2017年5月20日土曜日

自衛隊この不思議な存在(2):アメリカの立場は

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JBpress 5/20(土) 6:05配信 古森 義久
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50063

「9条は危険」米国大手紙が日本に憲法改正を促す

 「日本の憲法9条は同盟国との集団防衛を阻止するため、日本にとって危険となりつつある」――。
 米国の大手新聞が最近の社説で日本の憲法9条を取り上げ、日本自身の防衛にとって危険だと断じ、改正を促した。

 このところ米国では、日米同盟の片務性という観点から日本の現行憲法への批判が出てきていた。
 そうした状況の中で、この社説は論点を憲法9条に絞り、現行の制約のままでは日本が中国や北朝鮮の軍事脅威に対処できなくなるから危険だとして改正を訴えた。

■「日本の憲法改正の論議は遅すぎた」

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」(5月8日付)は「日本の憲法の賭け」と題する社説を掲載した。
 ニューヨークを拠点とする同紙は米国で最大の発行部数を誇り、全米規模の販売網を持つ。
 インターネット版の読者数も新聞サイトとしては全米でトップを走っている。
 政治的には共和党寄り、保守志向とされるが、トランプ政権に批判的な論評も多く、政権側からたびたび非難を浴びてきた。

 5月8日付同紙の社説は、まず、安倍首相が最近、現行憲法を2020年までに改正したいと言明したことを取り上げ、
 「日本憲法は新しい現実に適合させるために刷新する必要があるという点で、安倍首相の改正への動きは正しい」
と賛同する。
 そのうえで以下のような主張を述べていた。

 ・戦後の米国にとって日本に対する大きな懸念は、日本の軍国主義の復活を防ぐことだった。米軍の日本占領期に、ダグラス・マッカサー司令官の幕僚たちによって草案が作られた日本の新憲法は、9条で戦争を放棄し、軍隊の保有や「武力による威嚇または武力の行使」を禁じている。

★・これらの禁止事項は、日本が民主主義国家となった以上、もう不要となった。
 だが、日本は米国の安全保障の傘下に避難していることに満足してきた。

★・憲法9条は、もはや日本にとって危険になりつつある。
 なぜなら憲法9条の制約は、日本の同盟諸国との集団自衛を阻止するからだ。

★・自衛隊は、日本が外部から直接的に攻撃された場合にのみ自衛を許されるという条項によって正当化されてきた。
 だが、今や北朝鮮の核兵器が日本や世界に対する脅威となった。
 中国も軍事力の行使範囲を拡大している。
 日本は自国が直接的に攻撃を受けていない状態でも、米国などとの共同の軍事行動に参加できる攻撃能力を持つ軍隊が必要となった
のだ。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの社説は以上のように述べ、経済改革のための諸課題が後回しになる政治リスクがあるとしながらも、「日本の憲法改正の論議は今や遅すぎたくらいであり、その議論は日本にとって極めて健全である」と強調していた。

■明らかに変わってきた米国の態度

 日本が同盟相手である米国とともに集団的防衛活動に加われない問題については、トランプ大統領も大統領選中から
 「今の日米同盟では、日本が攻撃されたときに米国は助けるが、米国が攻撃されても日本は助けない」
などと発言し、繰り返し批判してきた。

 民主党側からも同様の声が上がっている。
 今年2月、下院外交委員会のアジア太平洋小委員会の同党側筆頭メンバーのブラッド・シャーマン議員は、
 「米国は日本の尖閣諸島を守る必要はない。
 なぜなら日本は同盟相手の米国が攻撃されても助けようとはせず、憲法の制約をその口実にするからだ」
と述べ、日本の憲法の制約を「不公正」だと非難した。

 このように米国では最近になって、日本の憲法9条の規定が日本の集団防衛活動を阻み、日米同盟を一方的にしているという批判が広まってきた。

 これまで、憲法9条の規定が日本の防衛にとって、さらには日米同盟の機能にとって「危険」な障害になっていると断じる意見はほとんどみられなかった。
 だがここに来て、ウォール・ストリート・ジャーナルが社説で日本の憲法9条を正面から取り上げて「危険だ」と断定したことは、米国の日米同盟や日本の防衛努力に対する態度が根本から変わってきたことの反映だと言えそうだ。



JB Press 2017.5.23(火)  筆坂 秀世
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50081

安倍首相の改憲提案、国民と野党はどう受け止めた?
「憲法違反」のままでいいはずがない自衛隊

 安倍首相の憲法9条改正発言が波紋を広げているが、世論調査結果を見る限り、国民の受け止め方は冷静なようだ。

 5月20日、21日に調査を実施した毎日新聞の場合は、9条改正について3択で聞いているが、その結果は「わからない」が32%、「反対」が31%、「賛成」が28%となっている。
 同日に実施した共同通信の調査では、「憲法を改正して9条に自衛隊を明記する必要があると思うか」という質問をしたのに対して、「必要だ」が56%、「必要ではない」が34.1%となっている。
 また、産経新聞・FNNの合同世論調査(5月13日、14日実施)では、共同通信とほぼ同じように「安倍首相が9条に自衛隊の存在を明記する意向を表明したことに賛成か」と質問し、これに対して「賛成」が55.4%、反対が36%となっている。読売新聞の調査もほぼ同じである。
 他方、朝日新聞の世論調査(5月13日、14日実施)では、「安倍首相は、憲法9条について、戦争を放棄することや戦力を持たないことを定めた項目はそのままにして、自衛隊の存在を明記する項目を追加することを提案しました。このような憲法9条の改正をする必要があると思いますか」というやたらに長い質問をしている。
 これへの回答は、「改正をする必要がある」が41%、「その必要はない」が44%となって、共同や産経の調査結果と大きくかい離している。
 毎日新聞のように漠然と9条改正について聞くと「わからない」が一番多くなり、共同通信や産経・FNNなどのように自衛隊の明記についての賛否を具体的に聞くと賛成が多くなっている。

 朝日だけが賛否が逆転しているのは、「このような憲法9条の改正をする必要が・・・」という問いが原因とみられる。
 「このような」には否定的ニュアンスがあるからだ。
 多くの国民が、憲法を素直に読めば、自衛隊は憲法違反だと思っているはずだ。
 しかし、現実問題として、自衛隊を解体してしまうわけにはいかないとも考えている。
 だったら憲法に自衛隊の存在を明記し、憲法違反という批判が出てこないようにすべきだというのが、常識的な考え方なのであろう。

 同時に、それでも3~4割の人が自衛隊の明記に反対しているという事実も、決して軽いものではない。
 この中には、自衛隊の存在そのものは容認している人も含まれているはずだ。
 だが、憲法に明記することには抵抗感があるのである。

 それは、これまでの自衛隊合憲論や自衛隊のPKO活動、集団的自衛権の一部行使容認などについて、政府が説得力ある説明をしてこなかった、あるいはできなかったことに多くの責任があるということだろう。

■民進党は憲法論議をどう進めるのか

 安倍首相の発言に対して、与党内からも異論の声が出ている。
 岸田文雄外相は、5月11日の自民党岸田派の会合で、2015年の派閥研修会で
「当面、9条改正は考えない」と発言したことに触れた上で、
 「今現在、その考えは変わっていない」と明言した。
 石破茂前地方創生担当相も派閥の会合で、
 「わが党はこう考えるという説明ができなくて、勢いで憲法改正していいはずはない」と述べ、拙速を避けるべきだとの考えを明らかにしている。

 また公明党の漆原良夫中央幹事会長は5月11日の記者会見で、首相の発言について「唐突感がある」と指摘するとともに、憲発議に当たっては「野党第一党の意見も斟酌しながら進めるべき」という立場を表明している。

 では、野党第一党の民進党は、どうなのか。

 党内はばらばらである。もともと護憲派の議員もいるし、改憲派の議員もいる。
 安倍発言に対して、蓮舫代表は
 「安倍総理は憲法を変えると言う。
 口を開くたびごとに、どこを変えるのかを変えてくる。
 総理の総理による総理のための憲法改悪には、絶対に反対をしないといけない」
と反対の立場を鮮明にしている。
 他方、代表代行を辞任した細野豪志衆院議員は、ブログで
 「9条2項までを維持して自衛隊を明記するというのも、これまでの自民党と総理のアプローチからすると柔軟だ。
 私も、いつかは憲法に書かなければならないと考えている」
と述べ、元代表の前原誠司衆院議員も2016年9月2日に行われた代表選立候補者による会見で、
 「憲法が公布された後に自衛隊が作られたが、自衛隊の位置づけがない。
 これについてはしっかりと党内で議論すべきだというのが私の考え方であり、平和主義はしっかり守っていきたい」
と述べていた。

 民進党は、いわゆる護憲政党ではない。
 党の綱領でも「未来志向の憲法を国民とともに構想する」としており、改憲を否定してはいない。
 だが党内での憲法論議が進んでいるとは到底言えない。
 このままの状態で安倍政権の改憲にどう対応するのか、蓮舫代表がただ反対を唱えるだけでは、党の分裂という事態にもなりかねない危うさがある。

 ただ、民進党支持者に圧倒的に護憲派が多いということも注目すべき点である。
 産経新聞・FNNの合同世論調査によると、民進党支持者のうち憲法改正に「賛成」という声は20%しかなく、安倍首相が提案した9条改正については、民進党支持者の実に71.3%が「反対」だったという。
 また、現行憲法が「今の時代に合っている」との回答も60%を占めるという結果が出ている。

■「憲法順守義務違反」と批判する共産党・志位氏

 一方、独自の観点から安倍首相の発言を批判するのが共産党だ。

 共産党の志位和夫委員長は、『サンデー毎日』(5月28日号)で、安倍首相が改憲の提案を行ったことに対して
 「だいたい発言自体が憲法順守義務(99条)違反だ。
 行政府の長が、国会に対し、期限を切り改憲内容にまで踏み込んだ具体的な指示をした、ということでは三権分立にも反する」
と批判している。

 だが、この批判は適切だろうか。
 憲法順守義務というのは、閣僚だけにあるわけではない。
 憲法99条には、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とある。
 改憲の提案をすること自体が順守義務違反ということになるのなら、国会議員は誰も改正提案をできないことになってしまう。
 しかも憲法第9章には「改正」条項があり、96条にその要件が書かれている。
 改正も憲法に照らして行われるのであり、いっさい改正は禁止されているという考え方の方が憲法違反なのである。

■結局、志位氏は自衛隊をどうしたいのか

 前記の『サンデー毎日』で志位氏は、9条に3項を付け加えようという安倍提案に対して、「文字通り無条件で海外での武力行使を行う道が開かれる。ここに最大の問題がある」と批判している。

 その理屈は、次のようなものである。
 3項に自衛隊を明記すれば、
 「たとえ2項を残したとしても、その死文化の道を開く。
 独立した項目で自衛隊の存在理由が書かれるからだ」
 「例えば、3項を『ただし、国際平和と日本の独立を確保するために自衛隊を保持することができる』という条文にするとどうなるか。
 3項を根拠にして自衛隊の役割がどんどん広がっていき、何でもありとなる。
 9条が9条でなくなる」 。

 確かに、9条2で戦力不保持を決め、3項では自衛隊の存在を明記するというのは矛盾している。
 2項の死文化ということもあり得る。
 自民党の石破氏なども、「9条2項を維持すると、本来は『軍』である自衛隊との関係があいまいになり、『矛盾が解消されない』として『9条3項』に否定的な考えを」(「産経5月16日付)示している。

 だが、共産党が言うように自衛隊を「憲法違反の軍隊」だとして、それをそのまま放置して良いのか。
 違憲状態を長期に是認する立場と立憲主義は到底両立するものではない。
 安倍改憲の危険性を言う前に、共産党として9条と自衛隊をどう整合させるのか、その積極的提案をこそ行うべきではないのか。








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