの不足にありました。
 朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の長女として生まれ育った朴槿恵氏には“帝王的大統領”としての意識しかなかった。
 メディアは国民と意思疎通する手段ですが、本当の意味でのインタビューに応じることはなかった。
 この“帝王的体質”が今回の悲劇を招いたと言えます」

 小此木氏は、大統領に権限が集中してしまうことを「権力の人格化」と呼びこれが韓国の伝統的な政治文化
だとした上で、次のように見る。
 「韓国ではリーダーが誰か、ということが重要です。
 その意味では、朴前大統領のこれまでの任期は朴氏自身のリーダーの資質が問われていたわけです。
 ところが朴氏の政治スタイルは外部との接触を最小限にとどめるというもの。
 その『密室』の中がどうなっているのかが、これまではうかがい知れなかった。
 ところが昨年10月以降、崔順実(チェ・スンシル)氏の問題がきっかけとなって次第に明るみになってきて、中にはいかがわしいものも相当あったわけです。
 これが国民にとっては強い衝撃で、リーダーの資質なしと見た民心が一気に離れてしまう結果になったのです」

■崩壊した韓国民の「自尊心」

 その「崔順実ゲート」だが、昨年10月の問題発覚以来、平井氏は多くの韓国人から「恥ずかしい」という言葉を聞いたという。
 「それは、韓国が1987年の民主化闘争によってある水準に達したと思っていた『民主化』の内実が、結局はこの程度のものであったかを知って感じた挫折の表明だと思います。
 彼らには、経済発展と民主化をともに実現した、アジアでも数少ない国という『自尊心』を持っていたのですが、『崔順実ゲート』によってそれを崩壊させてしまったのです」

 その自尊心を回復させようとして起きた行動が、「ろうそくデモ」である。
 主催者と警察の発表には大きな違いはあるが、大量の市民が参加しているのは事実だ。
 そしてその力が、結局は朴槿恵氏を失職に追い込んだのも事実である。
 「韓国の場合、独裁・軍事政権との戦いを経て今の民主化を勝ち取ったわけですが、その過程で直接型・参加型の民主主義というスタイルを身に付けていきました。
 日本のようにいったん選挙で投票したら何も言わずに見守るのではなく、選挙が終わっても常に政治を監視し、発言することを続けます。
 今回はそれが『ろうそくデモ』という形になったわけです」(小此木氏)

 だが現状は、進歩派と保守派の対立が「ろうそくデモ」(進歩)と「太極旗デモ」(保守)という対立で深まっている。
 弾劾決定の10日は朴前大統領支持派の集会が警官隊と衝突、2名が死亡するという事態にまで発展した。
 憲法裁判所が期待した「国論分裂の終息」には、まだほど遠い状況である。

■大統領選挙へと走り出した韓国

 それでも、政治は進む。
 「朴罷免」を受けて、韓国は大統領選挙へと走り出す。
 憲法の規定では、失職後60日以内に選挙を行うことになるわけだが、今のところその日程は5月9日が有力視されている。
「現時点では、進歩派の野党『共に民主党』の文在寅(ムン・ジェイン)前代表が世論調査などでトップを走っていますが、韓国は『ダイナミック・コリア』だ。
 2カ月の間に何があるか分かりません」(平井氏)

 「朴槿恵弾劾」は「ろうそくデモ」という直接民主主義的な方法で勝ち取ったものだが、同時に深刻な混乱を国内にもたらしている。
 平井氏は言う。
「この成果と混乱をいかに制度政治に集約していくかが問われます。
 また誰が次期政権を担うにせよ、現在の『帝王的大統領制』を、憲法改正などを通じて正していくことができるのかどうか、次に残された課題は多いのです」

 韓国の激動はまだまだ続く。



サーチナニュース 木口 政樹配信日時:2017年3月13日(月) 19時30分
http://www.recordchina.co.jp/b172044-s116-c10.html

<コラム>韓国の天地がひっくり返った弾劾宣告、
憲法裁判所の判決文に衝撃を受けた

 この稿では政治的な内容はなるべく避けたいと思っているのだが、今回は韓国社会を揺さぶり続けた大統領の弾劾宣告について書いてみることにする。
 天地がひっくり返るほどの事件であったからだ。

 2016年10月に崔順実(チェ・スンシル)ゲートが明るみに出て、12月9日には朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾訴追案が国会で可決された。
 それから3カ月がたった17年3月10日、韓国の憲法裁判所は大統領・朴槿恵氏に罷免を言い渡した。

 昨年10月から毎週土曜日に行われた「ろうそくデモ(チョップルシウィ)」は、大統領の即刻退陣を要求してきた。
 一方「太極旗(テグッキ)デモ」といって太極旗(韓国国旗)を掲げながら弾劾反対を叫んでデモしてきた連中がいる。
 ろうそくデモには延べ数百万人ともいわれる人々が参加してきた。
 一方の太極旗デモの方は今年に入って急速にその参加者を増やし、ろうそくデモに負けないくらいの数を動員するようになっていた。
 韓国が完全に真っ二つに割れていた時期とも言える。
 この対立が、憲法裁判所の弾劾妥当との宣告によって一応収まる様相となったわけである。

 朴槿恵氏はなぜ弾劾の訴追を受けることになったのか。

 ニュースなどを通してもうご存じかと思われるが、簡単にそのいきさつを書いてみよう。
 20代以来の友人・崔順実がすべての原因だと言ってもいいだろうと思う。
 あるいはこうも言えるかもしれない。
 大統領に選ばれながらその権力を崔順実のために使い過ぎたからだと。
 例えば崔順実の娘が名門・梨花(イファ)女子大へ入学するのに、大統領の権限を振りかざして不正入学させたとか、崔順実が立ち上げた財団を生かすためにサムスンなど大企業に無理やり融資を求めたなど、朴氏の容疑は多種多様にわたっているが、3月10日の憲法裁判所の判決文で注目されるのは次の点だ。

★.朴槿恵氏が数度にわたる対国民談話で言及していた「検察の取り調べにも応じるし特検(特別検察官)チームの取り調べにも応じる。
 憲法裁判所への出廷にも応じるし青瓦台(韓国大統領府)の捜索も容認する」としていた自分の言葉とは裏腹に、それらすべてに対して「反対の行動」、つまり何にも応じず、呼ばれても無視するの一点張りだったことが、憲法裁判所の判決で相当に重視されていた。

 大統領という職にある人間は、検察に呼ばれてもすぐに応じなくてもよいような特権が保障されており、また特検チームの取り調べにも応じたくなければ黙っていても罪にはならないといったような法があるらしいのだが、それをかさに着てすべての捜査に対してこれを無視し、さらにはうその発言をしながら諸々の容疑を否定しようとしてあくせくしていたことを憲法裁判所の裁判官らはしっかりと見ており、法理的な部分もさることながら、こうした一見ささいな部分を取り上げて判決文にしたためていたことが筆者の目には驚きであり衝撃であった。
 多くの市民もあの判決文の簡潔でありながら理路整然とした内容に驚きの念を抱いたのではないか。

 朴氏は罷免の判決が言い渡された3月10日午前11時21分をもって即刻大統領の地位を剥奪されることになった。
 年金など大統領をやめた後の特典の99%を失うことになってしまった。

 弾劾された大統領の悲惨さをひしひしと感じていることだろう。
 青瓦台からすぐに出て行かないといけないのだが、この稿を書いている3月11日にもまだ青瓦台にとどまっているらしい。
 帰るべき自宅の水道やガス、オンドル(床暖房システム)などが工事しないと使えない状態にあるからというのが言い分らしい。
 最後まで国政壟断(ろうだん)をやってのけている格好だ。
 いずれにしても近く青瓦台を出て行くことになるだろうけれど、これほどの惨めな最後ってあるだろうか。
 かわいそうな気分にもなるが、しかしやはりそれだけのことをやってきたわけなので、これは仕方のないことだと言うしかないだろう。
 父親の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領も大統領任期の途中に凶弾に倒れてしまったのだが、実の娘の朴槿恵氏も任期途中での惨めな下車となった。
 不思議な巡り合わせを感じてやまない。





0 件のコメント:

コメントを投稿