2017年5月24日水曜日

「一帯一路」とAIIB(4):日本の脅威か?成功の鍵は貨物量

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ロイター 5/25(木) 10:28配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170525-00000029-reut-bus_all

ロイター企業調査:
中国「一帯一路」構想、95%が参加希望せず

[東京 25日 ロイター] -
  5月ロイター企業調査によると、最も商機が拡大する貿易協定は
 日米自由貿易協定(FTA)との回答が32%を占め、
 米国抜き環太平洋連携協定(TPP)の25%を上回った。

 ロシアとの経済協力のメリットに期待する日本企業は14%だった。
 中国インフラ投資計画への期待は6%にとどまった。
 習近平国家主席が主導する
 「一帯一路プロジェクト」には「参加を希望しない」企業が95%と大勢を占めた。

 この調査は資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に5月9日─19日に実施。
 回答社数は220社程度。

 調査によると、日米FTAについては、自動車関連の事業に期待が高い。
 「米国における自動車部品への輸入関税引き下げ」(輸送用機器)や
 「自動車部品の輸出増」(化学)、
 「自動車関連物流が増加すること」(運輸)
などが期待されている。

 11か国TPPでは新興国の経済活性化への期待が高い。
 「ベトナム・マレーシア向けの建設鋼材輸出や随伴取引拡大を期待」(卸売)、
 「直接的影響はないが、経済発展があれば影響する」(建設)
などの声がある。

 またロシアとの経済協力では「資源開発」(非鉄金属)や「北方領土でのインフラ整備」(建設)、「北極ロシアでの港湾整備事業の受注」(機械)のほか、「植物工場」(鉄鋼)といった新たな商機が期待されている。

 これに対し、中国主導のインフラ整備に参加を希望する企業は5%にすぎず、
 「希望しない」が95%を占めた。
 現状で中国主導の「一帯一路プロジェクト」に参加しているとの回答はゼロだった。
 参加のメリットについて「ビジネスチャンスの拡大」(電機)とみている企業もわずかにあるものの、ほとんどの企業は商機の拡大につながらないと感じていることがうかがえる。

 商機が拡大する貿易協定について「その他」との回答も21%を占めた。
 貿易協定を結んでも「ほとんど影響は感じられない」(複数企業)との声もあった。



東洋経済オンライン 2017年05月18日 さかい もとみ :フリージャーナリスト
http://toyokeizai.net/articles/-/171848

日本の脅威か?
「中国-欧州」貨物鉄道の実力
「一帯一路」構想の先鋒、
成功の鍵は貨物量

 古くから中国と地中海諸国を結ぶ交易路として栄えてきたシルクロードが、装いを新たして復活した。
 「一帯一路」構想。
 中国が陸路と海路でアジア、中東、欧州とを結ぶ巨大な経済圏を作ろうという構想だ。
 5月14~15日には一帯一路に関する国際会議が北京で開催され、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領ら世界各国の首脳が参加した。

 鉄道を使った“シルクロード”はすでに動き出している。
 4月29日、ロンドンから初の直行貨物列車が19日間をかけ、浙江省義烏市に無事到着した。
 中国と欧州を結ぶ貨物列車が走り出してから6年余り。
 中国から見て、英国は欧州行き貨物列車行き先の国として11番目の国だという。

■100円ショップの集散地に到着

 義烏という街は、雑貨を扱う人々の間で「“100円ショップ”向け商品のふるさと」として広く知られる。
 日本向け雑貨の出荷はかつてより落ち込んだといわれるが、依然として「中国最大の小商品(食品や雑貨等の小物)集散地」の地位にあることに変わりはない。
 日々さまざまな物資が出入りしている。

 今回、義烏に着いたロンドン発の貨物列車は、今年1月1日に義烏からロンドンに向けて走った中国発往路便の折り返し便となる。
 中国発の往路は義烏から18日目にロンドンに到着。
 34個のコンテナは衣料品で満載だったという。

 中国行きは4月10日、ロンドン東郊外のDPワールド(DPはドバイポートの略)が運営する貨物ターミナル・ロンドンゲートウェーを出発。
 英国からの主な積み荷は、ベビー用品をはじめ、清涼飲料やビタミン剤で、往路の2倍以上となる88個のコンテナが運ばれた。

 ドーバー海峡をくぐるユーロトンネルを通り、フランス、ベルギー、ドイツ、ポーランド、ベラルーシ、ロシア、カザフスタンの7カ国を経由し、新疆ウイグル自治区の阿拉山口ボーダーから中国に入った。
 全走行距離は1万2451キロメートル。旧ソ連各国では軌間(ゲージ)が異なるため2度の積み替えを行う必要があったという。

 ロンドンからの出発に際し、居合わせた記者らは往路便が到着してから復路便が出発するまでに3カ月以上もかかった理由について関係者に問い質したところ、義烏側のカーゴフォワーダー会社の幹部は、
 「ロンドン便貨物列車は始まったばかり。
 貨物輸送が定期運行化され、中国と欧州を結ぶ重要な輸送インフラとなれば、沿線の人々が徐々にそのすばらしさを理解することだろう」
と余裕の構えを見せた。

 多くの国々をまたいで走る国際貨物列車は各国に入る際に通関が必要となるが、英国で貿易商を営む中国籍の女性は
 「通過各国が中国の『一帯一路』政策に理解を示し、通関手続きを簡素化すると聞いている。
 船便と比べ半分の日数で中国に商品を届けられるうえ、航空便を使うより圧倒的に安いのが魅力」
と手放しで歓迎している。

 一方、英国のメディアは、欧州連合(EU)からの脱退を控えた英国がアジアの大国・中国を貨物列車で結ぶ意義について、
 「EU以外の国々との貿易の枠組みを強化するための一環では」
との見方を示している。

■51ものルートがある中国―欧州間の貨物列車

「中欧班列(チャイナ・レールウェー・エクスプレス)」と呼ばれる中国と欧州を結ぶ貨物列車をあらためて紹介してみよう。



中国から欧州行きの貨物列車は2011年3月、内陸部の重慶からドイツ北西部のデュースブルクに向けて走ったのが最初だ。
 それ以来、今年4月までの累計運行数は3600本を超えた。
 始終点は中国側が27都市、欧州側が11カ国28都市で、それらを相互に結ぶ列車は、重慶―デュースブルク間、成都―ポーランド・ウッジ間、鄭州―独ハンブルク間など、全部で51ものルートに達している。

 前述のように、旧ソ連領の各国を走る際には軌間の違いからコンテナを積み替えねばならないが、関係者によると「600トン分のコンテナを40分で積み替えた記録もある」という。
 ちなみに、前述の義烏からはロンドン行きのほか、スペインのマドリード行きもあるが、この場合は標準軌のフランスから広軌のスペインに入る際に、さらにもう一度積み替えることになるという。

 では、これらの列車はどんな経路を走っているのだろうか。
 鉄道で欧州方面に接続できる経路は、全部で3つある。

・「西ルート」
 ――中国の内陸部から甘粛省、新疆ウイグル自治区を経由し、阿拉山口からカザフスタンへ接続。カザフスタン、ロシアを経由し、欧州へ向かう。

・「東ルート」
 ――中国の沿岸部から東北各省を経て、内モンゴル自治区の満州里からロシアへ接続。シベリア鉄道経由で欧州へ向かう。

・「中央ルート」
 ――華南や華中各地から内モンゴル自治区に向かい、エレンホト(二連浩特)でモンゴルへ。
 その後、シベリア鉄道を経由し欧州に向かう。

 ちなみに、北京とモスクワを結ぶ旅客列車は、前述の「東ルート」「中央ルート」をそれぞれ通っている。
 一方「西ルート」を走る旅客列車は新疆ウイグル自治区の中心都市・ウルムチとカザフスタンのアルマトイを結ぶにとどまる。

■欧州発の荷物をどう増やすか

 現在、中国から欧州に向けて運ばれている主な貨物は、衣料品のほか、ノートブックパソコンをはじめとする電子製品やその部品、ディスプレーモニター、自動車などだという。
 最近では、中国で栽培された花きや鉢植えの草花が輸出された実績もある。

 一方、欧州発のコンテナには、ドイツ製自動車、肉製品、家具、フランス産のワインなどが積まれているという。
 特に中国で人気が高いドイツ製自動車について、重慶の輸入車ディーラーは「港のある天津や上海に着くのではなく、内陸部にある重慶の貨物ターミナルで通関のうえ、商品である車が受け取れるのはとても便利」と中欧班列を使った輸入のメリットを強調する。

 中国政府は2020年までに、中欧班列の運行本数を従来実績の2倍以上となる年間5000本まで引き上げるとの目標を掲げる。
 中国側の発表によると、中欧班列は今年1〜3月に欧州行き往路593本を運行しているが、復路便はその3分の1程度の198本にすぎない。
 中国からの輸出が極端に多い状況は当分続きそうだ。

 「今年になって、中国と欧州を往復する貨物列車のルートが増えている」と、強気のコメントを述べる関係者もいるが、51あるルートの中には義烏―ロンドン間のように「中欧班列が走った実績がある」程度のところも数に含まれているのが現状だ。
 つまり多くのルートは、「貨物が集まったら走らせる」という現状を、「週に何便、と決まった頻度で走らせる」レベルまで高めることが目下の目標といえる。
 もっとも、新しい物流の動きも見え始めている。
 4月には世界に2つしかない「二重内陸国」のひとつであるウズベキスタンで組み立てられた自動車を載せた貨物列車が江蘇省連雲港に到着。
 積み荷は船に載せ替えられ、第三国に輸出されたという。

 中国政府は中欧班列の整備にあたり、関連する鉄道網や貨物ターミナルなどの整備にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金を活用する方針も示している。
 日本企業の中には、AIIBの発足の経緯などから中国を利する国際輸送インフラを積極的に利用するのを躊躇するところもあるかもしれない。
 しかし、中央アジア各国への製品売り込みを図るのなら、中国経由のルートも検討せざるをえなくなる。

■中国で欧州企業と新たな競争も

 中国の経済と社会の政策の研究、経済のマクロ調整などを行う、いわば国のシンクタンク的な役割を担う国家発展改革委員会は昨年秋、中欧班列の発展計画を示す文書の中で、
「中欧班列は習近平政権が唱える『一帯一路』実現のための重要な担い手」
としたうえで、ルートの東側に成長が著しい東アジア経済圏、西側に先進国が集まる欧州経済圏をそれぞれ抱え、中間にある中央アジアは経済発展に向けた潜在力が大きい地域であることから、これらが相互に結ばれることにより今後の成長の余地は非常に大きいとの見方を示している。

 さらに、中欧班列が走る沿線7カ国は4月20日、国際貨物列車運行の際に必要な通関手順の簡素化、列車運行状況のトラッキングシステムの統一化、サービスの平準化などを目標とした協議書に署名した。
 中国側の関係者は
 「この署名により、中国―欧州間貨物輸送のうち鉄道によるシェアを拡大するだけでなく、中欧班列が沿線各国の経済発展や貿易の活発化に寄与し、国際的な物流ブランドとして認知されることを目指す」
と期待感をにじませている。

 欧州各国のさまざまな製品が貨物列車によって大量に運ばれることにより、日本企業にとっては欧州企業が中国市場における新たな競争相手になることも予想される。
 「一帯一路」政策により、従来は貿易の枠から外れていた中国内陸部の国際物流が変化しつつあることは明らかだ。
 西側から中国にアプローチしようとする欧州各国の動きがあることを頭に入れておくべきではないだろうか。



新潮社フォーサイト2017年05月31日12:26 田中直毅
http://blogos.com/article/226153/

北京の「大開幕式」でわかった「一帯一路」「AIIB」の五里霧中 - 

 5月14日の日曜日に、北京のオリンピック会場に設置された国際会議所で、一帯一路の国際会議の開幕式が行われた。
 当日の招待者としては各国首脳をはじめとした国家の代表団に加えて、内外のシンクタンクからも数十名が名を連ねた。
 私もその一員として3時間を超える開幕式を観察する機会があった。
 率直な感想を2つ述べる。

■「皇帝モデル」
★.第1は習近平国家主席が臨席する会議は全てそうであろうが、完全な「皇帝モデル」をとっていることだ。

  開幕式のスタートは9時が想定されていたようだが、会場に向かうホテルからのバスの最終出発時間は6時30分と申し渡されていた。
 私に割り当てられたホテルから会場までは30分程度とされていたが、当日は北京の中心部への車の乗り入れはすでに厳しく制限されていたので、予定より早く会場に到着した。
 会場の前列は各国首脳に、その後ろは60カ国以上の政府関係者が国ごとに区分けされたテーブル付の席に陣取ることになっていた。
 シンクタンクなどの非政府部門の人々は、その後ろの、テーブルのない席に勝手に着くという方式であった。
 会場で分かったことだが、この最後方の席から埋まっていったので、集合時間も政府部門と非政府部門で仕分けられていたのであろう。

 2時間以上も待つことを実質上承諾しなければ、会場に入れないのが非政府関係者である。
 中国ではこんな状況に苦情をいっても始まらない。
 2時間以上の待機組の中に、米国人ソーントンを見かけた。
 ゴールドマンサックスの経営責任者を終えた後、清華大学に多額の寄付を行い、かつ米国のブルッキングス研究所にも中国研究のための寄付金を提供している彼も、非政府の一般席に私よりも早くから着席していた。
 そしてその後のシンクタンク会合で、中国の新シルク・ロード・プロジェクトに好意的な挨拶を行った彼でさえ、「皇帝モデル」を受け入れていたのだ。

■「雄安新区」開発は成功するか

 当初、時間の無駄を強いられると受け止めた私だったが、旧知の中国人研究者を見つけて、彼の隣の席に着くことができたのは幸運だった。
 習近平体制の今後を占う上で極めて有力な材料を入手することができたからだ。

 彼はすぐに河北省の「雄安新区」という新都市開発の成功の可能性について私の見解を求めた。
 その6週間ほど前に発表された新都市開発構想とは、「核心」と位置付けられるに至った習近平総書記が唱えるもので、鄧小平の「深圳」、江沢民の「上海浦東」に相当するものとの触れ込みだ。

 彼との意見交換においては遠慮は無用だ。
 すぐ核心に入ればよい。
 私は新都市開発の成功条件を「雄安新区」は満たしていないと述べた。
 理由は2つ。

★.1つは
 北京から100キロメートルという近接性にもかかわらず、河北省という土地柄が21世紀の新都市開発に不向きだ、という点である。

 深圳は香港に隣接し、広東省という中国のなかで歴史的に最も資本主義型の企業群が生まれた場所にあった。
 また上海浦東は揚子江沿いの都市連携のなかで、海外企業の新規の受け入れ拠点となりうる可能性があった。
 しかし河北省は中国の歴史的発展のなかでは民間活力に乏しく、解放前の中国における軍閥領袖の跳梁跋扈の地であった。
 自律的都市形成の基盤が乏しすぎる。

■習近平時代はあと15年続く?

★.もう1つの理由は
 今後の中国経済の発展に求められるのは都市基盤の不足ではなく、経済活動の新結合を含む内部的な革新機運であり、鉄骨やコンクリートの塊ではないという点である。

 すでに中国全域において鬼城(ゴーストタウン)が山をなすほど広がっているのに、この上さらに物理的な都市設備を増大させる内部的誘因が乏しすぎる。
 「皇帝」の気紛れに付き合うことなど御免だというのが経済人の本音のはず、と述べた私に対して、意外にも、彼の答えは次のようなものだった。

 「私も雄安新区の成功確率は限りなく小さいと最初は思った。
 しかし、1カ月ほどの間に仲間(注・いずれも共産党員である知識人)の意見を聞いて回ると、秋の党大会で次の5年が保証されるだけでなく、その後さらに10年は習近平時代が続くだろうとの意見が圧倒的だった。
 計算高い中国人であるがゆえに、あと15年続く体制との間の折り合いのつけかたを半端にするわけにはいかない、との結論にならざるをえない。
 諸大学に対する共産党教育部からの介入が強まっていることを考えれば、たとえば清華大学の主要部分が雄安新区に移転することだってありうる、との見解さえある」

 習近平時代はさらに15年続くと中国人は覚悟し始めているというのだ。
 彼は習近平時代の長期的持続を前提に、一帯一路プロジェクトも考えざるをえないとの見解を示してくれた。
 今日という時点においては中国の知識人との率直な対話の機会は著しく困難になっている。
 ところが「皇帝モデル」のおかげで偶然にも旧知の知識人から習近平体制の今日と明日についての手掛かりが得られた。
 こうした出合い頭での私的会話に依存せねばならない意見交流の現実は、彼らにとっても、またわれわれ日本人にとっても幸福な状況とはいえない。

■プロジェクトの詰めはこれから

「皇帝モデル」の開幕式典と並んでもう
★.1つの感想は
 一帯一路のプロジェクトの詰めは依然として残ったままだ、という点だ。

 2013年秋の提唱から3年半以上を経過しているが、はっきりしているのは
 「新シルクロード」という考え方は上からの構図づくりであり、下からの対応とかみ合っていないということである。
 鉄鋼やアルミニウム、セメントなどの基礎資材の過剰供給能力に悩む商務部など現場の役所部門は、製品のさばき先づくりを急ごうとする。
 そこで様々なプロジェクトは浮上するのだが、誰もが納得できるプロジェクト間の関連付けがないのである。
 薄皮饅頭に肝腎な真ん中のあんこの部分が欠けたままなのだ。
 中間においてあるべきプロジェクトの相互関連性を欠いたまま、上側と下側だけを突出させて、とにもかくにもここまで走ってきた、というのが現状なのだ。

 内外のシンクタンクへの呼びかけは、単なる教宣活動の片棒担ぎ要請というよりは、中間における関連づけや意味づけへの貢献期待にあるといわねばならない。
 おそらくシンクタンク会合は一帯一路プロジェクトにとって欠かすことのできないものとの位置づけがあるといえよう。

 開幕式冒頭の約50分の習近平演説にも、いまだ中身のところでの模索が続いていることを示す材料があった。
 それは一帯一路プロジェクトのもつリスク評価に関わるものである。
 PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)についての言及は、プロジェクトへの投資や融資に関連してなされた。
 先行きのリスクへの対応を巡って、他の国際金融機関との協調や民間からの関与歓迎という意味合いを含めて、PPPという概念が多分初めて提示されたのである。
 もちろんシルクロードファンドへの中国の増額にも触れたが、この金額は国際的なM&A事例でいえば、わずか1件に相当する程度の金額(1千億元、日本円で約1兆6千億円)に過ぎなかった。
 中国の内部においても投融資の基本は依然として煮詰まってはいないといわねばならない。

■AIIB本格稼働も相当先

  AIIB(アジアインフラ投資銀行)は融資を増やそうにも国際的な社債発行に踏み切れないでいる。
 それは債券発行時に求められる格付けの取得ができないからだ。

 AIIBにおけるガバナンス(統治)は、依然として投資家や格付け機関に発表できるほどのものになっていない。
 また融資の実施にあたって、当該プロジェクトの遂行時の基本、たとえば
 公開入札があるのかどうか、
 関連分野における需給状況はどのように反映されるのか、そして
 収益環境はどうか、また
 融資にかかわって、その利払いや返済に問題が生じたとき、AIIBはどのようにして貸金の保全を図るのか
などの基本のところで、依然として投資家の納得がえられるようなものは提示されていない。
 ということはAIIBが貸出しを大幅に増大させることができる時期は相当に先のことと考えるべきであろう。

 結局のところ秋の党大会の人事を前に、北京に相当数の各国首脳を集めること自体が目的化した催事だったのでは、という総括が今年の暮れの時点でなされる可能性が高いのだ。
 そして構想の中身の充実に中国のシンクタンクは今後懸命にならざるをえないだろう。



ロイター 2017年 06月 6日 08:29 JST
http://jp.reuters.com/article/china-silk-road-idJPKBN18W0JX?sp=true

焦点:貿易ハブか租税回避地か、
中国「一帯一路」の現実

[ホルゴス(中国・カザフスタン) 5日 ロイター] -
 中国・カザフスタン国境に位置するホルゴスの国際自由貿易区は、習近平・中国国家主席が進める「一帯一路」構想のお手本と位置付けられ、中国国営メディアがその成功ぶりを伝えている。
 今年中国で最大の外交イベントである先月の一帯一路国際首脳会議では、ホルゴス経済の盛り上がりを伝えるプロモーションビデオが繰り返し流された。

 しかし、中国ーカザフスタン国際国境協力センター(ICBC)を最近訪れた企業経営者や投資家予備軍は、誇大宣伝と現実のギャップに失望させられたという。
 ホルゴスは中国政府が思い描く21世紀の輝かしい貿易拠点というよりも、むしろ中国の租税回避地としての評判が高まりつつある。

 新疆ウイグル自治区の区都ウルムチから来たビジネスマンは
 「3時間見て回ったが、感銘を受けなかった。
 8時間かけて車でウルムチに戻った」
と語った。
 微妙な話題だけに、彼は姓を「マ」とだけ名乗った。

 このビジネスマンは高級クラブハウスの建設可能性を調査しに来た。
 企業経営者らは貧弱な計画や訪問者の少なさに不満漏らしているという。
 「安い中国製Tシャツでいっぱいのビニール袋を下げたカザフの農民を見かける」
とも付け加えた。

 中国側では、安価な消費者向け製品を扱う5つのショッピングモールがあるが、十分な客がいないと業者は不満気だ。
 モールの衣料品販売店の店員(56)は
 「丸一日座っていても、1枚も売れない日がある。
 金持ちのカザフ人もいるが、大多数は貧しい。
 彼らはここで20元(2.93ドル)のTシャツをしつこく値切る」
と語った。

 5.3平方キロの貿易区が開設されてから5年以上経つが、カザフ側は空き地が目立つ。
 カザフ側のICBC広報担当者によれば、63件のプロジェクトのうち投資家がついたのは25件にとどまる。
 1日当たり3000ないし4000人がカザフ側から入り、中国側からは1万人程度だという。

 新疆とホルゴスの当局は、取材に対しコメントを避けている。
 ホルゴスを訪問したばかりの新疆ウイグル自治区政府幹部の黄三平氏は、北京での記者会見でロイターに対し「ホルゴスは運営が非常にうまくいっており、活気に満ちている」と話した。

■<中国の租税回避地>

 中央政府は、新疆の戦略的な国境都市であるホルゴスの活性化のために税制面で数々の優遇措置を打ち出した。
 ホルゴスは中国と中央アジアを結ぶ重要な結節点に位置している。
 ホルゴスの税務当局によると、昨年2411社が現地で法人登記した。
 5年間は法人税が免除され、その後の5年間も法人税負担が半額になる税制上の優遇措置を利用するのが狙いだ。
 北京の投資銀行関係者は「ホルゴスでの法人登記は半数が税目的だ」とみている。
 最近現地にオフィスを開設した税務サービス会社、神州順利弁の関係者によると、中国では製造業企業がホルゴスで登記を行っており、金融サービスやIT企業の登記が増えている。

 しかし専門家によると、今の制度ではホルゴスや新疆での営業が義務付けられていないため、経済を潤す雇用や資金をもたらしそうもないという。
 ある関係者は
 「理論上は地元経済活性化のためにとても良い政策だ。だが、中央政府は、多くの企業が中国経済の中心からあまりにも遠く離れたホルゴスで営業したがらないという事実を考えていなかった」
と話した。
 さらに貿易関係者は「自由貿易区」で中国、カザフ両国からの規制にも直面している。
 カザフが加盟するロシア主導のユーラシア経済連合(EEU)は、カザフ側のあらゆる物品について、無税での輸入を月間50キログラムまでに制限している。
 一方で中国は、需要が最も強い食品の多くでカザフからの輸入を禁じている。

 中国の公務員から転身したあるビジネスマンは
 「EEUは大きな障害だ。
 ロシアやカザフ、他の中央アジア諸国は自国産業を育成したいと考えており、安い中国製品に日常的に依存したくないのだ」
と指摘する。

 清水河畔で牧畜業を営む男性(44)は、羊毛や漢方薬に使う薬草をカザフから中国に輸入したいという。
 彼は「政策転換がないか注視している。現在は羊肉や魚、薬草は輸入できない」と話した。

■<物流は活発に>

 一方、カザフ側では貿易量が急増し、並行特別経済区の計画が持ち上がっている。
 線路のゲージが違うため、中国の貨物列車からカザフ側の列車に貨物の積み替えが必要で、ホルゴスはその拠点となっている。
 カザフ側の商業部門担当者は「われわれの計画では、今年中に積み替える貨物の量を5倍に引き上げる予定だ」と話す。
 米HPや富士康科技集団(フォックスコン)はホルゴスの積み替え拠点を経由して製品を出荷する。
 船便よりも速く、航空便よりも安いためだ。
★.コンテナ1つを欧州に送る輸送費は、船は鉄道の3分の1で、空輸は5-10倍という。

 先月、中国遠洋(COSCO)と連雲港は、カザフ側運営会社の株式の49%を取得した。
 先のカザフスタン側の責任者はこれについて、より多くの中国企業が引き寄せられるチャンスになると期待している。

(Sue-Lin Wong記者、Mariya Gordeyeva記者)



ロイター 2017年 06月 16日 08:23 JST
http://jp.reuters.com/article/china-silkroad-pakistan-idJPKBN196321?sp=true

焦点:中国一帯一路、パキスタン契約獲得で見せた「力技」

[イスラマバード 14日 ロイター] -
 パキスタン政府は昨年、同国初の高圧送電線の建設に向けて、米複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)(GE.N)、独複合企業シーメンス(SIEGn.DE)、スイスの重電大手ABBと非公式な協議を行った。

 だが中国の配電大手「国家電網」が欧米ライバル勢の半分の工期で実現させると請け合い、総額17億ドル(1869億円)のプロジェクト契約をもぎ取った。
 パキスタンや他の多くの国で、これは「よくある話」だ。

 中国政府が、アジアからアフリカ、欧州までを陸路や海路で結び、一大経済圏を築くシルクロード「一帯一路」構想を今後10年の国家プロジェクトと位置付けるなかで、中国企業は、一帯のインフラ整備計画の「甘い汁」を独占しようとしている。
 中国国営メディアによると、昨年だけで中国企業は一帯一路の周辺国で1260億ドル(約13兆8600億円)ものプロジェクト契約を締結した。

 地理的にも中国政府の「シルクロード」計画の中央に位置するパキスタンでは、昨年だけで280億ドル以上の契約が、現地企業と合弁を組んだ中国企業との間で結ばれた。
 パキスタンのアッサン・イクバル計画改革相は、今後数年で200億ドル以上の新規投資が見込まれている、とロイターの取材に対し今週明らかにした。

 パキスタン政府は先月、中国との合同プロジェクトで初となる、出力1300メガワットの石炭火力発電所の完成を記念し、現地紙に全面広告を出した。
 こうした施設としては記録的早さの22カ月で完成したという。
 発電所は、中国国有の山東華能と山東如意化技集団(山東省)が所有する。

 「中国株式会社」の最大の強みは、政府の後押しを受けた中国の銀行が、シルクロード関連のプロジェクト融資を最優先で実行することにあると、両国政府の関係者は見ている。
 そしてこのことは、1億9000万の国民が毎日数時間も停電に見舞われているパキスタンで、停電をなくすために送電線網を整備する今回の様なプロジェクトでは、重大な意味を持つ。
 「(中国企業は)中国政府の支援を受けているため、その点で有利だ」
と、今年初めまでパキスタンの水利電力省幹部だったモハマド・ユナス・ダーガ氏は指摘する。
 ダーガ氏は商務省に異動する前、ロイターに対し、中国政府が融資審査を前倒ししており、銀行や保険会社にデュー・ディリジェンスの手続きを急がせていると述べた。

 中国政府の官僚は、個別の融資審査についてコメントに応じなかった。

■<優先融資>

 しかし、中国の政策銀行である国家開発銀行(CDB)と中国輸出入銀行(EXIM)の行員2人は、ロイターに対し、シルクロードプロジェクトのための中国企業向け融資を優先するよう政府から指示を受けたことを明らかにした。
 両行とも、地域一帯でのインフラ整備に参加する企業が、原材料や機材を中国から購入することを好むという。

 パキスタン国内には、中国企業と契約を結ぶことについて、プロジェクトの早期完成が見込める一方で、パキスタン政府のコスト負担がより重くなっているとの批判も出ている。
 パキスタン政府高官と電力関係者2人によると、例えば、高圧送電線プロジェクトにおいて、GEは送電線網の重要パーツである変電所について、国家電網の請求額より約25%安い金額で建設できるとの見積もりを出した。
 国家電網と契約したことで、パキスタン政府は高い価格を払うことになったという。
 パキスタンの電力規制庁高官は、国家電網は、他の投資家には提示されていない税制優遇を受けていると指摘する。
 パキスタン政府は、契約にからむ税制の問題についてコメントしなかった。
 国家電網の子会社で、送電線の建設を担う中国電力技術装備は、請求金額は適正だと主張する。
 「とても無理のないコストだ」と、パキスタンの国営送電公社(NTDC)のFiaz Ahmad Chaudhry氏は国家電網との契約全般について語った。
 中国外務省の華春瑩報道官は、パキスタンにおける一帯一路計画のプロセスは、「オープンで透明」であり、両国間の関係と地域の繁栄を強化するものだと述べた。

 パキスタンでの中国企業優位は、当面続きそうだ。
 シルクロード計画で、中国とパキスタンは、発電所や港湾施設、鉄道網や道路網など総額570億ドル規模のインフラ整備を計画している。
 中国の習近平国家主席は先月北京で行われた会議で、こうした計画は加速されると話した。

■<送電線>

 送電線の整備プロジェクトは政府間の契約で、沿岸部のマティアリ近郊に建設される複数の発電所と、東部ラホール周辺の産業地域の間の878キロを結ぶ計画だ。
 パキスタン政府高官によると、この計画は昨年12月に中国側の受注が決まったが、公式な競争入札は行われなかった。
 だが、2016年半ばに国家電網との協議が難航した際に、GE,シーメンスとABBへの接触が試みられたという。

 ダーガ氏は、昨年8月にパリで行われた電力会議の折りに、3社の代表と短時間面会し、送電線契約について非公式に協議したとロイターに明らかにした。
 パキスタン電力規制庁の資料と、GEの見積もりに詳しい人物によると、GEの変電所建設の見積もりが8億ドルだったのに対し、国家電網の初期段階の提案は12.6億ドルだった。
 これによりコストは抑えられるものの、シャリフ政権が問題にしたのは工期だった。
 シャリフ首相は、2018年8月に行われる総選挙の前に停電を解消させることを公約していた。
 そのため、ダーガ氏は西側企業に対し、国家電網と同様に、工期を27カ月に短縮するよう求めたという。

 「冗談でしょう、不可能だ、というのが彼らの返事だった」
と、ダーガ氏は振り返る。
 工期は最低48カ月必要というのが、西側企業の見立てだった。
 「彼らは、提案を用意し、銀行から融資を取り付けるだけで、最速でも8─9カ月かかると言った」
 ある西側のエネルギー企業幹部は、こうした面会があったことを認めた。
 この件に詳しい別の欧州企業幹部は、
 「国際企業は、このプロジェクトに入札する機会を得られなかった」
と述べた。
 GEとシーメンス、ABBは、取材に応じなかった。

■<時間の問題>

 パキスタン国内には、このプロジェクトを急がせる圧力があったと、政府や規制関係の官僚は指摘する。
 プロジェクトを許可した電力規制庁の高官は、中国側が提案を取り下げて契約が不調になる恐れがあるとして、国家電網の提示価格を受け入れるよう政府が規制庁側に圧力をかけたと述べた。
 パキスタン政府は、規制庁に圧力をかけたとの疑惑について回答しなかったが、過去に政府高官は、規制庁がプロジェクトの進行を遅らせているとの不満を口にしたことがあった。
 この電力規制庁の高官は、パキスタン政府が国家電網に対し、同社が利用者から徴収する料金にかかる7.5%の源泉徴収税を25年間免除する優遇策を提供したと述べた。
 他の企業には提示されていない優遇策だという。
 政府や国営送電公社は、税制優遇についての問い合わせに応じなかった。

 国家電網は、昨年12月に契約を締結した。
 ロイターが閲覧した公式書類によると、同社は総額17億ドルを請求。
 うち、変電所の建設費用は、当初の12.6億ドルから10億ドルに減額された。
 エネルギー相のクワジャ・アシフ氏は、パキスタンが中国をひいきしたり、電力網整備費用を過剰に支払っているとの指摘について、「その結論は、見当違い、または誇張されている」と述べ、否定した。

 水利電力省の元幹部アシュファク・マフムード氏は、パキスタンにはインフラ改善を必要とする現実があり、巨大な隣人への一定程度の依存は不可避だと語る。
 「中国側は、その機会に乗じたものだ。責めることはできない」

(Drazen Jorgic記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)





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