2017年5月5日金曜日

朝鮮半島の行方(5):北京を向くミサイル(2)、「中朝友好条約はもう寿命」

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●FNNニュース



朝鮮日報日本語版 5/5(金) 9:04配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170505-00000499-chosun-kr

(朝鮮日報日本語版) 【社説】
「中朝友好条約はもう寿命」中国メディア言及に注目せよ

 中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報が、北朝鮮に対する自動軍事介入条項が盛り込まれている中朝友好条約は寿命に達したという内容の社説を掲載した。
 この条約の中核は、どちらか一方が他国の攻撃を受けたら、すぐに軍事的援助を提供すると取り決めている条項だ。
 つまり、事実上の同盟条約と言える。
 環球時報は3日、「中朝友好条約を当然維持しなければならないのか」という社説で、
「2001年の更新以降、中朝間の核問題をめぐる確執が拡大しており、中国の内外では条約の有効性をめぐり『もう時代は変わった』とする声が高まっている」
と指摘した。
 また、
 「北朝鮮の核・ミサイル挑発行為は米朝間の緊張を強め、戦争の脅威を高めている」
 「北朝鮮の行為は条約違反に該当する」
としている。

 環球時報は中国共産党が北朝鮮に対する見解を明らかにする際によく使われるメディアだ。
 先月も、
 「米国が北朝鮮の核施設に対し『外科手術式攻撃』を敢行したとしても、中国は軍事的には介入しない」
と宣言している。
 これまで、中国の一部の学者は同条約が死文化しているとの主張を展開してきたものの、共産党系の国営メディアがこうした見解を明らかにしたからには注目しないわけにいかない。
 1961年に中国の周恩来首相と北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席が署名したこの条約は、中朝の血盟関係を象徴する文書として機能してきた。
 20年ごとに自動延長されており、次の期限は2021年だ。
 すなわち、2021年が最後になる可能性もあるということだ。

 中国指導部に影響を与えているのは、トランプ米大統領の登場と、国連をはじめとする国際社会の北朝鮮に対する共通認識だ。
 北朝鮮の核実験場に近い中国東北3省の住民の核被害懸念もこれ以上放置はできないと言われている。
 まだ、中国が目指しているのは北朝鮮のさらなる挑発行為を阻止することであって、北朝鮮の放棄ではないだろう。
 しかし、核を放棄できない金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が中国とは反対の方向に進めば、最終的に中国の対北朝鮮政策が根本から変わる可能性もある。

 今月10日に発足する韓国の新政権は、前例を探すのが難しいほどの安保危機であると同時に、歴史的な機会になるかもしれない期間を担うことになる。
 韓米同盟を土台に中国との戦略的友好関係を維持し、歴史に恨(ハン=晴らせない無念の思い)を残さないようにしなければならない。
 中国とは終末高高度防衛ミサイル(THAAD)問題で一時的な不和があるものの、本質的に北朝鮮を想定して行われていることだという事実が明白な以上、粘り強く説得すれば解決できる問題だ。



朝鮮日報日本語版 5/5(金) 9:02配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170505-00000494-chosun-kr

(朝鮮日報日本語版) 中国紙、北朝鮮との「血盟条約」破棄警告

 中国紙・環球時報は4日、「中朝友好協力相互援助条約は維持されるべきか」と題する社説で、
 「北朝鮮は国連安全保障理事会の決議に違反し、核兵器を開発したり、弾道ミサイルの試験発射を行ったりしており、米国と北朝鮮による軍事衝突のリスクを高めている」とし、
 「一連の挑発行為は1961年に結ばれた中朝友好協力相互援助条約の趣旨に反する」
と指摘した。

 同紙はまた、
 「2001年の条約更新以降、核問題をめぐる中国と北朝鮮の対立が高まり、条約の有効性について、『時代が変わった』との声が高まっている」
とも指摘した。
 これまで中国では一部の学者が「条約は事実上白紙化された」と主張していたが、中国官営メディアが中国と北朝鮮の血盟の象徴である同条約の有効性問題に言及し、北朝鮮による挑発を批判したのは異例だ。
 同条約は「有事に際しての自動介入」を定めたもので、1981年と2001年に延長され、現在の条約は21年まで効力がある。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は3日、「キム・チョル」という個人名で
 「朝中(北朝鮮と中国)関係の柱を切り倒す無謀な言行をもうやめるべきだ」
と題する論評を配信し、
 「朝中関係のレッドラインを我々(北朝鮮)が超えたのではなく、中国が乱暴に踏みにじって超えている」
と主張した。
 これについて、中国外務省は4日、「中国は公正な態度で関連問題を処理した」とコメント。
 人民日報海外版のソーシャルメディア公式アカウント「侠客島」は同日、
 「米国が軍事圧力をかける際、中国は北朝鮮が外交的に路線転換する余地を提供した。
 北朝鮮は中国に感謝すべきだ」
と指摘した。



日本テレビ系(NNN) 5/6(土) 2:15配信
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20170506-00000002-nnn-int

中国「人民日報」北の批判に激しく反発


 核問題などをめぐり北朝鮮への圧力を強める姿勢をみせる中国を、北朝鮮側が名指しで批判したことについて、中国共産党の機関紙が激しく反発するなど中・朝の対立が先鋭化している。

 中国共産党の機関紙「人民日報」は、4日の海外版で、「北朝鮮の核心的利益が核開発なら、中国の核心的利益は朝鮮半島の非核化だ」と真っ向から反論。
 「中国の利益を完全に軽視しているようだ」と強調した。

 また、「アメリカのレッドラインに踏み込もうとしているが、中国の外交努力でまだ引き返す余地があることに感謝すべきだ」と指摘。
 さらに、「習近平国家主席とトランプ大統領が未来志向で関係構築に踏み出す中、北朝鮮は冷戦時代の考えから抜け出そうとしない」と批判している。

 歴史的に「血盟関係」と言われる中朝関係についても「伝統的な友好にとどまらず、新たな関係を設定すべきだ」と突き放すなど、全面的に北朝鮮の姿勢を批判する異例の論調となっている。



聯合ニュース 5/5(金) 16:17配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170505-00000015-yonh-kr

北朝鮮の中国名指し批判論評 
外国語版では「トーンダウン」

【北京聯合ニュース】
 北朝鮮の朝鮮中央通信が先ごろ報じた中国を名指し批判する論評の外国語版(英語・中国語版)が、朝鮮語版に比べ「トーンダウン」したものになっていることが5日、分かった。
 「血盟」である中国との関係が破局にまで突き進む状況を避けようと、批判のトーンを抑えたとみられる。

 同通信は3日に伝えた個人名義の論評で中国を名指しし、米国と歩調を合わせて北朝鮮への圧力を強めていることを批判。
 「朝中(中朝)関係の『赤い線(レッドライン)』を中国が乱暴に踏みにじり、ためらいなく越えている」などとし、中国が中朝関係の根本を揺るがしていると強く非難した。

 だが同通信のホームページを見ると、北朝鮮内に配信される朝鮮語版と違い、英語・中国語版の同じ論評ではこうした内容が全て削除されている。
 中国が北朝鮮の核実験に反対する理由として東北3省の放射能汚染を挙げていることに対し「科学的根拠のない強弁」と反論した部分、中国が25年前に韓国と国交を正常化させ、政治・軍事分野にまで関係を広げて北朝鮮との「信義に反した」と指摘した部分も消された。

 英語・中国語版でも中国を名指しし、北朝鮮に批判的な論評を出してきた中国共産党機関紙・人民日報や人民日報系の環球時報に対する不満をあらわにしているが、朝鮮語版に比べトーンを抑えている。
 中国外交筋はこれについて
 「中国への不満を示しつつも、破局的な状況になるのは避けようとしたのだろう。意図的に敏感な部分を除いて配信したようだ」
と話している。



Record china配信日時:2017年5月6日(土) 20時20分
http://www.recordchina.co.jp/b176489-s0-c10.html

「血の友誼」に異変、
北朝鮮が異例の中国名指し批判、
半島情勢、韓国新政権の出方も焦点

 2017年5月6日、「血の友誼(ゆうぎ)」。
 朝鮮戦争を通じて血で固められた中国と北朝鮮の友好を意味する言葉だ。
 ところが北朝鮮は、米国とタッグを組み核・ミサイル開発中止を求める中国を名指しで批判した。
 北朝鮮が中国に不満を表明したのは初めてではないが、名指しは極めて異例
 両国間に異変が起きつつある。

 北朝鮮の中国批判について、韓国外務省は
 「北朝鮮への制裁と圧力が効果を上げていることを示す証拠」と評価。
 「中国が建設的な役割を果たすよう期待する」と引き続き対応を促した。
 韓国では9日に新政権が誕生する。
 この間、朝鮮半島を舞台にしたパワーゲームでは「蚊帳の外」に置かれていたが、新政権の出方によっては情勢が一段と複雑化する可能性もありそうだ。

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は3日、「キム・チョル」名の論評を通じ、中国国営メディアが北朝鮮の核・ミサイル開発を批判していることについて、
 「わが国の合法的権利に対する重大な侵害で、長い友好の歴史を持つ隣国への露骨な威嚇だ」とした上で、
 「憤慨を禁じえない」と中国を強く非難した。

 論評は、中国共産党中央委員会機関紙・人民日報や系列の環球時報の報道に言及し、
 「わが国の核保有は国益に反していると騒いでいる」
 「朝中関係の悪化の責任を全面的にわれわれに押し付け、米国に同調する卑劣な行為を弁明している」
などと批判。
 「わが国の自主的、合法的な権利、尊厳、最高利益に対する深刻な侵害であり、長い親善の歴史と伝統を持つ善良な隣国に対する露骨な威嚇だ」
と決めつけた。

 さらに、
 「われわれは米国の侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。
 その自衛的使命は今後も変わらない。
 朝中友好がいくら大切でも、生命と同然であるような核と引き換えにしてまで、哀願するわれわれではない」と強調。
 「朝中関係の『赤い線(レッドライン)』を中国が乱暴に踏みにじり、ためらいなく越えようとしている」
として、
 「中国はこれ以上、無謀にわれわれの忍耐心を試そうとするのをやめ、現実を冷静に見て正しい戦略的選択をしなければならない」
と警告した。

 これに対し、中国外交部の報道官は4日の記者会見で、
 「中国は客観的で公正な立場を堅持し、事案の是非により問題を判断し、処理してきた」と北朝鮮の主張に反論。
 「中朝の善隣友好関係を発展させる立場は明確だ」とも訴えた。

 一方で 環球時報は4日の論評で「(北朝鮮は)非理性的な思考に陥っており、中国は論戦に付き合う必要はない」と指摘。
 「レッドラインがどこにあり、新たな核実験をした場合は前例のない厳しい対応を取るということを(北朝鮮に)分からせるべきだ」
と妥協しない姿勢を示した。

 環球時報は社説で、いずれかの国が武力攻撃を受けた場合、他方の締約国は直ちに全力を挙げて軍事上その他の援助を与えるという「参戦条項」がある中朝友好互助条約を取り上げ、「中国は堅持していくべきなのか?」とも論じた。
 かつての「蜜月」時代とはすっかり様変わりしている。



Record china配信日時:2017年5月6日(土) 17時0分
http://www.recordchina.co.jp/b177347-s0-c10.html

中国、すべての金融機関に対北朝鮮取引の停止を指示か
=中国外交部「把握していない」

 2017年5月5日、中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官は定例記者会見で、中国政府が国内のすべての金融機関に対し、北朝鮮との取引を停止するよう指示したと韓国メディアが報じたことについて事実確認を求められ、「具体的な状況を把握していない」と回答した。新浪が伝えた。

 韓国メディアは、中国の外交消息筋の話として、最近まで北朝鮮への送金が可能であった銀行の従業員が
 「すべての対北朝鮮外貨業務を中断するよう指示が下りてきた」
と話しているとし、
 「中国の5大銀行はすでに対北朝鮮業務を中断した状態で、
 さらに中小金融機関まで中断措置が拡大しているものと解釈される」
などと伝えていた。

 耿報道官は「中国は一貫して安保理の北朝鮮制裁決議を全面的かつ正確、真剣、厳格に履行している」とした上で、韓国メディアの報道については「具体的な状況を把握していない」と述べた。



サーチナニュース 2017-05-08 22:12
http://news.searchina.net/id/1635234?page=1

北の中国批判に、
 「非理性的な北朝鮮との論戦には付き合わない」=中国報道

 北朝鮮メディアはこのほど、中国を名指しで批判する論評を発表した。
 中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は4日、
 「北朝鮮との論戦に付き合う必要はないが、北朝鮮の核開発に対しては一切妥協しない」
と反論する記事を掲載した。

 記事によると、朝鮮中央通信はここ最近、中国を批判する文章を3回にわたって掲載しているが、「中国を名指ししたうえでの批判」は今回が初めてだという。

 朝鮮中央通信は、北朝鮮による核実験を正当化しており、中国が過去に韓国と国交を樹立したことや、2015年の抗日戦争勝利70年記念式典に朴槿恵(パク・クネ)前大統領が参加したことへの不満も表しており、「中国は過去70年にわたって反米の第一線となってきた北朝鮮に感謝してしかるべき」としているという。

 環球時報はこうした北朝鮮の批判に対し、「中国」や「人民日報」、「環球時報」を名指しし、感情的な論調であることを除けば、「特に目新しい内容はない」と指摘し、中国は「非理性的な考えに陥っている北朝鮮との論戦に付き合う必要はない」と論じた。
 そのうえで中国は、中国としての立場とレッドラインを伝え、新たに核実験を強行するなら中国は前例のない厳しい対応を取るということを北朝鮮に分からせるべきだと主張、これらの情報を北朝鮮に伝えたならば、あとは議論に付き合う必要はないとした。

 一方で記事は、中朝両国にはハイレベルによる意思疎通が必要だとも指摘。
 北朝鮮がどのような文句を言うかは重要ではなく、何をするかが重要であると、今のところ北朝鮮は6回目の核実験を行っておらず、4月のミサイル発射もある程度自制したものであったとした。

 結びに記事は、米朝関係が緊張しているなかで中国の役割は非常に重要であるとし、中朝関係の主導権は中国が握っており、これは北朝鮮が中国を批判したからといって変化するものではないと主張。
 しかし、朝鮮中央通信の論評から北朝鮮の思考を理解することができ、核問題の解決は容易ではないものの、中国は北朝鮮に対する理解を深めることができたと結んだ。

 「非理性的な北朝鮮」というが中国の非理性的も同じようなものだ。
 同じ穴のむじながいがみ合っているようなものである。


ニューズウイーク 2017年5月9日(火)21時45分 高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7557.php

北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由

<中国の北朝鮮制裁は長年「やるやる詐欺」だったが、その理由は本当に「血の同盟」あるいは「戦略的緩衝地帯」だったのか。
なぜ今になって制裁を履行し始めたのか>

■中国と北朝鮮の関係に異変が生じている。

 国連安保理・北朝鮮制裁委員会によると、北朝鮮の石炭輸出量は3月期に6342トンにまで減少した。
 1月期の144万トン、2月期の123万トンと比べると、壊滅的な数字だ。
 最大の輸入国だった中国が輸入をストップしたことが大きい。

 従来、中国の北朝鮮制裁は「やるやる詐欺」だった。
 すなわち制裁そのものには合意しておきながらも、各種の抜け穴、口実を使って貿易を継続していたのだ。
 ところが今年2月になって中国政府は制裁の厳格な履行を宣言し、実際に石炭貿易がストップしたとみられる。

 異変は貿易統計のみならず、官制メディアを使った舌戦にまで発展している。
 中国の人民日報や環球時報は北朝鮮の核実験及びミサイル発射実験について厳しく非難した。
 中国メディアが強い言論統制下に置かれているのは周知の事実だ。
 2013年には鄧聿文・学習時報副編集長(当時)が「中国は北朝鮮を見捨てるべきだ」と題した記事を発表したが、同氏は停職処分を受け、記事はネットから削除された。
 4年後の今は中国官制メディアが先頭切って北朝鮮批判を展開しており、まさに隔世の感がある。

 環球時報にいたっては「6回目の核実験が行われた場合、原油供給を大幅に縮小する」という脅しめいた文章まで掲載した。
 中国からの原油共有は北朝鮮にとっては生命線だ。
 環球時報の論説は先走りが多く、政権の意向を代表しているとは言い難いが、それでも官制メディアの端くれであることに違いはない。
 北朝鮮にとっては猛烈なプレッシャーとなった。

 北朝鮮も負けてはいない。
 朝鮮中央通信は中国官制メディアの報道を取り上げ、「米国に同調する卑劣な行為についての弁明だ」と批判。
 また、1992年の中韓国交正常化など韓国との関係についても取り上げ、「信義のない背信的な行動」だと強く非難した。
 記事は「金哲」という個人名義で出されたもので、政府公式見解ではない形にすることでワンクッションを置いているが、婉曲的な批判ではない、名指しの抗議はきわめて異例と言える。

■中国にとって北朝鮮はむしろ火薬庫

 なぜ中国は態度を急変させたのか。
 このことを考えるためには、まず中国がなぜ北朝鮮をかばってきたのかを考える必要がある。

★.中国と北朝鮮の関係について、よく言われるのが「血の同盟」
 朝鮮戦争をともに戦った仲間というつながりがあるというロジックだ。
 同じ社会主義陣営な上に、肩を並べて米帝(アメリカ帝国主義)と戦った仲間だからと言われると納得したくなってしまうが、社会主義陣営は一枚岩ではないのは中国と旧ソ連の関係を見てもわかるとおり。
 情を重んじた、あまりにナイーヴな理解ではなかろうか。

★.もう少し合理性に寄せた解釈が「戦略的緩衝地域」論だ。
 朝鮮半島が統一されれば米帝は北京をすぐ間近にとらえるところにまで軍事力を配置できるではないか。
 北朝鮮の存在は一種の緩衝地帯であり、中国の安全保障にとって不可欠な存在という理屈だ。

 これまた思わずうなずきたくなる理屈だが、現実はというと
(1):北朝鮮は北京を射程に収める核ミサイルを保有している、
(2):北朝鮮は地域の混乱要因であり、中国は戦争に巻き込まれかねない、
という二重の意味で中国にとってマイナスだ。
★.緩衝地帯どころか、中国の身を危うくしかねない火薬庫
というわけだ。

■専門家は中国外交の失敗を指摘

 先日、人民解放軍の研究では世界ナンバーワンの識者として知られる軍事評論家・平可夫氏とお会いする機会があったのだが、同氏は
 「(中国の狙いについてはさまざまな意見があるが)外交は目的が達成されたかどうかで判断するべきだ。
 核ミサイルの開発を許し地域の緊張を高めたという意味で、中国の外交は明らかに失敗している」
と率直に指摘していた。

 同様の指摘をしているのが、米シートン・ホール大学ジョン・C・ホワイトヘッド外交国際関係大学院のワン・ジョン准教授だ。
 2013年、米ニューヨーク・タイムズ紙のコラム「Does China Have a Foreign Policy?」(中国に外交政策はあるのか?)において次のように語っている。

 一国の外交政策を判断するには言葉だけではなく、行動もみる必要がある。
 中国の政策と行動を子細に研究したならば、中国の外交政策は矛盾に満ちたものであり、さらにはきわめて薄弱であることが理解できる。
 島嶼領有権争いから北朝鮮問題、さらには気候変動まで、中国は多くの問題において明確で成熟した政策を持っていない。ー

 平可夫氏、ワン・ジョン氏ともに中国の対北朝鮮外交の失敗を指摘しているわけだ。
 これを前提として考えると、今度はなぜ中国がこれまで失敗を甘受してきたのか、そして今になってついに外交方針を変化させようとしている理由は何かが、考えるべきポイントとなる。

★.なぜ失敗を甘受してきたのか。
 その答えは、「北朝鮮問題は中国にとって重要課題ではなかったから」だ。
 中国は巨大な官僚制国家である。
 一度決まった方針は粛々と実行される一方で、方針を変更するには膨大な努力が必要となる。
 一応、社会主義陣営の一員であり仲間であった北朝鮮に対する外交方針を転換し、実効的な圧力をかけるためには相当なリソースが必要だ。
 中国には他に優先すべき政策課題があり、北朝鮮問題に充てる政治的なリソースが不足していたため、「北朝鮮を庇護する」という従来方針が延々と延長されてきた......というのが実情ではないだろうか。

■「核の脅威」に鈍感だった日中韓

 気がつけば北朝鮮は北京をやすやすと射程に収める核ミサイルを擁している。
 客観的に見れば、中国政府の優先順位付けは明らかに失敗だったというしかない。
 いや、中国に限らない。
 韓国、日本もすでに北朝鮮の核の脅威にさらされていることを考えれば、日中韓3カ国にとって、現在の北朝鮮問題は遅すぎた対応と言わざるを得ない。

 もっとも、上述の平可夫氏によると、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発はきわめて高度な技術的課題を抱えており、先日の平壌市軍事パレードでお披露目されたICBMは明らかに"張り子の虎"だという。
 今後、北朝鮮が開発を進めたとしても、米本土まで届く長距離ICBMを開発できるかどうかは未知数。
 それほど高い技術的ハードルがあると平氏は指摘する。
 だからといって、多分大丈夫だろうでは済まされないのが(本来の)外交、安全保障の世界だ。現在の北朝鮮問題で、新たな変数は米国の抱く危機感である。

 米国は今、北朝鮮の核開発阻止に本気の対応を示している。 
 なにもオバマ政権からトランプ政権に変わったから米国の姿勢が変化したわけではない。
 安全保障の原則から見て当然の行動と受け止めるべきだろう。

 上述したように目標達成か否かによって外交を判断するのであれば、米国が北朝鮮による米本土を射程に収めた核ミサイル開発の阻止を絶対条件にすることは間違いない。
 さまざまな交渉、妥協が行われるだろうが、米国にとっての譲れない一線は北朝鮮に長距離ICBMを保有させないことである。
 こうした前提を理解すれば、中国の姿勢の変化も理解できる。
 中国と北朝鮮という変数だけを見れば"時すでに遅し"だが、米国が実際に軍事行動に移りかねないという局面を迎えた今、北朝鮮の核開発阻止に関する優先順位は上がり、中国共産党も政治的リソースを使ってまで北朝鮮政策を変化させる時期を迎えたのだ。

 整理をすると、
★.日中韓にとってはすでに北朝鮮の核を抑止するタイミングを逃しているが、
★.米国にとってはこれからが本番
というねじれた状況にあるということだ。

 本気モードになった米国と北朝鮮がどのように交渉するのかが主軸だが、
 日中韓の立場に立てば、両国の交渉にどのように関わり、どれだけ国益を引き出せるかが問われている。
 北朝鮮に対して一番多くのカードを持つ中国が先行している中、日本はどのように国益を得られるだろうか。

[筆者] 高口康太 ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。
千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。