2017年5月17日水曜日

「一帯一路」とAIIB(2):中国経済の問題点を途上国に押し付ける「一帯一路」

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ロイター  2017年 05月 17日 08:15 JST
http://jp.reuters.com/article/china-silkroad-finance-idJPKCN18C085

アングル:「一帯一路」支える低利融資、膨らむリスク

 [北京 15日 ロイター]
 中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」は、
 国家開発銀行(CDB)や中国輸出入銀行(EXIM)など中国の政策銀行による低利の融資が重要な財源となっている。
 しかし事業性が疑わしいプロジェクトに関与した政策銀行や商業銀行、借り手などにとってのリスクも膨らんでいる。

 CDBとEXIMが一帯一路に絡みアジア、中東、アフリカで実施した融資は既に2000億ドルに達している。
 15日に終わった国際会議では、両行がさらに少なくとも550億ドルを融資する予定であることが明らかになった。
 両行は一帯一路構想の「最大の障害」(習近平国家主席)である資金面のボトルネックの解消を担っている。

 これまでのところ中国政府のおかげで、資金は調達コストが安く、潤沢だ。
 銀行筋やアナリストによると、一帯一路のインフラプロジェクト向け融資は主に政府間の話し合いで決まっており、金利は商業銀行が設定する水準より低く、返済期間も延長されている。
 CDBとEXIMは政府による大量の資本注入、ソブリン債並みの債券利回り、中央銀行の資金供給プログラムへのアクセスなどにより、調達コストが極端に低い。

 例えばCDBは政府保証無しでインドネシアに期間40年の特別融資を実施し、高速鉄道建設プロジェクト(52億9000万ドル)の75%を賄った。
 中銀国際(BOCI)によると、この融資は返済猶予期間が10年間で、60%のドル建て部分の金利は2%、40%の人民元建て部分の金利は3.4%だった。

 こうした好条件での融資のおかげで、中国国有の大手製造業者やインフラ開発業者は海外企業との受注獲得競争に果敢に挑める。
 政府統計によると、中国の中央政府系複合企業102社のうち47社が1676件の一帯一路関連プロジェクトに加わった。
 受注額は中国交通建設(CCCC)だけで400億ドルに上る。

 一方、人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、低コスト融資への依存はモラルハザードや持続不可能性を筆頭に、「リスクと問題を助長する」と警告している。
 中国は、多額の融資を行ったベネズエラが経済危機に見舞われるという苦い経験もしている。

 フィッチ・レーティングス(上海)の銀行アナリスト、ジャック・ユアン氏は、中国が大量の融資を行った国は西側銀行であれば融資を獲得するのが難しく、格付けが低く、プロジェクトの採算性に疑問符が付くケースが多いと指摘。
 「中国の銀行が資本を不適切な場所に配分し続けているのがより大きな問題だ」
と述べた。

中国の国有商業銀行も融資に駆り出されているが、ある大手行の上席行員は「実際にはあまり乗り気でない」と明かす。 
「各国に、一帯一路関連の融資ならすべて値引きされるとは思われたくない」という。

 後々になって最も苦境に立たされるのは借り手国かもしれない。
 アジア最貧国のラオスは中国とつながる鉄道建設で70億ドルを負担するが、これは2015年の国内総生産(GDP)の半分強に相当する。EXIMからの融資は金利が3%弱。

 中国はパキスタンのインフラプロジェクトに最大560億ドルを投資する方針を打ち出している。
 パキスタン政府のチーフエコノミストによると、同国は一帯一路関連の債務と支払いが2022年には50億ドルとピークに達する見通しだ。

(Shu Zhang記者、Matthew Miller記者)



BLOGOS 2017年05月17日 09:39
http://blogos.com/article/223508/

中国の「一帯一路」構想に世界各国が期待 
英米に代わるグローバル化の旗手になれるか

 道路、鉄道、港湾などのインフラ整備を行い、中国とアジア、欧州、アフリカを結びつけ新たなシルクロードを作ることを目指す「一帯一路」構想の国際会議が、14日北京で開かれた。
 中国の習近平国家主席は、この構想はすべての国に開かれているとし、世界中からの参加を呼び掛けた。また、協力と互恵の新しいモデルを創造すると表明し、新たなリーダーシップも見せた。
 「一帯一路」を巡っては問題点も指摘されているが、全般的に歓迎する意見が多いようだ。

◆ポスト英米。中国はグローバル化の旗手?

 会議には、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領を含む29ヶ国のリーダーと約130ヶ国の代表団が集まり、国連、国際通貨基金、世界銀行のトップも参加した。
 ただし、G7からの首脳の参加はイタリアのみだった。
 オーストラリアのローウィ―研究所のピーター・カイ氏は、トランプ政権誕生、ブレグジット決定後で、英米というグローバル化を先導してきた2国がその関与を弱めているなか、グローバル化の新たな推進役としての中国を宣伝するには良い機会であったと見ている(ガーディアン紙)。

◆途上国は歓迎。ロシアも中国に接近中

 ガーディアン紙によれば、多くの途上国は「一帯一路」を歓迎しているという。
 エチオピア首相は、アフリカの途上国にとって中国は経済的成功の模範であり、貧困撲滅のための頼れる味方だと称賛。
 「一帯一路」の一環として「中パ経済回廊」の開発が計画されているパキスタンの首相も、「新時代の幕開け」と讃えている。
 一方、「中パ経済回廊」が、印パ両国が領有権を主張するカシミール地方を通ることから、インドは「一帯一路」を猛批判しており、会議への代表派遣を拒否した(ロイター)。

 ドイチェ・ヴェレ(DW)によれば、地理的に構想の中心となる中央アジアの国々も「一帯一路」を支持している。
 これらの国々は、老朽化したインフラを再整備するため、これまでも中国からのローンや投資に頼っている。
 一部の旧ソ連の国々においては、かつてのロシアの役割を中国が担っており、その影響力は多大だ。

 ロシアにしてみれば、自分の裏庭で中国の経済的影響力が高まることは脅威であるため独自の経済共同体を模索したが、中国に対抗できるほどの財政的手段に欠けるうえ、ウクライナ問題で西側の経済制裁が始まり、中国に近づくことを強いられるようになったという。
 ロシアもまた、「一帯一路」による経済的利益を期待しているとDWは説明している。

◆先進国も経済的恩恵に期待。日本も方針見直しか?

 西側先進国の間でも、「一帯一路」への期待は大きい。
 もともと中国との協力に前向きだったイギリスのハモンド財務相は、イギリスは新シルクロードにおいては「当然のパートナー」と発言。
 アメリカ国家安全保障会議のポッティンガー・アジア上級部長も、アメリカ企業の参入を踏まえて歓迎の意向を示した。
 貸付のガイドラインに、より透明性が必要と注文は付けたが、ドイツも自国企業は「一帯一路」を支持するとしている(ロイター)。

 DWは、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも加わらず、アメリカとともに「一帯一路」への反対を表明してきた国であると日本を紹介しているが、その日本も大代表団を北京に送った。
 日経アジアン・レビューは、北朝鮮問題などを踏まえ、影響力を持つ中国との関係改善が必要と判断したと見ている。

◆結果は中国次第。金をばらまく植民地式では失敗に

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、大国は自国製品のマーケット開拓と政治的影響力を拡大するため、貧しい国に金を渡してきたとし、中国の場合も植民地的パターンの繰り返しという見方があると述べる。
 しかし、実は「一帯一路」のアジェンダには低い貿易障壁と規制調和が含まれており、単なる開発プロジェクトではなく、経済成長が伸び悩む地域における貿易への刺激策でもあると同紙は説明する。
 「一帯一路」の影響を受ける多くの国々は、より良いインフラとより深い国際的な貿易関係を必要としており、よい結果をもたらす可能性もあると述べる。

 ただし、「一帯一路」の成功は中国次第だとFTは述べる。
 中国は、国内では投資しきれない金余りになっており、多くの産業では過剰設備を抱えている。
 余った資金の行く先を見つけ、自国の建設会社に海外での仕事を与えるのが目的であれば、それは相手国の求めるものではないため、結果的に融資を回収できず、不良債権を増やして中国の金融システムを詰まらせてしまうことになる、と警告している。
 また、「一帯一路」が地域における覇権のためで、様々な紐付きということにでもなれば、融資を受けることに二の足を踏む国も出ると指摘している。



Record china配信日時:2017年5月16日(火) 18時0分
http://www.recordchina.co.jp/b178294-s0-c20.html

中国経済の問題点を途上国に押し付ける「一帯一路」、
英経済紙が危惧

 2017年5月15日、RFI中国語版サイトによると、英紙フィナンシャル・タイムズが「一帯一路」は中国経済のアンバランスを輸出することになると危惧している。

 14、15日の両日、北京で一帯一路国際フォーラムが開催された。
 習近平(シー・ジンピン)国家主席が提唱する一帯一路はユーラシア大陸を横断する巨大な経済圏を作るというもので、フォーラムで講演した習総書記は沿線国のインフラ建設に資金を提供するシルクロード基金に約9000億ドルを新たに拠出すると表明し、注目を集めている。

 フィナンシャル・タイムズは15日の社説で、一帯一路に対する疑問を投げ掛けた。
 強国が資金力を背景に影響力を拡大していくというのは21世紀版の植民地主義とも言えるが、さらに問題なのは中国経済の問題を輸出しようとしている点にある。

 中国では多くの産業が過剰生産能力に苦しんでいる。
 一帯一路を通じた輸出拡大とインフラ建設受注によって問題解決を図るのが中国政府の狙いだが、莫大(ばくだい)な資金を背景として途上国に不必要なインフラを造れば、海外に不良債権を輸出することになるだろう。



ロイター 2017年 05月 17日 13:46 JST  Pete Sweeney
http://jp.reuters.com/article/china-silkroad-breakingviews-idJPKCN18D0AX?sp=true

コラム:中国の「一帯一路」構想、国内の反発招く恐れ

[ワシントン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
 「一帯一路」の名の下で中国が世界的に推進するソフト・パワーの大攻勢は、同国が15世紀に経験したような、国内からの反発を招く可能性がある。

 当時、中国明代の武将・鄭和(ていわ)は、宝船の艦隊を率いて、遠く東アフリカにまで及ぶ大航海を行ったが、大失敗に終わった。
 巨額の費用に悩んだ官僚たちが、艦隊を解体し、さらに航海を禁止したのだ。

 それから6世紀を経た現在、習近平国家主席は、約1兆ドル(約112兆円)をかけて、アジアと欧州、アフリカとを繋ぐインフラと貿易の経済圏を作り出す野心的な計画を打ち出した。
 15日閉幕した北京での国際会議で、習主席は、新たに1240億ドルの拠出を約束した。

 習主席が掲げる「新シルクロード」構想の明文化された目標は、地域の通商活性化だ。
 これは、貿易推進ではなく、行く先々で地元民に高価な贈り物をして中国文明の優位性を印象づけることが狙いだった15世紀の大航海と比べれば、上等な出発点だ。
 だが今回も、政府高官たちは、国外からの参加者が「新シルクロード」構想にいかに強い感銘を受けたかを記録するのに必死だった印象がある。
 同構想について、「調和のなか共存する大家族」などという、曖昧だが救世主的な表現で説明することにも熱心だった。

 だが市井の人々には、あまり恩恵がない。
 インフラ投資のほとんどが国有企業を通じて行われる見通しで、国民の大半を雇用する民間セクターが得る恩恵は限定的だ。
 融資のほとんども、国有銀行が実行する。
 650億ドルに上る中国のベネズエラ向け債権のように、問題を抱えた政権に対する不良債権リスクを、中国の納税者も負うことになる。
 中国がすでに巨額の企業債務負担を抱えていることを踏まえると、このことは不安の種となる。

 中国は現在も途上国であり、7000万人の国民を2020年までに貧困ラインから脱出させる目標を掲げている。
 医療制度や教育制度の問題を改善し、空気と水の清浄化を進めるには、さらに多くの財源が必要になる。

 もし、国営メディアがあらゆる問題の解決策として宣伝した今回のプロジェクトが、中国の一般国民に実感できる恩恵を与えることができなければ、習主席は航海に出たことを後悔するかもしれない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



NEWS ポストセブン 5/18(木) 7:00配信 ※SAPIO2017年6月号
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170518-00000009-pseven-cn

苦境の中国主導AIIBに日本主導のADBが救いの手

 鳴り物入りでスタートしたAIIB(アジアインフラ投資銀行)が早くもコケ、日米中心のADB(アジア開発銀行)の存在感が増している。
 AIIBは加盟国数こそADBを上回ったものの、実際に払い込まれた出資金は定款上の資本金の7%にも満たない。
 単独融資はほとんどなく、多くはADB融資に相乗りしただけだ。
 産経新聞特別記者の田村秀男氏がレポートする。

 * * *
 苦境に立つAIIBに救いの手を差し伸べる国際機関がある。
 他ならぬADBである。
 実は、財務官上がりの中尾武彦ADB総裁は財務官僚時代から親中派として省内で知られる。

 2014年前半に習近平政権がAIIB創立に向け日米などに工作を始めたとき、中尾総裁は拒否反応を示す米国とは対照的に理解を示した。
 理由はアジアのインフラ資金需要が旺盛で、ADB単独では間に合わないというものだ。
 中国はインドと並ぶADBからの大借り入れ国である。
 資金需要に応えるというなら、まず中国にADBへ全面返済させるのがスジのはずだが、中尾氏は「問題ない」と断じた。

 中尾氏はアジアの資金需要について、2009年の試算で8兆ドルに上ると言った。
 2017年3月には総額26兆ドル、毎年1.7兆ドルに上ると大きくかさ上げしたが、実需とはかけ離れた誇大妄想値に近い。
 アジア各国がインフラ整備したくても、実行は返済条件次第だ。

 そもそも発展途上国全体の国際市場での証券発行は残高でみても2兆ドル程度である。
 それに近い規模の資金需要に国際金融市場が応じられるはずはない。
 中尾氏らはそんな破天荒な予測をAIIB肯定の材料に使っている。

 一帯一路、AIIBそしてSDR通貨人民元のいずれも、「中華経済圏」という名の習政権のアジアの陸海制覇戦略そのものだ。
 インフラ整備は中国に直結する軍事転用可能な高速道路、鉄道、空港、港湾を意味する。
 習政権はインフラ整備をミャンマーの少数民族に提示し、少数民族を民主化政府から離反させ、自国の影響下に組み込もうとする。
 地政学的膨張は南シナ海に限らないのだ。

 毛沢東肖像付き紙幣は国際金融市場で信用されなくても、中国のおびただしいモノとヒトがアジアに浸透すれば、普及して行く。
 ADBが日本の資金などを使って整備を進めたメコン川流域には中国人と中国企業が進出し、環境は破壊され、下流域は洪水に見舞われている。

 安倍晋三政権はAIIBや人民元問題が見かけ上小さくなったからと言って、親中派の官僚にまかせてはならない。
 トランプ政権とはしっかりと安全保障上の視点を確認すべきだ。

【PROFILE】たむら・ひでお/1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日経新聞を経て、産経新聞記者となる。現在、編集委員と論説委員を兼務。『人民元の正体 中国主導「アジアインフラ投資銀行」の行末』(マガジンランド)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『財務省「オオカミ少年」論』(産経新聞出版)ほか著書多数。



ニューズウイーク 2017年5月19日(金)17時56分 高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7635.php

中国「一帯一路」国際会議が閉幕、
青空に立ち込める暗雲

<北京市で開催された「一帯一路」国際会議。
 巨大イベントの成功のため、庶民の生活が犠牲になったが、よりスケールの大きな「労民傷財」が進行しているのではとの不安の声が出ている>

 2017年5月14日、15日の2日間、北京市で「一帯一路」国際会議が開催された。
 中国からヨーロッパまでユーラシアを横断する巨大経済圏構想「一帯一路」の参加国、協力国の首脳、代表団が集まる一大イベントだ。

 習近平政権は毎年、大規模イベントを開催し、成果作りを続けてきた。
 2014年にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、
 2015年には抗日戦争勝利記念の大閲兵式、
 2016年にはG20サミット、
 そして今年の一帯一路国際会議だ。

 中国では毎年、旧暦大みそかに中国版紅白歌合戦と呼ばれる特別番組「春節聯歓晩会(春晩)」が放送されるが、今年は同番組内でG20サミットの成功が大々的に紹介された後、一帯一路国際会議という盛典が開催されることが強調されていた。
 1月の時点で全中国国民を対象に、政権肝いりの巨大イベントがあると告知されていたわけだ。

【参考記事】「くだらない」中国版紅白を必死に見る人たち

 巨大イベントの成功のためには、凄まじい経費と人力が注ぎ込まれる。
 その象徴が「青空」だ。
 2014年には「APECブルー」なる言葉がネットで話題となった。
 開催地となる北京市では、首脳会議前に近隣の工場が操業停止を命じられたばかりか、建設現場も工事を中止、さらには練炭を使った調理まで禁止されるという徹底した対策がとられ、美しい青空がもたらされたのだった。

 かつて伝統中国の皇帝たちは天と対話する力を有していた。
 その祭礼の場所が世界遺産となっている天壇(北京市内にある史跡)である。
 雨乞いや水害を止めることも皇帝の仕事の一部だったのだ。
 習近平もまた青空をもたらす力を持っている。
 さすがは現代の皇帝だ......と言うべきだろうか。

 この習近平の力は「APECブルー」では終わらなかった。
 杭州で開催されたG20サミットは例外だが、その後のイベントでも「閲兵式ブルー」、そして今年の「一帯一路ブルー」をもたらすことに成功している。

■途上国のインフラ整備促進をうたっているが...

 青空自体はすばらしい話だが、裏を返せば、工場の操業停止などの迷惑な話がほぼ年に1回のペースで繰り返されていることとなる。
 ビッグイベントのたびに聞くのが「労民傷財」という言葉だ。
 「人民を痛めつけ、その財産を損なうこと。国費のムダ遣い」
の意である。
 仕事のスケジュールがめちゃくちゃになった、地下鉄の安全検査が厳しくなって史上最悪の混雑に......などなど無数の恨み節が聞こえてくる。
 ただし、さすがに慣れてきたのか、APECの時ほどには不満は聞こえてこない。
 逆によりスケールの大きな「労民傷財」が進行しているのではとの不安の声が出ている。

 一帯一路は上述の通りユーラシアを横断する巨大経済圏構想だが、最終的にどのような形に発展するかはともかくとして、現時点では途上国のインフラ建設促進が優先課題とされている。
 シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、さらには中国の国家開発銀行、中国輸出入銀行などの金融機関を通じて、途上国に建設資金を供給し、大規模なインフラ整備を促進する計画だ。

【参考記事】ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの

 これだけ聞けばいい話のように思えるが、そもそも論で考えてみれば、
★.なぜ途上国のインフラ建設はこれまで進まなかったのだろうか。
 金がないから、ではない。
 世界的に金余りの状況が続くなか、マネーは有効な投資先を探している。
 新興国のインフラ建設が有効な投資先ならば、中国が旗振り役とならなくても金は回っていたはずだ。

 問題は、インフラはあるにこしたことはないが、
★.投資に見合うだけの収益を上げられるのか、
 資金の返済は可能なのか、
 環境や人権といった問題をクリアできるのか、
といった点。
 これらがネックになって投資が進まなかったのだ。

【参考記事】貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

■国内で行き詰まりを見せた成長モデルの海外展開

 そうした視点で見ると、フィナンシャル・タイムズ中国語版の5月12日付け記事がきわめて示唆的だ。
 中国の対「一帯一路」沿線国向け投資は、2016年になり前年比マイナス2%と減少に転じた。
 2017年第1四半期は前年同期比マイナス18%と減少幅はさらに拡大している。
 中国は途上国向けに貸し付ける巨大な種銭を持っているが、
 問題は有望な投資案件を見つけられるかどうか、その点では苦戦が続いている。

 今回の一帯一路国際会議で、習近平総書記はシルクロード基金に1000億元(約1兆6100億円)を増資すると表明したが、種銭が増えるばかりでは問題は解決しない。
 また協調して融資を行う中国の金融機関にもリスクの増大に対する懸念が広がっている。

【参考記事】「一帯一路」支える中国の低利融資 リスク助長の懸念も

 政府の旗振りによって便益が少ない投資案件に対する投資が進めば、どのような結果を招くのか。
 その結果を先取りしているのが中国国内だ。
 便益の高いインフラ建設が終わった後も、
 建設ラッシュが続き、
 その結果として不必要なインフラと債務が次々と積み重なっていく。

 結局、一帯一路とは、中国国内で行き詰まりを見せた成長モデルを海外に展開させることで延命しているだけではないかとのシニカルな意見もある。
 建設会社や重機メーカーを始めとする一帯一路関連企業にとってはチャンスでも、
 最終的に投資が返ってこなければ「労民傷財」で終わってしまうと言うわけだ。

 「一帯一路」がユーラシアに青空をもたらすのか、はたまた「労民傷財」で終わるのか。
 国際会議は成功裏に終わったが、なお山のような課題が残されている。



産経新聞 5/22(月) 10:11配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170522-00000513-san-cn

中国のワンマンショーだったのか
「一帯一路」で欧米メディアが批判
 プーチン露大統領が被害者に?

 中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際協力サミットフォーラムが14、15の両日、北京郊外で開かれた。
  ロシアのプーチン大統領ら29カ国の首脳が出席し、構想を提唱した習近平国家主席(63)にとって内外に存在をアピールする機会となった。
 中国官製メディアは会議の「成功」を喧伝(けんでん)したが、その運営をめぐり欧米メディアなどから中国がマイペースで進めたとの不満の声も出た。

 「世界は再び中国に対して目を向けるだろう」

 中国共産党機関紙、人民日報のウェブサイト「人民網」(5月17日)は、一帯一路の国際会議の成果について強調してみせた。
 同記事では、14日に行われた開幕式での習氏の演説について、
 「1600人あまりを収容できる大ホールには空席がなく、40分あまりの演説で27回の熱烈な拍手があった」
と描写している。
 ただ、首脳会合が開かれたメーン施設や記者会見場は、中国から選ばれた一部メディアだけが立ち入ることができたというのが実情だ。

 現代のシルクロードと形容される一帯一路は、習氏自らが2013年に提唱したものだけに、中国当局は今回の初の国際会議を成功させるため相当な精力を注いだとみられる。
 ただ、そのために事前の協議でも強引さが目立ったと欧米メディアから批判的な報道も出ているのが実情だ。

 「中国政府は参加国からの意見を十分に考慮せず、声明の準備を進めている」

 米ブルームバーグ通信は会議開催前の10日、北京に駐在する複数の外交官の批判の声を紹介した。
 各国から首脳が集まる会議最終日に発表する共同声明について、中国当局が参加国からの意見を十分に聞かず、マイペースで強引に取りまとめ作業を進めた実態をうかがわせる証左といえそうだ。

 そういった中国の強引な会議の下準備について、同記事では「中国にとって裏目に出ているだろう」とするブッシュ(子)政権下で国家安全保障会議アジア上級部長だったデニス・ワイルダー氏のコメントを掲載した。
 ワイルダー氏は
 「新たな位置に魅了され、他国の声が聞こえなくなっているといえる」
と指摘した。

 結果的に中国を含む30カ国が「あらゆる形の保護主義に反対する」との文言を盛り込んだ共同声明を採択し、フォーラムは無事に閉幕した。
 ただ、英国やフランス、ドイツ、ギリシャなど欧州連合(EU)加盟国の一部が貿易推進に関する文書への署名を拒否していたことが終了後に明らかになっている。
 また、会議に参加しなかった国の存在も一部で際だった。

 「不在が目立った一人の指導者の姿を習氏は見たかっただろう」

 香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は、インドのモディ首相の不在を特筆した。
 中国政府はインドに対して会議への参加を要請していたが、これをインド側が拒否していたからだ。
 モディ首相の欠席は、パキスタンと領有権を争うカシミール地方を通る「中パ経済回廊」が一帯一路に含まれていることが要因になったとみられる。
 同紙は「もし中国がインドを一帯一路構想に組み入れたいと熱望するならば、インドの懸念に対して感受性を高める必要がある」と指摘し、一帯一路構想でインド側の事情を考慮しない中国のマイペースぶりをいさめている。

 一方、ロシアのプーチン大統領も、中国ペースの“被害”に遭ったといえそうだ。

 「プーチン氏が北京で子供時代の2曲をピアノで弾いた」

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が伝えたように、会議出席のため北京を訪れたプーチン氏がピアノを弾いたことが話題となった。
 舞台となったのは北京の釣魚台迎賓館で、習近平氏との会談を待つ間に同行記者の前でピアノを弾いた。
 演奏したのは旧ソ連時代に流行した「モスクワの窓々」などだったという。

 プーチン氏が待たされるのは珍しい。
 それというのもプーチン氏は遅刻の“常習犯”として知られているからだ。
 昨年12月に日露首脳会談で山口県を訪れた際は、予定より3時間近く遅れて到着した。
 2014年10月にはイタリア・ミラノで予定されたドイツのメルケル首相との会談が4時間15分遅れでスタート。
 ローマ法王フランシスコは13年11月に50分、15年6月に1時間も待たされている。

 中国ペースで進んだ一帯一路の国際会議だが、そこに思わぬくさびを打ち込んだのは北朝鮮だ。
 北朝鮮は初日の14日に弾道ミサイルを発射したが、米CNNテレビは「主要な同盟国であり経済パートナーである中国にとり、最も当惑させるタイミングだった」と指摘する。

 「中国はワンマンショーをするつもりはない」

 今回の国際会議について、中国外務省報道官は会議前の5月5日の記者会見でこう述べた。
 その言葉が真実だったのかどうかは、参加各国の受け止めに答えがあるといえる。






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