2017年5月20日土曜日

「一帯一路」とAIIB(3):習近平の“野心”とは

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Record china配信日時:2017年5月20日(土) 7時0分
http://www.recordchina.co.jp/b178637-s0-c10.html

中国主導の国際秩序に警戒感も、
現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」、
各国の出方見守る日本政府

 2017年5月19日、中国の習近平国家主席が提唱する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」。
 14,15日に北京で開かれた国際フォーラムに日本政府は自民党の二階俊博幹事長を派遣した。
 しかし、中国主導の国際秩序づくりへの警戒感は強く、当面は各国の動向を慎重に見極める構えだ。

 ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領ら29カ国の首脳や100カ国以上の代表が出席した「一帯一路」に関する国際フォーラムで、習主席は「開放的で皆が利益を得るグローバル化を実現しなければならない」と自由貿易体制の推進を主張。
 「一帯一路」を推進するために設立したシルクロード基金に1000億元(約1兆6000億円)を追加拠出することなどを明らかにし、「中国の貢献」をアピールした。

 習主席は15日の国際フォーラム閉幕後の記者会見で、「各国の意見を集約し、一帯一路構築の方向性が明確になった」と満足げに宣言。
 270以上の項目を盛り込んだ成果文書もまとめられ、中国が受注したインドネシアの高速鉄道建設向けの融資契約や、中国とタイの原子力協定など、具体的な協力が列挙された。

 二階幹事長は16日に習主席と会談し、安倍晋三首相の親書を手渡した。
 日本メディアによると、この中で安倍首相は日中両国首脳が定期的に往来する「シャトル外交」を呼び掛けるとともに、戦略的互恵関係の考えに沿って、あらゆる分野での安定的な友好関係の構築を目指す意向を表明したという。

 その一方で菅義偉官房長官は15日の記者会見で「一帯一路」について
 「地域の持続的な発展に資するものになるかどうかを含めて、政府として注視していきたい。
 具体化していくときにどうなっていくかを見極めたい」
と述べるにとどめた。
 日本政府が慎重なのは関係各国間の足並みが必ずしも一致していないためだ。

★.例えば、中国に次ぐ人口大国のインド。
 パキスタンと領有権を争うカシミール地方が「一帯一路」の事業「中パ経済回廊」の対象に含まれていることから、「国家主権と領土保全への懸念を無視した計画を受け入れる国は一つもない」と反発し、直前に参加を拒絶した。

 さらにAFP通信などによると、国際フォームで貿易に関する分科会に参加した
★.ドイツ、エストニア、ハンガリーなどの欧州連合(EU)加盟国は文書への署名を拒否した。
 物資調達の透明性や環境基準への懸念について、中国側から十分な説明がなかったためとされる。

 国際フォームで習主席は他国への内政干渉や発展モデルの押し付けを否定。
 「一帯一路で地政学的な駆け引きをする意図はない。
 協調的に共存する大家族をつくりたい」
と、中国の拡張主義に対する各国の警戒感を念頭に融和的な姿勢を強調したが、日本を含めた各国の懸念解消には至っていないようだ。



ダイヤモンドオンライン 2017.5.23 加藤嘉一:国際コラムニスト
http://diamond.jp/articles/-/128969

習近平肝いり「一帯一路フォーラム」が示した3つの政治的意図

■中国世論は“一帯一路”一色に染まった

 今年1月、習近平国家主席(以下敬称略)は初めて出席した世界経済フォーラムで臨んだ基調講演で、中国が5月に「一帯一路国際協力ハイレベルフォーラム」を北京で主催することを宣言した。
 往年とは異なり(筆者注:2014年は王毅外相、2015年は李克強首相、2016年は李源潮国家副主席が中国政府を代表して出席)、国家の最高指導者である習近平自らがスイスのダボスまで乗り込み、各国の政府・市場・世論関係者らに経済グローバリゼーションの推進や貿易保護主義台頭への懸念を直接訴えた背景には、数日後に誕生する米国のドナルド・トランプ政権への警戒心がにじみ出ていた。

 あれから約4ヵ月が経ち、5月14~15日、北京で同フォーラムが開催された。
 この前後、中国世論は全国的に“一帯一路”一色に染まっていた。
 テレビ、新聞、ウェブ、そして広範なソーシャルメディアにおいても、 “一帯一路”が中国だけでなく、世界にとっていかに重要で、同フォーラムが中国と世界にいかに大きなチャンスをもたらすかを「これでもか、これでもか」というほどに宣伝していた。
 「“一帯一路”は中国発だが、世界に属している」(習近平、同フォーラム円卓会議開幕式挨拶、5月15日)。

 それらは私個人の仕事や生活にも影響を与えずにはおかなかった。
 最も直接的だったのは、日頃書いている中国の某メディアへのコラムが5月8~20日あたりで2本掲載されるはずだったのが、編集部はこの時期“一帯一路”で紙面や画面を埋め尽くし、かつ一切のクリティカルな問題提起をするような文章の掲載を慎む政治的任務に負われていた。
 結局、この期間私の原稿は掲載されなかった。

 また、私は5月16日正午に瀋陽から高速鉄道に乗って北京へ向かった。
 同フォーラム自体は閉幕していたが、まだいくつかの関連行事が残っているということで北京、および北京へ向かう出発地では厳重なセキュリティーチェックが行われていた。
 瀋陽北駅では、北京行きの乗り場においてのみ二重のチェックが課された。
 そこで、私はスーツケースを開けるよう命じられ、中身を入念にチェックされたため時間を要した。
 あやうく電車に乗り遅れるほどであった。

■習近平重視のイベントは世論だけでなく生活までも“同調”

 このように、中国では特に習近平本人が政治的に重視するイベントが開催される期間および前後、世論、そして人々の生活までもがそれに“同調”することを余儀なくされる。
 党の19回大会へと向かう北京などはその典型であろう。

「“一帯一路”建設は私が2013年に提起したイニシアチブである」――。

 習近平は今回のフォーラムを通じて背景をこう説明した。
 同年9~10月、総書記に就任してまだ1年経っていない中、習近平は中央アジアのカザフスタンで「シルクロード経済帯」(the Silk Road Economic Belt)を、東南アジアのインドネシアで「21世紀海上シルクロード」(the 21st-Century Maritime Silk Road)の構築を提唱した。
 両者が合わさって“一帯一路”(One Belt One Road)という名称になった。

 シルクロードという概念は中国史、特に古代史を愛読する傾向のある私たち日本人にとっては目新しいものではないだろう。
 そして、この概念を当代に持ち出し、かつ中国がどんな対外関係を築きたいかという対外戦略、どんな世界を築きたいかという世界観にまで昇華させた背景には、私から見て、習近平の歴史好き、そして、自らが生まれ育った陝西省の省都・西安(当時の“長安”)が栄えていた頃のような世界的影響力を“復興”させたいという習近平の“野心”が反映されているように思われる。

 昨年9月、西安に約2週間滞在しフィールドワークを行っている期間中、習近平をよく知る西安在住の知識人に
 「習総書記は“中華民族の偉大なる復興”と定義づけた“中国夢”を指導思想として掲げているが、どの時代に復興しようとしているのか?
 やはりここ“長安”に都が置かれ、中国が歴史的に、他地域と比べて最も栄えていた漢や唐の時代を総書記はイメージされているのでしょうか?」
と伺ってみた。
 眼の前にいる、70歳を超えた男性は
 「そういう理解で間違いないと私は思う」
と回答してきた。

 「“一帯一路”の核心的な内容はインフラ建設と互連互通、各国の政策や発展戦略を繋ぎ合わせ、実務的な協力を深化させ、協調を促進し、発展を連動させ、共同繁栄を実現することである」

 同フォーラムに出席した30ヵ国の政府首脳、および国際連合、世界銀行、国際通貨基金の首脳を前に自らが司会を務めた円卓会議の開始早々、習近平はこのように説明した。
 「互連互通」とは、相互に連なり、繋がることを掲げる中国語の表現である。

■習近平の“野心”がにじみ出ている

 2日間のフォーラムを通じて発表されたコミュニケには、インフラ建設を中心に、経済貿易、金融からメディア、シンクタンク、スポーツ、自然災害対策、公共衛生、気候変動、そしてeコマースやデジタル経済といった新しい分野など、あらゆる分野で各国が協力していく旨が提起されている。
 次のセンテンスは、習近平本人が冒頭の世界経済フォーラムや昨年主催したG20首脳会議などでも提唱してきた昨今の中国指導部の“世界観”を体現しているといえる。

「“一帯一路”イニシアチブなどの枠組みにおいて、共に開放型経済を建設し、自由で包容的な貿易を確保し、いかなる形式による保護主義に反対する。
 世界貿易機関を核心、普遍とし、規則に基づいた、開放的で、差別のない、公平なマルチ貿易体制を促進していくことに尽力する」

 米国のトランプ政権に対する警戒心、および各国が同政権の動きを注視し、不安視すらしている現状下において、中国がリーダーシップを発揮していこうという習近平の“野心”がにじみ出ているように思える。

■中国外交部が発表した同フォーラムの成果リスト
(http://www.fmprc.gov.cn/web/zyxw/t1461873.shtml)
には計76項目におよぶ270以上の具体的成果があったと記されている。
 そこには、
 「中国国家発展改革委員会とギリシャ経済発展省は《中国・ギリシャ重点分野2017~2019協力計画》を締結した」という類の2ヵ国間協定や、
 「中国はシルクロード基金に1000億元を新たに増資する」、
 「中国は金融機関が人民元建ての海外ファンド業務を展開し、初歩的予測規模として約3000億元を“一帯一路”への資金提供として当てる」
といったマネー絡みの項目、そして
 「中国人民銀行と国際通貨基金は連携して“中国キャパシティービルディングセンター”を設立し、“一帯一路”沿線国家への研修プロジェクトを提供していく」
といった項目が含まれる。
 習近平はフォーラム期間中、2019年に第2回フォーラムを開催する旨を宣言した。
 中国としては同フォーラムをメカニズムとして機能させることで、国際社会の“一帯一路”への支持、および中国の国際社会における発言権と影響力の向上を持続的に目論んでいくに違いない。

■共産党指導部の政治的意図は何か

 本稿の最後に、本連載の核心的テーマである中国民主化研究という観点から、習近平自らが主催した“一帯一路”フォーラムという文脈を考えてみたい。 
 そのために、習近平がフォーラムの開幕式で行った基調講演から私が注目した3つのセンテンスを抽出する。

「各国はそれぞれの主権、尊厳、領土保全、それぞれの発展進路と社会制度、それぞれの核心的利益と重大な関心を尊重すべきである」

「中国は世界各国と発展の経験を共有したいが、他国の内政には干渉しないし、社会制度や発展モデルを輸出することもしない。
 それらを押しつけることはもっとない」

「“一帯一路”建設は既存の秩序を壊し、新たな秩序を作ろうとするものではなく、あくまでも戦略的連携と優勢の相互補完を実現しようとするものである」

 いずれも中国が昨今の内政・外交において直面する核心的な課題に直結するファクターである。
 この3つのセンテンスから読み取れる習近平率いる中国共産党指導部の政治的意図は何か。
 簡潔に3点を列記し、本稿の結びとしたい。

★:(1)中国は“一帯一路”イニシアチブを広げることを通じて、自国の核心的利益および共産党支配体制の一層の保証と強化を目論んでいる。

★:(2)中国は共産党一党支配、社会主義市場経済といった自国のイデオロギーや発展モデルが国境を超えた普遍性と浸透性を持つとは考えていない

★:(3)中国は既存の秩序を重んじる前提で自らの権益を拡張していくという姿勢を米国に示すことで、自国台頭への警戒心を緩和しようとしている。



ロイター 2017年 05月 24日 12:01 JST  Sanjeev Miglani
http://jp.reuters.com/article/china-silkroad-india-idJPKBN18K098?sp=true

焦点:インドが中国「一帯一路」
に肘鉄砲、中印の亀裂を露呈

[ニューデリー 21日 ロイター] -
 北京で今月開催された「一帯一路」構想についての国際会議に、中国はインドのモディ首相と閣僚6人を招待した。
 出席を促すためにパキスタンの紛争地域を経由する中核プロジェクトの名称変更さえ提案してきたとインドの与党幹部や外交筋は語る。

 だがインド政府は、中国政府からの外交努力を拒絶した。
 中国をアジア、さらにその先へと結びつけるための陸上・海上ルートを開発する大規模なイニシアチブの柱となるプロジェクトが、パキスタン支配下のカシミール地方を経由することに激怒したからだ。

 インドを巻き込もうとする中国の努力が失敗に終わったことについて、詳細はこれまで報道されていなかったものの、領土紛争や中国によるパキスタン支援などを巡り、両国間に横たわる溝の深さを示している。
 「一帯一路」プロジェクトに対する拒絶は、モディ首相がこれまで中国に示した対立姿勢のなかでも最も激しいものだ。

 だが、それは同時にインドの孤立化を招くリスクがある、との声が中国の識者や一部のインドの専門家から聞こえてくる。
 増大する中国の影響力への対抗勢力として、インドが今後も米国からの後方支援を期待できない可能性があるからだ。
 習近平国家主席の看板政策である「一帯一路」プロジェクトをテーマとして今月14日─15日に北京で開催された首脳会談には、米国や日本を含む60カ国の代表が集まった。

 だが、モディ首相が率いるインド人民党(BJP)の有力指導者で外交政策の策定に携わっているラム・マダブ氏は、「一帯一路」事業の大きな部分を占める「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)がカシミール地方のパキスタン支配部分を経由する限り、インドは同プロジェクトに参加することはできないと述べている。
 「中国は、たとえ自国の主権問題にわずかに関連しているだけのテーマでも、それが侵害されていると見なせば、日常的に他国を脅してくる」
とマダブ氏は語る。
 「貿易や商業の利害のために主権を譲り渡す国などない」

■<経済的可能性>

 首脳会議前に発表されたクレディスイスのリポートによれば、インドは、その経済規模と成長ペースからして、アジアと欧州、中東、アフリカを接続するインフラを構築することによって貿易を加速するという「一帯一路」計画に伴い、最も大きな中国投資の恩恵を受ける可能性があるという。

 このリポートによれば、中国からインドへの投資は、2017年から2021年までのあいだに、最低でも840億ドル(約9兆3340億円)、最大1260億ドルに達する可能性があるという。
 これは「一帯一路」プロジェクトへの参加にすでに調印しているロシア、インドネシア、パキスタンといった諸国を大幅に上回る数値だ。

 中国からインドに対して具体的なプロジェクトの提案はまだないものの、何年も前から計画されている「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊」など、既存の多くの計画は現在では「一帯一路」事業に包摂されている。
 また中国は、デリーとインド南部チェンナイを結ぶ高速鉄道ネットワークのフィージビリティスタディを実施しており、これも最終的には、中国が構築しようとしている現代版「シルクロード」に接続される予定だ。
 だが、インドが今後も、中国が主導する地域統合計画への参加を留保し続けるなら、こうした計画の実現性も危ぶまれる、とアナリストは警鐘を鳴らす。

 中国はネパールとのあいだで、チベットからカトマンズに至る総工費80億ドルの鉄道建設を協議しているが、最終的にはこの鉄道網をインド国境に到達させ、商品を巨大なインド市場に送り込みたいと考えている。

■<戦略上の不安>

 この地域における中国のプレゼンスの増大に対して、インドはまた別の懸念も抱えている。
 中国がネパールやスリランカ、バングラデシュといった国々で港湾、鉄道、発電所の建設を進めるなかで、インド洋沿岸と陸上における「真珠の首飾り」によって戦略的に包囲されるのではないかという不安だ。
 2016年まで駐中国インド大使を務めたアショック・カンタ氏によれば、インドは中国に対し、特に中国パキスタン経済回廊について繰り返し懸念を伝え、それについての協議を開始する必要性を訴えたという。

 「CPECに経済的な理由付けはあるだろうか」とアショック氏は言う。
 「まともな経済的要因は何もない。
 その動機は、本質的に政治的・戦略的な性質のものだ」

 首脳会議の1週間前、Luo Zhaohui駐インド中国大使がCPECの名称変更を提案した。
 インド政府の怒りを鎮め、インドが北京会議をボイコットすることを防ぐのが目的である。
 Luo大使は、インド軍関係のシンクタンクで行った講演のなかでこの名称変更を提案したが、この講演の聴衆や現地メディア報道によれば、詳細については明らかにしなかったという。
 中国大使館が後日発表した講演内容には、プロジェクト名称の変更についての発言は含まれていなかった。
 だが、中国側当局者は過去に、名称にインドを加えて「中国・パキスタン・インド経済回廊」にするという意味だと示唆したことがある。

 中国の外交当局者が匿名を条件に語ったところでは、インドがカシミール地方の自国側にインフラを建設し、最終的に、中国がカシミール地方のパキスタン側に構築する予定の道路・送電線に接続することは可能ではないかという。

 インド側の専門家によれば、印中両国の外交経験者・学識経験者による会議では、また別の提案が検討されたという。
 それは、「中国・パキスタン」という名称が、カシミール地方に対するパキスタンの領有権主張を支持することになるというインド側の抗議に配慮して、プロジェクトの名称を「インダス回廊」にする、という内容だ。
 インドとパキスタンはカシミール地方全域の領有権を主張しており、両国間の3回に渡る戦争のうち2回が同地方を巡るものだ。

 中国外務省の華春瑩報道官は、CPECの名称変更に関する提案について直接には何もコメントせず、首脳会議のなかで、習国家主席が「中国は平和的共存の原則に従うものであり、インド政府は何も懸念する必要はない」と発言したことを強調している。

「インド側の懸念は解消できるはずだと考えている」と同報道官は語った。
 インド外務省のGopal Baglay報道官は、インド政府は公式のチャネルを通じて、どんな提案も受けておらず、同国としてはプロジェクト全体について中国との有意義な協議を望んでいる、と語った。

(翻訳:エァクレーレン)







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