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ダイヤモンドオンライン 2017.3.17 武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
http://diamond.jp/articles/-/121598
北朝鮮の核開発はもう停止不能、
本気で中国を動かす時が来た
北朝鮮の核ミサイル開発を断念させるため、これまでは中国の主導による6者協議(日、米、中、ロに南北朝鮮)や、北朝鮮に対する経済制裁を行ってきた。
しかし、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)は力に頼って国を統治している人である。
人民がいかに苦しもうと、お互いを監視させ、反抗の兆しがあると厳しく取り締まってきた。
金正恩体制の中核幹部でさえ、反抗すれば即時粛清され、処刑された。
察するに金正恩は、弱みを見せれば、自分がやられると考える人なのだ。
そのような指導者が対話で関係改善の道を開くであろうか?少しでも譲歩すれば、弱さの証明と映ると考えるのだろう。
金正恩は今年の新年の辞で、
「米国と追随勢力の核の脅威と恐喝が続く限り、戦争演習騒動をやめない限り、核戦力を中核とする自衛的な国防と先制攻撃能力を強化する」
と述べている。
北朝鮮の核は自衛ではなく、「先制攻撃」に使われかねない。
それを端的に示したのが、VXによる金正男(キム・ジョンナム)の暗殺だった。
3月8日付の寄稿「北朝鮮VX使用が示唆『北朝鮮は本気で核を使いかねない』」でも書いた通り、化学兵器禁止条約で使用、生産、保有が禁止されている猛毒のVXを平気で使ってきたように、もはや常識が通じる相手ではない。
これまで、北朝鮮が核実験を行うたびに経済制裁を強化してきた。
しかし、中国の非協力からその効果は限定的であった。
昨年1月6日の核実験後、北朝鮮からの石炭、チタン、レアアースなどの鉱物資源の輸入を禁止し、北朝鮮に出入りする全貨物の検査などの措置をとった。
しかし、石炭の輸入禁止も民生用は除外されているため、これが抜け穴となった。
制裁が導入された当初の4月こそ中国の石炭輸入量は対前年度比19.3%減であったが、8月から増加に転じ、16年全体として12.5%増となった。
特に11−12月には対前年同期で2倍を超えている。
昨年9月の第5回核実験後、民生用除外をなくし、北朝鮮からの石炭輸出の上限を年間4億ドルもしくは750万トン以下に抑えることにした。
今年2月18日、中国は「安保理決議が定めた輸入上限額に近づいたため」として、北朝鮮からの石炭輸入を19日から今年末まで禁止した。「これは国際的義務を履行したものだ」とも述べた。
これは米国をはじめとする国際社会の目を意識したものであろう。
しかし、前回と同様、時間の経過と共になし崩し的に反故にされないか見守っていく必要がある。
中国の非協力が続く限り、制裁の効果は限定的である。
さらに問題は、制裁が効果を上げるためには時間が必要であることだ。
トランプ大統領は、大統領選挙の遊説中、核ミサイルの開発を断念させるために、「ハンバーガーを食べて対話する」と述べていた。
しかし、23日のロイター通信とのインタービューでは
「決してノーとは言わないが、遅すぎるかもしれない」
「彼(金正恩)の行いにとても怒っている。
率直に言えば、オバマ前政権が対処して置くべきであった」
として戦略的忍耐政策をとってきたオバマ政権を批判した。
北朝鮮の核問題では時間を掛けるだけ状況は悪くなるとして、強硬路線に転じようとしている
■非協力的だった中国をいかに矢面に立たせるか
北朝鮮の核ミサイル開発がここまで進んだ大きな原因は中国の非協力である。
北朝鮮との6者協議を主張して時間を無駄にし、北朝鮮に対する制裁破りをして北朝鮮に核ミサイル開発の資金を提供してきたのである。
権力を一手に集中した習近平であれば、北朝鮮が対話で核・ミサイル開発をやめないことはわかるはずである。
THAAD配備が必要となったのは、中国が時間を浪費させてきた結果であることを、肝に銘じてほしい。
THAAD配備に反対であればその元凶を取り除く努力をしてほしい。
北朝鮮の元駐英大使館の太永浩(テ・ヨンホ)氏は
「仮に米朝交渉などを通じて、北朝鮮が核実験やミサイル発射を凍結する見返りに、軍事演習の中止や制裁解除、経済支援に応じれば、自ずと北朝鮮の核保有国認定につながり危険だ」、
北朝鮮の核問題を解決するためには「政権を崩壊させる方法しかない」と述べている。
太元公使が核施設などへの先制攻撃に言及しなかったのは、
最初の一撃ですべてを破壊できるはずがなく、それが反撃を生み大変危険だからであろう。
しかし、米国や韓国が政権の転覆をはかることも非常に危険である。
だとすれば、まず中国をどう使うか、北朝鮮のエリートの中の不満分子をいかに手なずけるか、を考えるのが順当であろう。
前述の太元公使は
「中国が金正恩政権を崩壊させようとすれば2、3年もかからない。
北朝鮮とあらゆる貿易を中止し、中朝国境を封鎖すればいい」。
ただ、
「中国にとって北朝鮮は緩衝地帯で、核を奪うより政権の安定の保証が一番の関心事だ」
と述べている。
中国が北朝鮮の経済制裁に真剣に協力していたならば、この問題は既に解決していたかもしれない。
しかし今となっては、北朝鮮の核ミサイル開発は待ったなしの状況であり、2、3年は待てないのではないか。
米国も北朝鮮の核ミサイル開発を放棄させるためには、すべての選択肢を用意する必要があるとの見方に傾いているようである。
ティラーソン国務長官も21日、中国の楊潔〓(=竹かんむりの下に厂、虎)国務委員との電話会談で、中国に対しあらゆる手段を使って挑発を抑制するよう要請しているそうである。
それに対して中国は、王毅外相が全人代の場で記者会見し、北朝鮮には挑発行為の停止を、米韓には軍事演習などの強硬策をやめるよう提案した。
中国は北朝鮮の挑発行為によって、日米韓の結束が固まり、在韓米軍にTHAADが配備されるなど、外交的に極めて不都合な状況が生じており、北朝鮮の核ミサイル開発は思いとどまらせたいに決まっている。
他方、日米韓の圧力で北朝鮮を崩壊させたくないのである。
王毅外相は自分たちにとって都合のいいことを言っているに過ぎない。
ただ、トランプ政権になって、このままではもたないとの雰囲気になっているように思える。
中国は、「テロ支援国家」再指定の検討など米国の強い姿勢に裏打ちされた要請に答え、暴走を続ける北朝鮮の抑制に動き始めた。
中国が北朝鮮からの石炭の輸入を年内いっぱい停止しことや、3月4日、訪中した北朝鮮の李吉聖外務次官に自制を要求したことなどはこれを反映したものであろう。
しかし、これは始まりに過ぎない。
中国をさらに動かし、北朝鮮政権の交代を促すためには、中国の緩衝地帯がなくなるとの懸念に、いかに答えるかが課題であろう。
そのため、中国とより現実的な対話を行っていくべきときに来ているのではないか。
ティラーソン国務長官の中国訪問はその手始めかもしれない。
オバマ政権の頃、中国はこうした対話には乗ってこなかった。
しかし、中国はトランプ政権の予想外の行動には一目置いているのである。
2月27日、トランプ大統領が米国を訪問した楊国務委員と会談したのも米国の危機感を示したものではないか。
また、北朝鮮政権を交代させるためには、内部からの手引きが必要である。
それは米韓にできることではなく、中国の方が人脈もあるはずであり、誰が自分の身の危険を感じているかもわかっているはずである。
その意味でも中国がキーパーソンである。
■大統領を罷免している場合ではない
韓国はもっと危機感を抱くべき
こうした北朝鮮の状況にもかかわらず、韓国の危機感の欠如については2月20日付の寄稿「邪魔なら兄をも殺す国を隣に、韓国の絶望的な危機感欠如」で詳細に記した。
金正恩は既に自分の脅威でなくなっている異母兄の金正男を殺害した。
自分の権力の少しでも邪魔になるものは除外するのである。
最大の邪魔ものは韓国のはずである。
そうした中で、北朝鮮に断固対応しようとしていた朴槿恵大統領を弾劾訴追し、3月10日に罷免した。
次の大統領の有力候補はいずれも北朝鮮に融和的な姿勢を示す候補者であり、韓国の有力紙朝鮮日報も、
「韓国の大統領候補者たち、それでも『親北』を続けますか」
と題する社説を掲げ嘆いている。
3月3日現在の世論調査でトップを走る「共に民主党」前代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏。
同氏は北朝鮮への宥和的姿勢で知られ、開城工団の再開やTHAAD配備の検討延期などを主張している。
同氏が22日京畿道安城市で行われた農業関係者との会合で、
「われわれが北朝鮮にコメを輸出し、北朝鮮が保有する地下資源やレアアースと交換すれば、韓国におけるコメの在庫問題を解決でき、同時に地下資源やレアアースを国際相場よりも安く購入できる道が開けるであろう」
と語った由である。
これは当然国連安保理の北朝鮮決議に違反する行為であり、与党ばかりでなく野党からも批判の声が一斉に上がっている。
これが国家の指導者の見識か?
しかし、前述の世論調査では文氏の支持率は上昇しているのである。
韓国国民は自分たちの安全をどう考えているのであろう。
あきれるばかりである。
韓国の国民は、努力が報われず、生活への不安が増大していることが大統領への不満となり、北朝鮮の脅威への対抗よりも朴大統領弾劾だけに目を向けているのである(詳細は2月14日付の寄稿「韓国人に生まれなくてよかった」参照)。
大統領選挙によって韓国に親北政権ができれば、北朝鮮の核・ミサイル開発を断念させようとする日米韓の結束を壊し、北朝鮮の核・ミサイル開発を助長することになるであろう。
韓国政府は、北朝鮮を庇う中国に接近するかもしれない。
そうなった時に米国のトランプ政権は韓国を見放すことにならないであろうか。
そして、韓国が北朝鮮に首根っこをつかまれ、北朝鮮の言いなりになる可能性すら排除できない。
そうなれば、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は日本にとってより切実なものとなるであろう。
北朝鮮の核・ミサイル開発に韓国ばかりか日本も、より危機感を抱くべき時が来ている。
■日本の平和主義は各国がそれを尊重してくれてこそ
戦後の日本の発展の基礎には憲法にうたわれた平和主義がある。
日本が今後とも平和国家として歩んでいかなければならないのは当然である。
今後とも、日本は他国を脅かすような軍事力を持つべきではない。
しかし、日本が平和愛好国であれば世界はこれを尊重するという前提は崩れているのである。
北朝鮮のような国がある以上、日本は自衛のための努力を強化するべきである。
安倍政権のもとで進められた集団的自衛権の行使や日米安保条約のもとでのガイドラインの改定は当然必要とされるものである。
また、政府は「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を与党に提示したが、これは多国間で捜査情報などを共有する「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要な法整備である。
ところが、野党などはこれを「共謀罪」法案だなどとし、
「国民の言動を過度に委縮させ、思想や活動、内心の自由やプライバシー権など基本的人権を侵害する可能性が極めて高い」
として強硬に反対している。
日本人が考えなければならないことは、テロは警備の薄い、起こしやすいところで起きるということである。
これまでイスラム原理主義者のテロが起きたところでは、国民の安全が第一だとの考えが定着している。
日本ではこれまで幸いに、イスラム原理主義者のテロは起きていないから、このようなことを言っていられるが、日本では中東から来たテロよりも北朝鮮によるテロを警戒する必要があるかもしれない。
北朝鮮による日本人拉致事件が起きたことを忘れてはならない。
今政府が進めていることは不可欠の防衛努力である。
しかし、日本国内には安全確保のために必要な措置に対しても否定的な見解がある。
日本人は人命を非常に大事にする。
ならば、国家が自分の身を守るのに自分で努力することになぜ反対するのか。
日本は既に、平和国家になっている。
日本の軍国主義復活を心配しているのだとすれば、現実離れも甚だしい。
戦争の悲劇が忘れられないのは当然である。
しかし、北朝鮮のような国は強い者に手出しはしないが、弱い者は平気で叩く国であるとの認識が深まった。
中国も、戦争を仕掛けたりしないが、経済報復などの態様では同様である。
しっかりとした自衛力を保つことが平和への第一歩であることを肝に銘じるべきではないか。
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ダイヤモンドオンライン 2017.3.16 田中 均:日本総合研究所国際戦略研究所理事
http://diamond.jp/articles/-/121428
朝鮮半島は危機的状況、「安定政権」日本が果たせる役割
東アジア情勢は緊迫の度を加えてきた。
北朝鮮は3月6日に4発のミサイルを日本海に向けて発射し、日本の米軍基地を標的とした実験であることを匂わせた。
2月13日のマレーシアでの金正男暗殺事件は北朝鮮の関与が濃厚である。
一方韓国では3月9日に朴大統領の弾劾が決定され大統領選挙が60日以内に行われる。
在韓米軍へのTHAADの配備が始まるとともに、米韓合同軍事演習が3月1日から2ヵ月間実施されている。
中国では国会にあたる全国人民代表大会が15日閉幕し、秋の党大会に向けて政治の季節の幕開けである。
トランプ政権の東アジア政策は未だ不透明であるが、ティラーソン国務長官は15日からの日本を皮切りに、日韓中の三ヵ国を訪問する。日本はどう情勢を認識し、どういう戦略を構築していくべきなのか。
■緊迫の度合いを増す東アジア情勢
北、2、3年で長距離弾道ミサイル?
北朝鮮脅威認識は二つの面から高まり、朝鮮半島は新たな危機的段階に達している。
★.第一に、金正恩政権は衝動的行動が目に付く。
金正日時代の「先軍体制」(国権の最高機関が軍人を中心とする国防委員会)から党中心体制(最高機関が党国務委員会)へと変化し、権力基盤を固めるため金正恩政権は大々的な粛清を行い、不満分子の排除にかかっている。
異母兄の金正男の存在も体制を脅かすと考えたのであろうか。
しかし結果的に体制の安定度が増しているとは考えにくい。
実力を持った軍が潜在的な不満分子(先軍体制時代の特権は取り上げられているのだろう)であることは不安定要因なのだろう。
★.第二に、北朝鮮の核ミサイル開発は武器としての精度を相当に高めてきた。
ミサイルも短距離、中距離、長距離のミサイル・弾道ミサイルや潜水艦発射ミサイルまで多様な実験を繰り返してきた。
2000年代は核・ミサイル実験を西側から支援を得るための政治的カードとして使った面が強かったが、今や武器としての精度を上げるという観点が濃厚である。
この2、3年のうちに核弾頭搭載の長距離弾道ミサイルが完成するのではないか。
■韓国新大統領は対北融和策をとるか
トランプ政権は軍事的措置も検討
韓国朴大統領弾劾の成立、60日以内の選挙は保守・革新の間の激しい分断をもたらすだろう。
この期間に軍事挑発を行うと選挙戦において保守を利するという考慮が働くため、北朝鮮が軍事挑発を行うことは考えにくいのかもしれない。
優勢が伝えられる革新派の野党が勝利すれば
★.金大中、盧武鉉政権のような対北朝鮮融和政策をとるのではないか、
★.THAADの配備も見直すのではないか、
★.中国との関係も再び緊密化に繋がるのではないか、
といった見通しが語られ始めている。
しかし北朝鮮の政権は危うい存在であり、米国のトランプ政権も場合によっては強硬措置も取り得る政権であるという認識はあるだろうし、北朝鮮融和政策が必然ということはない。
ただ選挙戦を含む今後数ヵ月の間、
★.韓国は北朝鮮問題解決に向けた当事者能力を発揮できない
のは想定しておかなければなるまい。
トランプ政権はオバマ政権の「戦略的忍耐」(北朝鮮が核放棄に向け行動を改めるまで動かない)政策を放棄し、新たな選択肢を検討しており、それには先制攻撃などの軍事的行動やサイバー攻撃も含まれていると伝えられる。
北朝鮮のような国に対し選択肢を増やし、場合によっては軍事的措置も含まれることを示すのは賢明である。
ただ軍事的措置の発動自体についてはよほど慎重でなければならない。
核施設を空爆で破壊するのは施設が地下に建設されてもぐっている可能性が高い以上至難であり、効果は限られている。
また、北朝鮮の反撃はソウルや日本に向けられるであろうし、韓国や日本が攻撃されることになればコストはあまりに高い。
しかし、軍事的措置についてはもちろん北朝鮮の行動次第であることも自明であろう。
北朝鮮を核放棄に至らせるために、今一度外交戦略を練り直すべきと思う。
これまで北朝鮮に対して繰り返し安保理は制裁を科してきたが、これは決して北朝鮮を孤立させる全面的なものではなく、また抜け道が多いものであった。
特に中国との国境貿易を通じる抜け道は半ば公然であり、制裁の効果は限られてきた。
北朝鮮に対し、孤立を抜け出て経済的危機を回避するには核放棄を前提とした交渉しかないことに向き合わせる必要がある。
このためには中国の協力が不可欠である。
■中国の協力をどうとりつけるか
危機管理計画を作り、駐韓大使帰任を
中国はこれまで北朝鮮を追い詰めると暴発するとか、北朝鮮の現体制の崩壊は中国の安全保障にとって西側とのバッファーを失うことを意味し、不都合であると考えてきたのだろう。
しかし、昨今の北朝鮮の行動は極めて危うく、国際社会の嫌悪感も高まっており、北朝鮮は中国にとって大きな重荷となっていることも事実だろう。
北朝鮮の政権が仮に崩壊したとしてもただちに中国の不利益につながるものではないことを中国に納得させることも必要である。
このような道筋をたどっていくためには、いくつかのことを達成しておかなければならない。
★.第一には日米韓の完璧な危機管理計画の策定である。
北朝鮮が暴発した時に各国がどういう役割で行動するのか計画を有している必要がある。
新安保法制は、従来は可能でなかった日本による支援を可能にする。
また、危機管理計画にはある段階には中国やロシアも巻き込んでいくべきなのだろう。
★.第二に、このような道筋を実現するため、北朝鮮を除いた5者協議(日米韓ロ中)を開催するべきだろう。
従来、中国は5者協議を開催すると北朝鮮を刺激しすぎるので反対という態度を示してきたが、傍若無人な振る舞いを続ける北朝鮮を擁護する理屈はない。
また、朝鮮半島を巡る安全保障環境がこれほど緊迫の度を加え、関係国、特に日米韓の強い連携が必要とされている時に、駐韓日本国大使が未だ帰任していないということで良いのだろうか。
もちろん慰安婦像を巡る韓国の態度が不誠実であるとして日本がとった対抗措置であることを理解しないではないが、日本の意図は明確に示されたわけであるし、韓国の大統領選挙の実施を含め事情が大きく変更した今、大使を帰任させる十分な理由が整ったと考えるべきではないか。
日本国土国民の安全のため万全を期する措置をとることの優先度は高いのではないか。
上で述べたように北朝鮮問題の鍵は引き続き中国が握っていると言って過言ではない。
そして中国は今後米中の全体的な関係の中に北朝鮮問題を置いて態度を決めるだろうという事も想像に難くない。
秋の第19期共産党大会は今後5年の体制を決める重要な会議であり、習近平総書記の行動は更なる統治に向けて万全を期することが最大のプライオリティとなるのだろう。
このためには経済成長を大きく減速させないことであり、対外的に弱腰と見られるような行動を避けるということなのだろう。
■鍵を握る米中関係の行方
長期安定政権の日本、役割は大きい
ここで米中関係が中国にとって大きなリスク要因となる。
即ち米国が中国の通貨・貿易政策は不公正であるとして関税の引き上げなどの圧力を強めれば中国はおそらく報復に踏み切り、結果的に貿易戦争となる。
安保面についてはオバマの米国との間でも南シナ海などで緊張関係が存在していた訳であり、中国が拡張的行動を自制しない限り緊張関係は続く。
しかし、中国のプライオリティが経済成長であることを考えると中国も貿易戦争と安保の緊張は避けたいはずであり、米中間で大きな合意が達成される可能性が皆無ではない。
ただし、ここでは中国による南シナ海・東シナ海での行動の自制と北朝鮮問題での全面的な協力が含まれていなければならない。
朝鮮半島問題を軸とした東アジア情勢は日本にとって当面最も重要な課題となる。
先に見たとおり、韓国は大統領選挙に向けて課題解決の当事者能力が低下するだろうし、米国の政権は未だ副長官以下のスタッフを欠き、不完全な政権である。
この中で、他の先進民主主義諸国と比して最も安定した強い安倍政権下の日本の果たすべき役割は大きいと言わざるを得ない。
柔軟な発想で能動的戦略を得っていく事を期待したい。
日本にとって長い懸案である拉致問題についても朝鮮半島の安定という大きなコンテクストの中で対話を続けることが解決の近道であると思う。
(日本総合研究所国際戦略研究所理事長 田中 均)
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【2017年 大きな予感:世界はどう変わるか】
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