2017年5月2日火曜日

朝鮮半島の行方(3):米中「朝鮮半島処分」で迫る日本の「悪夢」

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Record china配信日時:2017年5月2日(火) 10時30分
http://www.recordchina.co.jp/b176913-s0-c10.html

朝鮮半島で戦争が起きたら日本が最大の受益者
=日本「いずも」の米艦防護に中国ネットは警戒感

 海上自衛隊の最大級の護衛艦「いずも」が1日、米海軍の補給艦と千葉県の房総半島の沖合で合流し、米補給艦の防護任務を開始した。
 中国の各大手メディアが取り上げ、ネットでも数多くの反応が見られている。

 米艦防護は、去年3月に施行された安全保障関連法で可能となった任務で、今回が初めての実施。
 「いずも」は四国沖の太平洋で米補給艦と別れ、東南アジアなどを訪れる長期航行に向かうとみられている。
 今回の米艦防護任務は北朝鮮をけん制する狙いがあると思われ、北朝鮮をめぐっては、今月29日まで海上自衛隊の護衛艦と米軍の空母カールビンソンとの共同訓練が行われ、日米の連携が強化される。

 「いずも」の米艦防護に関して中国メディアでは「『専守防衛』を破る行為」との声が日本で出ていることを取り上げる報道もあり、日本の動向に注視している。

 ネットでは
 「北朝鮮情勢において日本は混乱を招く存在でしかない」
 「日本は理性を失っている。このままでは滅亡にどんどん近づいてしまう」
 「朝鮮半島での戦争は日本の帝国主義復活の契機ともなる。
 本当に戦争が起きたら日本は最大の受益者になるだろう」
と日本の行動に警戒する声が少なくない。

 さらに、
 「『いずも』は日本にとって帝国主義時代の栄光であってはいけない。
 戦争に負け軍国主義が日本人を含むアジアの人びとに大きな痛みを負わせた教訓とすべき存在」
 「日本は敗戦の雪辱を晴らそうとしているが、過去の侵略によってどれだけの国や人々が苦しんだのか忘れているのだろうか」
と日本に自制を求める声も聞かれた。

 このほか、
 「どの国だって自国の利益を第一に考えている。
 他国の考えなど二の次だ。
 これは国家として正常な考えであり、政治は永遠に暗黒なのだ。
 この世に神聖な国は存在すると思うか?。
 中国国内だって、皆自分の生活が良くなることだけを考えている」
と冷静に分析する意見も寄せられた。



新潮社 フォーサイト 5/2(火) 7:00配信 青柳尚志
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170502-00542285-fsight-int

米中「朝鮮半島処分」で迫る日本の「悪夢」

 戦争の実感を持たず「奇妙な戦争」と呼ばれた、第2次世界大戦勃発直後のフランス・パリの光景もそうだったのだろうか。
 あるいは、ナチスドイツとのかりそめの宥和を達成した、チェンバレン英首相を歓呼の声で迎えたロンドン市民の雰囲気なのだろうか。
 北朝鮮をめぐる情勢が緊迫の度を増すなか、東京での日常の生活は何事もなかったかのように過ぎていく。
 「平和ボケ」ではあるのだが、何ともうまい表現が見当たらないのが悩ましい。

■金正恩が踏んだ「トランプの尾」

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は、トラならぬトランプの尾を踏んでしまったことに、今さらながら戦慄を覚えていることだろう。
 国内の団結を固め、米国をこちらに向かせよう。
 いわば求愛の意味を込めて行った一連のミサイル実験が、トランプ政権の逆鱗に触れてしまった。
 トランプ大統領はホワイトハウスに議会関係者を集めた報告会で、北朝鮮への対処を「米外交の最優先課題」と位置付けた。
 「戦略的忍耐」を掲げ、アジアの問題から目を背け続けたオバマ政権との対照は明らかだ。

 理由は他でもない。
 北朝鮮が、米国を射程に収めた核ミサイルの開発を本気になって考えているからだ。
 北の核開発の事実をクリントン政権は認識し、1994年春の時点では、核施設への空爆も検討していた。
 その話を聞いた韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が必死で止めに入ったというが、実際は、米国民の大多数が地図のどこにあるのかも知らない国に手荒なことをしても、選挙の役には立たない。
 そんな算盤をクリントン氏は働かせ、カーター元大統領を平壌に派遣した。

 北が核開発を断念する代わりに、米国が音頭を取り北に対する人道援助が行われた。
 クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマというその後20年余りの米政権は、北朝鮮の現実からは目をそらし続けた。
 日本の企業や行政の悪しき文化とされる「先送りは、日本独自の作法ではない。
 それをはるかに上回る偽善と欺瞞が北をめぐって重ねられた。

 トランプ政権がこうした事態に終止符を打とうとしていることはハッキリしている。
 「すべての選択肢はテーブルの上にある(All options are on the table)」。
 冷戦下の対ソ瀬戸際外交を思わせるこの言葉を、トランプ大統領やティラーソン国務長官は繰り返す。 
 選択肢のなかには軍事力の行使、それも在来兵器ばかりでなく核の使用も含まれる。
 その本気度は2月10~11日の日米首脳会談の際の共同声明からもうかがえる。

■本気度の高い英文の「共同声明」

「両首脳は、新たな段階の脅威となっている北朝鮮の核・ミサイル開発や東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みを含め、一層厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境について議論し、懸念を共有するとともに、日米安保条約と地位協定に基づく在日米軍の存在が重要であり、日米同盟を不断に強化していく必要があるとの認識を共有した」。
 外務省のこうした説明に基づいて、日本のメディアは首相会談の模様を伝えた。

 それは誤りではないが、共同声明(和文)のなかには、次の文言がある。
 「核及び通常戦力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」。
 「米国は、あらゆる種類の米国軍事力による自国の領土、軍及び同盟国の防衛に完全コミットしている」。

 「核及び通常兵器」は英文でみれば、「the full range of U.S. military capabilities, both nuclear and conventional」であり、和文に比べて本気度が違う。
 「核から通常兵器に至る、フルレンジの米軍の能力」を通じてということだが、これではマッチョすぎると思ったのだろうか。
 外務省は「フルレンジの米軍の能力」の部分を和文ではそぎ落とした。

 後の文に出てくる「あらゆる種類の米国軍事力」は、英文では「the full range of U.S. military capabilities」で前の文と同じだから、共同声明では「核及び通常兵器」を相当に強調したことになる。
 日本側は当初、「あらゆる選択肢はテーブルの上に」といった抽象的な文言でやり過ごそうとしたのだが、米国側が誤解のない表現を用いるよう求め、その通りにしたのである。

■「2時間で攻撃可能」

 「選択肢として戦争は排除されていない。
 その際は日本にも戦火が及びかねない」
 安倍晋三首相はトランプ大統領との会談で、深淵を覗く思いがしたに違いない。
 表情は明らかに険しいものだった。
 その後も様々な言葉が飛び交うが、気がかりなのは次の言葉だ。

 1つは4月27日の『ロイター通信』とのインタビューでの、トランプ発言。

(1):外交的に解決したいが、非常に困難だ
(2):最終的に北朝鮮と大きな、大きな紛争が起きる可能性はある
(3):(習近平国家主席は)精一杯力を尽くしてくれていると確信している。
 混乱や死は決して見たくないだろう
(4):そうは言っても習氏が愛情を持っているのは中国であり、中国の国民だ。
 何かを実行したいと思ってもできないということも恐らくあり得る。

(1)と(2)、(3)と(4)を合わせてみれば要するに、外交的な解決は困難なので、大規模紛争の可能性がある。
 中国による仲介に期待できなければ、米国が単独行動する――というメッセージとなっている。
 4月26日の時点でハリス米太平洋軍司令官は、空母カール・ビンソンはフィリピン海を航行中で、必要となれば北朝鮮を2時間で攻撃できる位置にあると明らかにした。
 「2時間で攻撃可能」という表現が生々しい。

 そして4月29日に、カール・ビンソンは日本海に入った。
 自衛艦との共同訓練だが、仮にカール・ビンソンがミサイル攻撃を受け、自衛艦が助太刀すれば、国会で民進党などが猛反対した「集団的自衛権」の行使となる。
 なぜ森友学園問題などにかまけ、この問題を看過するのか。

■トランプ瀬戸際外交の「眼目」

 ところで4月28日、ティラーソン国務長官は国連安全保障理事会で明言している。
 「ソウルや東京に対する(北の)核攻撃の脅威は現実のものだ。
 そして北が米本土を攻撃できる能力を開発するのは時間の問題だ」。
 英文を記せば、前半は「The threat of a North  Kerean nuclear attack on Seoul, or Tokyo, is real」。
 米国は北朝鮮による東京への核攻撃の脅威を「現実」のものとみている。
 日本のメディアはやり過ごそうとするが、ソウルと東京が並列に扱われていることは、「偽ニュース」ではなく現実なのである。

 後半は「it is likely only a matter of time before North Korea develops the capability to strike the U.S. mainland」。
 米本土への核攻撃能力の開発が「時間の問題」に過ぎない、との認識を披瀝している。
 とするならば、実際に北が能力を開発し終えるまでに、その動きを食い止めなければならない。
 ここにトランプ政権の瀬戸際外交の眼目がある。
 だからこそ、4月26日に上院議員たちを超党派でホワイトハウスに招き、大統領自身が対北朝鮮政策を説明したのだ。

■日本攻撃の「今ここにある危機」

 実はここに、日本が直面するのっぴきならない事態がある。
 北の米本土への核攻撃能力の開発が時間の問題とするならば、トランプ政権の選択肢は2つ。
 外交手段で阻止するか、軍事力で阻止するか。
 当面は前者をとるにしても、後者への移行は「時間の問題」に過ぎないことになる。
 ところが日本はすでに核攻撃の「現実の脅威」の下にある。
 北が先制攻撃ないし反撃に踏み切った場合には、日本列島は核ないしミサイルによる戦火に見舞われる。

 戦後日本に初めて訪れる「真実の時」である。
 朝鮮半島や日本列島という米国本土からは「彼岸」の出来事も、この日本にとっては「此岸」の修羅となる。
 政府が北のミサイル攻撃に備えた対処法を内閣官房のホームページに載せたのも、日本攻撃が「今ここにある危機」だと認識しているからにほかならない。
 それにしても、建物の窓から離れろとか地下街に避難しろといった警告は、余りにも子供だましではあるまいか。

 北朝鮮からのミサイルが飛来するまでには、ほとんど時間の余裕がないのだから。政府のホームページもこう自問自答している。

 問: ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか。
 答: 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、日本に飛来する場合、極めて短時間で日本に飛来することが予想されます。
 例えば、平成28年2月7日に北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)付近から発射された弾道ミサイルは、約10分後に、発射場所から約1,600km離れた沖縄県先島諸島上空を通過しています。

 たった10分で何が可能なのか。
 まさに「現実」の危機とはそういうものなのである。
 恐らく有効な手立てがないことを承知しているからだろう。
 日頃は平和や反核や護憲を唱える心優しい人々は、声を潜めている。
 日米政府や米軍、自衛隊を批判すれば、どちらの味方なのだ(ハッキリしているが)と指摘されるのが落ち。
 北朝鮮と話し合えといえば、これまでそうしてきたのに埒が明かないどころか、事態を悪化させたではないか、と反問されるのは目に見えているからだ。
 腹に一物を持ちながら、沈黙は「金」を決め込んでいるのだろう。

■「昭和16年の日本」と酷似

 だが当事者である北朝鮮の金王朝にとっては、今は危急存亡の時である。
 「政治的に正しい」言い回しを捨てて事実を直視すれば、金正恩党委員長の立ち位置は、昭和16(1941)年の日本と酷似しているのではなかろうか。
 近衛文麿内閣の下で日米交渉に望みをつなぎながら、欧州戦線でのドイツ軍の破竹の勢いに幻惑されて、当時の日本軍は仏領インドシナ(今のベトナム・ラオス・カンボジア)や蘭領インド(今のインドネシア)など、東南アジアの資源確保に動こうとした。

 仏印(仏領インドシナ)進駐は1940年の北部と1941年の南部の2段階に分かれるが、後者の南部仏印進駐は日米関係を決定的に悪化させた。
 1941年7月28日に日本軍が南部仏印に進駐を始めるや、米ルーズベルト政権は間髪を入れず、8月1日に石油禁輸を発表した。
 英国も追従した。
 南部仏印がレッドライン(越えてはならない一線)だったと知らなかった日本側は、この強力な制裁に驚愕した。

 石油は最重要軍需物資であり、しかもその大部分を米国から輸入していたからだ。
 このため、陸軍に比べ戦争に消極的だった海軍のなかに、このままでは日本は「ジリ貧」になり、米国に屈服せざるを得なくなるという危機感が強まった。
 米英に対して開戦し、武力によって対日包囲網を打ち破るほかないとの主張が高まったのである。 
当時の日本側と米英側の主張を、教科書ふうに整理すると次のようになる(鳥海靖『もういちど読む山川日本近代史』)。

 日本側の要求:
 米英の日中戦争への不介入、極東において日本の国防の脅威になるような行動の自粛、日本の資源獲得への協力。
 米英側の要求:
 日本軍の中国・仏印からの撤退、1940年に結んだ日独伊三国同盟の事実上の空文化。

 こうしたなかで「ジリ貧」を打開するために、当時の日本は真珠湾攻撃に踏み切ったのである。 
 当時の日本と現在の北朝鮮を同一視するつもりはない。
 それにしても米国が引いたレッドラインに挑戦している点は同じだし、いま米国が中国に、北朝鮮に対する重油供給を絞るよう求めているのは、かつての石油禁輸措置を想起させる。

■「一寸の虫にも五分の魂」

 米国は北朝鮮に対し、「レジームチェンジ(体制転換)」は求めない、としている。
 が、北の独裁者は「剣なき約束は言葉以上のものではない」というホッブズの名言を、胸に刻んでいるはずだ。
 イラクのフセインもリビアのカダフィも、核を持たなかったから殺された。
 シリアのアサドも核を持っていないから、米軍のミサイルのなすがままになった。
 ならば、米本土を射程に収められる核ミサイルを開発しないことには、安心できない、と。

 米国としては中国に、「北朝鮮は任せるから何とか始末してくれよ」というところだろう。
 4月6~7日の米中首脳会談について、トランプ大統領が米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』とのインタビューで語った話が、すべてを物語っている。
 「習主席が(米中首脳会談で)中国と朝鮮半島の歴史について話した。
 数千年の歴史と数多くの戦争について。
 韓国は実は中国の一部だった」。
 内心同意したうえでの発言の紹介だろう。

 トランプ氏は『ロイター通信』とのインタビューでは「THAAD(高高度ミサイル防衛システム)の韓国配備のための費用は韓国が負担すべきだ」とも語っている。
 もし歴史の皮肉があるとしたら、このトランプ発言が引き金となって、5月9日の韓国大統領選で、親北候補の地滑り的勝利がもたらされることだろうか。
 「一寸の虫にも五分の魂」という。
 米中による「半島処分」の気配を感じた韓国の有権者が選んだ文在寅(ムン・ジェイン)氏が、金正恩氏の懐に飛び込むとしたら――。

 米朝の対立が抜き差しならない状態を迎え、戦端が開かれた時、北のミサイルが飛来するのはソウルではなく東京となりかねない。悪夢である。


東洋経済オンライン 2017年05月03日 ダニエル・スナイダー :スタンフォード大学APARC研究副主幹 

北朝鮮問題で米国と中国を待ち受ける「誤算」
中国による圧力が気に食わない国がある
ドナルド・トランプ大統領は、インタビューやツイッターで「大規模な、大規模な紛争」の兆しが見える、といった漠然とした警告を行い、朝鮮半島での差し迫った戦争の話題で首都ワシントンを混乱させ、メディアを騒がせ続けている。
だが、米国の政策の現実がもっともよく表れているのは、先週のホワイトハウスでの会合でニッキー・ヘイリー米国連大使が、中国の国連当局者に語った内容だ。
 会合の出席者が記者に語ったところによると、ヘイリー大使は当局者のほうを向いて「この件に関しては、そちらで解決していただけないかと期待しています」というようなことを言っていたという。
 最近見直されたトランプ政権の北朝鮮政策は、基本的には「中国に任せろ」というスタンスだ。
 米国が、シリア攻撃規模かそれ以上の先制攻撃を北朝鮮に行うかもしれないという「脅し」は、
 中国が北朝鮮に対して持つ外交的カードを選ばないとならない状況に追い込んだ。
 戦略的国境での紛争を避けるにはそれしかない、という状況に追い込んだのである。

■中国の北朝鮮戦略が変わった?
 こうした脅しは、北朝鮮のことも多少慌てさせるかもしれないが、米国の政策担当者たちには、これで北朝鮮の「行動」を抑止できるかどうかは確信できないと考えている。
 現時点で予想できるのは、6回目の核実験、あるいは、米大陸に到達可能なミサイルシステムの実験という2つのレッドラインを北朝鮮が超えた場合、中国は食料や燃料、そのほかの必需品の供給をストップするという形でそれに応じるのではないかということだ。
 北朝鮮は貿易の9割を中国に依存している。
 トランプ政権に近い政策担当者によると、中国は北朝鮮政策を少しずつ変えつつある。
 中国が考えている戦略は、金正恩朝鮮労働党委員長が非核化会合に戻るよう圧力をかける、といったものから、クーデターによって金正恩氏を解任させる、といったものにまで及ぶ。
「中国に任せろ」政策は、なにも今に始まったことではない。
 ジョージ・W・ブッシュ政権は、中国が「同盟国」である北朝鮮を従わせることに期待し、同じアプローチを繰り返し試みた。
たとえば、ブッシュ大統領は2005年2月、中国の胡錦濤国家主席に北朝鮮が核物質を世界中に売りつけている事実の詳細を含む書簡を持たせた特使を送り、対処を迫った。 
これがきっかけで交渉が進み、同年9月の6者協議において非核化に関する共同声明が出される結果となったのである。
 しかし、その1年後、北朝鮮は最初の核兵器実験を実施している。
 トランプ政権は、なぜ今この方法がうまくいくと考えているのだろうか。
★.ひとつには、過去2つの政権が出した答えと同じで、「それよりいい選択肢がない」ということが理由だ。
★.もう1つの理由は、中国の指導部から「中国は行動に出る用意がある」という印象が伝わったことだ。
 その「印象」とは、フロリダ州で4月上旬に行われた米中首脳会談、そしてその後の2回の電話での会談で、習近平国家主席とトランプ大統領の間に得られた理解に基づくものである。

■米中首脳間にある「共通理解」

 最近、中国の北朝鮮政策責任者が米国の北朝鮮担当官に伝えたところによると、両国の指導者は、北朝鮮の核問題は決断の遅れを許すことのできない緊急の問題となっている、との見解を共有している。
 中国と米国で北朝鮮に対するスタンスの違いはあるにせよ、早急な対応が必要という点では一致している。
 北朝鮮が核弾頭や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を行った場合、中国からはより厳格な対応が考えられる、と中国側はしている。
 こうした中、中国は米国によるターミナル段階高高度地域防衛(THAAD)ミサイル防衛システムの韓国への配備に対する米国への抗議を、ひとまず後回しにしようとも考えている。
 しかし、より精力的に北朝鮮の非核化を目指すこの「合意内容」は、北朝鮮の政権交代なしで行うと米国が合意することが必須条件だ。
 中国は政権交代案に長い間反対してきているからだ。
 中国は北朝鮮の崩壊を招くような、激しい制裁は現実的ではなく、中国の利益にとっても危険性が高すぎると考えている。
 もっとも、中国の政策担当者たちは、今回の中国の戦略変更が、米国の「脅し」によって引き起こされたという点については否定している。
 前述の北朝鮮政策責任者によると、瀬戸際政策は米国と北朝鮮の両者が行っているよく知られた戦略だと語る。
 中国はトランプ大統領が北朝鮮への軍事行使をちらつかせる以前から、北朝鮮への圧力を強めていたという。
一方で、こうした曖昧な脅威に対して、北朝鮮が対抗し、これがさらなる米国による行動を促す、という形でエスカレーター式に全面戦争へ上り詰める危険性があるのではないか、という米国側の懸念については、中国の政策担当者たちも同意している。

■中国は本当に北朝鮮に圧力をかけているのか
 はたして中国は、実際に北朝鮮に圧力をかけているのだろうか。
 これはここ数週間にわたって中国の港湾に石炭を運ぶ北朝鮮の貨物船の動きや、両国を結ぶ中朝友誼橋を通る交通の流れを調べてきた各国政府や情報アナリストが考えてきたことである。
 中国はその努力の証拠として、2月下旬と4月下旬に北朝鮮の公式メディアに中国に対する珍しく単刀直入な批判が掲載されたことを挙げている。
 この批判記事はどちらも「ジョン・フィル」(仮名と考えられている)の名で書かれていた。
 両記事の内容は明らかに中国を指し、制裁を科すという脅迫をはねつけ、「他人の音に合わせて踊る」ことは決してしないと誓っている。
 中国によるこうした取り組みは米国の期待に応えるだけのものなのか。
 少なくともトランプ大統領や顧問たちがそのように信じているのは明らかだ。
 米中首脳会談および電話会談後のコメントでトランプ大統領と高官たちは、中国側の報告でも述べられた両国の「理解」について同じことを語っていた。
 トランプ大統領は、米中による行動の引き金となるのは、核兵器やICBMの実験だと明確に打ち出したが、先日行われた短距離ミサイル実験のようなものはその中に入っていない。
大統領は米CBSテレビのインタビューで、「彼が核実験を行えば」と金正恩を指して述べ、
 「私はよい気持ちがしないだろう。
 そして言っておくが、中国の国家主席、大変尊敬されている方だが、彼にとっても、よい気持ちがしないに違いない」
と語っている。
 トランプ政権はまた、北朝鮮の非核化を目指す中で、その中に政権交代を含まない姿勢も明らかにしている。
 レックス・ティラーソン国務長官は、先ごろNPR(米公共ラジオ局)に、米国は北朝鮮と直接に対話する意思があると述べたが、核とミサイル計画を一時的に凍結する、という以前の取引に戻ることはありえないとしているようだ。
 「正しい議題とは、北が単に数カ月間とか数年間(核開発を)中止し、再開する、といったことではない。
 過去20年間この議題は変わっていない」(ティラーソン国務長官)。

■中国の真意はどこにあるのか
 だが非公式には、中国はトランプ大統領を納得させ、わがままな依存国をそのままの状態に保ち、しかも米国の影響力を朝鮮半島に寄せ付けないようにすることができると確信している。
 今、中国が望んでいるのは、以前の合意に基づいて米国・北朝鮮間の交渉を再開させ、すべての核・長距離ミサイル計画を再凍結するための交渉を行うことだ。
 こうしたなか、中国と米国にとって予想できない展開をもたらす可能性があるのが、韓国である。
 同国では5月9日、汚職による起訴に直面している朴槿恵前大統領の弾劾を理由に、早期選挙で新大統領が選ばれることになっている。
大統領の最有力候補は、盧武鉉元大統領の首席補佐官だった「共に民主党」の文在寅氏。
 同氏は先週、北朝鮮に対する今後の政策について声明を発表した。
 しかし、大言壮語的なトランプ大統領のどのインタビューよりも重要だったにもかかわらず、韓国外ではまったくといっていいほど無視された。
文氏は、金大中元大統領の「太陽政策」路線に沿って、北朝鮮への全面的な関与の復帰を表明した。
 これは、米国との同盟関係に支えられた強力な防衛力をベースにしたものではあるが、独自のミサイル防衛システムを含む独立国家としての韓国の軍事力を強化する、と同氏は語った。
ちなみに文氏はTHAAD配備には反対。
 また、6者協議の再開と北朝鮮との経済協力の再開を提案しており、これを最終的に経済的統一計画につなげる考えのようだ。

■「ゲーム自体が崩壊する可能性もある」
 さらに、もっとも重要なのは、このプロセスを中国や米国ではなく、韓国が主導すると文氏が主張していることだ。
 「今後は、北朝鮮を変えるために『中国の役割』に依存するのではなく、『韓国の役割』に基づいた新しい南北政策の枠組みを形成することとする」
としている。
 トランプ政権の「中国に任せろ」政策は、文氏からも、彼の顧問からもほとんど支持されていない。
 韓国政治に精通した米国高官によると、「韓国の進歩主義者たちは、中国がこの問題を解決するというストーリーに激しく反対している」という。
 「彼らは中国にこの件を任せようと思っていない。
 制裁は効かないという北朝鮮の主張を受け入れ、北朝鮮における中国の影響力を弱めたいと考えている」。
 トランプ大統領は、最近の取材で韓米自由貿易協定を終了する準備ができていると述べたほか、韓国側にTHAAD配備の費用として韓国に10億ドルを支払うよう求めたが、これは両国間の既存の合意に反するだけでなく、THAAD配備に反対してきた進歩主義者たちを激怒させることともなった。
  H.R.マクマスター国家安全保障顧問は、韓国の金寛鎮国家安保室長との電話会談で、以前の合意を確認する旨を伝え、和解を試みたが、ダメージは避けられなかった。
 ここ数週間の米国防長官や国務長官、副大統領の訪韓にもかかわらず、米国の高官たちと、韓国で政権に就くことになる面々とは接触が見られない。
 現在に至るまで、「進歩主義者たちは米国の話を聞く気分ではない」と、前述の高官は話す。「ゲーム全体が崩壊する可能性もある」。
就任以来、外交問題で手一杯のトランプ大統領が胸をなでおろせる日はまだ来そうにない。